ビジネスを始めるとき、どのような種類の商標を登録するかは重要な決定の一つです。ロゴ商標を登録するのか?それとも、文字商標を登録するのでしょうか?この記事では、ロゴ商標と文字商標の違いを説明し、どちらを登録すればいいか決める方法を解説します。
目次
1. 文字商標とは何か?
文字商標とは、図形ではなく文字からなる商標のことです。
普通の書体で表された商標だけでなく、ロゴ化された文字の商標も「文字商標」と呼ぶこともありますが、ここでは「普通の書体で表された商標」を「文字商標」と呼びます。
2. ロゴ商標とは何か?
ロゴ商標とは、「特殊な書体やデザインによりロゴ化された商標」や「アイコンなどの図形や絵柄で作られた商標」のことです。
また、「ロゴ化された文字と図形や絵柄のアイコンを組み合わせた商標」もロゴ商標と呼ばれることがあります。
3. 文字商標とロゴ商標はどちらを登録するのがいいのか?
商標登録をする際には、文字商標で登録するか、ロゴ商標で登録するかを選ぶことができます。
商標登録は、願書(商標登録願)の【商標登録を受けようとする商標】欄に記載した商標がそのまま登録を希望する商標だと解釈されます。
そのため、文字商標として登録したければ、【商標登録を受けようとする商標】欄に「普通の書体(明朝体やゴシック体)」で商標名を書けばよいですし、ロゴ商標として登録したければ、【商標登録を受けようとする商標】欄に「ロゴ商標の画像」を貼り付ければよいです。
では、もしあなたが商標名だけでなくロゴ商標も用意してある場合、それを、①文字商標として登録するのか、②ロゴ商標として登録するのか、③両方とも登録するのか、どれがいいのでしょうか?
- 文字商標として登録するのか
- ロゴ商標として登録するのか
- 両方とも登録するのか
どちらを登録すればいいかは、予算や状況により変わる
文字商標とロゴ商標のどちらを登録すればいいかに、常に決まった正解はありません。そのとき商標登録に割ける予算や、登録しようとする商標の内容、今後の商標の使い方の予定などによって変わります。まずは、「ケースバイケース」であり、状況を踏まえて都度「今回の正解」を選ぶ必要がある、ということを押さえておきましょう。
これを踏まえた上で、①文字商標のみを登録すればいい場合、②ロゴ商標のみを登録すればいい場合、③文字商標とロゴ商標の両方を登録した方がいい場合、をそれぞれ解説していきます。
- 文字商標のみを登録すればいい場合
- ロゴ商標のみを登録すればいい場合
- 文字商標とロゴ商標の両方を登録した方がいい場合
①文字商標のみを登録すればいい場合
次のような場合は、ひとまず文字商標のみを登録することでもよいでしょう。
- ロゴの可読性が良く、誰が見ても同じように文字をはっきりと読める場合
- ロゴデザインが複数パターンあったり、今は1パターンしかなくても今後デザインが変わるかもしれない場合
- ロゴデザインに強い思い入れがない場合
一つ目の場合について、少し補足しましょう。
まず「ロゴの可読性が良く、誰が見ても同じように文字をはっきりと読める場合」の逆を考えてみます。
たとえば、このコカコーラのロゴは、もはやあまりにも有名なので「Coca-Cola」と書かれていることは誰でもわかるでしょう。しかし、もし初見だったら「Coca-Gola」かな?と思う人もいるかもしれません。
このように、誰が見ても同じように読め「ない」かもしれないロゴの場合には、もし「Coca-Cola」の「文字商標」のみを登録していたのでは、このロゴをその文字商標の商標権では守りきれないおそれがあります。
逆に、Google のロゴのように「ロゴの可読性が良く、誰が見ても同じように文字をはっきりと読める場合」には、たとえ「Google」の「文字商標」のみを登録していたとしても、その文字商標の商標権の効力がこのロゴにも及ぶ可能性が非常に高いです。
したがって、このような場合には、最低限「文字商標」のみを登録しておけば、大きなリスクはないと考えられます。
②ロゴ商標のみを登録すればいい場合
次のような場合は、ロゴ商標のみを登録することでもよいでしょう。
- ロゴの可読性が良く、誰が見ても同じように文字をはっきりと読める場合
- ロゴデザインが固まっていて、しばらくは変わらない場合
- ロゴデザインに強い思い入れがある場合
「ロゴの可読性が良く、誰が見ても同じように文字をはっきりと読める場合」には、「文字商標」のみの登録でもいいと書きましたが、この場合には、「ロゴ商標」のみの登録でもいいとも言えます。
なぜなら、この場合は、「ロゴ商標」の商標権の効力が、普通の書体の「文字商標」にも及ぶ可能性が非常に高いからです。
特に、そのロゴデザインに強い思い入れがあったり、デザインがそのブランドのアイデンティティになっている(これからしていきたい)場合には、「ロゴ商標」の方を積極的に登録するとよいでしょう。
「ロゴ商標」を登録すれば、ロゴ商標を使うときにRマーク(登録商標マーク)を付けることができますし、ロゴ商標を登録しているということ自体が、ブランドアピールになる場合もあるからです。
ただし、「ロゴ商標」のみで登録するのは、そのロゴデザインが固まっており、当面はデザインに変更がないという場合がよいです。
③文字商標とロゴ商標の両方を登録した方がいい場合
次のような場合は、文字商標とロゴ商標の両方を登録することが望ましいです。
- ロゴのデザインが特殊で、誰が見ても同じように文字をはっきりと読めるとは限らない場合
- 文字商標にもロゴ商標にもRマークを付けて使いたい場合
- 文字商標とロゴ商標のどちらも第三者にライセンスをする可能性がある場合
- 重要なブランドであり、権利による保護を万全にしたい場合
上記の「Coca-Cola」のロゴの例のように、ロゴのデザインが特殊で、誰が見ても同じように読めるとは限らないようなものの場合には、すでに述べた理由の通り、片方だけの登録では、もう一方の商標を守りきれないおそれがあります。そのためこの場合は、費用はかかっても、文字商標とロゴ商標を両方とも登録する方がいいです。
また、文字商標とロゴ商標のどちらを使用する場面でもRマークを付けて使用したい場合には、両方登録した方がいいです。
なぜなら、Rマークは「登録した商標そのもの」にしか付けてはいけないからです。
もし「文字商標」のみを登録していた場合、文字商標にはRマークが付けられますが、直接は登録しなかった「ロゴ商標」は「登録した商標そのもの」ではないため、Rマークを付けるのは商標法上のリスクがあります。商標法74条で、登録商標ではない商標に登録商標と思わせる表示をすることは禁止されており、刑事罰の対象となっています。
したがって、Rマークを文字にもロゴにも付けたい場合は、両方登録しておくべきことになります。
なお、Rマークについては、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
第三者に商標のライセンス(使用許諾)をする可能性がある場合にも、文字とロゴの両方の登録を前向きに検討した方がいいでしょう。
商標の使用許諾をするとき、許諾先(ライセンシー)の要望により、ライセンスの事実を特許庁に登録することを求められることがあります。そのとき、ライセンスの登録をする対象商標が文字商標であれば、文字商標で登録していることが必要になりますし、対象商標がロゴ商標であれば、ロゴ商標で登録していることが必要だからです。
なお、これらのいずれにも当てはまらない場合であっても、それが重要度の高いブランドであり、法的なプロテクトを万全にしたい場合には、できるだけ文字商標とロゴ商標の両方を登録しておく方が望ましいです。
商標権は、登録した商標そのものだけでなく、それに類似の商標も間接的に守る効力がありますが、それはあくまで間接的に過ぎず、登録した商標そのものを守る力よりは弱いからです。
また、あるブランドについて、文字商標とロゴ商標のどちらもがっちり登録してあると、第三者がその登録情報を見たときに「しっかり守ってあるな…思い入れが強そうだし、下手に真似したら本気で対応されそうだ」と思わせ、模倣行為を事前に牽制する効果も期待できます。
4. 文字商標とシンボルマーク(アイコン)のときはどう考えればいいの?
文字商標とロゴ商標のどちらを登録すればいいか迷うもう一つのケースとして、ロゴ商標が「シンボルマーク」の場合があります。
シンボルマークとは、たとえば下記のメルセデス・ベンツのエンブレム部分のように「図形や絵柄のみからなる商標」のことです。
このような商標の場合、主に2つの選択肢で迷うことになります。①文字商標とシンボルマークを別々に登録するか、②文字商標とシンボルマークの組み合わせで登録するか、です。
- 文字商標とシンボルマークを別々に登録する
- 文字商標とシンボルマークの組み合わせで登録する
この場合は、できる限り「①文字商標とシンボルマークを別々に登録する」を選ぶことをおすすめします。
なぜなら、文字商標とシンボルマークを別々に(両方とも)登録しておけば、「文字商標とシンボルマークをそれぞれ単独で使用したり、さまざまなレイアウトで使用しても問題ない」というメリットが受けられるからです。
一方、「文字商標とシンボルマークを同じレイアウトでセットで使うのがほとんど」という場合には、「②文字商標とシンボルマークの組み合わせで登録する」ことでもリスクは小さいといえます。
別々に商標登録するのは2件分の費用がかかるので、2件分の費用をどうしても捻出できない場合は、この②も現実的な選択肢となります。
まとめ
最後にまとめです。
- 文字商標とは「普通の書体で表された文字だけの商標」のこと
- ロゴ商標とは、「特殊な書体やデザインによりロゴ化された商標」や「アイコンなどの図形や絵柄で作られた商標」のこと。「ロゴ化された文字と図形や絵柄のアイコンを組み合わせた商標」もロゴ商標と呼ぶことがある
- 商標名だけでなくロゴ商標も用意してある場合、商標登録のときには次の選択肢がある
- 文字商標として登録する
- ロゴ商標として登録する
- 両方とも登録する
- どれを選ぶのがいいかは、予算や状況により変わる。常に決まった正解はない。毎回どちらにすべきか考えよう
- 文字商標のみを登録すればいい場合の例
- ロゴの可読性が良く、誰が見ても同じように文字をはっきりと読める場合
- ロゴデザインが複数パターンあったり、今は1パターンしかなくても今後デザインが変わるかもしれない場合
- ロゴデザインに強い思い入れがない場合
- ロゴ商標のみを登録すればいい場合の例
- ロゴの可読性が良く、誰が見ても同じように文字をはっきりと読める場合
- ロゴデザインが固まっていて、しばらくは変わらない場合
- ロゴデザインに強い思い入れがある場合
- 文字商標とロゴ商標の両方を登録した方がいい場合
- ロゴのデザインが特殊で、誰が見ても同じように文字をはっきりと読めるとは限らない場合
- 文字商標にもロゴ商標にもRマークを付けて使いたい場合
- 文字商標とロゴ商標のどちらも第三者にライセンスをする可能性がある場合
- 重要なブランドであり、権利による保護を万全にしたい場合
- 文字商標とシンボルマーク(アイコン)のときは、次のように考えるとよい
- できる限り「①文字商標とシンボルマークを別々に登録する」を選ぶのがおすすめ
- 「文字商標とシンボルマークを同じレイアウトでセットで使うのがほとんど」という場合には「②文字商標とシンボルマークの組み合わせで登録する」ことでもリスクは小さい
ロゴ商標と文字商標のどちらを登録するかは、商標の守られ方や費用に関わってくる事項のため、とても重要です。
この記事で解説したポイントは、商標の実務家がこれまでの経験をもとに言語化したものとなりますので、ぜひご参考になれば幸いです。
内容を図解でまとめ(グラレコ)
おまけ:ロゴマークを制作するときの便利ツール
優れたコンセプトとデザインのロゴマークは、ブランドイメージを適切かつ素早く伝えるとともに、そのブランドの記憶が消費者の脳に刻まれやすくなるため、ブランド構築にとって非常に重要です。
一方で、良いロゴマークを考案・制作するのは、素人が行うのはなかなか難しく、優れたロゴデザイナーの力を借りる必要があるのが一般的です。
しかし最近は、デザイナーでなくても使える、優れたロゴマークを制作するためのツールが登場してきています。Canva は、魅力的なロゴが簡単に作成できる豊富なテンプレートを元に、オリジナルのロゴを制作することができます。デザインのプロが作成した高品質なテンプレートを簡単操作で編集できるので、デザインの専門知識がなくても、ロゴのコンセプトやイメージ、名前が思い浮かんでいれば、簡単にロゴを制作できます。特に、小規模ビジネスなどでデザインに割ける資金が限られている場合には、とても有用なサービスだと思います。
このようなデザインツールも活用しながらロゴを制作し、ある程度デザイン案が固まったら、商標として使用したり登録できるように、商標登録のプロセスを進める。この流れを習慣化できたら、例え個人であっても有効なロゴ活用の流れを取り入れることができます。ぜひ、こちらも参考にしていただたら幸いです。