Toreru Media は【毎週火曜日】+α で更新!

個人の商標登録の注意点は?名前や住所は公開される?

一昔前は個人には少し敷居の高かった商標登録も、いまは必要な情報にアクセスしやすくなったり、オンラインで商標登録できるサービスが出てきたりしたことで、個人の方による商標登録も格段に増えました。

その一方、商標登録の細かなところに詳しくない場合、個人の商標登録に特有のポイントでつまずくことも少なくありません。特に個人の名前や住所が公開されてしまうのか?という点が気になる方が多いようです。

そこで本記事では、名前や住所の公開についてを中心としながら、個人の商標登録の注意点をわかりやすく解説します。

1. 個人で商標登録できるか?

まずは基本的なところから。

会社などの法人だけでなく、個人でも商標登録をすることができます。

商標登録出願をするときに特許庁に提出する願書に、「商標登録出願人」として個人の氏名・住所を記載すれば、個人名義の商標登録として扱われます。この点について、法人の場合と違う特別なことはありません。

また、親権者の同意があれば、未成年の名義で商標登録をすることも可能です。(ただし、その未成年と親権者の戸籍謄本や住民票の添付が必要です)

個人名義で商標登録をした場合には、登録後に発生する商標権は、その「個人」のものになります。

2. 個人で商標登録する方法

個人で商標登録するとき、大きく次の2つの方法があります。

  1. 弁理士に依頼する
  2. 自分で書類作成をする

弁理士に依頼する場合には、弁理士に支払う手数料はかかりますが、商標登録の審査で不合格になったり、内容に不備があり無駄な権利を取ってしまうリスクが低いことが大きなメリットです。

一方、自分で書類作成をする場合には、印紙代以外の手数料はかからないメリットがありますが、手間が大きく本業を圧迫することがあります。また、商標登録にかなり詳しくないと、商標登録の審査で不合格になったり、内容に不備があり無駄な権利を取ってしまうリスクがあります。

商標登録の全体の流れについては、こちらの記事が詳しいので、ご参考ください。

商標登録の流れはこれだけ!4ステップをおさえよう!

 

また、自分で商標登録しようとするときのポイントはこちらの記事をご参照ください。

自分で商標登録するには?費用、手続きの流れを解説!

1. 個人で商標登録できるか?

個人の商標登録において一番注意すべきは、個人名義で商標登録の手続きをすると、個人の名前や住所が公開されてしまうことです。

なぜ勝手に名前や住所が公開されてしまうの?と思うかもしれませんが、これは商標登録制度の趣旨によるものです。

商標登録により国家から与えられる「商標権」は、日本国内全域で効果のある「独占権」という強力な権利です。そのため、権利者(商標登録の出願をした人)の情報は公開され、誰がこの強力な権利を持っているのか(これから持つことになるのか)わかるようにすべき、とされています。

実際、もし権利者情報が公開されていなければ、権利者に許可を得て登録商標を使用したい場合などに、誰に連絡をしていいかもわからなくなってしまいますよね。

このような趣旨があるため、個人で商標登録をする場合には、願書に書いた自分の名前と住所が公開されてしまうことは受け入れる必要があります。

この上で、以下の点に注意をしましょう。

①名前が公開される

商標登録出願をすると名義人の名前が公開されます。そのため、普段ペンネームや芸名で活動をしている人が商標登録をしようとすると、商標登録の手続きを通じて本名がバレてしまう場合があります。

特に、出願する商標名とその活動に紐づく芸名ががすでに一定程度知られている場合、その商標名から「この商標を取ろうとしているこのAさんはきっとあの〇〇さん(芸名)だろうな」と推測しやすくなるので、注意が必要です。

②住所が公開される

名前だけでなく「住所」も公開されてしまいます。

プライバシー上、名前以上に住所が公開されることのリスクを感じられる方も多いかと思います。

商標登録の願書に記載した住所は、主に2種類の方法で公開されます。

一つは、特許庁の商標検索サイトの J-PlatPat で商標情報にアクセスすると、権利者(出願人)の住所欄に、住所のうち「市区町村」までの情報が表示されます。この画面は、多くの人がアクセス方法を知っているので、少なくとも「市区町村」までは簡単に知られてしまうと思っておいた方がいいでしょう。

 

J-PlatPat-市区町村まで表示

もう一つは「商標公報」です。これも J-PlatPat で見ることができます。

出願後速やかに発行される商標公報では、住所がフルで記載されているため、これにアクセスすれば、出願時の住所は全て見ることができます。

 

J-PlatPat-フル住所が表示

 J-PlatPat から「商標公報」へは、アクセス経路がやや複雑なので、アクセス方法を知っている人しか見れないですが、知っていれば誰でも無料で見ることができてしまいますので、「願書に記載した住所はフルで公開される」と認識しておいた方がいいです。

4. 商標登録で個人の名前や住所の公開を防ぐ方法

商標登録の手続きをする以上は、名義人の名前と住所が公開されてしまうこと自体は受け入れなければなりません。

しかしながら、次のような方法を採れば、個人の名前や住所を知られないようにすることができます

①法人を作り、法人名義にする

法人名義で出願すれば、個人名を隠すことができます。そのため、法人を持っている場合はこれが理想的な方法です。

もっとも、これから法人を作らなければならない場合は、法人設立の費用と時間がかかるため、個人名を隠すためだけに法人を用意するのは少し大変かもしれません。

②親族などの名義にする

個人名義で出願する場合は「本名」での出願しか制度上認められていないため、本名を書かざるを得ません。

しかし、自分の本名を公開したくないけど法人も持っていない…という場合には、信頼できる他の人に頼んでその人の名義で出願してもらうという方法もあります。たとえば、親族の名前で出願するなどです。

ただし、別人の名義で出願した場合には、その商標の権利はその「別人」に帰属するものとして法的には扱われます。そのため、別途当事者間で契約を結び、あなたが正当に商標を使用したり商標権を管理することができるように、法的に手当てをしておくことが望ましいです。(当初は問題なくても、後で仲違いして権利上のトラブルになることもあるからです)

なお、願書に書いた「親族等の名前・住所」は公開されることになります。使わせてもらう親族等の情報を公開してしまって問題ないかはよく確認するようにしましょう。

③住所ではなく「居所」を記載する

個人の住所を隠したい場合には、願書の住所欄に「居所」を記載する方法があります。

「居所(きょしょ)」とは、住民票上の正式な住所ではなく、「一時的にいる場所」を意味します。

たとえば、レンタルオフィスの住所などが典型例といえます。

商標登録の願書には、出願人(権利者)の住所として、①住民票に記載の住所 または ②居所 を記載することができます。(ただし、「②居所」を記載できるのは、出願人が「個人」のときのみです)

そのため、公開されても構わない「居所」を用意しておけば、その「居所」を願書に記載することで、実際に住んでいる「住所」は非公開にすることができるのです。

ただし、注意点があります。

商標登録の願書に「居所」を記載した場合、その商標に関して特許庁から何らかの書類(通知)が届くときには、その「居所」宛てに届きます

そのため、実際に書類が届いても困らない(確実に受け取れる)「居所」を記載しておく必要があります。

特に、商標登録完了後に、第三者からその商標権を取り消す手続きなど(不使用取消審判など)が行われた場合には、その通知をきちんと受け取れなかったがために期限内に必要な対応が取れず、知らぬ間に商標権が失われている・・・なんて事態になるおそれがありますので、よく留意しておきましょう。

④J-PlatPat へ個人情報削除を依頼する

特許庁の商標検索サイトである J-PlatPat で、その商標の権利者住所がフルで記載されている「商標公報」のPDFについて、そのPDFや住所部分を非公開にするように運営に依頼する、という方法もあります。

この依頼をしたい場合、特許庁総務部総務課特許情報室宛てに「J-PlatPat における個人情報の削除に関する依頼書」を提出します。

ただし、この手続きは非公式のものであり、必ず非公開にしてくれることが保証されているわけではありません。依頼書の雛形も公開はされていません。

そのため、上記の①~③で対処することを基本としながら、それができなかった場合にダメ元でやってみる、というスタンスでいる方がよいでしょう。

5. 個人輸入の方が商標登録する場合の注意点

複業も含め、個人ビジネスの中でも多いのが個人輸入。そのビジネスにおいて、個人名ではなく「屋号」を全面に出して取引をしている場合もよくあるかと思います。

しかし、「屋号」でビジネスをしている場合には注意点があります。それは、商標登録をする際、「屋号」を名義にすることはできないという点です。

「屋号」は、法的には人格がなく、単なる店名のようなものにすぎません。法的な意味で「人格」を持たない屋号に商標権という権利を帰属させることはできないため、商標登録の手続きは、法律上、個人(自然人)か法人の名義でしかできないことになっています。

そのため、「屋号」でビジネスをしている場合には、個人名義にするか、法人を設立し、その法人の名義で商標登録をする必要があります。

また、個人輸入ビジネスでは、Amazon 内で商品を販売する、いわゆる Amazon セラー の方も多いでしょう。Amazon セラーの場合、そこで使う自分のブランド名を商標登録しておくと「Amazon ブランド登録」をすることができます。

Amazon ブランド登録 をしておくと、他者に相乗りされた場合に Amazon 側がブロックしてくれるメリットがありますので、その前提条件となる商標登録がとても有効です。

Amazon ブランド登録 については、こちらの記事が詳しいので、気になる方はぜひご覧ください。

Amazonセラー商標戦略部 ~ブランド登録のビジネスメリットと、商標取得のコツ~ 【随時更新】

6. 個人から法人になった場合は商標登録はどうするか

当初は個人で商標登録をしたんだけど、その後ビジネスが軌道に乗ったので「法人成り」した。でも商標登録は個人名義のままなんだけど、それでいいの・・・? という悩みが多いようです。

基本的には、その個人名義のままにしておいても大きな問題はありません。
いわゆる “ひとり法人” の場合のように「法人の意思=個人の意思」と言えるような関係性にあれば、「商標権を持っている “個人” が、その “法人” に商標の使用許諾をしている」という建て付けで特に法的な問題は生じないからです。

ただし、 “ひとり法人” の枠を超え、法人が大きくなることを見越したときには、「法人の意思=個人の意思」という関係性では必ずしもなくなる場合が想定されます。
このような場合には、実際にその商標を使用する者が商標権者になる、すなわち法人名義に変更した方がいいです。
名義人(個人)に反対されてしまったら、法人がその商標を使用することができなくなってしまうからです。

また、 “ひとり法人” の場合であっても、その商標権を「法人の財産」として扱いたい事情がある場合には、商標登録の名義を法人に変更した方がいいです。個人名義のままだと、法的にはあくまでその商標権(財産権)の所有者はその個人となるからです。

商標登録の名義を個人から法人へ変更したい場合には、特許庁への所定の手続きが必要です。

手続きは、その商標登録の審査状況がどの段階にあるかによって、次のように変わります。

  1. まだ商標登録の審査中
    → 「出願人名義変更届」を提出
  2. 商標登録完了後
    → 「商標権移転登録申請書」を提出

なお、①出願人名義変更届(出願審査中に行う場合)に必要な特許印紙代は4,200円ですが、②商標権移転登録申請書(登録後に行う場合)に必要な収入印紙代は30,000円です。

このように、商標登録の名義を変更する手続きをする場合は、そのタイミングによって手続き内容や費用が変わるため、よく注意しましょう。

まとめ

最後にまとめです。

  1. 会社などの法人だけでなく、個人でも商標登録をすることができる
  2. 個人で商標登録するとき、大きく次の2つの方法がある
    1. 弁理士に依頼する
    2. 自分で書類作成をする
  3. 個人名義で商標登録の手続きをすると、個人の名前や住所が公開されてしまうので要注意
  4. 次のような方法を採れば、個人の名前や住所を知られないようにすることができる
    1. 法人を作り、法人名義にする
    2. 親族などの名義にする
    3. 住所ではなく「居所」を記載する
    4. J-PlatPat へ個人情報削除を依頼する
  5. 商標登録をする際、「屋号」を名義にすることはできない
  6. 個人名義で商標登録した後に “法人成り” した場合は、自分にとって商標登録の名義変更が必要かどうかを見極めよう。名義を変更するときは、特許庁への所定の手続きが必要になる

個人でも商標登録をする人が増えているだけに、個人の商標登録をする際の注意点はしっかり押さえておきたいところです。

特に、個人情報の公開については、無頓着でいると思わぬトラブルに巻き込まれることもあり得ますので、本記事で紹介したポイントに気をつけながら、うまく商標登録をしていきましょう!

Toreru 公式Twitterアカウントをフォローすると、新着記事情報などが受け取れます!

押さえておきたい商標登録の基本はコチラ!