あの頃は、知的財産なんて言葉を知らなかった。
これはとある女性弁理士Mの話。
Mは、「昭和」の最後の年に生まれ、思いがけず昭和、平成、令和の3つの時代を生きている30代弁理士である。10代、20代の貴重な青春時代を「平成」という時代で送った。
プリクラ、ガラケー、i mode、そして初代iPhone・・・青春時代に通過した方も多いのではないだろうか。それぞれの商品・サービスの裏側にはそれを支える知財もあった。
本記事では、Mの「平成」のリアル青春ライフを振り返りながら、青春にまつわる知財をJ-PlatPatのデータベースをもとに紹介していく。
タイムマシンのように時代を追体験しながら、懐かしさ、時には新しさを感じていただければと思う。
目次
ゲスト紹介
M:地方在住の30代女性弁理士。特許事務所にて弁理士業務を行う傍ら、知財制度に関するコンテンツを発信している。
1.小学校低学年 ~最強のコミュニケーションツールのアレ~
小学生の頃、クラスで大流行したのが「プロフィール帳」。略して「プロフ帳」。
「プロフ帳」とは、A5サイズくらいの紙のプロフィールシートをバインダーで綴じた冊子である。このシートには、誕生日、血液型、趣味、恋愛といった様々な質問が書かれている。持ち主はシートを友達に渡して、質問に答えてもらい、その後回収する。
出典:ラジオ関西トピックス
クラス替えがあるたびに友達にシートを渡し、プロフィールを書いてもらっていた。知らない友達にも「これ書いてね」と声をかければ、そこからコミュニケーションが生まれる。「プロフ帳」にプロフィールを書いてもらえば、その情報を話題に盛り上がることができる。
紙の「プロフ帳」は、SNSがない当時の女子小学生にとって、友達との仲を深める最強ツールだった。特に、友達の「好きな人」の欄を見るのは楽しかった。
そんな「プロフ帳」は、サンスター文具株式会社の登録商標である。
紙の「プロフ帳」は、その後、インターネット技術の発展とともに、「前略プロフ」や「mixi」といったインターネットサービスに置き変わっていった。しかし近年、紙で情報を集めるという真新しさから、人気が再燃しているようだ(参考サイト)。
2.小学校高学年 ~中学受験のお供のアレ~
小学校高学年になって、勉強ができるクラスメイトがうらやましいと思うようになった。
友達よりも勉強ができるようになりたかったため、親にお願いして学習塾に入れてもらった。勉強して成績が上がることが楽しかった。
小学5年生の進級時に、中学受験専門のクラスに入れてもらえることになった。
受験時のささやかな楽しみは、お気に入りの文房具を集めること。筆箱は、シャープペン、カラーペン、消しゴムでパンパンだった。
中でも、当時大流行した「ドクターグリップ」のシャープペンは、ずっと持ち歩いていた。「ドクターグリップ」は小学生にしてはお高めの文房具。「ドクターグリップ」を持っていることは一種のステータスだった。
この「ドクターグリップ」、ペン本体を振るだけで芯を繰り出せるフレフレ機構が搭載されている。超画期的なアイテムだ。
フレフレで芯を出すのは楽しい。特に芯を出す用事がなくても、フレフレで芯を繰り出して遊んでいた。
特許3831071【発明の名称】振出式シャープペンシル
消しゴムは「まとまるくん」一択だ。
「まとまるくん」は、“消しくずがちらずにまとまる”がキャッチフレーズ。社内提案でネーミングを募集してデビューしたそうだ。直観的でわかりやすい、とてもいいネーミングだと思う。パッケージの優しい色合いも好きだった。
「まとまるくん」には、「ちびまとまるくん」や「のっぽまとまるくん」等、たくさんの兄弟姉妹がいる。受験期になると、塾から受験生に「合格まとまるくん」が配られた。
Mは受験当日まで使わずに大事にとっておき、これをお守り代わりに受験会場に持って行った記憶がある。
塾は30分かけて電車で通っていた。2000年ごろのことである。家に「今から帰るよ」という連絡をするために、当時としては珍しく、小学生の時から携帯電話を持たされていた。
ツーカーのプリペイド式携帯電話だ。
なお、ツーカーはその後KDDIに吸収合併され、 プリペイドサービスを含む全てのツーカー携帯電話サービスが2008年に終了している。
【意匠に係る物品】携帯電話機
Z世代のみなさんはご存じだろうか。
当時の携帯電話のアンテナは、筐体の外部に設けられたロッドアンテナ。アンテナは伸縮可能であり、普段は小さく収納されていた。通話時には収納されているアンテナを引き出して使用する。さらに電波が悪いときは、端末本体を高く掲げてアンテナを揺らしてみるのである。
現在、スマートフォンのアンテナは本体に内蔵されている。人々がアンテナを揺らして感度のよい場所を探している姿は、異様な光景であろう。
意匠登録1074794【意匠に係る物品】携帯電話機
3.中学校 ~部活の代わりに熱中したアレ~
受験を突破し、晴れて中学生となった。
眼鏡をかけて、おとなしく、とにかく地味な少女だった。
そんな少女Mは、部活にも入らずに熱中していたものがある。
「プリクラ」である。
「プリクラ」は、カメラで撮影した顔画像をシールにする写真機「プリント倶楽部」の略称、または「プリント倶楽部」により印刷されたシールを指す。
2000年代、写り機能やラクガキ機能が拡充し、世間では「プリクラ」の一大ブームが巻き起こっていた。当時の女子高生たちは「プリクラ」に熱狂した。
学校帰りの電車待ちの時間を利用して、友達と「プリクラ」を取りにショッピングビルへ寄り道。
「一生トモダチ」「ラブラブ」などの言葉と、丸文字と、スタンプとを駆使して、当時自分が思う「カワイイ」を表現しようとしていた。
ちなみに「プリント倶楽部」は、株式会社セガの登録商標である。
撮ったプリクラは1つの台紙に印刷されるので、台紙をハサミで切って友達と分ける。このためゲームセンターにはプリクラを切り分けるためのハサミが置いてある。
みんな、撮ったプリクラはすぐに分けて自分の手元に置いておきたい。ハサミが置いてある場所には、いつも列ができていた。
撮ったプリクラを「プリ帳」というメモ帳に貼って、持ち歩き、友達と見せ合っていた。「プリ帳」を華やかにするために、プリクラを撮っていたといっても過言ではない。
中でもお気に入りのプリクラは、特別感を出すために、携帯電話の電池パックの裏ふたにひっそりと貼られていた。
4.高校生 ~野球応援に必須なアレ、恋愛に必須なアレ~
母校は、ほぼ毎年のように甲子園に出場する、高校野球強豪校だった。
夏になると、県大会から高校野球の応援に行っていた。というよりも、休むと欠席扱いとなるため、参加はほぼ強制だった。
持ち物は、帽子、水筒、お弁当、タオル、そして赤いメガホン。
炎天下の中、メガホン片手にアルプススタンドから必死で母校の野球部を応援したのは、いい思い出。
なつかしさを感じながらJ-PlatPatをたたいていると、野球応援にピッタリな便利グッズの発明が見つかった。 なんとメガホンの内部空間にお弁当箱を収容したという発明である。円錐型のメガホンはその形状ゆえに必要以上に嵩張ってしまうところ、このメガホンなら荷物が大きくなることを防ぐことができる。
特開2003-058167号【発明の名称】弁当箱兼用メガホン
中学3年生の夏、初めての彼氏ができた。
母校は古風な学校であり、男女交際禁止の規定があった。先生に隠れて一緒に帰ったり、携帯電話で毎日のように連絡を取り合っていた。
当時はキャリアメールで連絡を取り合うのが主流。メールの送受信には少し時間がかかる、という時代。送信されたメールが電波の関係で端末に届かないことはしばしば。
そんなときは、端末側で、メールセンターに「センター問い合わせ」という操作をして、手動で受信メールを確認していた。
特開2006-303934【発明の名称】携帯電話機を利用した遠隔監視システム
好きな人とのメールのやり取り。
なかなか相手から返事がこないときは、もどかしいものである。うまく受信できていないのかと不安になり、2、3分に1回「センター問い合わせ」をした人もいたのではないだろうか。
Mも、受信結果で一喜一憂したものである。
上記図面B-1の上部には、いびつな「i」。NTTドコモのサービス「iモード」のマークである。
中学・高校時代、Mはドコモユーザであり、ドコモには随分お世話になった。
ドコモの携帯電話の中でお気に入りは、三菱電機のDシリーズ。液晶ディスプレイがあるカバーの裏に収納されているテンキー部分を、使用時にスライドして使う。
当時付き合っていた彼と色違いで持っていたことは、懐かしい思い出。
恋愛も、大学受験期も、この携帯電話とともに過ごした。
意匠登録第1242834号【意匠に係る物品】携帯電話機
5.大学生、社会人、そして現在…
Mは、高校を卒業後、上京して大学生に。大学では応用物理を専攻した。
大学2年生のときに、あの有名なアップル社のスマートフォン「iPhone」の販売が開始された。人々はこの新しいデジタル機器に熱狂した。
実はiPhoneの商標は、日本のアイホン株式会社の商標権に基づいて使用されている。アップル社はこの商標権のライセンシーであり、ウェブサイトには必ずライセンスの表記がされている。知財業界では有名な話だ。
大学卒業、そして大学院終了後、Mは社会人になった。Mは新卒でメーカーに就職し、研究開発をしていく中で弁理士の存在を知った(やっと…!)。しばらくして弁理士を志すようになり、これをきっかけに知財業界に足を踏み入れることになる。
Mは現在、弁理士として特許事務所で知財業務を行っている。大変なことも多いが、日々学びがあり、やりがいを感じる仕事だ。
特許や商標等の知財の公報は、通常、業務としてでないと、なかなかお目にかかることがないものである。ただ知財の公報は、一度公開されれば記録が残り、時間がたっても誰もが閲覧できるという特徴がある。
今回、業務で扱っている「知財」という目線で、個人的な青春ライフをじっくりと小学生から振り返ってみたところ、当時のあのまんまを見ることができる、まさに優秀な「思い出振り返りツール」であるということがわかった。
これも知財の1つの活用法なのかもしれない。
令和に入って5年目。これを機にあなたも青春ライフを「知財目線」で振り返ってみてはいかが?