ダジャレやオノマトペも商標登録?小林製薬から学ぶ商品ネーミング術

小林製薬の商品名はとても覚えやすいものが多いですよね。小林製薬のネーミングの特徴は、商品名の一部に擬音語や擬態語(いわゆるオノマトペ)を使っていることです。

小林製薬 HP より

小林製薬は自社商品名に用いる「オノマトペ」をしっかりと商標登録し、自社の「ネーミング戦略」を固めています。

<小林製薬のオノマトペ商標>

擬音語:物音や鳴き声を人間の声で表したもの。例:ドボン(第3089417号)、シュワワ(第5725934号)etc

擬態語:事物の状態や身振りを音声にたとえたもの。例:ひんやり(第2398560号)、ふきふき(第1990885号)、ハッキリ(第374872号)etc

オノマトペを商品名に活用することは、消費者に価値を伝える「マーケティング」や「ブランディング」の観点でも有利に働きます。本記事ではオノマトペを活用した小林製薬のネーミング実例&登録商標を紹介し、何故マーケティング・ブランディングにおいて有利になるのかを考察します。

1.小林製薬のオノマトペネーミング事例&登録商標をみてみよう

小林製薬が有する商標権として、例えば以下のオノマトペについての登録商標があります。特に「ひんやり」は商品の効果を顕著に示すオノマトペであり、強力な単語&権利です。「熱さまひんやり」とともに、商品の特徴を示す内容を権利として保護しています。

他にも、小林製薬は「のどぬ~る」「さぼったリング」「サカムケア」等、個性的な名前の商品が多いですよね。そしてオノマトペによって商品の効果を抽象的に伝えるとともに、ダジャレを活用した商品名もあります。

ダジャレ的な大ヒット商品は、やはり「熱さまシート」です。「熱さまし」と「シート」を組み合わせたキャッチーなネーミングは、パッケージPKGのわかりやすさと相まり、販売初年度(1994年度)から目標の4倍を売り上げる大ヒット商品に。2019年には累計約4億枚を達成しました。

<製品パッケージ>

小林製薬 ニュースリリースより

こちらもしっかりと文字&ロゴにて商標登録されています。

このように、オノマトペやダジャレも取り入れた印象深いネーミングを商品ごとに開発し、しっかりと商標権で保護するというのが、小林製薬のブランド戦略と言えます。

2.オノマトペネーミングは「知覚」に効く!?

次に、オノマトペが知覚にどの様な影響を及ぼすのかを考えていきます。例えば、オノマトペが触覚に与える影響について、以下の研究がありました。

「オノマトペの音象徴性は触覚の記憶に影響を与えることがわかった。」

触覚知覚・記憶におけるオノマトペの影響(辻, 渡邊, 今井 2017)

つまり、商品名やキャッチフレーズ等にオノマトペが含まれる場合、その商品に触れた体験が記憶に残りやすくなるということです。「マ―ケティングは知覚の戦い」と捉えたとき、本研究報告はとても参考になります。

マーケティングとは商品の戦いではなく、知覚の戦いである。

マーケティング22の法則 -アル・ライズ/ジャック・トラウト共著, 東急エージェンシー, 1994年, P37

例えば「鼻スースークール」を使用して実際に鼻の通りが良くなれば、そのネーミングもあいまって、快感と共に記憶に残りやすくなります。その様なブランド体験を提供出来れば、消費者の「知覚」を上手に奪っていると言えそうです。

第4474024号

オノマトペは状態を ”なんとなく” 他人に伝える際に便利な言葉であるとともに、個人の記憶にも残りやすいものです。

小林製薬では、CMで用いるコーポレートコピーにも「あっ!」という擬音を取り入れ、しかも「あ、小林製薬」という音商標として商標登録をしています。(第6106278号, J-PlatPat リンク) 一文字の擬音を加えるだけで小林製薬をより印象付けることができる、圧巻の事例ですね。

3.ブランディング論からも正しい「オノマトペ&ダジャレ」ネーミング

商品の特徴をオノマトペで抽象化したり、ダジャレで分かりやすくすることで、ブランディングの観点でも良い影響があります。ブランディングに関する名著、「ブランディング22の法則」には下記の記載があります。

ブランドは消費者の頭の中に自分の言葉を所有する努力をすべきである。

ブランディング22の法則 -アル・ライズ/ローラ・ライズ共著, 東急エージェンシー, 1999年, 第5章 言葉の法則(P65)

これは上述の「マーケティングは知覚との戦い」とも通ずるものがあり、ブランドに関する「言葉」によって消費者の頭の中を所有しましょうということです。ここでいうブランドとは、「送り手の価値観 / 世界観」と定義します。そうすると、その価値観 / 世界観を適切に伝えるべく、万人にとって分かりやすい表現であるオノマトペを「言葉」として用いることが大事ということになります。

例えば小林製薬の商品で「アンメルツヨコヨコ」があります。

容器がストレート形状の「アンメルツ」という商品で販売し始めたものの、売り上げは期待外れ。しかし、容器の首を横に曲げて「アンメルツヨコヨコ」というネーミングにより、売り上げが倍に増えたそうです。これは正に、「横向きなので塗りやすい&持ちやすい」ということを表したオノマトペにより、その価値観 / 世界観をより広く消費者に伝えることに成功した事例と言えるのではないでしょうか。

売れ出したのはそれから8年後。肩や腰などの使用部位に塗りやすく、かつ持ちやすいよう容器の頭の部分を曲げ、「アンメルツヨコヨコ」のネーミングで売り出してからだ。・・・売り上げは一気に倍に増えた。

アンメルツは「ヨコヨコ」にしたらバカ売れ…ロングセラー開発秘話(ダイヤモンドオンライン)

そして「ブランディング22の法則」の第9章「名前の法則」には、以下の記載があります。

結局のところブランドとは名前のことである。

ブランディング22の法則 -アル・ライズ/ローラ・ライズ共著, 東急エージェンシー, 1999年, 第9章 名前の法則(P117)

ブランドは「送り手の価値観 / 世界観」等、色々な定義が考えられるものの、上位概念化すれば全て「名前」に辿り着きます。ブランド体験を他人に伝えるためには言語情報が必要となり、そこにはブランドを示す何らかの「名前」が存在するためです。

例えば上述の「熱さまシート」が代表的な事例です。パッケージを見たり商品の説明を受けたりしなくても、そのたった七音の商品名を聞くだけで効果が伝わってきます。そしてその様な強い「名前」やブランドを大事にすべく、小林製薬は商標権等の知的財産権全般について積極的な権利化を進めています。

世に出した製品を長く育て、ブランドを大事にするという考えから、知的財産権全般について権利化できるものはすべて権利化する方針で取り組んでいます。

ヒット商品を支えた知的所有権 小林製薬の「熱さまシート」(パテント・アトーニー)

ところで、名前は送り手(メーカー) ⇔ 受け手(顧客)のコミュニケーションを円滑にするための1つのツールと捉えることができます。

そして顧客とは最終消費者だけではありません。

最終一般消費者向けの小売製品から離れた分野(化学業界等)においても、ビジネスを進める上で商品名が重要となり得ます。例えば「XYZ-100」の様なコードネームよりも「ポチ」の方が呼びやすく、顧客の印象にも残りやすいでしょう。

一般ユーザー向けに商品 / サービスを提供するビジネスはもちろん、あらゆる取引分野でも小林製薬のネーミング戦略は学ぶべき点が多くありそうです。

4.オノマトペ商標の裁判事例(ふふ / うふふ事件)

このように、マーケティング・ブランディングの印象付けで優位に立てる「オノマトペ商標」ですが、良いオノマトペはどの会社も使いたがるものです。そこで最後に、オノマトペ商標に関する裁判例をご紹介します。

第5162672号

微笑が聞こえてきそうな登録商標「ふふ」の商標権者が、宿泊施設「雲風々 -うふふ」(「雲風々 -ufufu」)を運営する会社を訴えた事件です。一般的に、登録商標と商品名/サービス名とが類似するか否かは、両者の「外観」「称呼」「観念」に基づいて判断されます。本件では、商標権者側から、両者は「称呼」と「観念」が類似する(=権利侵害だ!)との以下主張がなされました。

『・・被控訴人標章1の「うふふ」の部分は,「口をあまり開かないで小さく笑う声」を意味し(広辞苑第六版),本件商標の「ふふ」は, 前記イのとおり,「女性のたおやかな笑顔と笑う仕草」をイメージあるいは連想させるものであるから,両者は,女性の控えめな笑いをイメージさせる点において極めて強い共通性を有し,観念においても類似する。』

知財高裁 平成25年(ネ)第10101号 判決文 P7 より(全文 PDF リンク

しかしながら、両者は「称呼」及び「観念」において類似しておらず、権利侵害ではないとの判決が下されています。例えば「称呼」に関しては、「フフ」と「ウフフ」は類似しない言葉であるということです。

被控訴人(訴えられた側)の施設名にも「ふふ」が含まれるため、一見すると商標権侵害の恐れがあるものと考えてしまうかもしれません。しかし、登録商標と商品名 / サービス名とが類似するか否かの判断は、非常に繊細で高度な対比が求められます。

もし自らのビジネスに関係しそうな他社の登録商標を見つけた場合には、是非早めに商標弁理士へ相談しましょう。

5.まとめ:ネーミングで「らしさ」を醸成しよう

小林製薬の商品名&登録商標の紹介を起点として、オノマトペと知覚、ブランディングとの関係、そしてオノマトペ関連商標権の裁判例について紹介しました。ポイントは以下3点です。

・商品の価値を分かりやすく示すオノマトペを活用すると、消費者の記憶に残りやすい

・ブランディングは言葉 / 名前が重要

・よく使われるオノマトペは裁判沙汰にもなり得る(早めに商標弁理士へ要相談)

ところで小林製薬では、マーケティングのスタッフや開発関係者等、様々な人材から「小林製薬らしい」ネーミング案が自然と提案されるとのことです。

どちらにしても、社員が考えると「あ、これ、小林製薬らしいな」という名前が自然に出てきます(笑)。 みんな当社の事業の方向性を十分分っているからでしょう。

小林製薬 ブルーレット®・熱さまシート(日本弁理士会 関西会)

ブランディングは ”らしさ” を醸成していくことでもあります。そしてその ”らしさ” が抽象化されたネーミング案を知的財産権で保護することで、他社を寄せ付けず、独特な世界観を構築することができるのです。オノマトペやダジャレはあくまでも ”らしさ” を伝えるための一手段ですが、一度活用を検討してみてはいかがでしょうか。

本記事は、オノマトペと知覚との関係についてワクワクして調べながら書き上げました。何かのご参考になりましたらルンルンです。

以上

(参考情報)

令和2年度 知財功労賞 特許庁長官表彰 知財活用企業(商標)(特許庁)
ダジャレも商標登録?ネーミング大賞から学ぶ製品名・サービス名の考え方(Toreru Media)

 

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