まえがき
「戦わなければ、生き残れない!」これは、仮面ライダーシリーズの作品の1つである「仮面ライダー龍騎」のキャッチコピーです。13人の仮面ライダーが自らの望みを叶えるために最後の1人になるまで殺し合い続けるという破天荒な設定は放映当時賛否を巻き起こしました。
ネーミングを守る商標の世界も、まさに「戦わなければ、生き残れない!」世界。本記事では、仮面ライダーシリーズのタイトルに着目し、その商標戦略についてチェックします。
また、例年通りのスケジュールでいけば、本記事が公開される5月上旬は仮面ライダーの新シリーズの商標が出願公開される時期。記事後半では出願公開された商標を調べる方法についてご紹介します。
仮面ライダーシリーズとは
仮面ライダーシリーズとは、1971年(昭和46年)に放映が始まった「仮面ライダー」以降の石ノ森章太郎原作・東映制作による特撮テレビドラマシリーズです。仮面ライダーシリーズは2021年に生誕50周年を迎え、生誕50周年を記念した映画「シン・仮面ライダー」の製作が発表されたりと、最近なにかと話題です。ちなみに50周年ロゴは商標登録出願されており、現在審査中です。
本記事ではおもに「仮面ライダークウガ」から「仮面ライダージオウ」までの所謂「平成ライダーシリーズ」および「仮面ライダーゼロワン」以降の「令和ライダーシリーズ」のタイトルについて取り上げます。余談ですが、平成ライダーシリーズは若手俳優の登竜門とも言われており、オダギリジョー、要潤、瀬戸康史、菅田将暉など数々の有名俳優を輩出しています。ちなみに、ムード歌謡グループ「純烈」の小田井涼平も仮面ライダーシリーズ出身です。
余談ですが、筆者が仮面ライダーシリーズに親しむようになったきっかけは、東映特撮YouTube Officialで配信されていた「仮面ライダークウガ」でした。
はじめは特撮好きの夫が鑑賞していたのですが、なんの気も無しに横で見ていたら、ひたすらに人のために闘う主人公の姿に心を打たれ、いつしか彼を応援する気持ちが芽生えてきました。自分のことは後回しにしてでも人のことを助け、そして時には怒りのままに拳をふるうことに葛藤する。本当にいいヤツなんです。エンディングテーマ「青空になる」もそんな主人公の生き様にリンクして心に沁みます。
実際にライダー商標を検索してみた
平成ライダーシリーズ第一作の「仮面ライダークウガ」から、現在放映中の最新作「仮面ライダーセイバー」まで、22作品のタイトルが商標登録されてました。
「仮面ライダー」の文字商標も検索してみたのですが、最初の登録は1997年と平成仮面ライダーシリーズがはじまる3年前。平成仮面ライダーという歴史が始まる前に、しっかりと商標の保護強化もされていたようです。
「剣」と書いて「ブレイド」と読む。ファンにとっては常識だけど…?
平成以降の仮面ライダーのタイトルのなかには漢字表記のものもあります。たとえば、「戦わなければ、生き残れない!」仮面ライダー龍騎もその一つです。
漢字表記のタイトルの中には、二段併記で商標登録されているもののあります。初見では読み方がわかりづらい場合、その振り仮名を二段併記で記載することがあるのです。たとえば、仮面ライダー鎧武。初見で「ガイム」と読むのはすこし難しいですよね。
二段併記のメリットとしては、審査において振り仮名に称呼が限定されると判断されやすいということがあります。たとえば、二段併記で表記した振り仮名以外の読み方を考慮すると、類似する商標が存在する場合でも、登録になる可能性が高まります。たとえば、「鎧武」について「よろたけ」という商標が先に登録されていた場合でも、振り仮名で「ガイム」と記載しておけば、「これは『ガイム』としか読まないから、『よろたけ』とは類似しないよね」と審査官に判断してもらい、登録できる可能性が高まります。
ただし、審査基準は「振り仮名を付した文字商標」であっても、振り仮名どおりの読み方に限定されるとは言っていないので、あくまでケースバイケースです。
一方、二段併記で商標登録することにはデメリットもあります。例えば、二段併記の商標を一段だけ使用した場合は、不使用取消審判(※)の対象となるリスクがあります。
ライダー商標でも必ずしも二段併記で出願されているわけではないので、「タイトルがスムーズに読めるか」などから戦略的に判断しているのでしょう。
※不使用取消審判とは、商標登録された商標が使用されていない場合、その商標登録の取消を求めることができる制度です。不使用取消審判が申し立てられた場合、継続して3年以上日本国内でその商標が使用された実績がないときは、その商標登録が取り消されることになります。
参考文献:二段併記商標について パテント 2010 Vol.63 No.4
漢字表記ではありませんが、「仮面ライダーООО」もアルファベット表記と振り仮名の二段併記で商標登録されています。確かに、「000」を「オーズ」とは初見では読めないですよね。
ちなみに、「仮面ライダーООО」というタイトルには、「主人公がキーアイテム『オーメダル』のうち3つを組み合わせて戦うこと」、そして「オーズという読みは陰謀を企てる敵怪人の幹部(王)が複数存在する(王s)ということ」等という意味合いが込められています。
また、「仮面ライダー剣」のように漢字表記から読み方を想起する難易度が高い場合、漢字表記と読み方を別々に商標登録していることもあります。ファンにとっては常識かもしれませんが、これを初見で「ブレイド」と読むのは結構難しいですよね。
「剣」の上に「ブレイド」と振り仮名を振ってしまい、一つの出願にしなかった理由は、『仮面ライダーブレイド』と『仮面ライダー剣』を別々の表記として使用する可能性があったからでしょうか。
確かに1件の出願にまとめてしまえばコストは削減できるのですが、商標は登録された「文字やロゴ」の態様に基づいて権利が発生するもの。第三者の使用を確実に禁止するためにも、実態に合わせた商標を登録しておくことは、大切です。
「実際に使用するロゴを登録する」ことは、仮面ライダーシリーズの商標でも意識されており、最新作である『仮面ライダービルド』では、文字商標とロゴ商標、別々の登録がありました。
この登録を見ていて興味深いのは、文字商標は2017年5月、ロゴ商標は2017年11月と半年遅れで出願されていること。これは、文字商標はネーミングが決まった時点で第三者が取ってしまうことがないように早めに出願し、ロゴ商標はその後デザインを煮詰めて、決定稿になってから出願をしているのではないでしょうか。
まずは権利保全のスピードを優先しつつ、番組やキャラクター商品に使用する「作品ロゴ」も時間差で権利保全する。仮面ライダーを支える商標戦略といえそうです。
余談ですが、筆者が仮面ライダーシリーズに親しむきっかけとなった「仮面ライダークウガ」にも漢字表記があると言われており、第48話のタイトルである「空我」がそれにあたります。主人公の生きざまや、エンディングテーマ「青空になる」とリンクした「空我」という表記は、まさにタイトルにぴったりですね。
仮面ライダーシリーズのタイトルは毎年いつごろ出願公開されているの?
仮面ライダーシリーズは、毎年秋頃に新シリーズが放映開始されます。そして、そのタイトルの商標出願は、毎年5月〜6月頃に公開されています。直近の仮面ライダーシリーズのタイトルの出願公開時期は下記の通りです。
2020.06.30 仮面ライダーセイバー
2019.05.14 仮面ライダーゼロワン
2018.05.08 仮面ライダージオウ
2017.06.06 仮面ライダービルド
例年通りのスケジュールでいけば、この記事が公開されて間もなく、2021年秋スタートのシリーズのタイトルが発表されるはずです。
ここで、公開された商標登録出願の調べ方をご紹介します。まず、J-Plat Pat商標検索で「出願人」のキーワードに東映株式会社を入れて検索します。すると、検索一覧オプションが表示されるので、出願年別から「2021年」を選択すれば、最新の出願をすばやく見ることができます。
リンク:特許情報プラットフォーム|J-PlatPat [JPP] 商標検索
そのほか、Twitterなどで「商標速報bot」をフォローする方法もあります。秋の番組が始まるまで、商標タイトルから今年はどんな作品になるのか、色々とイメージを膨らませてみるのも楽しいのではないでしょうか。
さいごに
ネーミングを守る商標の世界は、まさに「戦わなければ、生き残れない!」世界。しかも、仮面ライダーシリーズのタイトルのような特殊な読み方のネーミングを守るには一筋縄ではいきません。
考えるべき要素として、一段書きで出願するか、または振り仮名を付けて二段併記にするか。文字商標とロゴ商標どちらを選ぶか、又は両方出願するか。もちろん出願タイミングや指定商品・区分のチョイスも重要です。
仮面ライダーシリーズでは、毎年作品タイトルを秋の放映開始に先だって5~6月に出願。加えて、ロゴ商標を追加で出願したり、作品タイトル自体も別途商標登録していることがわかりました。
複数の商標を組み合わせることで、保護範囲の死角を無くす、見事な商標戦略と言えるでしょう。
ただ、このような商標戦略の立案はなかなか難しいもの。
「戦わなければ、生き残れない! ・・・でもどう戦えばいいの?」
そんな時はネーミングを守る影のヒーローである弁理士にぜひご相談を!
<こちらもおススメ>