特許庁が見た「ちいかわ」の正体とは? ~商標の「図形等分類」から探る有名キャラクターの属性

特許庁のデータベースで商標を調べていると「図形等分類」というコードがあります。これは、商標(ロゴ・イラスト)に含まれる図形要素を分類した検索用データで、特許庁の審査手続の中で付与されるものです。

例えば、アンパンマンに関する以下の登録商標を例に見てみましょう。
この商標には、4つの「図形等分類」が付与されています。

アンパンマン 商標

商標登録第1515945号(J-PlatPat リンク

  • <図形等分類>
    2.1.7:道化、ピエロ、祭に出てくるキャラクター、グロテスクな又は異様な風体の人物像、小人、魔法使い
    2.1.25.02:頭頂部に頭髪なしの男性
    2.5.2:少年
    4.5.5:その他の確認できないものの擬人化、その他人間の姿をした空想上のもの

1つ目がいきなり意外な内容・・!

どれもアンパンマンのイメージとは合致しませんが、もしかしたら「魔法使い」に含まれると判断されたのかもしれません。空を飛べますからね。

図形等分類は約2,000分類(*)もあるものの、さすがに「顔の内部に餡子を有するもの」といった細かすぎる分類は存在しません。

しかし「頭頂部に頭髪なしの男性」のような、ロゴ・イラストの特徴を的確に示す、かなり細かな分類が存在するということが分かります。

そこで本記事では、正体がいまいち掴めない有名キャラクターについて、商標の図形等分類をチェックしながら、いったい何者なのかを探っていきます!また、世界的名作「星の王子さま」の挿絵に関する情報も必見です。是非ご覧ください。

(*) 図形等分類の基礎となるウィーン分類だけでも、29の大分類・144の中分類・1887の小分類から成り立っている(図形等分類表について|J-PlatPat

1. ちいかわ:猫、イヌ、オオカミ、キツネ、クマ・・?

まず初めは、ちいかわ。

2020年の登場以降、瞬く間に人気を獲得したキャラクターです。

丸いフォルム、短い手足、赤らんだ頬。どう見ても「かわいい小動物」ですが、果たして商標の世界では、どのように分類されているのでしょうか。

ちいかわ 商標

商標登録第6462301号(J-PlatPat リンク

  • <図形等分類>
    3.1.6.01 猫、山猫
    3.1.8 イヌ、オオカミ、キツネ
    3.1.14 クマ
    A3.1.20 立ち上がっているシリーズⅠの動物
    (一部を抜粋)

……属性が多いですね。

特定の動物に絞られるのではなく、哺乳類の分類が数多く付与されています。

ここで、特許庁が運営する J-PlatPat ページには以下の記載があります。特定の分類を付与することが困難だったということのようです。

(4)特定の分類を付与することが困難な場合は、その可能性のある全ての分類を付与している。例えば、男女の性別の区別が付かない場合には、両方の分類に属する中分類2.1(男性)、2.3(女性)を付与している。  図形等分類表について|J-PlatPat

つまり図形等分類の観点では、どれか1つに決め打ちせず、検索で拾えるように「可能性のある動物タグを厚めに付けた」ということですね。

猫でもあり、イヌでもあり、オオカミでもあり、キツネでもあり、クマでもある。

見た目から「これだ!」と断定できない存在であること自体が、ちいかわというキャラクターの魅力なのかもしれません。その素敵な曖昧さが、商標の図形等分類にも忠実に反映されているのでしょう。

2. ドラえもん:猫なのか?タヌキなのか?

続いては、ドラえもん。猫なのか?タヌキなのか?

ドキドキしながら確認してみると・・・

ドラえもん スカイパーク 商標

商標登録第5447612号(J-PlatPat リンク

  • <図形等分類>
    2.9.4 目
    3.1.6.01 猫、山猫
    4.5.5 その他の確認できないものの擬人化、その他人間の姿をした空想上のもの
    4.5.14 動物の形をしたロボット
    (一部を抜粋)

よかった!猫でした。「3.5.5.01 あらいぐま、たぬき、アナグマ」のコードは付与されていません。

作中ではタヌキだとからかわれる場面も多いですが、商標の世界では「猫」だと認識されています。耳はありませんが、分類上は猫として検索できるように情報が整理されているということ。これは大きいですね。なので、ドラえもんは ”猫型ロボット” だとみなしてよいでしょう。

ついでに「トラのもん(*)」に関する商標も見てみましょう。

(*) 虎ノ門ヒルズのキャラクター。2024年12月展開終了。

トラのもん 商標

商標登録第5812483号(J-PlatPat リンク

  • <図形等分類>
    3.1.6.01 猫、山猫
    3.1.25.01 シリーズⅠの動物の擬人化
    4.5.14 動物の形をしたロボット
    18.2.17 犬猫用品
    A18.2.18 犬猫用の首輪及び革ひも
    (一部を抜粋)

こちらも猫でした!しかも1件目のドラえもんとは異なり、「18.2 動物用器具」の下位分類「18.2.17 犬猫用品」まで付与されています。二重に、猫としてのお墨付きが得られましたね。

しかし、トラのもんはトラのはず。トラに関する分類は無いのでしょうか?

J-PlatPat 図形等分類表

J-PlatPat 図形等分類表

「3.1.4.01 トラ」という分類がありますね。なのになぜ、付与されていないのでしょう。

・・それだけ、ドラえもんは猫なんだというメッセージなのかもしれません。

3. サザエさんのシルエット

次はサザエさんです。こちらのシルエットについての商標が興味深いです。

一見すると、太った魚を真正面からとらえたシルエットに見えなくもないですが・・・落ち着いて考えれば、これはサザエさんですね。

サザエさん シルエット 商標

商標登録第5402173号(J-PlatPat リンク

  • <図形等分類>
    2.3.1 頭部、上半身
    A2.3.2 顔の細部がない頭部のシルエット
    (一部を抜粋)

頭部だと見抜いてます!なかなか特徴的な髪型なので、初見では難しそうですが…素晴らしい。

そして分類の階層構造を見てみると、、、

J-PlatPat 図形等分類表

J-PlatPat 図形等分類表

「2.3.1 頭部、上半身」の上位階層として、「2.3 女性」の分類が!

シルエットから性別まで見抜いているとは、恐るべし・・。

ただ、男性でもこのような髪型はあり得ますし、帽子等の装飾品を身につけている可能性もあります。

ここで今一度、特許庁の説明文を見てみましょう。

(4)特定の分類を付与することが困難な場合は、その可能性のある全ての分類を付与している。例えば、男女の性別の区別が付かない場合には、両方の分類に属する中分類2.1(男性)、2.3(女性)を付与している。 図形等分類表について|J-PlatPat

男女の性別の区別が付かない場合には、両方の分類を付与する旨が記載されています。

しかし、上記サザエさん商標には、女性の分類である「2.3.1 頭部、上半身」しか付与されていません。なので、作品の知識が判断を後押しした可能性がありそうです。出願人の情報などからサザエさんだと推測したのかもしれませんね。

図形等分類は、機械的な画像認識ではなく、あくまで人が付与するので、こういった面白さが起こるのですね。

ちなみに、シルエットに対応するイラストも商標登録されています。

サザエさん イラスト 商標

商標登録第5402167号(J-PlatPat リンク

  • <図形等分類>
    2.3.1 頭部、上半身

シルエット版とは異なり、サザエさんだと一瞬で判断できますね。落ち着いて眺めてみると、弟のカツオくんとそっくりな顔をしています。

4.「星の王子さま」に登場する挿絵

次は世界にも目を向けてみます。海外の商標においても、日本の図形等分類の元となった「ウィーン分類」という分類が付与されています。

世界的な名作「星の王子さま」に登場する挿絵についての商標を2つ紹介しましょう。作中では、これらの挿絵は何に見えるのか?何を意図して描いたのか?という問答があります。「ウィーン分類」のコードはどうなっているでしょうか。

星の王子さま 挿絵 商標

BR 908811454(TMView

  • <ウィーン分類>
    03.02.01 ゾウ、マンモス
    03.02.24 様式化されたシリーズⅡの動物
    03.11.01 ヘビ
    03.11.24 様式化された中分類3.11の動物

なんと、ゾウがあり、ヘビもある・・・!

初見では、ゾウやヘビのイラストとしては認識できないはず。帽子か岩か、はたまたジャガイモのようにも見えるのではないでしょうか。

これは完全に、物語を知った上で付与された分類ですね。図形等分類が、物語に引っ張られることがあるという好例です。

ではもう一つ、代表的な挿絵について確認してみましょう。

星の王子さま 挿絵 商標

EM 13312673(TMView

  • <ウィーン分類>
    19.01.03 非円筒形の大型容器(包装ケース、荷造り用枠箱、木箱、鉄製のごみ箱)

あれ…。
こちらは、分類を付与する人が作品の文脈を前提にせず、図形そのものの形から判断したのかもしれません。実にお堅い、構造的な分類のみが付与されていますね。つい、原作を踏まえた「ヒツジ」に関する分類が付くことを期待してしまいました。

上記2件の対比から、商標実務の奥深さを感じます。

同じ作品の挿絵でも、分類者の前提知識や捉え方しだいで、分類は“物語寄り”にも“構造寄り”にも振れます。そこに、絶対的な正解があるわけではなく、曖昧さや事情が折り重なっている――そんなことを示しているようにも見えます。

「大事なものは目に見えない」ということなのかもしれません。

関連記事:「星の王子さま」の名言/教訓から学ぶ商標とブランディング | Toreru Media

5. ドキンちゃん

最後はこちら。アンパンマンに登場する小悪魔的存在、ドキンちゃんです。

ドキンちゃん 商標

商標登録第6301407号(J-PlatPat リンク

  • <図形等分類>
    3.13.20 微生物
    4.1.5 悪魔又は角を有する人物の頭部
    4.5.5 その他の確認できないものの擬人化、その他人間の姿をした空想上のもの
    4.5.21 面、又は空想あるいは確認できない生き物の頭部
    (一部を抜粋)

微生物・・・!?

見た目はたしかに「小悪魔」的キャラクターであり、実際に、対応する分類も付与されています。

それに加えて「微生物」が入ってくるのが、破壊力抜群ですね。予想だにしない分類でした。これは、アンパンマン世界の “ばいきん” 的文脈を、分類としてちゃんと拾っている、と見ることもできます。バイキンマンの仲間ですからね。

今後アンパンマンの本を読んでいてドキンちゃんが登場した際、微生物として見てしまいそうです。

もちろん、図形等分類は生物学的な分類ではなく、検索のために見た目や文脈をタグ付けしたものです。その点は忘れずに過ごしていきましょう。

なお、ドキンちゃんという名前の由来について、やなせたかしさんの解説は以下のとおりです。

ばいきんまんを助けるために
ばいきん星から 飛んできたのが
女のばいきん・ドキンちゃん
流し眼キラリ 胸がドキン だからドキンちゃん
ー『アンパンマン伝説』やなせたかし著, フレーベル館, P20より引用

やっぱりドキンちゃんは “ばいきん” でしたね!でも、土壌の菌で「土菌(どきん)」という意味ではなく、胸がドキンのドキンちゃんとのことです。素敵なネーミングだなと感じました。

まとめ

  1. ちいかわの実態は、商標の図形等分類でも定まっていない
  2. ドキンちゃんのモチーフは ”ばいきん” !?「微生物」の図形等分類が付与されている
  3. 商標の見た目からは判断できない内容も、図形等分類に示されることがある

以上、我が国の超有名キャラクターを、商標の「図形等分類」というニッチな観点から探ってみました。商標実務の中でキャラクターがどう整理されているか、少しでも面白く感じていただけたなら嬉しいです。

図形等分類は、キャラクターの正体を暴く道具ではなく、あくまで商標の検索・審査実務を円滑に進めるための情報です。キャラクターの世界観や、愛着の感じ方は私たち次第。画一的な分類にとらわれず、思い思いに楽しめたらいいなと思います。

気になるキャラクターがあれば、ぜひ商標登録があるかと、付与された「図形等分類」コードを調べてみてください。

いつも見ている身近なキャラクターについて、少しだけ違った面白い側面が見えてくるかもしれません。

<参考情報>

〇商標の調べ方
商標検索の方法は?特許庁の検索サイトのポイントを網羅! | Toreru Media

〇図形等分類について: 以下資料P51~ に操作方法が記載されている
J-PlatPat 操作講習会|工業所有権情報・研修館 2024年5月24日 オンライン

〇図形等分類表について:国際的に広く採用されている「ウィーン分類」との関係や、分類数について記載されている
図形等分類表について|J-PlatPat

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