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3年がかりでたどり着いた、スタートアップと知財が混ざり合う場所〜suiP知財works vol.03 3周年記念イベントレポート

2025年4月24日、スタートアップコミュニティ「suiP(start-up intellectual Property)」の3周年記念イベントを開催しました。

そもそもsuiPの起こりは、コロナ真っ只中の2022年。
市川弁理士(当時リープマインド、現ティアフォー)、廣田弁理士(グローバル・ブレイン)、そして筆者の3人が弁理士会の委員会で遭遇しました。

当時は、スタートアップのインハウスの知財人材と出会うことは皆無で、各人が1人知財部として試行錯誤(という四苦八苦)しながら、それぞれの組織で役割を果たしている状況でした。

弁理士会の企画を話し合うという名目で開催したオンライン飲み会で苦労を分かち合って以来、すぐにコミュニティができました。当時は、ここまで大きくなるとも思っていませんでしたし、ましてや、ここまで続くとも思っていませんでした。

本記事では、そんなsuiPの発展を祝して毎年恒例となっている設立記念イベントについて紹介するとともに、改めて「suiPとは何なのか?」の言語化を試みます。

☆合わせて、suiP3周年イベントの登壇者(スタートアップの取締役)をお呼びした感想戦(Yotuubeラジオ「【suiP RADIO:特別編】suiP 3周年記念イベント 感想戦 - 原洋介さん(株式会社サイキンソー 取締役CFO)|森本数馬さん(セーフィー株式会社 取締役CTO)|木本大介(suiP)」)を公開しています。

滅多に聞けない「スタートアップ経営者から見た知財」が見える濃密なコンテンツですので、是非、ご視聴下さい。

ゲスト紹介

2003年 上智大学大学院電気電子工学専攻修了後、株式会社リコーに入社。知的財産部で、複写機を中心とした電気・機械分野の権利化業務に従事。

2006年 弁理士登録、特許事務所にて電気・ソフトウェア分野を中心に出願代理業務に従事。

2018年 ピクシーダストテクノロジーズ会社に知財マネージャとして参画。知的財産業務及び契約業務の実務及びマネジメントに従事。IP BASE AWARD 2021スタートアップ部門グランプリ、令和4年度「知財功労賞」の受賞に貢献。人事責任者や広報責任者も兼務。

現在に至る。

◆資格:弁理士(付記)

◆委員会等:「令和6年度IPランドスケープ支援事業」委員(INPIT)

suiPのあゆみ

suiP(start-up intellectual Property)は”スタートアップに知財を浸透させる”というMissionを掲げ、スタートアップのインハウス知財責任者・担当者が集まるコミュニティです。

(suiP公式サイトより抜粋)

要するに、スタートアップと知財の交差点。

それが、suiPです。

これまでsuiPでは、設立1年が経過した2023年に「1周年記念イベント」を、2024年に2周年記念イベントを開始し、今年2025年には3周年記念イベントを開催しました。

2023年~2024年は、知財の世界では知らない人はいないであろう鮫島弁護士(以下「鮫島先生」)のオフィスをお借りして、鮫島先生の事務所(内田・鮫島法律事務所)のメンバーの方々とディスカッションや懇親会を通して交流しました。

そして2025年。

日々の活動を通して、特許庁、INPIT、日本知的財産協会、大企業、VC、そしてスタートアップと、様々な関係者と密なネットワークを築くことができました。なにより、メンバーが大幅に増え、スタートアップ*知財という領域での人材多様性は群を抜く環境ができました。

この「ネットワーク」と「多様性」というsuiPらしさを前面に押し出す企画として、3回目にして初めて、外部の方々もお招きしたセミオープンイベントとしたのが、3周年記念イベントです。

suiP3周年記念イベントの内容

3周年記念イベントでは、企画として、2つのパネルディスカッションを実施しました。

企画1「ファイナンスから見る知財 - 企業価値向上のための知財戦略とは? -」

  • 登壇者(*はsuiPメンバー)
    • 廣田翔平 氏(グローバル・ブレイン)* :モデレータ
    • 古田哲晴 氏(セーフィー|取締役・CFO)
    • 山口仁 氏(ユニゾンキャピタル|CFO)
    • 原洋介 氏(サイキンソー|CFO)
    • 川島三喜男 氏(エクサウィザーズ|知的財産部長)*

企画2「スタートアップの知財部はどう生きるか」

  • 登壇者(*はsuiPメンバー)
    • 木本大介 氏(ピクシーダストテクノロジーズ|知財・法務・広報グループ長)*:モデレータ
    • 森本数馬 氏(セーフィー|取締役・CTO)
    • 藤田美樹 氏(リセ|代表取締役・弁護士)
    • 玉利泰成 氏(Poryuse|Bizdev・知財戦略マネージャ)*
    • 松丸美央 氏(VACAN|知財・人事・広報)*

パネルディスカッションレポート

企画1「ファイナンスから見る知財 - 企業価値向上のための知財戦略とは? -」

今回複数のCFOの方々に登壇いただける機会を得られたため、ファイナンスと知財をテーマに企画をしました。

特にスタートアップにおいてどのように企業価値を積み上げていけるのかという点は、資金調達において非常に重要なテーマです。企業価値向上において知財がどのように貢献できるのか、その上で日常の知財活動においてどのように考えていくべきなのかという観点でトークテーマを設定しています。

「ファイナンス」といっても、VCのインハウス弁理士、上場企業のCFO、未上場企業のCFO、上場企業の知財責任者、そしてキャピタリスト。

「ファイナンス x 知財」というお題にこれだけのバリエーション豊かなパネリストを揃えられるのも、suiPの人的ネットワークならではと言えるでしょう。

パネリストの廣田弁理士は、VCのインハウスという稀有な経験の持ち主であり、「知財 x ファイナンス」について知財関係者が知りたいことをストレートに掘り下げていました。

筆者も、「資金調達を有利に進めるために、どのように知財をアピールするか?」という相談を受けることがあります。

しかし、「知財をアピールすること」は、手段であって、目的にはなりません。投資家の期待は、あくまで、事業成長、そしてその継続性と蓋然性です。知財は、その説明材料の1つに過ぎません。

一方、知財には、単なる資金調達の説明材料以上の価値もあります。例えば、知財力をブランドに繋げ、それによって、スタートアップの企業価値を上げる。その結果として、資金調達を円滑に進める。

パネリストの方々の話から、このことを改めて確認することができました。

企画2「スタートアップの知財部はどう生きるか」

スタートアップに知財部は必要なのか?必要であれば、それはなぜなのか?

人が少ないスタートアップの中で、とにかく時間と大量の仕事に追われる。めまぐるしく変わる経営環境に必死にくらいついていく。これがスタートアップの知財部の日常です。

そんな中で、「知財部はどうすれば企業の成長に貢献できるのか?」。suiPではそんな議論を交わすこともあります。

この答えのない問いに対して、経営者の意見を直接聞いてみたい。そんな思いでテーマを設定しました。

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弁護士出身の経営者、エンジニア出身の経営者、そして、大企業の知財部出身のメンバー。

筆者も含めて、多様な人種でディスカッションを交わしました。

「知財のことを経営者が理解してくれない。」、「経営者に知財の重要性を説くのに苦労している」といった話を聞くこともありますが、今回登壇頂いたお二方の経営者からは、僕の想像以上に「知財にリソースを投じるのは当然である」という意思を見ることができました。

そして、もう1つ印象的だったのは、メンバーの意見に対する評価です。

登壇して頂いたメンバーは、何れも、一般的な知財業務以外にも守備範囲を広げた「ジェネラリスト型」です。

彼ら/彼女らの話に対して、経営者側からも「非常に参考になった」、「そんなことまでやるのはすごい」というコメントを頂くことができました。

「知財」というのは、ともすればわかりにくい概念的存在になることもありますが、少なくともsuiPに集まる人達にとっては、当然に重要であるものだったようです。

煽りスライド

中にはこんな煽りスライドも作ってみました。

今回登壇して頂いた2人の経営者は、このスライドを見てもなお、「知財が重要であるという考えは揺るぎない」という反応を示されていました。

「経営者に知財の重要性を説明する」ことは、知財部にとって重要な仕事の1つだと思いますが、このような経営者には、その必要はありません。

だからこそ、より高い要求レベルが課せられているとも言えます。

知財に親和性のある経営者の下、スタートアップという変化の激しい環境で高いレベルの要求に応える知財部。そこで働ける知財人材は、知財家冥利に尽きると思いました。

懇親会も開催!

パネルディスカッションの終了後は、立食形式の懇親会を実施しました。

今回の3周年イベントは、メンバーでもある渡辺さんの所属企業であるセーフィーさんのオフィスをお借りしました。

とても広くてきれいなスペースに、知財業界のおおよそ全ての関係者が一同に介した盛大な懇親会となりました。

できるだけ多くの人と名刺交換したいところでしたが、お一人お一人との会話がとても濃密で、時間が全く足りませんでした。

suiPメンバーとゲストの方々はもちろんのこと、ゲスト同士での交流の場にもなったようで、準備に準備を重ねて開催した苦労が報われた瞬間でした。

パネルディスカッションの様子

懇親会の様子
懇親会の様子

これからのsuiP

さて、最後にこれからのsuiPの話をしましょう。

冒頭でもご紹介したとおり、suiPのMissionは、「”スタートアップに知財を浸透させる”」ことです。

そのためには、suiPが「スタートアップ知財のインフラになる」ことが必要であると考えています。

ご存知のとおり、知財は人の創作に関わるものです。したがって、知財のインフラとは、人の交流点そのものであると言えます。

単なる「スタートアップの知財担当者の集まり」を超えて、「suiP」という場にいれば、「スタートアップ*知財」という共通軸で、様々な人々が交流し合う。

そんなコミュニティを目指して、これからも活動を進めていきます。
そして、来年2026年には、4周年記念イベントを(きっと)やります。

3周年よりも盛大な4周年になることを確信しています。

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