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知財テックとは?

近年のテクノロジーの凄まじい発達により、さまざまな分野で「〇〇テック」が生まれています。

知財分野もその例外ではなく、「知財テック」がこの数年で勢いを増しています。

知財分野のテック化はリーガルテックの一つとして扱われることも多いですが、知財分野の特殊性から独自の発達を遂げています。

本メディアを運営する Toreru も知財テックを牽引する企業の一つです。そこで、 Toreru Media の2022年の注力テーマを「知財テック」とし、シリーズ記事を公開していくことにしました。

今回はそのシリーズ第一弾として、「知財テックとは?」と題し、現在の知財テックを概観しつつ、知財テックのメリット・デメリットや、リーガルテックとの違い、導入時のポイントなどを解説します。

1. 知財テックとは

知財テックとは、知的財産分野に特化したテクノロジーの総称です。

知財業務を行う方たち、特に特許事務所、企業、特許庁などで使用されるテクノロジーです。

典型的な知的財産には、特許実用新案意匠商標があります。さらにこれらの分野は、それぞれ(知財の)①創出②権利化③活用のフェーズに分けられます。

知財テックは、この各フェーズにおけるさまざまな業務を効率化することを目指して開発・活用されます。

知財テックのサービスとしては、たとえば、AI(人工知能)を使って似たような特許文献を自動検索するAI特許検索サービスや、クラウド上で商標登録が完結する商標登録サービスなどがあります。

また、サービス提供の仕方にもいくつかあり、たとえば、ウェブアプリとして提供する SaaS(Software as a Services)形式や、それ以外のサービス形式があります。

2. なぜ、いま知財テック?

テクノロジーそれ自体は、これまでも知財業務を助けてきました。手書きの特許文書がワープロやパソコンでタイプできるようになったことや、資料の手めくりではなくインターネットで検索できるようになったことなどがそうです。

ではなぜ、いま改めて知財テックが注目されているのでしょうか?

近年知財テックが盛り上がってきたのは、主に次のような要因によってではないかと思います。

  • AWSなどのクラウドサーバーの発達
  • Ruby on Rails などのウェブアプリケーション開発技術の発達
  • ディープラーニングなどのAIの発達
  • スタートアップ投資の盛り上がり
  • UI / UX などを重視したデザイン指向の高まり

これらの環境変化や潮流により、誰でも高度な技術が利用できるようになり、これまでよりも便利で使いやすいツールやサービスを作りやすくなりました。作りやすい環境が整えば、知財テック系のサービスが急激に増えてくるのは自然な流れです。

知財テックの加速は、知財業界の働き方や、作業フローを大きく変えるポテンシャルがあります。働き方や重視されるスキルなどが変わると、その業界で働く人に大きな影響を及ぼすため、「弁理士はAIに取って代わられるのか?」のような議論も巻き起こります。こうした点も知財テックが注目される要因の一つでしょう。

3. 知財テックの種類

それでは、知財テックには具体的にどのようなもの(用途)があるのでしょうか。

ここでは、執筆時現在において見られる主要な知財テックをカテゴライズしてみたいと思います。

①特許検索

特許検索は、特許公報などの特許に関する文献から、見つけたい技術文献を探してくる業務です。すでにその技術が公開されていないかを調べる先行技術調査や、他人の特許を無効にするための資料を探す無効資料調査が典型的です。

このような特許検索を便利にする知財テックがあります。

目的

  • 先行技術調査
  • 無効資料調査

方法

AIの一つである自然言語処理という技術を使って特許検索をします。

これまでの特許検索手法は、特定のキーワードや特許分類(特許庁が技術分野ごとに付与する分類コード)を入力して検索するものでした。

一方、この自然言語処理(AI)を活用した特許検索ツールでは、キーワードや特許分類を入力するのではなく、「文章」を与えて検索できます。

これにより、たとえば、社内で上がってきた「発明提案書」の文章をコピペして入力するだけで、「似た内容の先行技術文献」を見つけてきてくれる、というような体験が期待できます。

キーワードや特許分類を使った従来の検索手法ではコツや専門知識が必要ですが、自然言語処理を使った新しい検索手法では専門的な検索知識は不要になるかもしれません。

このような大きなメリットがある一方で、検索結果のクオリティや効率性がAIの精度に大きく依存するというデメリット(課題)もあります。

注意点

そのため、特許検索の知財テックを活用するにあたっては、以下のような注意点を押さえておくとよいでしょう。

  • 検索結果の網羅性が疑わしい場合や、より高精度の検索を求める場合は、別途キーワード検索や特許分類検索などの従来の方法で補う必要がある
  • 入力する文章によっても検索結果が変わるため、AIのクセを学ぶことも重要

参考:特許検索に関する知財テックサービス

②特許明細書作成支援

特許業務の中で最も重要で負担の重い業務の一つが特許明細書の作成です。

特許明細書とは、特許を取りたいときに特許庁に提出する出願書類のことです。特許明細書には、特許を取りたい発明の内容をかなり詳細かつ一定のルールに沿って書かなければなりません。

そのため、特許明細書の作成は専門家でもとても大きな労力がかかる業務です。特許明細書の作成を支援する知財テックでは、この労力を軽減するためにテクノロジーを活用しようとしています。

目的

  • 明細書の下書きを作成する
  • 明細書をチェックする
  • 明細書を一部自動作成する

方法

ひと口に「特許明細書の作成をテクノロジーで支援する」と言っても、様々な方法があります。

現在は、たとえば次のような方法で特許明細書作成を効率化するツールが見られます。

  • 一部の文章(請求項)を入れるだけで特許明細書や図面が作成されるもの
  • 符号(明細書中でたとえば「制御装置3」のように振る番号など)を一定のルールに基づいて自動生成するもの
  • 発明提案書とその類似特許から特許明細書を生成するもの
  • テンプレートを選び、発明提案書を入力して特許明細書を生成するもの

注意点

特許明細書は、そこに書かれた内容がダイレクトに権利化される内容に反映されるため、なかなかクオリティを犠牲にすることはできません。

そのため、やはり特許明細書作成支援ツールの精度の高さが一番の課題でしょう。ツールを使うこと自体は簡単でも、自動生成された特許明細書の内容がイマイチであれば、結局はそれを人の手で直さなければならなくなります。

また、特許明細書作成を支援する事業者には、弁理士法違反にならないように注意する必要もあります。「他人のために特許明細書の作成を有償で支援する行為」は、弁理士法により弁理士の専権業務とされています。そうすると、特許明細書の作成支援ツール(システム)を提供する事業者も弁理士や弁理士法人でなければいけないのか?という問題が出てくるのです。

グレーゾーン解消制度について

これに関して、2022年2月に経済産業省のグレーゾーン解消制度で同省の見解が示されました。この見解では、 弁理士向けに特許明細書作成支援システムを提供することは弁理士法違反とならないと考えられており、 一般企業向けに特許明細書作成支援システムを提供すると弁理士法違反となる可能性があるとの見解が出されています。

参考:特許明細書作成支援に関する知財テックサービス

③特許ウォッチング

特許ウォッチングとは、他社特許の動向を監視する業務のことです。

動向を常に監視する作業は、手間がかかり、終わりがないため、この特許ウォッチングも知財テックによる自動化・効率化のニーズがあります。

目的

  • 他社特許の動向を監視し、権利化防止策を講じたり競合分析したりする機会を逃さないようにする

方法

たとえば次のような方法で他社特許情報に関する自動通知をもらうことが考えられます。

  • 出願番号を登録しておき、その案件について出願経過に動きがあったら通知をもらう
  • あらかじめ登録したキーワードに引っかかる出願があったら通知をもらう

注意点

ツールが他社特許の情報を自動通知してくれるのはとても便利です。

一方で、設定した条件に当てはまるものは全て通知されるので、大量に情報が届く場合が予想されます。通知が多すぎて全て見るのが大変になることがあるかもしれません。また、通知されるものの中に実際には関心の低い案件が混じっていると、通知が来てもだんだん見たくなくなるという事態もありえます。

このあたりが、利用上の注意点と言えそうです。

参考:特許ウォッチングに関する知財テックサービス

④商標検索

商標の登録・使用の障害になる他人の商標の存在を調べるときに行うのが商標検索です。

商標検索の業務では、主に①似たような商標を見つけることと、②見つかった商標が本当に「類似」(抵触)するのか判断すること、この二つを簡単かつ高精度にしたいというニーズがあります。

ここに知財テックが活用されています。

目的

  • 先行商標調査
  • 商標権侵害調査

方法

商標検索には、ネーミングなどの文字商標を検索するテキスト検索と、シンボルマークなどの図形商標(画像商標)を検索する画像検索があります。

それぞれ、たとえば次のような機能が知財テックで実現されてきています。

テキスト検索

  • 類似商標の検索だけでなくAIによる類似度の判定が可能
  • 商標の識別力(独自性)の判定も一部可能

画像検索

  • これまでの図形分類(特許庁が付与する分類記号)による検索ではなく、AIを使って「画像データを放り込むだけ検索」が可能
  • AIの画像認識精度が高まっているため、同一の商標は高い確率で検索できる

注意点

AI活用により作業効率を大幅に高める余地がある一方で、次のような注意点があります。

テキスト検索

  • AIによる類似度の判定は統計的処理のため、弁理士の判断のように、個別事案に基づいた判断や、審決・判例・使用例などを踏まえた判断がされていない場合がある。
  • このように判断精度に限界があるので、高精度を求めるなら弁理士の判断が必要

画像検索

  • 検索精度に限界があるため、高精度を求めるなら別途従来の「図形分類での検索」もした方がいい

特許庁の画像検索コンペティションについて

2021年11月~2022年1月にかけて、『AI × 商標 イメージサーチコンペティション』と題した特許庁初のAIコンペが実施されました。

類似する図形商標のデータを基に機械学習を行い「大量に存在する図形商標から類似(正解)画像を予測するモデル」を開発者から募集し、その精度を競うものです。

目的の一つに「政府のシステム開発に参画する機会」を開発者に与えることが挙げられています。

民間事業者だけでなく、特許庁もAIによる画像検索には大きな関心を持っていることが窺えます。

参考:商標検索に関する知財テックサービス

⑤商標登録

商標分野は知財業界の中でも知財テックの導入がよく進んでおり、商標の出願~登録の一連の手続きを知財テックで効率化するサービスがすでに活発に利用されています。

商標登録出願の手続きまわりでは、指定商品(役務)の選定や、出願書類(願書)をはじめとする各種手続書類の作成、出願経過の管理などについて、AIやルールベースによる自動化処理やクラウド技術による効率化が図られています。

目的

  • 指定商品・指定役務の選定
  • 商標登録出願に関する各種手続書類の作成
  • 出願経過情報を管理

方法

具体的には、知財テックによりたとえば次のようなことが可能になっています。

  • 願書を自動作成後に弁理士が特許庁に提出
  • 指定商品・指定役務の選定をシステムが補助
  • 自動化により、出願から登録まで手数料無料で出願できるサービス

注意点

商標登録の知財テックはかなり実用化が進んでいるため比較的安定していますが、現時点での技術的限界や、利用するサービスのクオリティに気をつけながら活用する必要があります。

  • システムによる補助があったとしても、指定商品・指定役務を自分で選ぶ場合は、ある程度の知識がないとリスクがある
  • 出願前に商標調査まで行ってくれる場合は、サービスによって商標調査の質の違いが大きい

参考:商標登録に関する知財テックサービス

⑥商標登録出願ウォッチング

特許と同じように、商標分野でも他社商標の動向を監視する業務があります。

まず一つは他社出願のウォッチングです。

目的

  • 他社商標の動向を監視し、権利化防止策を講じたり競合分析したりする機会を逃さないようにする

方法

たとえば次のような方法で他社商標情報に関する自動通知をもらうことが考えられます。

  • 商標名を入力することで、それに類似する商標の案件が出願されたら通知をもらう
  • 案件番号を入力することで、出願経過に動きがあったら通知をもらう

参考:商標登録出願ウォッチングに関する知財テックサービス

⑦商標権利侵害ウォッチング

もう一つは、他社が自分の商標権を侵害していないかを監視するウォッチングです。

目的

  • 自分の商標権が侵害されていないかウォッチングする

方法

他人の出願ではなく権利侵害をウォッチングする場合、特許庁への出願行為ではなく、市場での商標使用行為をウォッチングする必要があります。

そのための一つの方法として、Google広告などのリスティング広告を監視する方法があります。

参考:商標権利侵害ウォッチングに関する知財テックサービス

⑧意匠検索

特許や商標だけでなく、デザインの知財である意匠分野でも知財テックの活用が考えられます。

特に意匠検索の領域は、画像認識が得意なAIとの相性が良く、すでにサービス化されているものがあります。

目的

  • 先行意匠調査
  • 意匠権侵害調査

方法

画像を放り込んで類似の意匠図面を検索する方法のほか、テキスト情報から画像の特徴を予測して意匠図面を検索するということも可能になるかもしれません。

  • 画像で意匠図面を検索する
  • テキストのキーワードで検索する

参考:意匠検索に関する知財テックサービス

⑨知財管理

早くからテクノロジーが取り入れられてきた領域に知財管理があります。

一社でたくさんの知財権を取得する場合、自社がどの国でどんな権利を持っているのか、手続きの進捗や期限がどうなっているのかを管理するのはとても煩雑です。

事務的な処理がほとんどのため、知財テックを活用しやすい領域でもあります。

目的

  • 自社の知財権についてデータ蓄積
  • 特許庁の手続きに対する期限管理

方法

  • クラウドシステムにより知財管理する
  • 特許庁の電子出願ソフトで使う手続書類ファイル(xml)などをデータベースに取り込む
  • 特許庁から提供されるデータと自動連携する
  • メールによる期限通知
  • 蓄積したデータをグラフ化

参考:知財管理に関する知財テックサービス

⑩パテントマップ・IPランドスケープ

最後に、特許をはじめとする知財権の情報を分析して経営戦略などに活かそうとするパテントマップIPランドスケープと呼ばれる領域があります。

知財権の大きな特徴の一つに「情報が公開されている」という点があります。他社や業界の技術動向を分析するには貴重な情報です。

膨大な公開データを処理することはAIなどのテクノロジーの得意分野ですから、知財テックとの親和性が高い領域と言えるでしょう。

現在見られるパテントマップ・IPランドスケープ系のサービスについては、こちらのサイトによくまとまっています。

https://patent-i.com/ja/wiki/analysis/

4. 知財テックの導入のメリット

知財テックを導入するメリットは、主に以下の3つです。

  1. 手間削減
  2. コスト削減
  3. ミスの軽減

知財テックは基本的に「自動化」と「判断の補助」を指向しています。

ある作業が自動化されることで、手間とコストの削減ができます。一定のルール通りに処理することにかけてはプログラムはミスしないため、自動化によりミスの軽減も期待できます。

また、システムが情報の整理や予測をすることで人が行う判断を補助できれば、判断のスピード・労力・精度が上がることが期待できます。これも上記3つのメリットにつながります。

5. 知財テックの導入のデメリット

逆に、次の点がデメリットとして挙げられるでしょう。

  1. システム費用増加
  2. AIの精度が悪かったり、システムが使いにくい場合は、手間・コスト・ミスが削減されない

6. リーガルテックと知財テックの違い

知財テックと関連性が深いテクノロジーにリーガルテックがあります。

知財権は法律分野でもあるため、知財テックはリーガルテックの一分野とも言えます。一方で、リーガルテックとは異なる、知財テック特有の特徴があります。

その特徴をひとことで言うと、知財テックはリーガル分野を超えた領域にも活用されるということです。

たとえば、以下のような形で他分野とも密接に関連します。

マーケティング分野との関連

  • 商標から競合他社の事業を把握
  • リスティング広告の戦略を構築

技術開発分野との関連

  • IPランドスケープなどから自社や他社の技術動向を把握
  • 特許ウォッチングから他社の技術動向を把握

ブランド分野との関連

  • インターネット上での言葉の使われ方からワードの独自性を判定し、ネーミング作成の参考にする
  • インターネット情報からブランド力をスコア化
  • 商標ウォッチングからブランド保護

7. 知財テック導入の手順

知財テックが発達するにしたがって、知財テック系サービスも増えてきています。何らかの形で自社の業務への導入を考えている人も多いかと思います。

知財テックの導入は、以下の手順で行いましょう。

  1. 自社の課題をリストアップ
  2. ツール選定
  3. トライアル
  4. 本格導入

やみくもに知財テックを導入しても仕方ありません。知財テックは自社の状況に合わせて賢く使うことではじめて、メリットを最大限享受し、デメリットを小さくすることができます。

まずは自社の今の課題は何なのかを洗い出しましょう。

その上で、その課題を解決できそうな知財テックサービス(ツール)を選定します。

候補のツールをある程度絞り込んだら、本格的に導入する前に、必ずトライアルをしましょう。実際に使ってみて、本当に使いやすいか、精度が十分であるかを確認することが大切です。

ツールそのもののクオリティもさることながら、導入する現場にうまく馴染むかどうかも重要なポイントです。サブスクリプション型のサービスの場合は、いきなり年契約するのはリスクが高いので、まずは月契約などで小さく初めて現場検証することをおすすめします。

おわりに

いかがでしたでしょうか?

知財テックは、黎明期を過ぎて、感度の高い層を中心に実際の業務に活用されてきている状況にあります。

AIやITインフラなどのテクノロジーも、他社が提供するものをどんどん安価で簡単に利用できるようになっています。

そのため、これからも知財テック系サービスは増え、現在のPCやインターネットのように、知財テックを活用すること自体は徐々に当たり前になっていくでしょう。

そこで開発者側にも利用者側にも重要となるのが「どこにどう使うか」です。効果的な活用方法を見出すには、頭で考えるだけでなく実際に現場で使って検証することが必要です。

ぜひ今から「知財テック」にアンテナを張って情報収集や現場検証を行い、自分に合った「知財テック」との付き合い方を模索していきましょう!

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