飲食店の全国チェーンに対して、ローカルチェーンというカテゴリーがあります。
「1つの商勢圏に11店舗以上出店があり、出店が隣接しているチェーンストア」がローカルチェーンと定義されています。
ローカルチェーン | 流通基礎用語集 | ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
誰でも1度は行ったことがある「ガスト」「吉野家」などの全国チェーンに対して、ローカルチェーンは名前だけは知っていても大半の人が行ったことがない、又は名前自体知られていないものの、地元民には深く愛されていることが特徴です。
名が知られたローカルチェーンとしては、静岡のハンバーグレストラン「さわやか」や、愛知のラーメンチェーン「スガキヤ」などが挙げられます。
これらローカルチェーンにはそれぞれにブランディングの工夫があり、また全国チェーンとはちょっと違った魅力やオリジナルメニューがあることも特徴です。
ローカルチェーンは日本各県に存在していますが、特に埼玉県には集中しています。
そこで本記事では、埼玉で愛される飲食店のローカルチェーン3軒を実際に回り、登録商標をチェックしながら、それぞれの魅力に迫ります!
目次
1,うどんを注文するのはもう古い?「山田うどん食堂」
埼玉の飲食ローカルチェーンを語るうえで、まず外せないのは山田食品産業株式会社の「山田うどん」です。ただ、実はもう屋号は「山田うどん」ではありません。
2018年7月から「山田うどん食堂」にリニューアルしています。
山田うどんはうどんだけではなく、そばやラーメン、丼ものや定食メニューにいたるまで幅広く取り扱っている、いわば総合食堂のような業態です。さまざまな人が楽しめるメニューがたくさんあるので、たとえばご家族で来られて、お父さんがセット、お母さんはラーメン、お子さんがうどんを食べるといった楽しみ方もできます。
ですが、看板だけを見るとうどん専門店のように見えていたので、今の業態をわかりやすく表現するべく『山田うどん』から『ファミリー食堂 山田うどん食堂』へと屋号を変更し、リブランドを進めている最中なんです。私たちはこれを『ファミリー食堂化計画』と呼んでいます。
リブランドにあたり、特徴的なかかしの看板マークも「への字口」から笑顔に変わり、来店客を歓迎する明るいイメージになりました。
昔のロゴマークは店舗の看板からお役御免・・になったのですが、回転看板だけは作り直しが難しく、ごく一部に残っているとか。下記のストリートビューで雄姿を確認できます。
さらに商標登録を辿っていくと、様々なかかしマークが確認できました。
左の“リアルかかし”は、初期に使われていたマークのようです。インタビューによれば「リアルなかかしの絵では商標登録ができなかったので、『味と価格のバランスが良い』という意味を込め、やじろべえをモチーフにしたかかしに変更した」とか。
確かに左の“リアルかかし”の商標権では、“うどんめん・そばめん”という重要な指定商品を押さえられていないので、ビジネスの保護として不十分です。商標の審査がロゴのリニューアルを促したとは、なかなか珍しいケースですね。
そんな「山田うどん食堂」ですが関東に約160店舗を展開、中心はもちろん埼玉県です。
今回は埼玉県吉川市の店舗に訪問します!
看板は笑顔のかかしです。黄色い台形のベースに、赤いかかしが良く映えますね。
うどんではなく、生そばと冷やし中華が推されていました。
「山田うどん食堂」にリニューアル後、うどん以外のメニューにもかなり力を入れており、2021年に茹でそばから生そばへ変更。すると夏場はそばがうどんの売上を上回るようになったそうです。
店内は丸型カウンター&ボックス席で年季が入ったいい感じ。お客さんもカウンターには結構入っていて、人気が伺われます。
店内で推されているのは「パンチ」なるメニュー。どうやらもつ煮込みのことのようですが、何故に「パンチ」?こちらも調べてみると、
昭和50年代にもつ煮を商品化する際、名前を社内公募したが中々パンチの効いた良い名前が出ず、それなら「パンチ」をそのまま商品名に使おう、というものであった。
もつ煮のことを「パンチ」と称するのは山田うどんだけでしょうか? – Quora
というまあまあいい加減な理由で名づけられたようです。ただ、メニュー名の登録も。
ここは山田うどん食堂さんの商標登録に敬意を表して、「パンチ」も頼みましょう!
そばも捨てがたいのですが、やはり山田のうどんを賞味したいところ。「冷やしネバとろうどん」に、サイドメニューとして「ミニパンチ」、「ミニ赤パンチ」も追加します。
待つことしばし。
到着しました!これはかなり盛りがいいですね。大盛にしていないのですが、具だくさんで満足度たっぷりです。パンチもこれで「ミニ」なのですが、なんかメニューよりサイズが大きいような。
うーん、これは明らかにメニュー写真より大きいですね。さすが盛りのデカさには定評がある「山田うどん食堂」です。
うどんを実食すると、こういうお店のうどんは何だかやわいイメージでしたが、しっかりとコシがあり、納豆・オクラ・とろろとよく合います。
「麺」に対するこだわりは強く、セントラルキッチンである入間工場において日々改良を重ね、2017年には外国産小麦から国産小麦100%に変更すべく研究を続けた結果、これまでの山田うどんにはない「コシと風味」を兼ね備えたうどんを作り上げました。
代表挨拶で「うどんのコシ」について語ってる企業はこちらぐらいではないでしょうか。その意気や良しです。
パンチにはモツだけでなく、メンマやこんにゃくもたくさん入っておかずとして楽しめました。
赤パンチは結構ピリ辛。麻辣ジャンに唐辛子、ニンニク、ショウガが入っていて、これはビールのつまみにもなりそうですね。
どのメニューも「普通においしい」、そして腹パン。こういう食堂に求める満足感をしっかりと満たしてくれました。完食し、改めてメニューを見てみます。
表紙はうどん・生そば・熟成麺と、うどんはあくまで全体の1メニュー。隣のおじいさんはカレーのセットメニューを頼んでいました。
店内を眺めていると、高校生の友人グループや、仕事仲間の2人連れ、お父さんと息子と思われるコンビなど多彩なお客さんが訪れていました。多彩なメニューを擁する地元の食堂として愛されていることが分かります。
次はうどん以外にもチャレンジしてみたいと思います!
2,埼玉から文明開花!?サイタマンドリームの雄「馬車道」
続いて向かう「馬車道」は埼玉県民以外にはあまり知られていませんが、多業種で展開している飲食レストランチェーンです。HPには多数のブランドロゴが並んでいます。
1972年に焼肉屋として創業してから、50年以上の歴史を持つ老舗。看板の業態はやはりグループ名を冠する「馬車道」ブランド。商標も登録されています。
英語のロゴには「MEIJI FASHIONED STYLE」の文字があり、文明開化のイメージを踏まえて「馬車道」と命名されたことがわかります。
「馬車道」シリーズのうちどこに行くか迷いましたが、吉川市の隣にある草加市の「ピッツェリア馬車道」へ向かうことにします!
ロードサイドのお店です。「馬車道」のロゴにはしっかりと®マークがついていますね。
こちらは窯焼きピッツァが売りのお店で、食べ放題セットもあります。ただピザ食べ放題単体で頼めるわけではなく、メインメニューにオプションとしてセットする形。
入口はなかなか重厚感があります。早速入店してみましょう。
入口で目に付いたのは「配膳ロボ」がお手伝いしていますという表示。
こちらは最近生まれた公式キャラのようです。小さいキャラは妹かと思いましたが、同一人物のフォルム違いの様子。
この子たち、実は商標登録もされていました!会社としても長く使用する意思があるようです。
席に通され、まずはメニューを確認。アルバイトの店員さんが親切に説明してくれます。
やはりピッツァセットが推しのようですが、先ほど「山田うどん食堂」でガッツリ食べたあとなのでそれほどお腹の余裕が・・。
単体のピザもありました。生ハムピザ、好物なのでこれにします。ドリンクバーも付けましょう。
待つことしばし。
おっ、噂の配膳ロボがやってきました!ガストでは猫型ですが、顔にやばねさんが表示されているのですね。実は配膳ロボのために作ったキャラなのでしょうか。
こちらが到着したピザです。思ったよりボリューム&盛りがいいですね!申し訳程度の生ハム要素も覚悟していたので、嬉しい誤算。
何故かフレンチドレッシングがついてきたので、とりあえずかけます。さて、お味は・・・
ん?なんかマヨネーズ味が強いです。生ハムの味がドレッシングとマヨネーズに負けちゃうような?ちょっと戸惑っていたのですが、メニューを改めて見て、わかりました。
これ、生ハムピッツァじゃなくて、生ハム「サラダ」ピッツァだ!サラダ要素が強いんですね。そのため、作戦変更。上の野菜部分をサラダとして単体で食べつつ、合間にピザを挟むようにしてみます。
これは大正解。石窯焼きのもっちりとしたピザクラフトに、生ハム・トマト・野菜をバランスよく載せると一気にバランスが良くなりました。
食べながら店内を見ているとミニキャラタイプの「やばねちゃん」ロボも動き回っています。同一人物が同じ空間に2タイプいるシュールな状況。
合間にドリンクバーに行くと、オリジナルドリンクを作ろう!のコーナーが。こういうの、楽しいですよね。グリーンアップルをカルピスソーダに混ぜて、青りんごカルピスソーダを作ってみました。なかなかの味です。
完食、ご馳走様でした!店内を見渡すと、ファミリー連れを中心になかなか繁盛しているようです。
焼きあがったピザを手に持った店員さんが各テーブルを回り、食べ放題のお客さんがピザのピースをもらっていました。自分で取りに行かなくていいのはいいですね。
ドリンクバーに行ったお客さんを忠実に待ち続けるロボたちも可愛かったです。
3,3割うまい!!「ぎょうざの満洲」で幻のGPコラボを追う
3軒目となる「ぎょうざの満洲」は埼玉県川越市に本社があるローカルチェーンで、一部関西地方にも出店しているものの、約100店舗のうち半数が埼玉県に集中しています。
「ぎょうざの満洲」は「3割うまい!!」というキャッチフレーズが有名で、チェーン名とあわせて商標登録もされています。

「3割うまい!!」とは、「『うまい、安い、元気!』で、うまさが3割増し」という意味のほか、原材料費、人件費、諸経費をそれぞれ3割ずつにするバランス経営という意味もあるそうです。
ぎょうざの満洲の人気の秘密は、全店直営制で店舗ごとのばらつきが少ないこと、自家農園も営み食材にこだわっていること、外食チェーンなのに味が素朴でヘルシーであることが挙げられています。
そして飲食店チェーンでは、どこでも同じメニューが楽しめるのが一般的ですが、「ぎょうざの満洲」では川越的場店・坂戸にっさい店でしか食べれない幻のメニューがあるとか。
馬車道の草加店からはちょっと遠いですが、最後は川越を目指すことにします!
腹ごなしに川越城を冷やかしつつ・・・
やってきました、川越的場店!
こちらは工場併設の店舗となっております。
かなり広い店舗ですね。従業員の研修にも使われているそうです。
こちらがお目当ての限定メニュー。埼玉県日高市の精肉メーカー『サイボクハム』とコラボした「ゴールデンポーク(GP)レバニラ炒め」を2店舗だけで提供しているのです。
ゴールデンポークとはサイボクの牧場で独自に交配して生まれたブランド豚です。きめ細かくジューシーな肉質が特長で、その生レバーだけを使用した限定メニュー。レバニラ好きとしてはこれは外せない・・・。
店の入口にも、「3割うまい!!」のステッカーが貼られていました。こちらの女の子は池野谷社長の幼少期がモデルだとか。
30分550円で遊べる貸し卓球コーナーも。地元の子供たちが遊びに来るのでしょうか。見学はこれぐらいにして、早速注文します!
やっぱり餃子は外せないですよね・・。焼き餃子、水餃子、そして「GPレバニラ炒め」を注文して待つことしばし。
まずは餃子コンビがやってきました!
焼き餃子はカリサクでベストの焼き加減。味はかなりあっさりで、餃子にありがちな重たさがありません。
こちら2018年に社内の反対を押し切って、社長が脂身を3割減らしたヘルシー志向の新レシピに変えたところ、お客さんには好評で2割も売上があがったとか。
私もこの新レシピ、とてもいいと思います!
「天然えび入り水餃子」はちゃんとエビの味がしてこちらも美味しい。水と焼きが同じ中身だと飽きてきちゃいますが、これなら最後まで新鮮に味わえます。
そして来ました!「GPレバニラ炒め」。
こちら、レバーにまったく臭みがありません。チェーンのレバニラはどうしても臭みがある&色も濃いのが通常ですが、色もフレッシュです。味付けも濃すぎずで、餃子と合わせて美味しく食べられました。これは毎日でもいけそうです。
お昼どきには行列もできるそうで、地元に愛された密着型のレストランだと良く分かります。
帰り際、見つけたポスターには「埼玉の味を全国へ!」の文字が。埼玉県人の友人に見せたところ、「SOUL FOODの文字が小さい、もっとデカくていい」、「俺的には王将より断然満洲!」とのコメントでした。
「ぎょうざの満洲」の冷凍餃子はふるさと納税の返礼品にも採用されているそうで、満洲のまろやかな味を全国で楽しむ人も増えていきそうです。
おわりに:埼玉ローカルレストランチェーンの魅力とは?
今回、埼玉の飲食ローカルチェーンを3軒訪問しました。実際に回って感じた魅力をまとめてみます。
いずれにも自らの強みを生かしつつ、令和を生き残っていくための新たなチャレンジがありました。
興味深かったのはそれぞれの魅力・チャレンジと「商標登録」がリンクしていたことです。商標登録は模倣からブランドを守れるだけでなく、社内外にその魅力を自らのものとPRする「攻め」の効果もあると再認識できました。
ローカルチェーンがあるのはもちろん埼玉だけではありません。日本全国津々浦々、「ちざ散歩」して、各地の魅力を探訪していきたいと思います。