「ポケモン」VS「パルワールド」キャラの著作権の類似性を検証してみた~裁判所のルールでは侵害?非侵害?

2024年2月上旬現在、PC用ゲーム『Palworld(パルワールド)』が1週間弱で800万ダウンロードと世界的なスマッシュヒットを飛ばす一方、「ゲーム内のキャラクターや表現がポケットモンスターシリーズと似ている」という意見が多く寄せられ、賛否両論となっています。

ポケモン似?爆売れ「パルワールド」色々ヤバい訳 発売から4日で600万本販売、ただ懸念もある | ゲーム・エンタメ | 東洋経済オンライン

本作が問題視されている背景は、ボールを使ってモンスターを捕獲するというシステムや、キャラクターデザインの類似性という外観にとどまらず、ポケモンシリーズがタブーとしてきた「モンスターを使役した近代的な戦争」、「強制的な労働」、「モンスターを殺す」といった過激な表現がポケモンファンの逆鱗に触れた点もありそうです。

『パルワールド』に対し、(株)ポケモンは

お客様から、2024年1月に発売された他社ゲームに関して、ポケモンに類似しているというご意見と、弊社が許諾したものかどうかを確認するお問い合わせを多数いただいております。弊社は同ゲームに対して、ポケモンのいかなる利用も許諾しておりません。

なお、ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です。

弊社はこれからもポケモン1匹1匹の個性を引き出し、その世界を大切に守り育てながら、ポケモンで世界をつなぐための取り組みを行ってまいります。

他社ゲームに関するお問い合わせについて|株式会社ポケモン|The Pokémon Company

とのコメントを出しました。まず調査を行い、侵害といえるのであれば適切な対応を取る、という姿勢は権利者としてはオーソドックスであり、これ以上現時点では言えないということでしょう。

知的財産権の侵害検討は大きな事件ほど慎重に行われるのが常で、(株)ポケモンが実際にアクションを起こすかどうか、分かるのはしばらく先になりそうです。

ただ、このような案件で「著作権侵害と実際に言えるのか?」の認定はなかなか難しい。裁判上の一定の基準はありるのですが、一般に広く理解されているとは言い難い状況です。

そこで本記事では、キャラクターの類似性を判断する上での日本の法的な考え方・裁判例を紹介しつつ、実際に『パルワールド』と『ポケモン』のキャラクターたちの図柄を比較して、著作権侵害といえるか検討していきます。

※以下は本記事を執筆している一弁理士としての見解で、Toreru の公式見解ではありません。また、(株)ポケモン、(株)ポケットペアどちらの立場に拠るものではないことをあらかじめ表明いたします。

1、著作権訴訟における、類似性のルールとは?

本件が知的財産権の侵害にあたるか検討するにあたり、主に著作権・特許権・商標権・不正競争防止法の観点があります。今回は、登録をせずとも権利が発生し、著作物の比較もしやすい著作権が本命でしょう。

そこで、まずは著作権侵害といえるかを要件とあわせて検討し、後の章で特許権、商標権、不正競争防止法の検討も簡単にして行きたいと思います。

①そもそも何が「著作物」なのか

著作権法で保護される著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。(著作権法第2条第1項第1号)

具体的に本件では「キャラクターのデザイン・図柄(美術の著作物)」、「ゲームプログラム」、「ゲーム画面」などが著作物として保護対象となります。

ただ、「ゲームプログラム」はプログラム同士の比較が不可欠ですし、「ゲーム画面」の比較では正直あまりポケモンシリーズとの類似性は高くなさそうです。

『パルワールド』ゲーム画面(Steam販売ページより)

一方、『パルワールド』が『ポケモン』に似ているとネットで議論になった要因として、そのキャラクターデザインがあるようです。

【パルワールド】ポケモンのパクリ!?登場パルと似ているポケモン比較一覧 | 株ポケの公式見解も追記【Palworld】

こちらのサイトに「似ている」と指摘されているキャラクターがいくつか上がっており、確かにぱっと見、参考にしたのかな?というキャラクターも確認できました。

ただ、「似ている」という感覚は人によってまちまち。ポケモンのガチファンであれば、少しでも似た要素があれば「侵害だろ!」と言いたくなるでしょうし、たくさんのゲームをプレイしてきた人なら「いや、むしろあのキャラの方が近いだろ」、「これぐらいは良くあるデザイン」という意見もありそうです。

そこでいったん主観的な「似ている・似ていない」の議論はおいておき、法律・裁判上で実際に用いられた基準を確認していきましょう。

②「類似性」の判断基準

裁判上、著作権侵害が認められるためには、著作物同士の“依拠性”、“類似性”という2つの要件が必要とされています。今回は『著作物の類似性判断』(上野達弘・前田哲男著)を土台に解説していきます。

まず“依拠性”とは、他人の著作物に接し、それを自己の作品中に用いることと解されます。ある創作物が、偶然に先人の著作物と同一又は類似になってしまっても、独自に創作したものであれば著作権侵害となりません。

この「創作物に依拠したかどうか」は、裁判上、侵害だと主張する著作権者側が立証することになっていますが、厳密に「相手が自分の作品に接したかどうか」を立証するのは容易ではありません。

そこで「類似点が多く、アクセスしなければそのように類似することは考えられない」という事情があれば、経験則上、依拠したことは明らかだとして依拠性を認めるのが裁判の実務です(参考:煮豆売り図柄事件)。つまり、“類似性”要件のほうを高いレベルで満たしてしまえば、自動的に“依拠性”もあっただろうと認定されます。

これに対し、被告側が「原告作品は参考にしていない」、「別の作品を見た」などと反論可能ではあります(独立創作の抗弁)。ただ、たとえ別の作品を参考としていても、参考にした作品が原告作品に依拠した作品である場合、「間接依拠」として依拠性あり、と判断される場合もあり、“依拠性”の要件を回避するのはなかなか容易ではないようです。

次に“類似性”の判断基準ですが、判例では

(先の著作物の)表現上の本質的な特徴を直接感得できるかどうか
パロディ=モンタージュ最高裁判決江差追分最高裁判決

で類似性を認定しています。ただ、この要件だけでは抽象的すぎますよね。そこで裁判では

原告著作物と被告著作物の間での「創作的表現」の共通性

を認定し、共通性の程度で類似性があるかどうか判断する手法が取られています。

この「創作的表現」の共通性を分解すると、

ⅰ)そもそも「表現」が共通しているのか?
ⅱ)共通している表現部分は「創作性」があるか?

という2つの要素があります。

まず、ⅰ)表現の共通性については、抽象的なアイディアのみが共通していても著作権侵害にならず、具体的な表現(例:文章やイラスト、プログラムのソースコード)が共通している必要があるとされています。

例えば、『ワンピース』という漫画は具体的な表現ですから、漫画を無断複製して販売すれば著作権侵害になります。一方、「少年が仲間と船で冒険するファンタジー冒険活劇」という元のアイディアはいまだ表現ではなく、この部分だけを無断で利用しても著作権侵害にはなりません。

ただ、表現・アイディアの線引きは実際には難しく、さらにアイディアを具体化して「少年が仲間と船で冒険するファンタジー冒険活劇+主人公はゴム人間+恩人から譲り受けた麦わら帽子を常にかぶっている」となると、もはや著作権保護を与えるべき「表現」だと考えられます。

アイディア/表現の境界線は明確ではなく、1つ1つの要素では抽象的なアイディアであっても組み合わせて具体性が高まれば、保護すべき「表現」に昇華していくのです。

次に、ⅱ)(共通する)表現部分の創作性ですが、例えば、「馬の顔が縦長」、「猫の耳が三角形で、髭が長い」といった表現であれば、誰が描いても行う“ありふれた表現”で、創作性があるとは言えません。

このようなありふれた表現にも著作権を認めてしまうと、他の人が「縦長の馬の顔」を書けなくなってしまい、他者の表現活動が過度に制限されてしまいます。創作性がない表現は作者の個性も発揮されておらず、著作権の保護に値しないとも言えます。

ただ、何をもって「ありふれた表現」というかの認定も抽象的でなかなか難しい。そこで近年は「選択の幅」という観点から創作性の有無を判断することが多くなっています。

すなわち、

・100字で表現するある人の死亡記事 →選択の幅が狭く、創作性が肯定されにくい
・10万字で表現するある人の伝記 →選択の幅が広く、創作性が肯定されやすい
(参考:『著作物の類似性判断』(上野達弘・前田哲男著)14-15P)

のように、著作物を創作する際の選択の幅で、創作性の認定レベルを変えていく考えです。

「選択の幅基準」は、表現の選択の幅が狭いジャンル=前の著作権が広すぎると他者の「表現の自由」が害される、選択の幅が広いジャンル=前の著作権を広く認めても、選択肢は色々とあるから他者の「表現の自由」は害されない、という説明ができるため、説得力があり、有力な考え方です。

さらに、この創作性と類似性の関係ですが、裁判上、「先の著作物における創作性が高ければ類似性が肯定されやすく、創作性が低ければ類似性は認められにくい」という傾向があります。

例えば、動物を擬人化するような場面では、ありふれた表現になることが多く、創作性が高い表現にはなりにくいです。この場合、デッドコピーかそれに近い後発作品に対してでないと、類似性は肯定されないでしょう。

今回の『ポケモン』と『パルワールド』のキャラクター比較に立ち戻ると、動物をキャラクター化した「定番表現」であれば創作性・類似性が比較的認められにくくなるということですね。

少し長くなったので簡単にまとめます。

③「類似性」の裁判例

続いて、『ポケモン』VS『パルワールド』のキャラクターの類似性比較で参考となりそうな、著作権の裁判例を2件ほど見ていきます。裁判所のHPで図柄が公開されている事件をもとに、比較図を作成しました。

・事例①「フラねこ」事件(大阪地判平27年9月10日):類似性肯定

本件は、原告の著作物(イラスト)がホームページに掲載されていたところ、被告が原告イラストをダウンロードして猫の頭部を切り取り、フラダンスの衣装などを組み合わせて被告著作物を制作。被告著作物は地域イベント「いわきフラオンパク」用のぬいぐるみの下絵のほか、派生イラストがガイドブックやチラシに無断使用されており、原告が著作権侵害を訴えた事案です。

頭部は原告のコピーだが、体部分は新たに創作されている被告著作物について、裁判所は

「被告イラスト1は、首より下の部分は原告イラストと異なるが、頭部の描画が原告イラストとほぼ同一であるから、原告イラストの本質的特徴を感得し得るものである。」

として類似性を肯定しました。(判決文図面はこちら)

黒猫の頭部だけでは比較的創作性の幅が狭く、類似性の認定ハードルも本来高いシチュエーションなのですが、頭部はデッドコピーだったため、その部分の類似性が認められました。

ここで裁判所は、頭部で独立した「類似性」が認められ、その部分で「本質的部分を感得」できる以上、体のデザインがいくら違っていても著作権侵害は否定されないという考え方を採っています。

もし黒猫の手先や尻尾だけをコピーしたとしても、そこで「本質的部分を感得」できるとは言い難いでしょうから、「創作的表現」といえる部分が類似しているかの認定が重要ということですね。

・事例②「けろけろけろっぴ」事件(東京高判平13年1月23日):類似性否定

この事件は、カエルをモチーフとした著作物を創作した原告(個人)が、「けろけろけろっぴ」の名前で図柄を使用している被告(サンリオ)に対し、著作権侵害で訴えた事案(第2審)です。

目玉が飛び出した2頭身のカエル、短い胴体や手足という図柄だけを比べると、一見似て見えるのですが・・裁判所は

「カエルを擬人化するという手法が、少なくとも我が国において広く知られた事柄であることは、鳥獣戯画などを持ち出すまでもなく、当裁判所に顕著である。

そして、カエルを擬人化する場合に、作品が、顔、目玉、胴体、手足によって構成されることになるのは自明である。擬人化されたカエルの顔の輪郭を横長の楕円形という形状にすること、その胴体を短くし、これに短い手足をつけることは、擬人化する際のものとして通 常予想される範囲内のありふれた表現というべきであり、目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していることについては、我が国においてカエルの最も特徴的な部分とされていることの一つに関するものであって、これまた普通に行われる範囲内の表現であるというべきである。 

そうすると、本件著作物における上記の基本的な表現自体には、著作者の思想又は感情が創作的に表れているとはいえないことになる。」

「独自の創作性を認めることができる本件著作物の形状 図柄を構成する各要素の配置、色彩等による具体的な表現全体に関し・・・個別的に対比してみると、

輪郭の線の太さ、目玉の配置、瞳の有無、顔と胴体のバランス、手足の形状、全体の配色等において、表現を異にしていることが明らかであり、このような状況の下で、被控訴人図柄を見た者が、これらから本件著作物を想起することができると認めることはできないから、被控訴人図柄を、そこから本件著作物を直接感得することができるものとすることはできないというべきである。」

として類似性を否定しました。(判決文図面はこちら)

つまり、「目玉飛び出し・2頭身・短い胴や手足」という原告・被告の共通要素はカエルの擬人化においてはだれでも行うだろうありふれた表現であり、創作性が認められない。

一方、個別の表現を比べると、「輪郭線の太さ、目玉がくっついているか離れているか、目のハイライトの有無、腕の表現、脚・靴の表現、色合い」などが相当異なるため、類似性の要件を満たさないという判断です。

本件の「共通部分を抽出しつつ、その部分が『ありふれた表現』(つまり創作性がない表現なのか)をさらに判断する。さらに、創作性がある部分だけを抽出して比較する」という方法論は、著作権侵害をめぐる裁判では一般的な基準といえるでしょう。

※なお、本事件の1審(東京地裁)でも、「被告図柄から本件著作物の表現形式上の特徴を直接感得することができない」として、類似性は否定されています。

これらの類似性認定手法を踏まえて、いよいよ『ポケモン』『パルワールド』キャラを対比していきます。

『著作物の類似性判断』(上野達弘・前田哲男著)には、上記2事件のほか、イラストの類似性が争われた裁判例が解説付きで20件掲載されています。事例や裁判所の基準をより詳しく学びたい方におススメです。

2、『ポケモン』VS『パルワールド』キャラを著作権侵害訴訟の類似性ルールに当てはめ!

2024年2月時点で『ポケモン』のキャラクターたちは図鑑番号No.1025まで公開されています。同じ番号でも一部に「アローラのすがた」といったバージョン違いのデザインがあるため、実際には1100体を超えており、さすが28年の歴史です。

これに対し、『パルワールド』では現時点で111種超のモンスターが実装されています。ポケモンに比べたらまだまだ少ないですが、初代ポケモンも最初は151体。立ち上げでは十分な数でしょう。

ただ、中にはポケモンキャラに似ている・似すぎ!?とネットで騒がれているモンスターがいます。その中でもぱっと見、似ている度が高そうな3キャラクターを選び、裁判所の基準に当てはめていきましょう。

参考サイト:【パルワールド】ポケモンのパクリ!?登場パルと似ているポケモン比較一覧 【Palworld】

1匹目:ミルフィー VS イーブイ

『パルワールド』のミルフィーは序盤から会えるかわいいモンスターで、マスコット的な存在です。ただ、SNSでは初期から「イーブイに似てない?」と物議を醸していました。

さて、この2体を比べてどういう印象を持たれたでしょうか。イーブイには『ポケットモンスター ソード&シールド』で登場したキョダイマックスという形態があり、胸の白毛が大きくなるので、より似ていると感じるというSNSのコメントもありました。

前章で見た通り、裁判所が著作権侵害を認めるかどうかは「創作的表現の共通性」次第ですが、この認定には2通りの手順があります。

A 二段階テスト法 

①元となる著作物(例:ポケモンキャラ)から「創作的表現」だけをまず抽出し、②その「創作的表現」が比較する著作物(例:パルワールドモンスター)に存在するかを判断する方法。

B 濾過テスト法

①元となる著作物と比較する著作物の「共通部分」をまず抽出し、②その共通部分が「創作的表現」と言えるかを判断する方法。

要は「創作的表現」の認定を先にするか、後にするかという違いで、どちらを採用しても「運用の仕方さえ誤らなければ、著作権侵害の要件に本来変わるところはないはずである」と言われています。

今回は、比較するキャラクターの図柄が明確であり、共通部分を抽出するのが容易であるため、“B 濾過テスト法”を使用します。そして、対比してみた結果がこちら。

イラストをながめながらミルフィーとイーブイの共通点を抽出していくと、

① 狐または犬をモチーフとした四足歩行獣
② 細長い耳
③ 頭頂部のくせ毛
④ 首回りを中心とした白い胸毛

といった共通部分が挙げられます。ただ、このうち①②は現実の動物でも見られる特徴です。

イーブイのモチーフ動物は公式では「ノーコメント」となっていますが、北アフリカに生息する野生動物、フェネックに似ているとも言われています。フェネックには②細長い耳の特徴がありますね。

さらにミルフィーとイーブイを比べると、③頭頂部のくせ毛が目立ちますが、ポメラニアンなど毛が長いタイプの犬の絵を描くときは頭毛をモコモコさせることが通例であり、創作性があるとは言い難いでしょう。さらにミルフィーの頭毛の立ち方は3方向に分かれており、イーブイとは形状が異なります。

いらすとや版フェネック&ポメラリアン

一方、④ 首回りを中心とした白い胸毛は、イーブイの特徴的表現であり、創作性は多少はあると言えそうですが、ミルフィーの胸毛は体全体を覆っています。ミルフィーはアイテムとして「羊毛」を産出する羊モチーフのモンスターであり、毛の範囲が異なるのはデザイン上の必然性もあるようです。

よって、私見ではありますが、ミルフィーとイーブイは「創作性がある表現が共通する」とまでは言えず、たとえミルフィーがイーブイを参考にした(依拠した)としても、類似性の要件を満たさず、著作権侵害は成立しないと考えられます。

2匹目:ムラクモ VS コバルオン

続いての比較は、ムラクモとコバルオンです。『パルワールド』のムラクモは北の洞窟の奥に生息するモンスターで、中盤以降の乗り物として重宝されているようです。

対するコバルオンは『ポケットモンスターBW』で初登場した準伝説ポケモンで、名前の由来は「コバルトブルー」からだと言われています。

図柄を比較してどう感じられたでしょうか。感覚的にはミルフィーより似ている度が上がった気はしますが・・。先ほどと同じ、「濾過テスト法」にあてはめてみます。

まず共通点の抽出ですが、

① 鹿など偶蹄類をモチーフとした四足歩行獣
② 額より斜後へ長く伸びた角
③ 青緑色の体色
④ 首周りを中心とした白い胸毛
⑤ 後腿部のグレーの模様

このあたりは認定できそうです。問題はこれらの要素が創作性のある「ありふれていない表現」かどうかですね。

まず、①②は現実の動物を元にしたら普通こう描くだろうという要素。また、同色系の角があるといっても、ムラクモ・コバルオンの形状にはシカとガゼルぐらいの違いがあります。逆に、ムラクモには独立した耳があるが、コバルオンは毛で隠れているのか耳の描写がないという違いがあり、相違点の方が目立ちます。

いらすとや版ニホンジカ&トムソンガゼル

続く③青緑色の体色と、④首周りを中心とした白い胸毛は組み合わせれば創作的表現といえそうです。ただ、体色はかなり近いものの、胸毛は胸部のワンポイントに留まるコバルオンに対し、ムラクモは胸から背中、尻尾まで白い毛が覆い、4つの蹄にも白い毛がかかっています。これには雲をまとう神獣というモチーフもありそうです。

さらに⑤後腿部のグレーの模様ですが、模様はどちらにもあるものの、形状・範囲が大きく異なります。さらに、ムラクモの脚の関節部分には葉っぱのような突起があったり、白い毛が尻尾のように描かれていたりという相違点も目立ちます。

確かに、青緑色の体色は現実の動物にはないコバルオンの目立った特徴ではありますが、シカやガゼルを青緑に塗っただけで創作性ありとしてしまうと他の人の表現の自由を著しく制限することになります。他の要素と組み合わされないと「創作性あり」とは言えないでしょう。

そして体色以外の共通する要素が「現実の動物を踏襲したありふれた表現」の範囲を超えていると言い難い以上、ムラクモも法律上の類似性要件を満たさず、著作権侵害は成立しないと考えられます。

3匹目:アロアリューVS ヌメルゴン&ドレディア

最後の比較は、アロアリューとヌメルゴン&ドレディアです。まずはイラストを見てみましょう。

アロアリュー比較

『パルワールド』のアロアリューはかわいい見た目ですが、序盤の強敵で怒らせると全滅もある草・龍タイプのモンスターです。

一方、ヌメルゴンは『ポケットモンスターX・Y』で初登場したポケモンで、ネバネバした軟体動物系のドラゴン。フランスの民間伝承にLou Carcolhというカタツムリのような蛇型のモンスターがおり、これをモチーフにしたと言われています。

Lou Carcolh

Lou Carcolhのイラスト(A Book of Creaturesより)

なお、アロアリューの頭部には「花の王冠」が乗っていますが、この部分が「ドレディア」の頭部に似ているとSNSで話題になっていました。そこで2つのキャラクターの組み合わせという観点からも検討していきます。

では、イラストをベースにまた「濾過テスト法」で、共通部分を抽出していきましょう。

共通点として、

① 二足歩行の首長竜
②  約4.5頭身のボディバランス
③ 先端が巻かれた後頭部の長い触角2本
④ 先端が巻かれた長い尻尾
⑤ 頭頂部に花を模した王冠 (ドレディアとの比較)

が見て取れます。

ただ、①②は二足歩行のドラゴンを描くときには「ありふれた表現」でしょう。ゲームのドラゴンといえば、初代『ドラゴンクエスト』の“りゅうおう”が有名ですが、①②の特徴は共通しています。

初代ドラゴンクエストキービジュアル(ニンテンドーストアより)

先行著作物である“りゅうおう”とアロアリュー、ヌメルゴンを比べると、背中の両翼や4本指の鉤爪、鼻先の短角、耳横の小ヒレといった具体的な表現が異なり、2体は“りゅうおう”とは非類似だといえそうです。

一方、アロアリューとヌメルゴン間の比較で特に類似性が高い部分は、

③④ 先端が巻かれた後頭部の長い触覚2本・先端が巻かれた長い尻尾

でしょう。触角・尻尾は2体のイラストを比較するとほぼ同一の形状をしています。

問題はドラゴンの描写において、ヌメルゴンの触角・尻尾形状が創作性が高い描写かどうか?ですが、原型とされるLou Carcolhの後頭部に触角はなく、尻尾の形状も大きく異なります。

ヌメルゴンの後頭部の長い触角は武器になり、これで相手を殴って攻撃するそうです。つまり、一般的なドラゴンでいう「角」に相当するパーツであり、軟体動物系という設定を活かしたオリジナルのデザインということになります。内巻きの尻尾は「軟体動物=かたつむりの渦巻き」を想起させつつ、具体的表現としてはLou Carcolhとは別物に仕上がっています。

ヌメルゴンのようにドラゴンの角を後頭部の長い触角として描くデザインは他でも見られるか、書籍『ビジュアル図鑑 ドラゴン』に掲載された70種以上のドラゴンの図柄とも比較してみたのですが、どの絵にも見られませんでした。尻尾にも同様の描写は見つからず、少なくとも私が確認した限りでは、③④はヌメルゴン独自の創作的な表現といえそうです。

ここで、先ほどの事例①「フラねこ」事件(大阪地判平27年9月10日)を振り返ってみましょう。この事例は、黒猫の頭部はほぼ同一(コピーしたため)、体は独自に描いたので全く異なるというシチュエーションでしたが、

「被告イラスト1は、首より下の部分は原告イラストと異なるが、頭部の描画が原告イラストとほぼ同一であるから、原告イラストの本質的特徴を感得し得るものである。」

と裁判所は判断しました。

この考え方を踏襲するなら、私としては、ヌメルゴンの③④先端が巻かれた後頭部の長い触覚2本・先端が巻かれた長い尻尾という要素には先行するドラゴンの図柄と比較しても十分な創作性があり、モンスターデザイン全体の特徴部分でもある。

さらにアロアリューは③④の要素をほとんど同一といえるレベルで取り込んでいるので、ヌメルゴンのイラストの「本質的特徴を感得し得るもの」として、アロアリューには著作権侵害が成立するのではと考えます(あくまで私見です。上記の前提を覆す証拠が出てくれば判断も変わってくるでしょう)。

なお、「頭頂部に花を模した王冠」はドレディアと共通する部分でありますが、頭に花の王冠を載せたモンスターというだけでは創作性が高いとはいえず、さらに王冠の形状、花弁の色・模様が異なること。アロアリューとドレディアでは頭部の王冠以外のデザインが全く相違することより、この2体は類似といえないでしょう。

ちなみに、合体的なデザインに対しては「複数のキャラをミックスし、組み合わせた1体ずつでは『本質的特徴を感得』できない場合にも著作権侵害が成立するのか?」という論点が出てきますが、私見としては、著作物として比較する対象が1体ずつである以上、単体で類似性の要件を超えなければならない(合わせ技では著作権侵害は成立しない)と考えます。

理由は、複数の要素を組み合わせて新しい創作物を作るのは、創作の過程では一般的であり、単体比較では類似といえないのに「合わせ技一本」での著作権侵害を認めてしまうと、創作活動全体に対する萎縮という悪影響が強すぎるためです。

著作権者の権利と、後のクリエイターの「表現を選択する幅」のどちらもバランスよく守ることで、文化の発展を図る。これが著作権という法制度の役割です。

3、著作権以外で侵害といえる可能性は?

ここまで著作権侵害の検討をじっくりとしてきましたが、「アロアリュー」を除き、なかなか侵害の成立は難しそうです。ただ、知的財産権には特許権・商標権・不正競争防止法に基づく権利も含まれます。そこで、これらの権利に基づく検討も、簡単にしてみましょう。

①特許権

まず、特許権は「任天堂VSコロプラ訴訟」で33億円の和解金が報道されたように、侵害が成立するなら大きなお金が動くこともある権利ですが、特許侵害の認定のためにはまず根拠になる特許を特定する必要があります。

特許庁のデータベースによれば、(株)ポケモン名義の出願中または権利存続中の特許は206件あるのですが、ざっと見た範囲では『パルワールド』が明確に踏んでいるだろうなという特許は見当たりませんでした。

『パルワールド』はゲームジャンルでは「オープンワールド・サバイバルゲーム」とされ、システムは『ARK: Survival Evolved』『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に近いと言われています。

任天堂や他の協力会社の特許権を実は踏んでいた・・との可能性も無いわけではないですが、現時点で特許権の観点での侵害ポイントを見つけるのは難しそうです。

②商標権

続く商標権は、ざっくり言うと「登録された商標(ネーミングやロゴ、図形)を他人が商標として使用する」ことを禁止できる権利です。

同じく特許庁のデータベースで調べてみると、(株)ポケモン名義の登録商標は2件しかありません。これは、ポケモン関係の商標権は、原則として「任天堂、クリーチャーズ、ゲームフリーク」の3社連名で登録することになっているからのようです。

商標登録4331938号(3社連名の登録例)

特許庁のデータベースによれば、ゲームフリークを権利者に含む商標権(出願中を含む)は1015件。この中には『ポケモン』のキャラクター名の登録も多く含まれます。

もしかしたら『パルワールド』が登録商標に似たキャラクター名を使ってしまっていて、それが商標権侵害になるのでは?と思われた方もいるかもしれません。ただ、商標法には「商標としての使用」だけを排除できる、というルールがあります。

この「商標としての使用」とは、「自他商品識別機能や、出所表示機能を有する態様で使用する行為」と解釈されています。簡単にいえば、取引において自分・他人の商品を区別したり、誰の商品か分かるようにする目印として「その商標」が使われていなければ、侵害にならないということです。

具体的には、商品や商品パッケージ、パンフレットなどに商標登録された文字・ロゴが使われていても、単なる装飾や説明文の一部として使われていれば商標権侵害とはなりません。(参考:商標権侵害とは何ですか。|日本弁理士会 関西会)

『パルワールド』のゲーム中にたくさん登場するモンスターたちの名前も、そのモンスターの名前を目印として消費者がゲームを取引するわけではないため、モンスター名はゲーム内においては「商標としての使用」ではなく、たとえ登録商標と同一・類似していても侵害とはいえないでしょう。

※ なお、モンスターに人気がでてぬいぐるみ化され、単体グッズとして名前を表示して販売された場合は、その名前を見て取引をするので「商標権侵害」になりそうです。キャラクターにネーミングを与えた時点で侵害になるのではなく、そのネーミングをどう表示したかで「商標としての使用」にあたるかが判断されます。

現時点では『パルワールド』のグッズは出ておらず、ゲームタイトルとしての『パルワールド』と同一又は類似するゲームフリーク社らの登録商標は見つかりませんでしたので、商標権侵害の認定も難しそうです。

③不正競争防止法

3つ目の「不正競争防止法」ですが、可能性がありそうな規定として、

2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

1項1号 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

1項2号 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

という2つの条項があります。この「不正競争行為」に該当すると、差止請求や損害賠償請求が可能となります。ここで問題になるのは「商品等表示」とは何か?という点です。法律上は、

商品等表示:人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの

とされており、種類や方法を問わず、ある事業者の商品又は営業を表示するものであれば保護の対象になり得ます。ここで不正競争防止法が太っ腹なのは、たとえ「未登録商標」であっても、商品等表示として周知又は著名になっていれば、保護され得ること。

これは「登録主義」という商標法の原則がありつつ、そうはいっても登録されていない有名な商品等表示を相乗りから守ってあげる社会的なニーズがあるよね・・という考えから、補充的に不正競争防止法のこれらの規定があるためです。

ここで、ゲーム画面が「商品等表示」にあたるかですが、裁判所は“ゲームソフト「ファイアーエムブレム(FE)」事件”で、

ゲーム影像とその変化の態様は、「その他の商品又は営業を表示するもの」としてその商品等表示性を認められる場合があるが、それ自体が商品の出所表示を本来の目的とするものではないから、ゲーム影像及びその変化の態様が商品等表示と認められるには、当該ゲーム影像及びその変化の態様が、ゲームタイトルなどの本来の商品等表示と同等の商品等表示機能を備えるに至り、商品等表示として需要者から認識されることが必要であると解するのが相当である。

日本ユニ著作権センター/「ファイヤーエムブレム事件」判例全文・2004/11/24b

として、裁判で争われたゲームのプレイ影像を、「特定の影像が繰り返し使用されるものではなく、需要者に強い印象を与えるものではないから、『商品等表示』には該当しない」と判断しました。

この考え方に基づけば、ゲームのプレイ画面が「商品等表示」と認定されるためには非常に高いハードルがあります。

なお、キャラクターの図柄も「商品等表示」として不正競争防止法で保護される余地があります。ただ、不正競争行為に該当するためには「他人の商品等表示と同一若しくは類似」という要件があり、そもそもキャラクターの図柄を比較して、類似だから著作権侵害という認定ができなければ、不正競争の成立も厳しいでしょう。

やはり、キャラクターの図柄が著作権侵害といえるかどうかが本命の検討になりそうです。

おわりに~『似ている』=悪なのか?

本記事では『パルワールド』のキャラクターを題材に、イラストの著作権侵害といえるかどうかを裁判上の基準にあてはめながら検討しました。

インターネット上の意見を見ていると、「『パルワールド』はパクリ」、「倫理的に許せない」というものも多く、ポケモンファンとしては気持ちは分かります。

ただ、ポケモンの「モンスターを仲間にして、戦わせる」というメインコンセプトは初代ポケモン以前にも『女神転生』、『マスターオブモンスターズ』などで実装されていました。「敵を捕らえて味方として戦わせる」という広い概念だと、『フィールドコンバット』や『将棋』のシステムが該当します。

「フィールドコンバット」紹介 任天堂HPより

世界的なポケモンシリーズも先人が築いたゲームの歴史の上に成り立つものであり、『パルワールド』もその歴史の先にあるものです。先人の資産を参考にすること自体は悪ではなく、知的財産権といういわば「パクリのルール」を害するかどうかで、適否を判断すべきでしょう。

知的財産権は権利者に一定の「独占権」を与える一方で、その「独占権」が過剰に強くならないように調整する、人工的な権利です。独占権を与える目的は社会の「文化や技術の発展」であり、誰かの権利が強くなりすぎると他の人の創作・利用が困難になり、逆に「文化や技術の発展」を阻害するという悪影響が生まれます。

今回の『パルワールド』が侵害なのか?は、感情論ではなく、理性的に判断すべきですし、さらに裁判上の類似性基準が「社会の感覚に合致しているのか?」も、専門家だけでなくより広く議論する価値があるように思います。本記事がその議論の一助になれば幸いです。

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