知財にかかわる人間として、良く悩むのが「知的財産の存在意義をどうやって分かりやすく外の人に伝えるか?」ということ。
「法律で決まっているから、勝手に使うと侵害になります」とか、「知的財産がしっかりと守られることで発明が奨励され、技術が発展します」とか、言葉で説明できても、相手に伝わるかは別問題です。
相手が大人であれば「社会のルールだから」でも一応納得してくれますが、子供相手だと「難しくて良く分からない」、「何でそんなルールが必要なの?」と簡単に理解してくれないこともしばしば。
いや、そもそも知財に関心を持ってくれるかどうかが、最大のハードルです。
これに対し、「ゲーム形式にすることで伝えたいテーマを理解しやすくし、学習意欲を高める」という試みがあります。最近だと『桃太郎電鉄 教育版』が、子供たちが遊びながら地理を学べる学習ツールとして、学校に無償提供されたと話題になりました。
実は知財の世界でも、「知財の世界を楽しみながら学べる」ボードゲームがすでに何作か出ています。
そこで今回は、弁理士である筆者が「知財ボドゲ」3作を実際に入手し、中1の子供と一緒に遊んでみることで、その内容を確認し、さらに子供の「生の感想」を聞いていきます!
目次
1、『インベンターズ』~発明家オールスターズで、技術を獲得!
まずは1作目。『インベンターズ』は、プレイヤーが発明・発見家(インベンターと呼ぶ)4名を自分のチームとして操り、さまざまな発明・発見を完成させていくことで文明を発展させていくゲームです。
<ゲーム紹介(筆者要約)>
エジソンが、ヒポクラテスが、フィボナッチが協力して砂時計を開発し、そのうち一人が特許権を主張するとしたら?
ニコラ・テスラが硬式飛行船の発明で一躍名を馳せるとしたら?
火の制御利用から電球の発明まで、アリストテレスからアインシュタインまで、インベンターズで科学技術の発展史を再体験してみよう。
「インベンターズ」では、プレイヤーは様々な《発明・発見》をすることでパテントを取得し、勝利点を得ることで、史上もっとも偉大な発明・発見者(インベンター)チームとなることを目指します。各プレイヤーは、自分のインベンターチームの1人を派遣し、能力に応じたキューブを《発明・発見》に置きます。全てのキューブが埋まり《発明・発見》を成し遂げたら報酬を受け取ります。
これを古代、中世、近・現代の3世代にわたってプレイし、最も多くの勝利点を手にしたチームが勝利です。勝利点は、《発明・発見》の入手、入手した《発明・発見》の組合せ、さらに自分の発明・発見家(インベンター)の成長度によって得られます。
プレイしながら発明・発見家たちに関する知識も身に付く、ユニークなゲームです。
Amazon販売ページ 説明文より
ホビージャパンから日本語版も発売され、2023年6月現在では入手しやすい作品です。
早速注文して取り寄せました。
外箱です。電球を握っている人物はエジソンのようですね。
裏箱には簡単なゲームの紹介がありました。プレイヤー人数は2~5名。推奨年齢は10歳以上で、想定プレイ時間は約40分です。
内容物を一通り並べてみます。インベンタータイルが20人分。色ごとにチームが分かれており、1チーム4名で構成されます。左下が「発明・発見カード」で、これを獲得していくようです。
ともあれ早速プレイしてみましょう。
プレイヤーは私、妻、息子(中1)の3名。こんな感じで自分の前にインベンター4名を並べます。真ん中にあるのが獲得したい発明・発見カードです。
各インベンターには4つのパラメータがあり、上のエジソンだと物理(電球マーク)1、工学(ナットマーク)1の能力があります。
インベンタータイルを横に倒すことで「技術・発見カード獲得のためにそのインベンターを活動させた」ことになり、パラメータに応じたキューブを技術・発見カードに載せます。
例えば、この状態でエジソンを「電話」に派遣すると、パラメータにある電球1・ナット1のキューブを載せられます。ちょうど空きスペースがカードにありますね。
空きスペースが全部埋まれば、その技術・発見カードは完成。完成に貢献したプレイヤーたちが報酬を受け取れる・・・という仕組みです。報酬としてカードを受け取るほか、「インベンターを成長させるための点数チップを代わりに得る」という選択肢もあります。
ゲームがある程度進んだところ。エジソンを成長させ、全てのパラメータに点数チップが入りました。万能選手として活躍してもらいましょう。
ちなみに発明・発見の貢献度1位でなくても報酬はもらえるので、「少なくとも何かしら貢献をしておく」ことが大事です。この辺は現実世界にも通じるかも。
最後から2枚目の発明・発見が完成した時点でゲーム終了です。勝利点は発明・発見カードの点数だけでなく、インベンターの成長度や勝利点トークンなどを合計します。
3人プレイで今回勝ったのは・・・カードの獲得とインベンターの成長をバランスよく進めた息子でした!子供の感想を聞いてみましょう。
- インベンターを成長させるか、発明・発見カードを取るか悩ましいのが面白かった。
- パピルスってはじめて知った。
- 発明に年代があって、最初は日時計・石斧という原始的なものから後半は電話・映写機などに進歩していくのが良かった。
ゲームとしての面白さはなかなか好評でした。知財制度自体のゲームへの落とし込みはほぼなかったものの、色々な技術が出てくる点が興味を引いたようです。
なお、教育的な観点では、「発明・発見者たちの名鑑」という小冊子が入っていました。
12ページもあって力が入っています。ヒルデガルド・フォン・ビンゲンなどあまりなじみがないインベンターも結構いたのですが、小冊子でプロフィールを解説してくれるので安心でした。
時間的にも40分程度で終わったので、週末に遊べるゲームとして1個持っておくのも良さそうです。
2、『知財でポン』~ホゴとシュチョーで「表現」を守れ!
続いての知財ボードゲームは『知財でポン』。「自身や仲間が制作した芸術作品を社会へ広めていく」というストーリーを軸につくられた協力型カードゲームとのことです。
<ゲーム紹介(筆者要約)>
知的財産権を学び深めるカードゲーム『知財でポン!』は、一般財団法人たんぽぽの家が実施する事業「知的財産活用にむけた人材育成のための調査と学習プログラムの開発」の一環でつくられました。
アート活動や商品開発の現場では、さまざまな表現や技術、手法が生み出されます。知的財産権はそれらの固有の魅力や価値を守る重要な権利であり、アーティストやクリエイター、企業、中間支援者など、さまざまな立場の人に関わるものです。
しかし、その内容や保護方法は多様かつ複雑。だからこそ、知的財産権と表現がどのように関係しているのかを、ゲームを通じて、身近な感覚で学ぶことができたらと考えました。
互いのものづくりを尊重し、理解を深めるきっかけとなれば幸いです。
協力型ボードゲームは、プレイヤー間で勝ち負けを競うのではなく、ゲームシステムに対してみんなで成功できるかを挑み、達成感や悔しさを共有し合うという近年流行のゲームジャンルです。
知財という競争性が高そうなテーマを、どう協力型ボードゲームに仕上げているのでしょうか?こちらは公式HPから購入することができました。
外箱です。「まもって ひろげて アートを発信」というキャッチコピーがあります。
プレイ人数は3~6人、対象年齢8歳以上、プレイ時間10~30分と、『インベンターズ』よりややライトな設定ですね。
内容物を一通り。
右下が「発信ボード」で、これを中央に置いてカードを繋いでいくようです。そして「オレノン」、「パチモン」というトラブルカード。そのほか、ハートマークの「リスペクトチップ」や、鍵マークの「ホゴタイル」も入っていました。
作品カードは6枚入っています。まずプレイヤーはこの中から気に入った作品を1つ選び、「自分の作品」として自分の前に置きます。
ちなみに今回は3人プレイなので、1人2枚ずつ作品を選びました。
ゲームの手順は、各プレイヤーが山札を引いた後、1枚ずつ「発信ボード」に手札をつなげていきます。
3枚ほど置いたところ。発信ボードに絵がつながるように置く必要があります。
ターンを進め、順調にカードを置いていきます。しかしここで山札から・・
「オレノン」カードが出てきました!このカードが出ると、「ホゴ」されていない場のカードはすべて捨てなければなりません。
作品を第三者に横取りされるイメージのようです。
全然「ホゴ」をせず進めていたので、場からカードがなくなってしまいました。やるせない気持ち。
対策を確認します。どうやら発信ボードにカードをつなげる代わりに、任意のカードを手札から捨てることで、すでに出ている自分の作品に「ホゴタイル」を載せることができるようです。
自分の作品しかホゴできないのも、制作者のコンセプトが反映されていそう。
ともあれ今度は慎重に「ホゴ」しながらカードを場に出していきます。
またオレノンが出ました!ただ、今度はホゴタイルを多く出していたので被害は少ないです。
それでも2枚失われてしまいました。山札がなくなったら終わりなので、どれぐらいホゴに手番を費やしていくかも悩ましい。
協力ゲームなので、家族で相談しながらカードを出していきます。
最終的にこんな感じに。
ゲームの成功条件は、山札がなくなるまでに「6方向全ての列にカードが2枚以上つながっている」かつ「いずれかの列1つにカードが5枚以上つながっている」こと。
何とか条件を満たすことができました。これは
「自分たちの作品を世の中に広く発信させ、かつヒット作品まで生み出した」状態=成功、だそうです。
ちなみにこのルールは初心者向けで、慣れたあとは「オレノン」の種類が増え、かつ「パチモン」という長い列を狙って潰してくる厄介なトラブルカードが追加される発展ルールも用意されていました。
いかにも邪魔そうなカードたち。
この発展ルールでも遊んでみたところ、なかなか手ごたえがありましたが、何とか勝利できました!
終わったところで、また息子に感想を聞いてみましょう。
- 全員で協力するので、上手くいくとみんなが嬉しい。
- ホゴしてないとカードが全部なくなるのが悔しい。主張するためには自分の権利をあらかじめ持っておくことが必要とわかった。
- でも現実では、作品を作るのが忙しく、こんなにホゴにエネルギーを使ってられないのでは?とも思った。
なるほど、説明書のあとがきに、
表現を広めていくためには、発信と同時に守っていくことも大切です。もちろん、知財のルールによって全ての表現が守られるわけではありません。しかし、これらのルールを把握しておくことで、トラブルのリスクを減らし、よりスムーズに表現を広めていくことができます。
とありましたが、このゲームの「表現を広めるために守る」というコンセプトは、子供にも伝わったようです。
他にも『知財でポン』には、自分以外の作品が描かれているカードを場に出すときには、ハートの「リスペクトチップ」を相手に渡すルールがあったり、カードイラストは、障害があるアーティストの表現を社会に発信する「エイブルアート・カンパニー」の登録作品だったりと、表現と知財の関わり合いをゲームに落とし込む工夫がありました。
デザイナーNoteによれば、もともと「知財で活用=ロイヤリティで荒稼ぎ」というイメージでプロトタイプを作ったそうですが、それでは「知的財産権を使って豊かな社会を生み出す」という本質とはずれるということで、最終的に協力ゲームに仕上がったそうです。
知財の存在意義を改めて考える意味でも、遊んで発見があるゲームでした。
3、『CUBIS』~経営すごろくを通じて知財の必要性を学ぶ!
3つ目のゲームは『CUBIS』、これは「知的財産について楽しみながら学べる、教育用ゲームツール」で、これまでの2作品より研修ツール寄り。会社の新入社員研修や、大学での知財講義の導入に使うことを想定しているようです。
<ゲーム紹介(筆者要約)>
難解な「知的財産」に対する新しいアプローチ、知的財産について学べるすごろく型ボードゲーム
プレイヤーは会社経営を疑似体験すべく、サイコロを振って、ミッションを乗り越えながら決算を目指します。
順調に進んでいても、投資して購入した工場が火災被害にあったり、商標権侵害で訴えられたり…一方で意匠登録した商品がグッドデザイン賞を取ったり。ゲームプレイを通じて、知的財産の必要性、重要性を現実的な「自分ごと」として体感できます。
もし新入社員向けの知財研修を担当するとき、知財担当者の皆さんはどのような内容の研修を企画するでしょうか?法律用語や法制度の説明をしては、知的財産初心者の皆さんは興味を持つよりも、難解で理解し難いという印象を持ってしまいかねません。
CUBISを使って楽しく学んでいただき、皆様の知的財産への興味の扉を開くきっかけになれば幸いです。
ルール動画も上がっていました。モノポリーや人生ゲームのようなとっつきやすいすごろく形式で、中学生でも理解できそうです。
ただ、一般販売はされておらず、ホームページから個別に問い合わせが必要でした。連絡したところ、「送料・消費税込みで約34500円」との回答。なかなかお高いですが、家庭用ゲームではなく、研修用教材という位置づけなので、仕方なしですね・・。
しばらく悩みましたが、発注しました!
届いたのがこちら。
蓋を開けてみたら、コマやボードは全て木製。かなりコストがかかっていそうです。
内容物を並べてみました。盤面はシンプルにまとまっています。
説明書によれば、プレイ人数 2~5人(推奨4~5人)、対象年齢10歳以上、プレイ時間 20分~1時間とのこと。プレイ時間にかなり幅があるのは、あらかじめ決めたプレイ時間が過ぎた時点・全員が2周した時点など、任意に設定する形のため。研修のシーンによってゲームに使える時間がまちまちだからでしょう。
コマだけ撮影してみました。やはり木の質感がいいですね。それでは3人で、早速プレイしてみます。
プレイヤーコマをスタート地点に並べ、サイコロを振って進めていきます。止まるマスには開発・ビジネス・イベントの3種類があり、開発・ビジネスマスでは手元のリストから1つアクションを選んで実行していきます。
こちらは開発のリスト。技術開発・市場調査・特許権取得・意匠権取得・商標権取得の5つから選びます。特許権はいきなり取得できず、あらかじめ技術開発レベルを上げて発明を具体化する必要がある、というのはリアルですね。
とりあえず「技術開発」を選びます。
技術開発レベルを3つ上げました。これで特許取得が可能になります。
特許証には1~3号まであり、先に権利取得したプレイヤーが若い番号の登録証をもらえます。さらにゲームを進めていくとイベントマスで・・。
他社に商品名を真似されてしまいました。特許証は取得していたものの、商標登録証までは手が回っておらず、資金と売上チップを失うことに。悔しい!
さらにサイコロを振ってゲームを進めていきます。決算マスに止まると、売上チップ・工場チップの所持数に応じて資金が入り、そのお金でさらに投資できます。
みんなの資金が大きくなってきたところで、子供がイベントで「訴訟カード」を引きました。
訴訟は、まず50コインを払い、1人を訴えるのか、全員を訴えるのか決めます。
特許権の場合、特許1号で勝訴すれば全員から100コインか、1人から100コイン×人数分のコインが奪えます。ちなみに特許2号だと70コイン、3号だと50コインと下がるので、早く特許化したほうが有利です。先行者利益の再現ですね。
今回は特許2号を取得していたので、裁判所にキューブを4つ置きます。キューブを置いた数字が出れば勝訴のため、勝率は4/6。息子も気合を入れてサイコロを振っています。
4が出たので勝訴です!今回は全員を訴えることにしていたので、70×2人=140コインを手に入れました。
プレイヤーが5人のときトップを狙い撃ちすれば、最大500コイン入ってくるので一発逆転のチャンスですね。
イベントカードがなくなるまで遊んだところでゲーム終了としました。工場投資や市場調査をしまくったので、かなりお金持ちになりました。3人だと「2.5周したら終わり」ぐらいがちょうどいいかもしれません。
勝敗は・・・訴訟の差でまた息子が勝ちました。感想を聞いてみます。
- イベントが色々あって盛り上がった。特許や意匠、商標権がない時に限って権利侵害のイベントが起こるので「権利を取っておけばよかった」と思った。
- 自社工場は火災で燃えてしまったので、それより市場調査をして売上を上げるほうが得だなと感じた。
- 会社を経営するゲームだったので、だんだん設備が増えてお金が増えていくところが楽しかった。
こちら、開発者(森 匡輝弁理士)のインタビューでは
「難しくなり過ぎず、知財に寄り過ぎないようにこだわりました。ゲームのなかには、知財だけでなく、たとえば損害保険や税金といったビジネス上のイベントも出てきます。あくまで、知財は経営をするうえでの1つのツールなんだと体感できるように意識しています。」
とあったので、中学生でも実際にそう感じているようです。
価格もあり、「ご家庭で気軽に」というのはなかなか難しいかもしれませんが、経営で知財がどう関わるか?を知る入口としては、私も役立つゲームだと思いました。
もっと色々なところで体験できるようになると良いですね!
4、おわりに ~知財×ボードゲームの可能性
ここまで3つのゲームを遊んでみて、どれも「知財の世界」に興味を持ってもらう入口としては役立つツールだと感じました。
<それぞれの特徴>
- 偉大な発明家を知り、技術の発展をゲームで体感する:『インベンターズ』
- 「表現を広めるために守る」というコンセプトを体感する:『知財でポン!』
- 経営に知財がどう活かされるかを体感する:『CUBIS』
気になるものがあれば、入手して遊んでみるのもいいかもしれません。
・・そして最後に「知財とボードゲーム」について別の視点からの提案を1つ。それは『ボードゲーム自由研究』です。
これはおもちゃクリエイターでボードゲームをいくつも開発している高橋晋平さんによる提案で、「子供と一緒に、自分たちが作りたいゲームを決め、実際に試作して、感想を言い合ってどんどん直して良いものにしていく」というものです。
この「ボードゲーム自由研究」でやることはまさしく研究開発。このような人間の知的活動による成果物を、特許などの知的財産権で守るのが知財の世界です。(ボードゲームのルールはアイデアとされ、ルールそのものは著作権では守れない、というジレンマもあるのですが・・)
コンテンツを生み出す楽しさ・苦労をまず体験し、それを「知財で保護したい!」と実感するようになるのも、新たな知財教育のあり方ではと感じました。
まだまだ可能性がありそうな知財×ボードゲームの世界。これから出てくるだろう新たなゲームにも期待大です。
内容を画像でまとめ(グラレコ)
