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現代の特許審査ワールドがカオスすぎる!~YouTube・X・首相答弁までもが先行文献になる世界線

特許を取得するためには、「新規性」や「進歩性」といった要件を満たす必要があります。そして審査官はその判断のために、出願前に公開されている技術や情報、いわゆる「先行文献」を調査するのです。

先行文献といえば特許公報が代表的ですが、漫画が引用されたこともあります。たとえば『こち亀』が引用された事例については、すでに当メディアでも紹介しました。

特許庁の審査官はこち亀好き?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.3- | Toreru Media

審査官はどうしてもこち亀を参照したかった? -こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.4- | Toreru Media

昨今、インターネットの普及により、技術やアイデアが世に出るスピードはかつてなく速くなっています。結果、特許審査で参照される情報源も大きく広がり、特許公報にとどまらず、様々な媒体が先行文献として扱われるようになりました。

そこで本記事では、その代表的な例として、YouTube やX(旧Twitter)といったSNSの投稿、さらには内閣総理大臣の答弁書までもが先行文献として引用されたケースを紹介します。

発明の新規性や進歩性を判断するにあたり、今やあらゆる情報が審査の対象となる時代。意外な?実例を一緒に見ていきましょう。

【審査事例1】審査官はあなたのスクワット動画もじっくり見ているかも?参考情報としての Youtube 動画

特許第5857147号:美脚スティック及び荷重パッド(J-PlatPat リンク
出願日:2015.6.10

1件目は、スクワット運動時に活用するスティックに関する発明です。最初なので、発明内容や特許庁の審査結果への対応についても含め、少し細かく紹介していきます。

特許出願時には、権利取得を目指す内容である【特許請求の範囲】として、以下のとおり記載されていました。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクワット運動をするに際して、使用者の背中に配置される棒状体であって、使用者の両腕を前記棒状体の後ろに回すことにより適正な姿勢でスクワット運動がなされるように構成された美脚スティック。

特開2017-000456 より引用

簡略化すると、「スクワット運動時に、両腕が背中の後ろに回る姿勢になるようにするための棒状スティック」というものですね。背中を反って図1(A)の姿勢でスクワットを行うことが好ましいものの、つい猫背となり図1(B)の姿勢になりがち。そこで本スティックを用いることで、図1(C)の姿勢でスクワット運動を行いやすくなるようです。

請求項の記載がシンプルで、分かりやすい内容ですね。

特許図面

特許第5857147号 より引用(左:図1 右:図3)

本件の審査では、引用文献1として 特開2014-61167 が引用され、「似ているね」として、拒絶を受けています。たしかに、棒状スティックが背中の後ろに配置され両腕がスティックの後ろに回っており(図17(a))、更にその姿勢でスクワット運動を行っている(図25)ように見えます。

特許図面

特開2014-61167 より引用(左:図17 右:図25)

請求項の記載内容がシンプルであるが故に、これはさすがに拒絶を受けてしまっても仕方ないですね。上記請求項1のままでは、特許化するのは厳しそうです。

そこで本件の出願人は、引用文献に記載されていない内容に限定(*)して特許化を行いました。1度審査で拒絶されたとしても、先行文献に記載されていない内容に補正することで、再チャレンジが可能であるためです。

(*)棒状スティックに位置表示部21を設けるという内容。スクワット運動時の重心の動きをチェックしやすくなる嬉しさがあるようです。

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

本件の審査に影響を与えた先行文献は、上で紹介した引用文献1を含め、いずれも特許文献でした。特許庁からの拒絶理由通知によれば、引用文献は3点提示されています。

拒絶理由通知書 (特許出願2015-117878) 起案日 平成27年7月29日  より

審査で引用した文献はこの3つなのですが、実は本拒絶理由通知書には、審査官が参考にした情報として「先行技術文献調査結果の記録」というものも記されています。「上の3つの文献ほど近くはないけど、関連する情報だよ」として、後世に残してくれているのです。

拒絶理由通知書 (特許出願2015-117878) 起案日 平成27年7月29日  より

米国の文献が並ぶ中、よくよく眺めてみると・・・真ん中程に、YouTube のURLが記載されていますね!現在も再生することができ、1:13-1:15付近において、棒状スティックを背面に持ちながらスクワット運動をしている様子が確認できます。

一見すると、こちらも請求項1の内容と似ているのでは?という印象を受けます。が、よくよく照らし合わせてみると、請求項1にある「使用者の両腕を前記棒状体の後ろに回すことにより」という点が、本 YouTube 動画には示されてなさそうです。動画全体を眺めてみても、どの登場人物も、スティックを手で掴んでいます

審査官は、「いずれ背中の後ろでスティックを抱える体勢になるか…!?」と期待を込めて動画を視聴していたかもしれませんね。

おそらく、本動画を見つけた段階では、まだ特許文献である引用文献1~3を全ては見つけていなかったことでしょう。それらが既に見つかっていれば、審査を終えることができ、わざわざ YouTube 動画まで眺める必要はないはずですから。

この事実こそ、YouTube 動画が特許審査において貴重な情報源として捉えられ、積極的に活用されている動かぬ証拠であると思料します。

皆さまの何気ない日常が収められた動画も、もしかしたら審査官によってじっくりと閲覧されているかもしれませんね。

次は、X(旧Twitter)のポストが引用された事例です。

【審査事例2】「中の人」の投稿がミッシングピースを埋めることに!紅茶飲料に関するX(旧Twitter)のポストによって否定された進歩性

特許第6849840号:果実成分を含有する容器詰紅茶飲料の製造方法(J-PlatPat リンク
出願日:2020.3.16

2件目は、紅茶飲料に関する発明です。1件目と同様、出願人は、シンプルな請求項1での権利取得を目指しました。

【請求項1】
 紅茶抽出液と果実成分とを含有する容器詰紅茶飲料の製造方法において、紅茶葉と果実とを合わせて一緒に抽出して抽出液を得、得られた抽出液に果汁を加えて飲料液を得、前記飲料液を殺菌乃至容器充填することを特徴とする容器詰紅茶飲料の製造方法。

特開2021-145554 より引用

紅茶と果実を一緒に抽出した後、果汁を加える」という内容です。フルーティで美味しそうな紅茶飲料ですが、やはりシンプルな記載であるが故、特許の要件である新規性・進歩性が心もとない印象。

特許庁の審査においては、引用文献1として、紅茶に果汁を加える旨の記載がある文献(特開2018-023306)が引用されています。しかし、当該文献には、請求項1でいうところの「紅茶葉と果実とを合わせて一緒に抽出」という記載が見当たりません。

そこで、X(旧 Twitter)の出番です。

Afternoon Tea 公式アカウントにおける以下ポスト(ツイート)には、「紅茶葉と果実とを合わせて一緒に抽出」に似た内容が記されています。そう、「水出しする際にグリーンアップルスライスを入れると、果汁も一緒に抽出されて、よりフルーティに!」という記載がありますね。

これはたしかに、審査で引用されるのも納得の内容です!

X の投稿が特許審査の ”ミッシングピース” を埋めることになったとは驚きですね。Afternoon Tea 公式アカウントの「中の人」が知ったら、思わず紅茶を吹き出してしまうかもしれません。あらゆる情報が世に拡散され、思いもよらない場所で影響を及ぼす――実に現代らしい事例です。

それにしても、特許文献である引用文献1とXの投稿を組み合わせて審査を行うとは…さすがは特許庁審査官、職務に忠実です。

  • *注*審査官は、何が何でも発明を拒絶したいわけではありません。審査官が公知情報(先行技術)を徹底的に探すのは、特許権を確かなものにするためです。もし公知情報を見落として特許査定を出してしまうと、その権利は後に無効となる恐れがある不安定なものとなります。これは、権利者と第三者の双方にとって不利益となるため、審査官は可能な限り多くの情報を確認しているのです。

そして拒絶という審査結果を受けた出願人は、「30~100℃の湯水で」という限定を加えることで、無事特許化に成功しました。Afternoon Tea のポストや画像中のグラスには「氷」が確認でき、30~100℃の湯水ではなさそうですからね。

【請求項1】
 紅茶抽出液と果実成分とを含有する容器詰紅茶飲料の製造方法において、紅茶葉と果実とを合わせて一緒に30~100℃の湯水で抽出して抽出液を得、得られた抽出液に果汁を加えて飲料液を得、前記飲料液を殺菌乃至容器充填することを特徴とする容器詰紅茶飲料の製造方法。

特許第6849840号より

次は、更にシンプルで分かりやすい発明です!

【審査事例3】インカの聖なる香木を使ったスピリッツ:Instagram が立ちはだかったシンプル極まりない発明

特許第7426161号:スピリッツ(J-PlatPat リンク
出願日:2023.8.8

3件目は、2件目に引き続き飲料関連です。権利化を目指した請求項1は、以下のとおり。

【請求項1】
原材料としてパロサントを用いた、スピリッツ。

特開2025-024760 より

原材料としてパロサントを用いたスピリッツ」ですね。句読点しか省略できないくらい、シンプルな請求項!

パロサントとは、スペイン語で「聖なる木」を意味する香木です。机の上に置いておくだけで、ふとした瞬間にほのかな香りが運ばれてきます。

パロサント

パロサント自体が珍しく、関連する先行文献は少なそう…。例えば「パロサント」が要約中に含まれる特許を調べてみると、ほんの3件しかヒットしません。(内1件は上記案件)

J-PlatPat

J-PlatPat 検索画面

検索範囲を全文に広げてみても、ほんの40件に増えるだけであり、内容的にもスピリッツに関する文献は皆無です。

これは審査官さん、特許文献を引用文献として審査を行うのは厳しそう・・・!

ところで審査官は、関連する先行文献が見当たらず拒絶の理由を発見しない場合は、「特許査定」を通知します。つまり、近しい特許文献がない場合は、一度も「拒絶理由通知書」を発することなく、特許査定となる案件もあるのです。

特許査定

特許査定通知の記載例

しかし本件は、特許情報ではない。学術論文でもない。そう、SNS です。審査官は、情報洪水時代を象徴する社会インフラを活用して審査を行いました。請求項1に記載の「原材料としてパロサントを用いた、スピリッツ。」というたった22文字であれば、関連する情報は洪水の中にきっとあるはず!と考えたのかもしれません。

パロサントは少なくともインカ帝国(15-16世紀)の時代から愛されており、蒸留技術はメソポタミア文明の頃には存在していたようです。であれば、インカ帝国から現代までの約500-600年の間に二者を新結合し「パロサントを使ってスピリッツを作ってみた」という人がいても、全くおかしくないですもの。

案の定、審査官は 以下 Instagram の投稿を発見し、引用文献1として引用しました。さすがは世界20億人が使用しているとされるプラットフォーム。パロサントのスピリッツもちゃんと投稿されています。

パロサント スピリッツ Instagram

https://www.instagram.com/p/Co7p05Xt0xP より引用

審査官による拒絶理由通知書の内容は以下のとおりです。画像だけでなく、投稿されたテキストについてもしっかり言及していますね。

引用例1として示したInstagramには、パロサントを原料に用いたジンが投稿されている(写真の「PALO SANTO GIN」を参照)。当該投稿には、南米産のサンパブロ・サントウッドを使用したこのジンは、ウッドの特徴で、アーシーな風味を持ちながら、傑出した滑らかさを有していることが記載されている。 よって、請求項1~3、6に係る発明は、引用例1に記載されている。

拒絶理由通知書(起案日:令和5年9月22日)より

ここで、本事例における時間軸を確認してみましょう。

  • Instagram 投稿日(公開日):2023年2月22日
  • 特許出願日:2023年8月8日

引用文献は、審査対象となる特許出願前に公開されている必要があります。本事例では、出願日の約半年前に Instagram の投稿が公開されていたため、引用文献として審査に影響を与えました。

投稿があと半年遅れていたなら、審査結果は大きく変わっていた可能性があります。このわずかな差によって、特許取得の可否が左右されることもあるのです。

【審査事例4】日米中動画プラットフォーム総動員!:ゲーム内における銃の「反動表現」を審査した令和の事例

特許第7697034号:仮想銃の射撃表示方法及び装置、コンピュータ機器並びにコンピュータプログラム(J-PlatPat リンク
出願日:2022.5.12

4件目は、これまでとは異なり少し複雑な発明内容ですが、ある意味で令和の時代を象徴する実に興味深い事例です。請求項の記載が長いので、要点のみ紹介していきます。ゲーム内における銃の射撃表示に関する発明です。

  • 請求項1の要点:連続射撃時、仮想銃を X軸/ Y軸 方向へ変動曲線に従って変動させる
  • 効果:リアルな射撃の反動表現により即したものになる(【0010】)

特許図面

特許第7697034号 図2より引用

銃を連射した際の反動に関する内容ですね。引用文献1として、以下の YouTube 動画が引用されています。たしかに、審査官が指摘するように、動画内における仮想銃は、連射に応じて反動しています。

 引用文献等1の13:05~13:12には、仮想シーンにおいて仮想銃を表示すること、仮想シーンで連続射撃を行うように仮想銃を制御すること、仮想銃が連続射撃中に1回射撃したことに応じて仮想銃の銃身が水平方向及び垂直方向に変動すること(請求項1、13の「銃身反動アニメーション」に相当)、仮想銃が連続射撃中に1回射撃したことに応じて仮想銃の銃口が仮想銃を持つキャラクタを中心として垂直方向に回転すること(請求項1、13の「銃口反動アニメーション」に相当)が開示されている。
 また、引用文献等1の12:14~13:05には、仮想銃の移動の軌跡を曲線(請求項1、13の「変動曲線」に相当)で定めることが開示されている。
 してみれば、この出願の請求項1、13に係る発明の発明特定事項と、引用文献等1にて開示された発明の発明特定事項との間に差異はない。

拒絶理由通知書(起案日:令和6年8月26日)

この拒絶に対し、出願人は、「グリップ(手と仮想銃との接触点 に相当)が回転中心となる」といった内容に限定して、特許化に再チャレンジしました。上記引用文献1の動画中では、仮想銃のグリップは表示されておらず回転中心が判然としないため、新規性がありそうです。

すると審査官は、再び様々な ”先行文献” を調査し、2回目の拒絶理由を通知します。拒絶理由の詳細は割愛し、引用文献一覧のみ紹介します。

拒絶理由通知書(起案日:令和7年2月10日)より

新たに引用文献2~4が追加されました。

よく見ると、引用文献2はTikTok、そして引用文献3はニコニコ動画じゃありませんか!

米・中・日の代表的動画プラットフォームを総動員した拒絶理由通知書であり、ビューティフルハーモニーを感じます。まさに令和の時代を象徴する拒絶理由・・!

なお引用文献3は、実写動画です。射撃時にはグリップを中心に銃口が垂直方向に回転するという周知事実を示すために引用されています。

動画内の屈強なお方も、まさか日本国特許庁内で動画が再生され、行政上の公文書内に記載されるとは、夢にも思わなかったことでしょう。銃をぶっ放している様子が特許法の文脈で真剣に吟味されるなど、想像できるはずがないです。審査官のサーチ能力は伊達じゃありません。

最後の5件目は、打って変わって「お堅い情報」が引用文献として使用された事例です。

【審査事例5】ゆるさゼロの最終兵器!森喜朗元首相の答弁書が審判で引用される:食用酸の用途発明

特許第5937291号:食用酸及び/又はその酸性塩を含む薬剤組成物とその使用(J-PlatPat リンク
出願日:2004.4.26

5件目は、なんと内閣総理大臣の答弁書です。ゆるさの欠片もありません。

本件は、通常の審査では決着がつかず、「審判」という、特許庁での第2審にまで進んだ案件です。審査官による拒絶査定に対して出願人が不服を申し立て、審判官の判断を仰ぐことになったのです。

審判の対象となったのは、「食用酸」を主成分とする、用途の異なる2つの請求項でした。

  •  請求項1の概要:食用酸を含む薬剤組成物について
  •  請求項2の概要:食用酸を含む保険食品について

結果は、請求項1のみが登録となりました。

【請求項1】
 活性成分として有効量の食酸と、薬学的に許容される添加剤からなる組成物の溶液の使用であって、
 前記食用酸はフマル酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸からなる群から選択された少なくとも一種の酸であり、
 前記食用酸含有量が0.06~100重量%であって、
 前記溶液に浸漬することにより、皮膚と接触する手袋又は衣類の表面を処理し、表面にあるアレルギー原又は蛋白質を変性することにより、アレルギーを防止又は改善する組成物の溶液の使用。

特許第5937291号 より

【請求項2】
 請求項1の治療剤を口投与剤の保健食品としたとき、その活性成分の可食用酸/またはその酸性塩の含有量が0.06~10%で、その際コハク酸、フマル酸とクエン酸を除き、をいずれのクッキー、ケーキ、キャンデイ、チューンガム、缶詰め、乳製品、ピ-ナツ製品、プディング、玉子製品、料理、酒、お茶、コーラ、サルサ、と混ぜることを特徴とする保健品。

手続補正書(2011.12.26 提出)より

細かな経緯は省略しますが、審判段階では、請求項2の新規性・進歩性を否定するため、引用文献15として内閣総理大臣の答弁書(*)が引用されています。この答弁書には食品添加物に関する記載があるため、請求項に記載された「可食用酸」は、すでに食品添加物として広く使われているということです。

(*)内閣総理大臣 森喜朗、衆議院議員長妻昭君提出食品添加物の試験等の資料・データに関する質問に対する答弁書、答弁第三一号、日本、2001.03.23発行(リンク

不服2011-28347 拒絶理由通知書(起案日:平成27年12月4日)

まさか森喜朗元首相の答弁書までもが特許審査(審判)で引用されていたとは・・・何気なく「内閣総理大臣」なるワードで特許を検索してみてよかったです。1件のみヒットしました。

J-PlatPat

J-PlatPat 検索画面

国の最高機関による公文書が先行文献として用いられたというのは、非常に興味深い事例といえるでしょう。次は、選挙演説や国会中継などの動画を引用する事例に期待したいです。

まとめ:現代の先行文献のうち、審査で最も引用されているのはYouTube!

今回、審査で活用された先行文献の多様な実例をみてきました。

  1.  事例1:YouTube
  2.  事例2:X(旧 Twitter)
  3.  事例3:Instagram
  4.  事例4:YouTube + TikTok + ニコニコ動画
  5.  事例5:内閣総理大臣 答弁書

特許審査の奥深い世界を少しでも感じていただけたなら幸いです。

最後に、各情報源が審査で参照された件数の集計結果を紹介します。

各情報源における審査参照件数推移

各情報源における審査参照件数(出願件数単位) *検索条件は末尾に記載*

YouTube 動画が断トツで参照されています。大半の投稿がテキスト中心のX(Twitter)や静止画中心の Instagram と比べ、YouTube 動画は情報量が多いためでしょう。ショート動画の TikTok は1件のみでしたが、今後は増えてくるのかもしれません。

次は、技術分野ごとの集計結果です。

特許分類ランキング

特許分類毎の件数ランキング(重複カウント)頭の記号は特許分類。分類説明は短文化したもの。

SNS が審査に参照される分野は、パチンコ・パチスロ関連が突出して多く、次点でビデオゲーム関連でした。これは、デジタル分野の発明であれば、そのままデジタル情報(動画)として公開されやすいためなのではないかと推測します。

ゲーム分野であれば、そのゲーム内容の面白さ(≒発明)をアピールすべく動画配信したり、ユーザーによる実況配信などもありますしね。特許文献でテキスト情報を読み解くよりも、審査官にとって探しやすい&審査しやすいという側面もあるかもしれません。そう考えると、本記事で紹介した事例1,2,3,5については、なかなかレアなケースといえそうです。

特許権は強力な権利であるからこそ、その審査は特許庁で厳格に行われます。そして本記事で紹介したとおり、審査過程で引用される文献には、ときに動画やSNSといった意外な情報源も登場します。特許の厳格さと、意外性のある「ゆるさ」とのコントラストこそ、特許審査の興味深い点といえるでしょう。

同時に、審査官のご苦労も容易に想像できます。特許文献だけでなく、SNSや動画、さらにはAIによって生成された情報にまで気を配らなければならない時代ですから。

膨大に増え続ける情報の中で、これから特許審査がどのように変わっていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

個人的には、「こち亀」の事例を密かに期待しています。

各情報源のポジショニングマップ

各情報源のポジショニングマップ(筆者主観)

<検索条件>
検索日:2025.10.1
DB:J-PlatPat
・YouTube:[youtube.com/RF]
・X(旧Twitter):[(/x.com+twitter.com)/RF]
・Instagram:[.instagram.com/RF]
・TikTok:[.tiktok.com/RF]
・ニコニコ動画:[.nicovideo.jp/RF]
・こち亀:[(こちら葛飾区亀有+こち亀)/RF]
<備考>
・「/RF」:検索対象が「参考文献」となる
・こち亀について:上記検索式ではヒット件数が4件だが、他の情報源から2件を加え、計6件とした

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