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「灘の酒」は何故日本酒の代名詞になった?ブランドの強みを歴史と実飲で解く~知財ほろ酔い酒紀行 一献目

日本酒の歴史は稲作の伝来とともに始まり、2000年を超えると言われています。

最初は「口噛み酒」のような原始的な方法で造られていた日本酒ですが、古代の神事から、平安貴族の宴、江戸の町人文化と長く愛されるうちに、製法も進化していきました。

火落菌による酒の劣化を防ぐ殺菌法「火入れ」は、フランスでワインの低温殺菌法が発表される300年前、室町時代にすでに行われています。また、江戸時代には水運の発展により、灘に代表される関西の酒が、江戸でも広く愛されるようになりました。

実は日本酒の歴史は、独自のブランドを守る戦いの歴史でもあります。江戸時代には幕府の「酒造統制」により酒蔵ごとの造石高がコントロールされていたのですが、手に入りにくい人気銘柄には「類似ブランド」や「偽造品」が生まれます。

あくどい江戸の酒問屋は無印の酒を仕入れ、有名な銘柄の印をまとわせて「贋酒」として捌いていたそうです。(江戸の贋酒(岩淵 令治氏講演)より)

もちろん酒蔵も黙ってはおりません。ブランドの焼印を制定したり、紛らしい焼印の使用を禁止するように領主に請願し、実際に取り締まりが行われたりと対抗策が講じられました。

明治時代に「商標条例」が「専売特許条例」より先に制定されたのは、清酒業界をはじめとした伝統業でブランド保護のニーズが大きかったことも一因でしょう。

現在、日本で権利存続している「最古の登録商標」も、33類【清酒】を指定する商標です。

商標登録第1655号(寿海)

身近であり歴史も長い日本酒は、和食ブームとともに海外人気も上昇。輸出額は3年で1.7倍に増えたそうです(2024年時点)。ユネスコの無形文化遺産にも登録され、日本の誇れる文化の1つと言えるでしょう。

日本酒の産地といわれて、思い出すのはやはり灘。灘地域は今でも日本一の清酒生産量を誇り、清酒売上日本一の企業である「白鶴酒造」をはじめ、「大関」「日本盛」「菊正宗」「剣菱」といった著名な清酒ブランドの本拠地が集まります。

ただ、灘が日本一の酒どころになるまでは、常に平坦な道のりではなく、障害を乗り越えブランドを確立しようとする様々な努力がありました。

そこで本記事では、現物の「試飲」も織り交ぜながら、灘を起点とする日本酒のブランド保護の実例を見ていきます。

1、灘はどうして酒どころになった?

まずは灘の酒造りの歴史を見ていきましょう。兵庫県南東部、神戸市から西宮市にかけて広がるこの地域では、室町時代から酒造りが行われてきました。

灘の酒造りが本格的に発展したのは、江戸時代初期。大阪(当時は大坂)という一大消費地を近くに控えていたことが、発展の大きな追い風となりました。

灘には六甲山系から湧き出る「宮水(みやみず)」と呼ばれる良質な水源があります。宮水は酒の色・香りに悪影響がある鉄分が少なく、一方で、酵母の栄養となるリンやカルシウムを多く含みます。そのため、力強くキレのある酒を生み出すことができたのです。

さらに、灘では「寒造り」という冬季醸造の技術が発達しました。気温が低い冬に仕込むことで、雑菌の繁殖を防ぎ、発酵をゆっくり進められるため、高品質な酒が生まれます。

江戸時代中期には、「灘五郷(なだごごう)」と呼ばれる五つの酒造地:西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷、が形成されます。これらの地域には、優れた杜氏たちが集まり、酒造りの技を競い合いました。

灘で造られた銘酒は「樽廻船」と呼ばれる専門の輸送船で江戸へと大量に運ばれました。樽廻船の「樽」とは酒樽なんですね。江戸っ子に「下り酒」として親しまれ、江戸後期には江戸の酒の需要の8割を供給していたそうです。

大日本物産図会 摂津国新酒荷出之図(美酒運ぶ樽廻船 | 酒ミュージアム-白鹿記念酒造博物館より)

この絵図からも大量に酒樽が船積みされていたことがわかります。江戸時代末期には78艘ものの樽廻船が定期運航し、江戸へ日本酒を供給していました。

こうして隆盛を誇った灘の酒造りですが、明治時代に危機を迎えます。これまでの酒造家に与えられていた「酒造特権」が、明治政府の政策により廃止されたのです。

代わりに誰でも免許料を支払えば酒造業に参入できる「自由営業制度」が導入され、全国の地主たちが次々と酒造業に進出。灘の酒蔵は激しい競争にさらされることになりました。

さらに政府は、財政確保を図るべく酒税を大幅に引き上げ、小規模な酒蔵には死活問題となり、廃業も相次ぎます。

こうした厳しい状況下でも、灘の有力な蔵元たちは立ち上がります。西宮郷では、酒造業の近代化を目指して、日本摂酒会社や西宮造酒会社といった企業を設立。原動機による精米機や瓶詰め工場が建設され、醸造技術の研究所も設立されるなど、設備・技術の革新が進みました。

こうした努力が実を結び、灘の酒造業は大正期に再び発展しました。その後も、阪神大空襲、阪神・淡路大震災といった幾多の試練を乗り越え、現在でも灘の日本酒は、国内出荷量の約24%を占め(2020年:灘五郷酒造組合調べ)、日本一を誇っています。

2、地域団体商標 & GI & 個社商標!3重で守り広がる灘の酒ブランド

灘の酒造りは、歴史や技術に支えられて発展を遂げてきましたが、近年は「灘ブランド」の価値を守るための取り組みが積極的に行われています。

日本酒における「灘ブランド」は地域団体商標・地理的表示(GI)・各酒蔵の個別商標という3つの柱があり、組み合わさって保護を図っています。詳しく見ていきましょう。

① 地域団体商標「灘の酒」

2006年に「灘の酒」が地域団体商標として登録されています。

登録第5030720号

登録情報をみると、権利者は「灘五郷酒造組合」、指定商品は「灘で生産された清酒」となっていますね。

地域団体商標とは、地域名と商品(サービス)名を組み合わせた名称を、地域の団体が商標登録できるようにし、地域経済の活性化を図る制度で、2006年に導入されました。「灘の酒」商標は2006年5月と、制度の開始年にすぐに出願されており、灘五郷の酒造組合が強い関心を寄せていたことがわかります。

この登録で、灘五郷酒造組合の組合員や、組合が認めた者以外は「灘の酒」という商標を使用できなくなります。これはブランド保護にはもちろん有効ですが、一方で「灘五郷酒造組合に入れない地元の酒造家は困ってしまうのでは?」と疑問を持たれるかもしれません。

この点、地域団体商標は権利者の主体に「当該特別の法律に構成員資格者の加入の自由が担保されている」という要件を課しています。また、特例として認められている一般社団法人による出願でも、定款で「加入自由の原則」が規定されている必要があります。

地域団体商標は、その地域の商品・サービスを象徴するブランドなので、一部の人だけが独占して不公平にならないように、制度でもあらかじめ調整されているのです。
地域団体商標制度についてのQ&A| 経済産業省 特許庁

地域団体商標を登録することの効果は、主に

A. 第三者による不正使用の排除
B. ライセンス契約の根拠
C. 取引時の信用度増大
D. 組織強化・ブランドへの自負の形成

といわれます。「灘の酒」商標の場合、灘で生産された清酒以外に「灘の酒」の商標使用を禁止できることや、「灘の酒」のブランディングの基盤として対外的にPRしていくことに特に役立ちそうですね。

このように地域団体商標は、歴史あるブランドを守り、消費者に確かな品質を届けるための基盤として活用することができるのです。

② 地理的表示(GI)「灘五郷」

続いて2018年には、「灘五郷」が国の地理的表示(GI:Geographical Indication)に指定されました。

GI「灘五郷」灘五郷酒造組合(YouTube)

GIとは、特定の地域で伝統的な方法によって生産され、品質や社会的評価が確立されている産品を農林水産省が認定する制度です。

といっても、①地域団体商標との違いが分かりづらいですよね。そこで特許庁のQ&Aを参考にして、図にまとめてみました。

<地域団体商標と地理的表示(GI)の違い>

項目地域団体商標地理的表示(GI)
管轄機関特許庁農林水産省
制度の目的地域ブランドの保護により、地域経済を活性化する地域特有の産品の名称を保護し、産品のブランド化を推進する
保護対象地域名+商品・サービス名の組み合わせ独特の魅力や社会的評価などの「特性」がある産品の名称え(主に酒・農産物を対象)
使用できる人商標権を有する団体、その構成員、団体から許諾を受けた者GI登録した基準を満たす産品の生産者団体やその構成員、産品の販売者
主な登録要件①地域に根差した団体の出願
②団体の構成員に使用させる
③地域名称と商品等の関連性
④需要者への一定の知名度を満たし特許庁の審査を通過。
生産者団体が、その産品が満たすべき基準(名称・生産地・特性・生産方法等)を策定し、農林水産省の審査を通過。※約25年の生産実績が必要。
登録の効果①不正使用の排除
②ライセンス契約の根拠
③取引時の信用度増大
④組織強化・ブランドへの自負の形成
地域団体商標の効果に加え、・国による不正使用の取締り
・欧州・英国での不正使用は相互主義により各国でも取締りが期待できる。
制度開始年2006年2015年
(酒類は2018年から本格運用)
灘での登録例「灘の酒」(灘五郷酒造組合)「灘五郷」(日本酒のGI)
表示方法「灘の酒®」のように表示            GIマーク+「灘五郷」

地域団体商標と地理的表示(GI) の活用Q&Aをもとに筆者作成

地域団体商標とGI、2つは重なる部分もありますが、GIマークは農産物・酒に限定されており、さらに「産品が満たすべき基準」を策定して国の審査をパスする必要があること、また審査マニュアルで「当該特性を有した状態で概ね25年の生産実績があること」という要件があるため、一般にGIのほうが認定ハードルが高いです。

一方で、GIは国際的な制度であり海外(特に欧州)でのPRがしやすいこと、名称だけではない客観的な品質基準が要求されることにより、品質の統制・ブランド訴求がしやすくなるメリットがあります。

GI「灘五郷」は、品質基準として

(1)原料

イ 米及び米こうじに国内産米(農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたものに限る。)のみを用いたものであること。

ロ 水に灘五郷内で採水した水のみを用いたものであること。

ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。

 ただし、酒税法施行令第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(原料中、アルコールの重量が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の25を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法

イ 酒税法第3条第7号に規定する清酒の製造方法により、灘五郷内において製造されたものであること。

ロ 製造工程上、貯蔵する場合は灘五郷内で行うこと。

ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に灘五郷内で詰めること。

別紙 地理的表示「灘五郷」生産基準|国税庁

というルールを定めています。製造地や米の指定だけでなく「灘五郷内で採水した水のみを使用」という指定があるのが、伝統ある灘の酒らしさを表していると感じます。

なお、地域団体商標とGI、どちらを取得すれば良いのかという疑問については、例えば「○○りんご」という地域ブランドの生産者団体の場合なら、

➢ 「○○りんご」を自らの権利行使により保護していくとともに、一定の地理的範囲で有名な地域のブランドとして、 団体自身で活用していくのであれば、地域団体商標制度を利用してください。 

➢ 「○○りんご」の模倣品を国が取締りにより排除するとともに、地域と結びついた産品の品質、製法、評判等の強みを見える化して需要者に訴求していくのであれば、GI保護制度を利用してください。

 ➢ 両制度のメリットを活用したいのであれば、両制度を利用してください。

という説明が先ほどのQ&Aにあり、灘五郷酒造組合は両方とも登録することで、手厚い保護を受けています。

③ 各酒蔵の個別商標

①②の保護だけではありません。灘には白鶴、菊正宗、剣菱、沢の鶴など、全国に名を知られる蔵元が数多く存在しますが、それぞれの蔵元が自社ブランドを大切に守り、商標登録による保護を進めています。

例えば日本最大の酒蔵である白鶴酒造の商標登録件数は367件(2025年5月時点)。

実際の登録例をみると、ロゴや商品名、キャッチフレーズなどさまざまな種類の商標が登録されていることがわかります。

このうちキャッチフレーズ(例:「あたらしいSAKEの風、感じよう」)は、かつては原則として商標登録が認められなかったものの、2016年4月1日の商標審査基準の改定で、登録基準が大幅に緩和されました。

新しい審査基準では、キャッチフレーズが「その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等のみならず、造語等としても認識できる場合」には登録できるとし、例として

  • 商品又は役務の宣伝広告に一般的に使用される語句ではないこと
  • 指定商品又は指定役務との関係で直接的、具体的な意味合いが認められないこと
  • 出願人が出願商標を一定期間自他商品・役務識別標識として使用しているのに対し、第三者が出願商標と同一又は類似の語句を宣伝広告や企業理念・営業方針等を表すものとして使用していないこと

といった要素を総合的に勘案し、登録を判断することになっています。
商標審査基準:第3条第1項第6号(前号までのほか、識別力のないもの)

白鶴酒造以外でも、菊正宗酒造、剣菱酒造、沢の鶴など灘エリアの各酒造会社が自社ブランドの商標登録をしっかりとしていました。

地域団体商標、GI指定で「灘の酒」というゆるぎない地域全体のブランドが土台としてあり、さらに各蔵がそれぞれに工夫を凝らした酒造りによって差別化されたブランドを作り上げる。その各蔵の工夫が多様性という形で「灘」エリア全体の魅力向上にもつながるという、良い循環が「灘の酒」ブランドには確立しています。

3、実飲!三者三様の「灘の酒」とその商標

① 灘の生一本(剣菱)

ここからは実践編として、実際に「灘の酒」を取り寄せ、その味を楽しみながらブランドを見ていきましょう。

まず1本目は『灘の生一本』(剣菱酒造)です。これは、灘五郷酒造組合員(25社)のうち、8蔵元が同じ『灘の生一本』ブランドの元、兵庫県産米のみを使用した純米酒で、各蔵元の「競作」が楽しめます。

灘の生一本(2024年) | 灘酒研究会 酒質審査委員会

2025年5月時点だと売り切れの蔵元が多かったのですが、取り寄せができた剣菱酒造の『灘の生一本』を呑んでいきましょう。

届きました『灘の生一本』。ラベルには商標登録されている剣菱ロゴも表示されています。

しっかりとGI「灘五郷」表示もついていますね。『灘の生一本』は2011年から継続しているプロジェクトとのことです。

早速呑んでみます・・・これは、めっちゃ濃いですね!一般的な日本酒は通常透明ですが、黄金色のお酒です。

剣菱のホームページを見ると、

お米本来の味を大切にしているため、剣菱の商品は一般的な日本酒に比べると黄金色をしています。日本酒は無色透明なものと思われがちですが、剣菱に限らずどんな日本酒も新酒のときにはやや緑がかった黄色みを帯びており、それを貯蔵・熟成することで薄い紅茶のような色に、さらにろ過することで透明へと色が変わっていきます。

ろ過で使う炭の量が多ければ多いほどお酒は透明に近づきますが、色と一緒にお米の旨みも抜けてしまうため、剣菱ではあえて炭の量を少なくしています。
色が残っているのは、いわば味がしっかり残っている証でもあります。

Q.お酒が黄色っぽいのですが…… | 蔵元通信 | 剣菱酒造株式会社より

との説明で、口に含むと甘味と旨みがぶわっと広がります。みりん感もある濃厚な味。これは流行の端麗辛口とは一線を画す独自路線ですね。昔の武士が集まって飲み交わした絵図が脳裏に浮かびます。

剣菱の家訓には「止まった時計でいろ」という言葉があり、その心は「流行に流されることなく受け継いだ酒、自分の信じた味を守れ」。客の好みは時計のようにぐるぐる回るが、自分が止まった時計なら1日2回はぴったりと合う。流行を追うことはなく、質実でいよとの意だそうです。
【蔵元トーク】#71 剣菱(兵庫県神戸市 剣菱酒造)

昔の味を守り続ける剣菱、初体験でしたが良いお酒に巡り合えました。

② ワンカップ大関(大関)

続いての一杯は、コンビニでも購入できる大ベストセラー『ワンカップ大関』です。

大関10代目社長・長部文治郎氏が「徳利で出される日本酒はどのメーカーの酒かわからない。メーカーの顔が見える容器で日本酒を売れないか?」と着想し、コップをそのままお酒の容器にして売り出すというコンセプトに至り、1964年に発売されました。

こだわり|One CUP CLUBより

公式HPによれば8つの開発のポイントがあり、現在でも踏襲されているそうです。

ワンカップ関連の商標は複数登録されていましたが、一番古い商標は発売年に出願されており、当時からブランド意識が高かったことが分かります。


「おすすめカップ酒グランプリ」でも「後発品より少し高いけど、味は一番」と絶賛されていたワンカップ。地元のスーパーで入手してきました。

実は私、『ワンカップ大関』初体験なんですよね。失礼ながら安いお酒なのでそれなりでしょ・・という気持ちで、ぐびっと呑んでみましたが、うん、想像より全然美味しいです!

さきほどの剣菱と打ってかわって端麗辛口。安い日本酒にありがちな甘ったるさや酒臭さもなくスイスイ飲めます。HPには「スッキリとした飲み口と飲み飽きないバランスの良さ」とあるが、確かにその通り。アルコール添加のみで糖類無添加だから、このキレがあるようです。

ガラス容器の飲み口の口当たりが良く、お猪口やぐい呑みとはまた違った心地よさがあります。ジャムの広口瓶を応用し、この形状が生まれたそうです。発売時からモデルチェンジもなされた、隠れたこだわりポイントです。

下手な吟醸酒よりくどみがない分、重い料理に合いそうです。つまみにセレクトした「焼き鳥缶 ガーリックペッパー味」の濃い味も綺麗に洗い流してくれました。

ベーシックな『ワンカップ大関』は180mlの飲み切りサイズ。もう少し飲みたいな・・というところでちょうど空になりました。シリーズには200mlのEXTRAや、300mlのジャンボもあるようですが、ちょっと後ろ髪を引かれる180mlがベストサイズのように思います。

裏側からイラストを覗ける「ワンカップフォト」も粋な演出ですね。コップ酒のパイオニアとして、これからも市場を牽引していってほしいです。

③ 別鶴「木漏れ日のムシメガネ」(白鶴酒造)

続く3杯目は、最大手である白鶴酒造の新ブランド「別鶴」シリーズから、『木漏れ日のムシメガネ』です。

別鶴は、白鶴酒造の若手社員の「若い世代にもっと日本酒を飲んでほしい」、「自分たちで日本酒業界を盛り上げていきたい」という思いから生まれたプロジェクトで、クラウドファンディングを経て2019年に3種の新しい酒が誕生しました。

商標も同年に登録されています。

『木漏れ日のムシメガネ』は「別鶴」ブランドの1本で、“白鶴酒造の400種以上の酵母ライブラリに長年眠っていた”お蔵入り酵母”を使用。レモングラスのような香りと爽やかな酸味が特長の、新感覚の日本酒”とのことです。どんなお酒なのでしょうか?

こちらが届いた商品、見た目はワインのようですね。

ただ、ラベルにはしっかりと「純米酒」と表示され、原材料も米・米こうじのみ。アルコール度は11%と、平均的な日本酒の約15%と比べてだいぶ低いです。

これはワイングラスで飲んでみましょう。

一口目、食前酒のような甘味。その後、ブドウ、そしてレモングラスのような爽やかなハーブの風味を感じます。ただ最後に残るのは米の旨み。日本酒であることを思い出させてくれます。

アルコール度が高くないためか、さっぱりとして刺激感が残らず、2口・3口とスルスルと飲み進められます。これは徳利より、ワイングラスが似合う酒ですね。

改めて公式HPを見ると、

「別鶴」のお酒では、できあがったお酒の一部を杉樽で1週間程度貯蔵し、再度、元のお酒にブレンドするという珍しい製法を採用しています。

これによって、杉の香りが隠し味として作用し、お酒の味わいに厚みと複雑さが付与されます。またお米と同様、杉の産地も兵庫県産にこだわりました。

「別鶴」商品紹介 | 白鶴酒造株式会社より

という説明が。日本酒では味わったことがない独特の風味は杉樽の力もありそうです。

ネットの感想を見ると、「日本酒の常識が吹き飛ぶ驚きの一本」という賛辞から、「これは日本酒じゃない」という意見まで賛否両論ありましたが、それだけ新しいお酒ということでしょう。

私は、日本酒の可能性を拡げる商品として「これはアリ」と感じました。日本酒にアレルギーがある人にほど、一度飲んでみてもらいたいフロンティアな一本です。

おわりに:「灘の酒」はどうして日本酒の代名詞になった?

本記事では、灘の酒の歴史や、ブランドを守る商標やGI、さらに個社の魅力的な商品づくりについて見てきました。

「灘の酒」が日本酒の代名詞とまで言われるに至った背景には、ただ単に品質の高さだけでなく、歴史を通じて幾度もの困難を乗り越え、進化を続けてきた地域と蔵元たちの挑戦の軌跡がありました。

江戸時代には「下り酒」として遠く江戸の人々に愛され、明治期には自由競争や増税の荒波の中でも近代化と品質向上に努め、戦争や震災も乗り越えて現在に至った歩みは、地域ブランドの代表といえるでしょう。

そして現代、灘の酒のブランドは「地域団体商標」「地理的表示(GI)」「個社商標」という三重の知的財産で守られています。これらは単なる法的保護にとどまらず、「伝統を未来へ繋ぐ仕組み」としても機能しています。

また、個社に目を向けると、「自分の信じた味を守る」剣菱、「メーカーの顔が見える容器で日本酒を売りたかった」ワンカップ大関、「若い世代にもっと日本酒を飲んでほしい」という思いで生まれた別鶴と、それぞれに個性がありました。

一見3社の取り組みはバラバラですが、根底には「自分たちのブランドに誇りを持ち、ユーザーにその価値を届けられるように全力を尽くす」という商売の王道を感じます。

それこそが「灘の酒」が時代を超えて人々に支持されてきた、強さの秘密なのでしょう。

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