こち亀で三つの未来を予言!?弁理士が特許情報と合わせて考察します

こち亀は未来を予言する!

インターネット上では、こち亀の先見性が度々話題となります。例えば eスポーツやオンライン飲み会について、1980年代のこち亀に描かれていたためです。

特許審査において先行文献としてこち亀が引用された例が複数存在することも、こち亀が未来を予言していることの表れでしょう。当該事例について、Toreru Media においても紹介しています。(特許庁の審査官はこち亀好き?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.3- | Toreru Media

本記事では、こち亀に登場する先進的アイデアと、関連する特許情報を紹介します。こち亀の話は実際に特許審査で引用されているわけではないものの、いずれもコンセプトは似ているものです。

今後の世の中にはどんな未来があるのか?こち亀をきっかけとして、楽しく探ってみませんか。

それでは早速みていきましょう。

こち亀予言1. 警察が鳥型ドローンを活用

~コミック 第197巻「ドローン来襲の巻」~ 初版:2015年12月

  • 【概要】サバイバルゲームやパトロールでドローンを活用している両津は、その発想力や技術力を期待され「警視庁ドローン企画会議」に参加。ドローンだと気付かれない忍者のような鳥型ドローン「Birdrone/バードロン」を提案&開発し、脱走犯人を探す実験を行うこととなった。
こち亀 第197巻 P126 バードロン

コミック 第197巻 P126 より引用

1件目は、鳥型ドローン「Birdrone/バードロン」

鳥とドローンが融合された、直感的に分かりやすいネーミングです。

見た目が鳥にそっくりであるため、犯人がバードロンを見つけてもドローンだと気付きにくいことや、そのまま犯人を威嚇することもできるという利点があるとのこと。立てこもり犯に対してこっそり近づいて様子を確認し、解決の糸口を探ることなども可能となりそうですね。

ここで、関連する特許情報を紹介しましょう。

例えば 特許第6313628号 には、鳥の羽ばたき機構を設けた航空機に関する発明が記載されています。しかし、本航空機をパトロールに活用するアイデアは記載されていません。

一方、米国特許である US9471059B1 には、機械的な外観であるものの、警察官がパトロールに活用可能な小型ドローンに関する発明が記載されています。

US9471059B1 特許図面

US9471059B1 より引用

小型ドローンである UAV 605 が、警察官の補助を行うことや、警察官の肩にある docking station 620 にて充電が可能な旨が記載されています。UAV 605 は小型サイズで、ポケットにも入りそうです。

UAV 605 が、付近の様子を撮影したり、警察官が取り締まり中に近所をパトロールするなど、活躍の場が多いことでしょう。ただここまで小型だと、充電を行うべく割と頻繁に警察官の元へ帰還する必要がありそうですね。

なお、ドローンを活用した監視については多くの事例があり、例えば神奈川県においては、不法投棄を防ぐためのスカイパトロールとしてドローンを使用しています。(参考:ドローンを使用したスカイパトロールの取組 – 神奈川県ホームページ

精密な鳥型ドローンが今後開発されたら、いずれ、警察官がバードロンを携えてパトロールを行う日が来るかもしれませんね。

以上、1件目の「警察が鳥型ドローンを活用」でした。

バードロンという素敵なネーミングと相俟って、こち亀の先進性が感じられる事例といえるのではないでしょうか。ただ、割と現実的なアイデアであり、”ワクワク感” は少々物足りなかったかもしれません。

次は、少し楽しい未来に関するアイデアを紹介します!

こち亀の予言2. 通勤時に屋台や風呂を楽しめる電車

~コミック 第54巻「列車よいとこの巻」~ 初版:1988年10月

  • 【概要】自己啓発を行うビジネスマン向けの電車を開発中の中川鉄道株式会社を訪れた両津は、麻雀教室や、車外の畑に向けたゴルフ打ちっぱなしなど、独創的なアイデアを次々と提供する。そして、車両内に、お酒が飲める屋台や、風呂までも搭載するアイデアについて熱く語るのであった。
こち亀 第54巻 P150 車内に屋台がある電車

コミック 第54巻 P150 より引用

車内でお酒が飲める電車、いいですね!

クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」等の特別な観光列車でなく、通常の電車で、退勤時に焼き鳥やおでんとともにお酒が飲めたら素敵です。両津が言及しているとおり、退勤時間を活用した新たなコミュニケーションが生まれそうです。降車駅が決まっているので、上司としても気軽に部下を誘いやすいのではないでしょうか。

2024年には 京急蒲田駅ホームにてお酒を飲む催し がありましたが、走行する車両内にもお店が入る日は来るのか!?お酒好きの方は、期待して待ってみましょう。

次に、関連する特許情報も紹介します。

2018年に出願された 特開2018-195311 は、観光ホテル旅客列車の運行システムに関する発明です。これは貨物鉄道線路を使用し、夜間に目的地近くの貨物駅まで走行し、日中は停車して観光活動を楽しむというもの。例えば図1には、北海道における貨物列車の路線図が描かれています。

特開2018-195311 図1 特許図面

特開2018-195311 図1より引用

列車内には宿泊設備があり、観光客が手軽に旅行や宿泊を楽しむことができます。図11には車両構成が示されており、例えば10号車「健康車両」には、シャワー付きお風呂、美容室、エステ等の利用が可能です。(【0046】, 図21)

特開2018-195311 図11 特許図面

特開2018-195311 図11より引用

そして5号車「食堂車両」と6号車「娯楽車両」はオープン連結方式となっており、2車両連結した状態で、食事やステージショー等を楽しむことができるようです。

特開2018-195311 図17 特許図面

特開2018-195311 図17より引用

広大な北海道を本発明の列車で旅行できたら素敵ですね!

北海道の観光は勿論のこと、車窓からの景色や、電車に揺られながら行う非日常体験の全てを通じて、幸せになれそう。もし実現されたら、筆者は是非乗車します。西村京太郎さんの小説をお供に乗車すれば、更に素敵な体験ができそうです。

なお、こち亀においては車両内に風呂も搭載されているシーンが描かれています。長湯ができず、通勤電車においては利用しにくそうですね。

こち亀 第54巻 P152 車内に風呂がある電車

コミック 第54巻 P152 より引用

そして車内でせっかくスッキリしても、帰路につく間に再び身体が汚れてしまいそう。その点をふまえると、まずは「屋台」の方が現実的かつ実用的なアイデアなのではないでしょうか。会社関係者とのコミュニケーション等、意識や行動に変容が訪れそうで、とても楽しみです!

以上、2件目の「通勤時に屋台や風呂を楽しめる電車」でした。

最後の3件目は、物議を醸しそうな、ちょっと怖い技術に関するものです。

こち亀予言3. 超高性能な嘘発見器

~コミック 第132巻「本音で行こう!の巻」~ 初版:2002年11月

  • 【概要】両津は、中川の会社を騙し、高性能な新型の嘘鑑定機「証人尋問君」を開発する。テレビや電話越しの声だけでも嘘を発見することが可能で、おもちゃの域を越えた品となり、ヨーロッパの軍や警察からも受注が来ることになるのであった。
こち亀 第132巻 P102 高性能嘘発見器「証人尋問君」

コミック 第132巻 P102 より引用

3件目は、「超高性能な嘘発見器」です。

これは一見して、恐ろしい商品ですね。。。

「本音」と「建前」が調和することで社会は成り立っているのであり、ちょっとした嘘の部分を全て他人に感知されてしまっては、人間社会が崩壊するのではないでしょうか。昨今のキャンセルカルチャーと負の相乗効果があるようにも感じられ、非常にまずい未来が想像できます。

しかし、犯罪捜査において、嘘発見器を用いたポリグラフ検査は必要であり、技術発展が求められる分野なのかもしれません。

例えば2003年に出願された 特開2004-246275 は、音声解析を用いて嘘を検出する腕時計に関する発明です。主な機能は、話者の会話全体で嘘をついた頻度を計算し、その結果を画面に表示すること。そして話者が真実を話しているときの音声を基準として較正し、音声の振幅レベルの変動を比較することで、嘘を検出するようです。嘘を検出した際には、カウンターが増加し、会話終了時に嘘の頻度や全体的な嘘レベルのグラフが表示されます。

特開2004-246275 特許図面

特開2004-246275 図1(左)、図18(b)(右)より引用

腕時計型の嘘発見器…!

話者は噓発見器だと気付かず、自然体の会話を嘘判定できそうな発明ですね。そしてこち亀のように1フレーズ毎に嘘を判定してビービー鳴らすのではなく、会話全体を通して判定を行うとのこと(【0077】参照)。そっちの方がマイルドで、人間社会に受け入れられやすそうでいいですね。

もう1件、嘘を判定する発明ついて紹介しましょう。

2016年に出願された 特許第6733901号 は、音声データとテキストデータを用いて発話者の心理を分析する発明です。音声データの分析結果である「感情」と、音声に基づくテキストデータの分析結果である「文脈」とを比較し、それらに矛盾があるか否かを判定するというものです。

具体的なイメージは図5をご覧ください。

  • 攻撃者:”オレオレ詐欺” を行おうとしている人物
  • 受話者:年配の女性 
  • ポイント:例えば、①と②の矛盾を判定することで、受話者への警告が可能となる。
     ①文脈:借金をしたという悲しさ
     ②感情:孫だと信じてもらえた喜び
特許第6733901号 特許図面

特許第6733901号 図5 より引用

なるほど、感情と文脈とを比較することで、オレオレ詐欺か否かを判定できるということですね!誤魔化しきれない人間の特性をうまく活かした、素晴らしい発明なのではないでしょうか。実際に活用されているのかどうか気になるところです。

以上、3件目「超高性能な嘘発見器」でした。

こち亀においては、嘘発見器によって社会に様々な影響が及ぶ旨が描かれていますが、当該技術は、詐欺等の社会課題を解決し得るものということが分かりました。技術は手段であって、使う目的次第で、善にも悪にもなるということですね。犯罪捜査等には是非活用いただき、こち亀の予言は的中しないことを祈ります。

さいごに

本記事にて紹介したこち亀アイデアは以下のとおりです。

  1. 鳥型ドローンを警察が活用
  2. 通勤時に屋台や風呂を楽しめる電車
  3. 超高性能な嘘発見器

これらは果たして未来を予言しているのか!?

そう遠くない将来に判明するかもしれず、楽しみに待ちたいと思います。

そして3件目のこち亀に描かれたような未来が訪れるか否かは、我々人間次第なのかもと感じました。大規模言語モデル等、IT技術の発展が著しい中、人間として何が大事で、何が危ういのか?仮に産業的に市場がありお金儲けができるとしても、他方で失うものもあるのではないか?

そういったことも、少し考える必要がありそうです。

こち亀からは、技術発展だけが正義ではない、大事な「何か」について考えるきっかけをもらいました。

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