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登録増殖中!「サウナ商標」の独占権はどこまで及ぶ? ~弁理士サウナーが解説します

時は今、大サウナ時代!

日経ビジネスが巻頭特集し、TVでは毎日サウナ番組を放映。

サウナ室に行くと連日満員、人気の施設にはいわゆる「ドラクエ」のパーティが列をなしています。

コロナ禍はサウナ業界にも大打撃を与え、サウナトーホー、JNファミリー、グリーンサウナなど多くの名サウナが老朽化もあり、寂しいことに営業を終了しました。

在りし日のサウナトーホー(著者撮影)

一方、サウナブームで新しい施設があちこちにでき、明るい話題が増えています。一ファンとして施設が潤うのは素直にうれしい。もう少し空いてほしいものの、業界にとっては追い風でしょう。

ただ最近は商標界隈も騒がしい。サウナをキーワードとして商標検索してみると、

それぞれ商標登録していました。(特許情報プラットフォームより)

えっ、「サウナー」ってもう言えないの?、「ソロサウナ」や「テントサウナ」、じゃあなんて呼べばいいんだよ・・と、とまどう方もいるかもしれません。

そこで本記事では、サウナにかかわる商標を、実際の施設も訪問しながら使用状況を確認し、その商標権の効果について掘り下げてみます。

一緒に、めくるめくサウナ商標の旅に出発しましょう!

※本記事はデータベース・公開情報を元に、筆者が独自に調査したものです。弁理士かつ1サウナファンの視点で書いておりますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

1.そもそも・・商標権ってなんなのさ?

まずは、今回の記事との関係で、知っておきたい商標のポイントをざっくり紹介します。

① 商標登録は早い者勝ち
② 商標とは、自らの「商品・サービス」を他人のものと区別するための目印
③ 商標登録すれば指定した「商品・サービス」の範囲で、他人の「商標としての使用」を禁止できる
④ 他人の商品・サービスと区別できない商標は、特許庁の審査で拒絶される
⑤ 登録商標が「一般名称化」してしまうと他人の使用を止められない

①は、言葉通りで、権利が重なり合う出願は、1日でも早く出願した人が勝ちです。

②~③は、商標とは何かという話。大事なのは自分の「商品・サービス」を区別する目印という点で、商標権では言葉全体を独占することはできません。

例えば、『アップル』という商標。

商標データベースで検索してみると、9類「電子計算機・・・」はApple社、4類「燃料」はエア・ウォーター社がそれぞれ登録しています。同じ商標でも、「商品・サービス」が異なるので別々の権利者が登録可能なためです。

ただ、この『アップル』商標、指定商品「りんご」については、どの会社も登録できていません。これは④のルールによります。

もし商標『アップル』がりんごの箱に印刷されていたとしても、特定の会社の出所を表すとは誰にも認識できないですよね。普通名称を特定の会社・個人に独占させるのは適切ではありません。このような商標は「自己と他人の商品・役務を区別できないもの」として特許庁の審査で拒絶されるルールになっています。

・・・あれ?、サウナ商標にもなんだか、「普通名称」っぽい登録があるんじゃない?と思われた方がいるかもしれません。実は、この特許庁の審査は、査定時に「普通名称」だったかで判断することになっています。つまり査定時点の「社会の認知度」しだいで登録できたり、できなかったりが変わってきちゃうのですが、のちほど詳しく見てみましょう。

そして⑤。ざっくり言うと、誰かが商標を登録していても、その商標が「その商品またはサービスの一般的な名称(普通名称)にすぎない」と取引界で認知されるようになると、他人の使用は侵害にならないというルールです。

こちらもサウナ商標を見ていく中で、改めて解説します!

<こちらも参考>

2.saunner (TTNE株式会社)

そもそも「saunner(サウナー)」とはサウナファンを総称する和製英語。試しにOxford 英英辞書のサイトで検索してみても「そんな言葉ないよ」と表示されました。

では、「サウナー」という言葉はどこで生まれたのか。そのためには、日本における「サウナ」の歴史を簡単に見ていきます。

そもそもサウナが日本にはじめて上陸したのは、古くは1792年、江戸時代中期です。ロシア最初の遣日使節 アダム・ラクスマンら42名が根室へ来航。交渉のために8か月間、逗留するのですが、越冬小屋を建てたときに薪サウナも設営したのです。

ラクスマンの根室来航(根室市公式ページ)

※ 厳密には、ロシア式のサウナは「バーニャ」と呼びますが、ラクスマンはフィンランド人だったので、日本最初のサウナと認定できそうです。

その後、1910年代にフィンランド人の陸上金メダル選手 コーレマイネン氏が「私が優勝できたのはハードトレーニングとサウナのおかげだ」と語ったことで世界的にサウナの存在が認知されていき、日本でも1956年の「東京温泉」を皮切りに、フィンランド式サウナがあちこちで開業されます。

『日本サウナ史』|草彅洋平

1964年の東京オリンピックの選手村にサウナが作られ、第1次サウナブームの引き金になったのは有名な話。その後も、90年代の第2次ブーム(健康ランド&スーパー銭湯)、そして10年代からのタナカカツキ先生の『サ道』に代表される第3次ブームと、継続的に流行を引き起こしています。

そして「サウナー」という言葉を日本でメジャーにしたのは、やはり日本初のサウナ専門誌『SAUNNER』(2014年3月発売)でしょう。

本誌では、

従来のサウナに対するイメージを一新。ポジテイブで健康的でオシャレで楽しい娯楽としての「サウナ」へパラダイムチェンジさせる新媒体です。・・・サウナ―のあなたもこれからサウナ―になるあなたも目から鱗の1冊です。

と、サウナのイメージを転換することを宣言。内容も本場フィンランドの「サウナ紀行」、クリス・ペプラー氏ら著名人による「われらsaunner宣言」、日本各地の名施設を紹介する「BEST SAUNA2014」と充実しており、第3次サウナブームのはじまりに相応しい一冊でした。

ただ、『SAUNNER』43Pには「とんねるずのノリさんは“サウナー”という言葉を初めてテレビで発した男ともいわれている」との豆知識があり、ここで初めてサウナーという造語が作られた訳ではなさそうです。

では本誌の功績はというと、男女ともにすでにあちこちにいたサウナ愛好家を「サウナー」という言葉で明るく再定義し、広めたこと。第2次ブームまでのサウナ好きはやや「おっさん臭い」イメージでしたが、サウナーという言葉が広がったことで、若者・女性の愛好家が間違いなく増えたといえます。

・・・そんな『saunner』、特定の会社が商標登録しているのはどうなのでしょうか?

直観的に「独占させちゃダメじゃん」と思われるかもしれませんが、1章で見た通り、商標権の効果は限定的。もう一度ポイント③⑤をみてみます。

 ③ 商標登録の際には「商品・サービス」を指定し、その範囲に権利が限定される

 ⑤ 商標登録されていても「商標としての使用」でなければ、侵害にはならない

そもそも、商標権はその言葉を作り出したことに権利が与えられるのではなく、すでにある言葉を自分の商標として選択することはルール上問題ないことになっています。

ただ、一方で商標は国に与えられる独占権。

裁判で侵害と認められれば、賠償金や差止判決を得ることも可能です。特許庁の審査を通過しているとはいえ、どんな登録でも手放しにOKとは言い難い。

そこで本記事では、私見ながら

「その商標登録によって、登録者以外がどのような制限を被るか。また、その制限がサウナブームに水を差してしまう可能性があるか」

を検討していき、「サウナ商標」が登録されている妥当性を確認していきます。

では、先ほどの『saunner』商標登録。

登録6218993号

権利者はTTNE株式会社、指定商品は25類「男性用・女性用及び子供用の被服,つばつき帽子,つばなし帽子,帽子,靴下」に限定されています(なお、TTNE株式会社は「saunner」について他の出願や登録はありません)。

では、TTNE株式会社は『saunner』をどのように使用しているのでしょうか。ホームページを見てみます。

SHOP [TTNE] トップページより

カテゴリーの中にアパレルブランドがあり、そこで『saunner』商標を付した商品がありました。

サウナハット(つばなし帽子)

ロングTシャツ(被服)

この『saunner』ロゴがついたブランドの誕生ですが、サウナWebメディア「サウナタイム」に、創業者2人(松尾大氏・秋山大輔氏)のインタビューがありました。関連する部分を引用します。

松尾氏:今から2年くらい前って、サウナのブランドってなかったんですよ。よく考えたら、サーファーにはサーファーのブランドがあり、スケーターにはスケーターのブランドがあるのに、なんでサウナーにはサウナーのブランドがないんだろうって。ないんだったら自分たちで作ろうって思ったんですよね。おれたちってサウナに貰ってばかりだから、なにか恩返しがしたいって。だったら、まずサウナとファッションを結び付けようって。・・

秋山氏:サウナってなんとなくおじさんのもの、ってイメージが日本にはありますが、北欧行った時、それこそ小さい子どもからおばあちゃんまでサウナを楽しんでいて、また若いカップルがサウナにデートに来たりもしてたんですよ。なんかサウナってみんなのもの、っていう感じがあって。それをもっと日本でも広めていきたいと思っているんですよね。なので、サウナとストリートファッションを掛け合わせてみたんです。そして、女性が好んで着てくれるデザインにこだわりました。・・

秋山氏:そして、これはとても大切なことなんですが、売り上げの10%を福祉施設に寄付しています。たとえば5000円のTシャツが売れれば、500円寄付になり、1回銭湯に行けます。そうやって、ぼくたちの事業が少しでもサウナへの恩返しになればな、と思っています。

TTNE PRO SAUNNER トップサウナーインタビュー6 ととのえ親方とサウナ師匠より

2人が北欧のサウナ旅をしている際に「saunnerって書いてあるTシャツが欲しいね」という話になり、旅先からデザイナーさんにロゴを発注して誕生したというストーリーもありました。

 

背景がわかったところで、「『saunner』の商標登録によって、登録者以外がどのような制限を被るか。また、その制限がサウナブームに水を差してしまう可能性があるか」を検討します。

まず、本商標の登録によってTTNE社以外が『saunner』や『サウナー』のロゴを印刷した洋服や帽子、靴下を販売することができなくなります。一方で、指定商品の範囲がアパレル関連のみに限定されているので、例えば雑誌『SAUNNER』の出版には何ら問題ありません。

また、Twitterや記事などで「サウナー」という言葉が使われることが増えていますが、商品・サービスと関連なく登録商標を使うことは「商標としての使用」とならず、これも制限がありません。

結局、法的に制限されるのは、「自分も『saunner』のロゴをつけて業として商品を製造したり販売したりする」行為だけです。この「業として」という要件があるので、お手製で「サウナー」Tシャツを作って着たり、友人に無料でプレゼントしたりというのも実は商標権侵害になりません。そう考えると、本登録がサウナブームに水を差す可能性はまずないと考えられます。

※商標としての使用については、こちらのnote記事も参考になります。

『saunner』をアパレルブランドとして育てようとしているのに、他の会社が紛らわしい商品や粗悪品を作ってきたらブランド価値が棄損されてしまいます。また、放置しておいて第三者が商標登録してしまうと『saunner』商品が販売できなくなるリスクもあるので、商標登録の必要性も十分あるケースだといえるでしょう。

3.ソロサウナ(tune株式会社)

続いてのサウナ商標は『ソロサウナ/SOLO SAUNA』です。本商標はtune株式会社によって商標登録されています。

登録6372032号

指定商品(本件では指定サービス)は、44類「サウナの提供,入浴施設の提供,美容,あん摩・マッサージ及び指圧」と、サウナ施設そのものをカバーしています。

サウナ発祥の地、フィンランドではサウナは会話しながら入るところとされていますが、

一方で自宅にサウナがあるのも普通のこと。人口550万人に対して、200万個超ものサウナがあるとか。

ユネスコの動画『Sauna culture in Finland』でも、サウナは日常生活の一部とされてます。

『ソロサウナ』はtune社がプロデュースする「個室サウナ」のブランド名。みんなで入る公衆サウナとは別に一人瞑想するサウナがあってもいい。サウナも多様化の時代です。

『ソロサウナ』があるのは神楽坂、ここは現地に行ってみましょう。

完全予約制で、公式ページから登録します。土日はずっと先までいっぱい、平日の夕方に何とか予約できました。

 

指定された時間の5分前に、現地に到着します。

中はカフェ併設でシャレオツな感じ。

受付で説明を受け、のれんをくぐって個室に向かいます。

ルームナンバー2!

まずはととのいスペースを確認。なかなか落ち着けそうな椅子です。

浴槽はなくオーバーヘッドシャワーのみですが、温度は16度といい感じ。

サ室を確認。思ったより広くて、おっさんが余裕で寝そべれるサイズでした。ヴィヒタ水もあらかじめセットされています。

おっと、見学していたら時間がどんどん・・・!タイマーがゼロになったら退室です。急いで身を清めて、サ室に入ります。

1人でゆったり入れるのも良いのですが、やはり売りはセルフロウリュし放題。

室温は80度弱で、ロウリュで体感温度を調整していく正調フィンランドスタイルです。

説明書きにあるとおり、自分のスマホからBluetoothで好きな音楽をかけられます。初期設定でもヒーリングミュージックが薄くかかっており、配慮されています。

天井のスピーカーとヴィヒタをみながらのんびり休憩していたら・・・

えっ、もう時間!?早っ・・あわてて身支度して退散します。60分は短いので、ゆっくりするなら80分コースがおススメですね。

 

ボードには神楽坂エリアの飲食店情報もありました。サウナ上がりに一杯やる店を探すのも楽しそうです。

感想ですが、「それぞれのニーズに合わせた、パーソナルなサウナ体験ができる施設」だと感じました。周りのお客に気を使わなくていいのは個室ならではですし、持参した音楽をかけられたり、セルフロウリュで温度調整できるのもまさにパーソナライズ。

60分3800円とそれなりにお高いのですが、個室ならではの魅力はありますね。

さて、商標登録の妥当性です。先ほどと同じく、

『ソロサウナ/SOLO SAUNA』の商標登録によって、登録者以外がどのような制限を被るか。また、その制限がサウナブームに水を差す可能性があるか」を検討してみます。

まず制限ですが、指定商品(サービス)に「サウナの提供」が含まれているため、tune社以外は『ソロサウナ』や『SOLO SAUNA』の名称を用いたサウナ施設を運営することができません。

ちなみに商標の使用には「広告に標章を付して展示や頒布する行為」も含まれますので、お店の看板に『ソロサウナ』と直接書くだけでなく、インターネットなどの広告媒体に『ソロサウナ』と表示する行為も、法律上、商標権侵害に該当します。(商標法2条3項8号)

 

この点、tune社もホームページで明確にガイドラインを出しています。以下の通り引用します。

tune株式会社は、安全で高品質な新しいサウナ体験を世の中に提案するため、「ソロサウナ」という商標で、一人で楽しむサウナ施設を作り、商標登録を致しました。

当社のサウナ体験は、独自の研究・研鑽に基づくものであり、類似業態の他社・他店が提供しているサービスに当社は関与しておりません。

『ソロサウナ』という言葉が示す体験の品質を維持し、消費者の皆様が他のサービスと誤認・混同し不利益を被ることのないように、当社では無許可での商用利用は固くお断りし、違反者には法的措置を講じております。

ただし、個人利用に関しましては当社は何ら制約を設けておりません。・・

商標登録「ソロサウナ」における ガイドラインより(太字は筆者)

一般に商標登録の目的として、「第三者に登録され自分が使えなくなるのは困るので防衛目的で登録する(他社の使用は禁止しない)」パターンと、「自社だけが独占的に使用することでブランディング効果を図る(他社の使用は禁止する)」パターンの2つがありますが、『ソロサウナ』は明らかに後者、ライバルの使用は許さない姿勢です。

ではこの制限が、サウナブームに水を差すことはないのでしょうか?これは他の会社が『ソロサウナ』と名乗れないことが、明確な不自由を生むかどうかで判断できそうです。

『ソロサウナ』を別の言葉で言い換えれば「個室サウナ」、「プライベートサウナ」。googleでそれぞれ検索してみます。

 

個室サウナ、1870万件。

 

プライベートサウナ、40万4000件。

 

そしてソロサウナ、8万6500件。検索上位も『ソロサウナtune』関連のサイトばかりです。

 

まり、「おひとりサウナ」を指す一般用語としては「個室サウナ」や「プライベートサウナ」の使用頻度が圧倒的に多いことがわかりました。

他の業者が新たに個室サウナを営業する際は「一人用個室サウナ」などと一般名称で呼ぶか、新しい呼び名を付ければ良いので支障も大きくはなさそうです。

2022年6月 新開業する一人用サウナ「SAUNA RESET PINT」のリリース例

tune社がガイドラインで「個人利用については何ら制約を設けていません」と述べているように、一般ユーザーの使用上の制限もなく、『ソロサウナ』の商標登録が独占されていても、サウナブームに水を差す可能性は低いといえるでしょう。

4.テントサウナ(株式会社メトス)

さて、ラストのサウナ商標は『テントサウナ』。本商標は株式会社メトスによって商標登録されています。

登録5251794号

株式会社メトスはサウナストーブの名門メーカー、業界をけん引する王者です。


公式年表によれば、メトス社がはじめてフィンランド式サウナを導入したのは1966年、東京オリンピックのわずか2年後。

“聖地”と呼ばれる「サウナしきじ」の看板にも、誇り高く「メトスサウナ」の名前が踊っていました。フィンランド大使館にもメトスサウナが導入されています。

日本サウナの歴史はメトス社と共にあるといっても、過言ではないでしょう。

筆者撮影(サウナしきじ)

そんなメトス社が『テントサウナ』の商標を登録したのは2009年7月。2010年代からの第3次サウナブームの前夜です。

先ほどの『SAUNNER』誌(2014年発売)でも「テントサウナ」が紹介されているのですが、特集のサブタイトルは “仰天&至福!の「ユニークサウナ」”

つまり、第3次サウナブーム初頭には、だんだんテントサウナという存在は認知されつつあったものの、あくまで変化球。一般的ではなかったことがわかります。

では、「テントサウナ」はいかにして日本で普及したのか。これにもメトス社の功績が大きいでしょう。

フィンランド直輸入のテントサウナを他社に先駆けて国内販売しただけでなく、2011年の東日本大震災では被災地の女川にテントサウナを設営、避難所で感謝されています。

日本サウナ・スパ協会会報417号 支援活動報告より(ストーブに「METOS」のロゴあり)

また、テントサウナ体験会も定期的に開催、認知を高めるさまざまな取り組みが第3次サウナブームでのテントサウナ人気につながったのです。

2022年現在、アウトドアでサウナを楽しむ姿が多くのTV番組で紹介されたり、日本各地のキャンプ場でテントサウナが体験できるようになりました。

流行りのテントサウナを体験できるキャンプ場 2021年12月最新版

ここ数年でテントサウナは急激に市民権を得たといえるでしょう。

しかしいかに「功労者」だといっても、今の時代、メトス社が『テントサウナ』の商標登録を一社で独占しているのは、妥当なのでしょうか?

検討にあたり、まずは昭島市にある直営店に行ってみることにします。

筆者撮影(2021年2月訪問)

昭島駅から徒歩5分、モリパーク アウトドアビレッジ内にある「METOS Suna Soppi」はメトス社運営のサウナ専門店。

めずらしい「イグルーサウナ」に入ってみたり、

お気に入りのサウナハットを探して購入したり、

カフェコーナーでアイスクリームを食べてみたりと、サウナーでなくてもみんなが楽しめる施設です。

店内を見学していたら、興味深いものが。

登録商標『テントサウナ』の垂れ幕です。

店内のPOPでもしっかりとメトス社の登録商標である旨がPRされていました。

お店だけでなく、メトス社のウェブサイトも確認してみることに。

テントサウナ®|カールバーンシリーズ|サウナ温浴|METOS公式サイトより

®マークは「Registered」の頭文字で、登録商標であることを示す記号です。紹介文でも「テントサウナ」の文字には必ず®マークがつけられており、メトス社の権利意識が高いことがうかがわれました。

では、『テントサウナ』の商標登録の効果や影響を検討してみましょう。

登録5251794号

メトス社『テントサウナ/TENT SAUNA』の指定商品は11類「サウナ風呂用装置」ほか。一般的なテント型サウナはサウナストーブとテントのセット売りなので、「サウナ風呂用装置」の一種と考えられます。

商標のポイント③は、商標登録すれば、指定した「商品・サービス」の範囲内で、他人の「商標としての使用」を禁止することができるというものでした。

このルールによれば、一見、同業他社は商品名に『テントサウナ』を使用できなさそうです。

モバイルサウナ MB10A | ファイヤーサイド 

実際に他社のサイトを見ると、たとえばファイヤーサイド社は『モバイルサウナ』という呼び方で商標権を回避している様子でした。

ただ、本当にメトス社しか『テントサウナ』という商標を、サウナ用テントに使ってはいけないのでしょうか?

この点、2019年に興味深い商標出願がありました。TTNE社が『テントサウナ』を出願しましたが、拒絶されているのです。

 

商願2019-98570(拒絶査定)

「メトス社が先に商標登録しているんだから、早い者勝ちで後の出願は拒絶されるよね」と思われるかもしれません。

ただ、TTNE社による出願の指定商品・サービスは37類、先ほどのメトス社の指定商品とは重ならず、実は併存登録が可能でした。

ではなぜ拒絶されてしまったのでしょうか?公開されている「拒絶理由通知書」を引用してみます。

この商標登録出願に係る商標(以下「本願商標」といいます。)は、「テントサウナ」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「テント」の文字は、「風雨・日光・寒暑を防ぐため、地上に張る布製の覆い。支柱とともに組み立て、解体して持ち運ぶ。天幕。」(岩波書店 広辞苑第七版 2031頁)を意味する語であり、また、「サウナ」の文字は、「フィンランド風の蒸気浴・熱気浴の風呂。石を熱した熱と、それに水をかけて得られる蒸気とで小部屋の温度・湿度を高め、そこに入って汗を流す。サウナ風呂。」(岩波書店 広辞苑第七版 1149頁)

を意味する語でありますから、本願商標は全体として、「テント(天幕)型のサウナ風呂」程の意味合いを認識させるものです。

 そうしますと、本願商標を、その指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「テント(天幕)型のサウナ風呂」に関する役務であること、すなわち役務の質(内容)を表示したにすぎないものと認識するにとどまるというのが相当です。・・

 なお、別掲1ないし3の新聞記事情報によれば、「テントサウナ」の語が、上記「テント(天幕)型のサウナ風呂」程の意味合いで使用されている実情があります。

1.2019年10月8日 毎日新聞 地方版 21頁・・・

2.2019年1月26日 毎日新聞 朝刊 13頁・・・

3.2020年2月29日 朝日新聞 朝刊 24頁・・・

商願2019-98570(拒絶査査定)経過情報より(太字筆者)

3つの新聞記事が一般名称である裏付けとして指摘されています。全て最近の新聞記事です。

2009年のメトス社の『テントサウナ』出願ではこのような拒絶理由通知は発行されず、ストレートに登録できていました。

つまり、メトス社による商標登録後、テントサウナという用語が一般化していったことで、取引者に「テント型のサウナ風呂」という内容を表示する言葉、すなわち普通名称と認識されるようになり、2019年のTTNE社の出願は拒絶されたと言えるでしょう。

(商標のルール④:他人の商品・サービスと区別できない商標は、審査で拒絶される)

では、TTNE社の拒絶は、すでにあるメトス社の商標登録にも影響を及ぼすのでしょうか?・・実は、日本では「登録後、普通名称化したために他人の商品・サービスと区別できなくなった」ことを理由にして、商標登録を取消・無効化する制度がいまだありません。

ただ、登録を消滅させることはできないものの、普通名称を商品・サービスに「普通に用いられる方法」で表示する行為には、商標権の効力が及びません。(商標法26条1項2号・3号)

つまり、登録商標が「普通名称」だと後から認められると、商標登録を維持することはできても、もはや他人の使用を止められないのです。

最終的に侵害かどうかは裁判所の判断となるのですが、TTNE社の出願に対する特許庁審査官の見解を見る限り、メトス社が『テントサウナ』商標登録をもって他の会社の使用を排除できるかは、難しい状況といえそうです。

参考:普通名称化と防止措置について(中山真理子弁理士)

5.終わりに・・サウナ商標の未来

前章で、第3次サウナブームを経て『テントサウナ』が一般名称化した可能性があるが、その商標を取り消す方法は今のところ存在しないことが分かりました。

登録が維持されている以上、メトス社が『テントサウナ』商標に®マークを付し、権利の存在をアピールしていることは何ら問題ありません。実際に「一般名称化」したかどうかは争いになったときの裁判所の判断ですし、努力により識別力を再度獲得することもあり得ます。

・・メトス社さんの行動は商標法的には「まったく正しい」のですが、1サウナファンとしては、なんだかモヤモヤします。このモヤモヤの正体は何でしょうか?

結局それは、『テントサウナ』がブームを経て、すでにパブリックな言葉になりつつあるからでしょう。

 

Googleで検索してみると、500万件以上の検索結果。メトス社以外のメーカー商品も多数ヒットしたり、「テントサウナをレンタルしよう!おすすめサービスとキャンプ場10選」といったHOW TO記事が上位に出てきたりもします。

やはり、『テントサウナ』はメトス社の商品を表す登録商標としてではなく、一般的な名称として使われていることが多いのです。

サウナ用テントには、メトス社であれば ICOYA(イコヤ)、Sauna Camp社であれば MORZH(モルジュ)、ファイヤーサイド社であればMobiba(モビバ)などという、それぞれ個別のブランド名があります。

これらが商標登録され、各社で独占されることには何ら違和感はありません。逆に自由に使えることになったら、どのブランドがどの会社が販売している商品か分からなくなり、大混乱するでしょう。

対して、現在の「テントサウナ」はどうなのか。雑誌やネットの記事を見ていても、テントサウナの名のもとに上記さまざまな会社の商品が紹介されていたり、アウトドアの新しい遊び方として「テントサウナ」という用語が使われています。

各社商品の差別化は「ブランド名」ですればよく、むしろ総称である「テントサウナ」はみんなが自由に使えたほうが、サウナの可能性を広げるのではないでしょうか?

・・・ただ、メトス社にこれまで育ててきた『テントサウナ』商標を放棄しろ、というのも無理筋な話でしょう。いったいどうしたら丸く収まるのでしょうか?公益社団法人日本サウナ・スパ協会の出願にヒントがありました。

商願2021-158000

商標出願されている『アウフグース』とは、サウナストーンに水をかけたあと、立ち上った蒸気をタオルなどで扇いで風を送る行為で、サウナ施設では定番かつ人気のアトラクションです。

ロウリュとアウフグースの違いとは!? | サウナタイム(サウナ専門口コミメディアサイト)

あちこちで愛されている『アウフグース』というサービス名、特定の施設が商標登録して独占しようとしたらどうでしょうか?・・たちまち大混乱まちがいなしです。もちろん商標に対して異議申立されるでしょうが、判断が固まるまでは各施設が『アウフグースやってます』と宣伝しづらい状況が生まれてしまいます。

そこで、業界団体である日本サウナ・スパ協会が『アウフグース』を代表して出願する。特許庁に「サービスの一般名称だ」として拒絶されたらそれも良し、登録できたら各施設に自由に使ってもらおうという考えなのではないでしょうか。

そしてこの手法、『テントサウナ』にも応用できそうです。

つまり、『テントサウナ』の商標をメトス社から日本サウナ・スパ協会に移管し、各社が自由に使えるようにする。そして業界一丸となって『テントサウナ』を盛り立てていき、競争や差別化は各社の商品ブランド名で行っていくというアイディアです。

振り返って、私がはじめてテントサウナに入ったのは、今は無き「湘南ひらつか太古の湯 グリーンサウナ」の中庭でした。

 

SaunaCamp.さんのサ活(湘南ひらつか太古の湯グリーンサウナ, 平塚市)1回目写真より

セルフロウリュはもちろん、ヴィヒタを使ったウィスキングも楽しめる本格派。さらに、テントの隣ではビールも売っていて、「サウナってこんなに自由なんだ!」とびっくりしたのを覚えています。

そして、サウナーの友人と行った冬の札幌。

「RENO SAUNA in シャトレーゼガトーキングダム」では、水を抜いたプールにテントサウナを設置するという大胆さ。

外は寒くても、中はアチアチです。もちろんロウリュを楽しみます。

いけるところまで体に熱を溜めたら、外の水風呂へ!

いや、これはヤバい、でも気持ちいい。冷えてきたらまたテントサウナに戻って、暖まります。

ふとテントから空を見上げたら、きれいな青空でした。まさにテントサウナだけの体験、最高に気持ちよかったです。

・・さて、今回の記事では色々な「サウナ商標」を見て、その独占権の範囲や、妥当性について見てきました。商標は自分の「商品・サービス」を他人のものと区別する目印であり、商標権で言葉全体を独占することはできません。一般のサウナファンとしては過剰に心配する必要はないでしょう。

一方、商品・サービス名としての「サウナ商標」の取り合いが過熱していくと、ある会社はこの名前を使えて、他は使えない、ということが起こっていきます。その名前が「ある会社の商品・サービスだけを表す言葉」として認知されていれば良いのですが、広く使われている言葉なら、独占は不適当です。

・・・私としては、サウナが一過性のブームではないアクティビティとして、もっと広がってほしいと思っています。

サウナはもちろん事業でもありますが、同時に「癒し」の場でもあります。過剰にこの言葉は使えない、という窮屈さは、サウナらしさの対極でしょう。

もちろん、施設名やサウナストーブのブランド名といった「特定の出所を明確に表す言葉」であれば、商標として独占権を与える必要性は明確です。

それぞれの会社が独自のブランドを磨き、各々の価値を高めつつ、時には協働する。商標という「独占権」は、業界のパイの奪い合いではなく、サウナ業界自体を盛り上げるツールであってほしいと思うのです。

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