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料理レシピの革命児!クックパッドに学ぶ、事業成長と結びつく知財

自分自身や家族のために、毎日の食事を作るとき、どのように献立を決めていますか?

レシピを参考にする方も多いのではないでしょうか。

私は、食べたいメニューのレシピをスマホで検索して、そのままキッチンでスマホを見ながら料理をすることが多いです。

いつの間にか、スマホでレシピを探すスタイルが定着しましたね。

遡ること10年以上前、初めて1人暮らしを始めたとき、料理レシピの本を何冊か購入した記憶があります。本をめくりながら献立を決めていました。実家の母は、雑誌の切り抜きを集めたり、テレビの料理番組を見ながらメモしたりして、自分でレシピノートを作っていました。

約10年で、レシピのあり方が大きく変わったように感じます。

「料理レシピ業界の常識を変えた仕掛け人」として真っ先に思い浮かぶのが、クックパッドではないでしょうか?

クックパッドで検索すると、大抵欲しいレシピが見つかる。「レシピといえば、クックパッド」というイメージが、私たちの中にすっかり定着しています。

しかしクックパッドの急成長の裏には、どのような戦略があったのでしょうか?そしてクックパッドの成長に、知的財産はどのように関わってきたのでしょうか。

本記事では、短い期間で業界の常識を変えた先人、クックパッドの知財を見ていくことで、事業の成長と知財の関わりについて、学んでみたいと思います。

 

 

0.クックパッドのビジネスモデル

本編に入る前に、クックパッドのビジネスモデルを見てみたいと思います。

ユーザ視点で見てみると、クックパッドの利用シーンは大きく二つに分かれています。一つはレシピを検索・閲覧すること。もう一つは、自ら作ったレシピを投稿することです。

クックパッドのサービスは、ユーザによるレシピの投稿(提供)と、レシピの閲覧(利用)の双方で成り立っているのです。この部分が、クックパッドのサービスの特徴とも言えます。

クックパッド公式サイト

料理の専門家ではない一般のユーザーが、自分の開発したレシピを気軽に投稿できる。レシピを見たユーザーからコメントを受け取り、さらに次のレシピ開発に活かすことができる。レシピ投稿をきっかけに有名になった方もいらっしゃいますね。

このように、一般人がレシピ投稿できる環境を作り、閲覧ユーザーからの反響を受けてさらに次のレシピを投稿したくなる。一般ユーザーを巻き込む工夫や着眼点が、当時の料理レシピ業界では新しく、クックパッドが成長した大きな理由の一つと言えるでしょう。

1.シェア獲得(マーケット拡大)のための作戦とは?

上述の通り、クックパッドはレシピを閲覧するユーザーと、レシピを投稿するユーザーの双方で成り立っています。よって、マーケットの拡大を考える際には、レシピを閲覧する側のユーザーを増やす工夫と、レシピを提供する側のユーザ―を増やす工夫の両方が必要になります。

言葉で書くと簡単ですが、実際に上手く機能させるのは難しい。

この点、クックパッドは数々の特許を出願・権利化していました。特許の内容から、閲覧ユーザー、投稿ユーザーの双方を増やす工夫がなされている様子が伺えます。

中でも興味深かった案件をご紹介します。

1-1.投稿者を増やす工夫

レシピ投稿者を増やす工夫については、「ユーザーの投稿作業の負担を減らす」観点で特許出願されていました。

J-PlatPat特許検索

投稿する料理を撮影、画像を送信すると、レシピ作成の際の雛型として既に投稿されている類似レシピが提示されます。

投稿者は、類似レシピ(雛型)を編集するだけで自分の投稿が完成するので、1からレシピを作るよりもかなり簡単に、レシピを作成、投稿することができます。

簡単にレシピを投稿することができれば、投稿数も自然と増えていきそうですね。

また、投稿者のモチベーションを上げる仕掛けとして有名なのが「つくれぽ」です。

つくれぽは、商標登録されています。

Toreru商標検索

投稿されているレシピに対して、実際に作ってみたユーザーがその感想を写真付きでさらに投稿できるものです。

レシピにつくれぽがたくさん投稿されると、レシピに対する信用が蓄積されていき、投稿者のモチベーション維持に繋がります。また、閲覧者側はつくれぽ数をレシピを選定する際の基準にすることもできます。

要するにレシピ作成者へ寄せられるコメントなのですが、これに「つくれぽ」というユニークなネーミングが付けられており、特別感が感じられます。ネーミングにこだわっていることは、商標登録されていることからも分かります。

クックパッドユーザーであれば、「つくれぽ」と聞くとクックパッド特有のサービスであることがすぐに思い浮かぶほど、認識もされています。

「つくれぽ」は、2006年からスタートしましたが、2019年に大きなリニューアルがされました。

元々は「レシピ投稿者への感謝」というコンセプトでしたが、リニューアルでは「今日の料理を決めようとしているユーザーへのおすすめ」というコンセプトに変わり、動画が投稿できるようになったり、ハッシュタグ機能が使えるようになっています。

13年続いた「つくれぽ」をリニューアルした話|Misaki Kubosaka|note

レシピを見たユーザーが実際に料理を作り、他のユーザーにおすすめすることで、さらなるユーザーが集まる。これはレシピ投稿者にとっても大きなモチベーションでしょう。

クックパッドには投稿者を増やすための様々な工夫が詰まっているのです。

1-2:閲覧者を増やす工夫

レシピ閲覧者を増やす工夫については、「ユーザの好みに合ったレシピをレコメンドする」観点で特許出願されていました。

毎日の食事となると、レシピを探すのすら面倒なときも…そのとき、おすすめレシピを教えてくれるサービスがあれば、とてもありがたいです。

J-PlatPat特許検索

レシピサーバに格納されているレシピには、それぞれ味に関する指標が付与されています。

一方で、ユーザのレシピ閲覧履歴から、ユーザごとに嗜好が推定されています。

閲覧者の嗜好に合ったレシピを提示することができるシステムです。

ここでご紹介した特許に限らず、ユーザー増加の工夫については、何件も特許出願されており、クックパッドが力を入れている部分であることが伺えますね。

実際に、ユーザ数の急激な増加を遂げているデータもあります。

2016年決算説明資料P.14

投稿者側を増やす工夫、閲覧者側を増やす工夫のいずれについても複数、特許出願されており、シェアの拡大の裏には、特許出願がたくさん存在していたことが分かります。

2.動画ブーム到来!そのとき、クックパッドが練った戦略は?

これまで見た通り、クックパッドはユーザを増やしながら著しく成長を遂げてきました。ただ近年、世の中では動画コンテンツが勢いを増してきています。料理業界でも、テキストベースのレシピのみならず、動画でレシピを紹介するコンテンツも目立つようになりました。

例えばDELISHKICHINのレシピ動画は、クオリティも高く、見ているだけでお腹が空いてしまいそうですね。

DELISH KITCHEN

この、動画コンテンツの出現及び増加の動きに、クックパッドはどのような戦略を練ったのでしょうか?

上述した通り、クックパッドは、「一般ユーザが簡単にレシピを投稿できる」ことにより、豊富なレシピが揃う、という強みがあります。しかし、一般ユーザが各々でレシピ動画を作るとなると、本来の強みである「レシピ作成の手軽さ・簡単さ」とは矛盾が生じてしまう可能性も出てきます。テキスト&写真ベースのレシピとは異なり、動画を作るのは撮影設備や編集など、どうしてもハードルが上がります。

そのような課題に対し、クックパッドは簡単に動画が作成できるサービス「クックパッドスタジオ」を立ち上げました。

クックパッド公式サイト

スタジオには、キッチンと動画撮影の機材が揃っており、ユーザはこのスタジオで、投稿用のレシピ動画を簡単に作ることができるそうです!

これなら、動画作成に明るくないユーザでも、素敵な動画を簡単に作ることができ、結果として、動画コンテンツの投稿数増加が見込めそうです。

この、クックパッドスタジオを利用したレシピ投稿を支援するシステムが、特許出願・権利化されていました。

J-PlatPat特許検索

ユーザが作成したテキストベースのレシピ情報と、ユーザがスタジオのキッチンを使用する際の認証情報が対応付けられています。ユーザがスタジオのキッチンで認証を行うと、キッチンに備え付けられている端末に、テキストベースのレシピ情報が表示されます。ユーザはそのレシピ表示を見ながら調理動画を撮影できます。さらには、撮影した動画についても、テキストベースのレシピ情報と対応付けられているので、他のユーザのコンテンツと混同することなく、動画編集や投稿を簡単に行うことが可能です。

3.レシピの会社から料理の会社へ、更なる成長と知財

このようにユーザ数を増やし、短期間の間にシェアを拡大させたクックパッド。

数年前より、「レシピの会社から、料理の会社へ」という目標を掲げています。

決算補足説明資料(2021年)

クックパッドが2017年からの10年間の投資フェーズで達成したいこと、より抜粋

レシピそのものを提供する会社から、料理の体験を提供する会社へ。このような目標に伴い、近年クックパッドは料理レシピに限定されず、様々なサービスをリリースしているのをご存知でしたか?

そしてそれらのサービスのそれぞれについて、特許出願も見つかり、知財でビジネスをしっかりと保護する姿勢が伺えます。

ここでは魅力的なサービスを3つ、知財とともにご紹介したいと思います。

3-1.クックパッドストアTV

挑戦している事業 | CookpadTV株式会社

最近、近所のスーパーでも見かけるようになりました。買い物に行く度に息子が釘付けになり、なかなか売り場を離れようとしません。

クックパッドの人気レシピを動画化し、スーパーマーケットの売り場と連動して配信されています。流れているレシピ動画を見て、「今晩、これ作ろう」と決めたら、近くに並んでいる食材を購入するだけ!

レシピを決めたり、購入する食材を決定したりする負担が軽くなりますね。

この、クックパッドストアに関連するアイデアが、特許出願されていました。

J-PlatPat特許検索

サイネージ端末を設置しているスーパーの特売情報やタイムセールの情報に基づいて、レシピ動画が選択されます。選択されたレシピ動画が店舗の端末で流れます。

同時に、顧客のスマホ等に特売情報を配信することにより、顧客が来店するきっかけになります。実際に来店した顧客は、端末動画が目に留まり、その動画で配信されているレシピに必要な材料を購入します。

ユーザーのメリットとしては夕飯の献立を考えるのが楽になり、必要な食材を特売価格で購入することができます。

店舗側は、端末付近に顧客が一定時間滞在していたこと、また、レジで材料をお会計したことに基づいて、『動画視聴を通じて購入された』というデータを取得することができます。

端末付近への顧客の滞在については、サイネージ端末と顧客端末の無線通信によって確認できます。

3-2.調味料サーバ『oicy Taste』

クックパッド公式サイト

このデバイスを見た瞬間、これ、我が家にも欲しい!と思ってしまいました。

 

レシピ連動調味料サーバの『OiCy Taste』は、クックパッドのレシピを選ぶだけで必要な分量の調味料を自動で計量してくれます。

これについても、関連する特許が見つかりました。

J-PlatPat特許検索

しょうゆ、みりん、酒などの調味料を自動で調合してくれます。

特許の内容には、人数に応じた量の調整も可能。また、レシピ通りの再現だけでなく、カスタマイズも可能、例えば子供用の味付けにするなど、ユーザの嗜好に沿った配合比に調整することもできます。これらは過去の履歴情報に基づいてアップデートされていきます。

3-3.クックパッドMart

クックパッド公式サイト

料理だけでなく、食材の買い出し工程から支援するサービスです。

街の販売店や地域の農家などの商品を購入し、ユーザーが指定した場所まで配送してくれます。

このとき配送先は自宅以外の、例えば近所のコンビニや駅などを指定できるのが特徴です。自宅で受け取り待ちをする必要がありません。指定場所には、温度管理のできるBOXが設置されているので生鮮食材の保管も安心です。

このクックパッドMartのサービスについての特許出願を見つけました。

J-PlatPat特許検索

顧客より注文を受けると、買い物ルート、配送ルートを決定します。トラックで直接店舗へ買い回り、顧客より指定された受け取り場所まで配達します。

受け取り場所には冷蔵庫のような温度管理装置が設置されており、顧客が商品を受け取るまで、設定された温度環境下で保存できます。配送先が自宅でない点、特許明細書にも明記されていますね。

4.まとめ

今回は、クックパッドの事業と知財について調べてみました。

まず、シェアの拡大に向けて、料理レシピを投稿するユーザ、閲覧するユーザ双方の数を増やす工夫が特許出願からも伺えました。

さらに、クックパッドはレシピに限らず料理全体に視野を広げ、料理に必要な買い出し工程から関わるサービスや、調理をサポートするシステムなど幅広く展開しています。これらの新たなサービスについても、それぞれで特許出願されていることが分かりました。また、特許に限らず、クックパッド特有のサービスにはユニークな名前が付けられ、商標登録されています。

クックパッドならではの新しいサービスについて、特許と商標をしっかりと取得することで他社の模倣を防ぎ、ビジネスの優位性を築く。

このように、シェア獲得及びサービス展開のいずれにも、知財が密接に関わっている様子が伺えました。クックパッドの急成長を支える柱の一つに知財があったとも言えますね。

レシピからスタートしたクックパッド。これから私たちの毎日の料理をどのように変えていってくれるのでしょう!今後も楽しみです!!

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