日本最大級(たぶん)のスタートアップ知財コミュニティsuiPによる、「スタートアップ知財のリアルとナレッジを語る連載」がToreru Mediaでスタートしました!
suiP知財worksというシリーズ名で、今後定期的に記事を投稿していきます。
記念すべき第1回連載はsuiPが定期的に配信しているsuiP Radio(https://www.youtube.com/@suiP-channel)のまとめ記事をお届けします!
目次
はじめに:suiP & suiP Radioとは?
スタートアップ知財コミュニティ「suiP」は、「スタートアップに知財を浸透させる」ことをミッションに掲げたコミュニティです。
お互いの悩みや経験談を気軽に楽しく共有しながら、参加しているスタートアップ全体の知財活動を底上げし、スタートアップ知財のインフラになることを目指しています。
メンバーはスタートアップの知財担当者や知財担当役員が中心で、2025年1月時点で約55名(約45社)
が参加しています。

suiPではSlack上での日々のお悩み相談だけでなく、オフラインイベント等の様々な企画を有志で活動しています。
こうした取り組みから派生したのが「suiP Radio」。スタートアップでインハウス知財を担うメンバーをゲストに迎え、具体的な実務やキャリアの歩み方を深掘りしています。
今回はsuiPにどんな人が参加しているのか?というご紹介を兼ねて、suiP Radioの第1回~第3回で語られている3人のスタートアップ知財担当のキャリア話のエッセンスをご紹介し、スタートアップ知財の体験をみなさんに共有できればと思います!
ぜひスタートアップ知財のリアルを知っていただけると嬉しいです!
suiP Radioのチャンネル登録をして頂けるともっと嬉しいです!!!
2. [1人目]知財のトップランナーを目指す世界(TierIV 市川さん)
大企業からスタートアップ:ゼロイチで知財を作る実務
「知財の第一人者となる、それがスタートアップに転職する可能性」
1人目は、キヤノンでデジタルカメラ開発のエンジニアを経て知財に転身し、その後スタートアップへ飛び込み、現在スタートアップ2社目の市川さんです。
キヤノン時代は明細書も図面も自ら書くほど知財実務家であった一方、部署や人数が多いために思うように新しい仕事へ挑戦しづらい側面もあったとのこと。
最初のスタートアップでは、会社に法務部門すらない状況で知財をゼロイチで築き上げる必要に迫られました。契約レビュー、職務発明制度の整備、発明提案フローの導入など、大企業時代には想像しなかったほど幅広い業務を担当。開発メンバーが知財の重要性を意識していないことが多く、ほとんど自分が発明提案書を代筆する状態からスタートしたそうです。
このような環境だからこそ、「相手にとって相談しやすい存在になる」ことを最優先に考え、様々な契約やオープンソースソフトウェアのライセンス確認なども積極的にサポート。そうすることで、開発側から「まず市川さんへ聞いてみよう」という動線が生まれ、最終的には社内の知財マインドが徐々に育っていったといいます。
スタートアップ知財は、「知財の分野で第一人者となる」「〇〇分野の知財ならオレに聞け」という知財のトップランナーを目指す意識が重要という市川さん。2社目のスタートアップでもその意識を持ってチャレンジを続けている最中です!
3. [2人目]自分が手を挙げるか?で決まる場所(AnotherBall 岩崎さん)
上場企業でのゼロイチ構築からシード期スタートアップへ
「スタートアップで働くとは、自分らしくあること」
続いて2人目は岩崎さん。新卒でトヨタ自動車に入り、約8年ほど知財に携わった後、ビズリーチ(現ビジョナル)に転職し、1000人超の組織で「知財部門の立ち上げ」を経験しました。上場直後の企業で、すでにビジネス自体は軌道に乗っているにもかかわらず、社内には特許出願の仕組みが皆無に近い状態だったそうです。
最初の1年は、実際の特許出願業務よりも社内への普及活動に多くの時間を割いたとのこと。エンジニアや企画担当を巻き込みながら、社内向けに「面白特許」を紹介する資料を月1ペースで発信し、知財に馴染みのない社員にも親しみを持ってもらう工夫を続けました。大きな組織ほど既存のフローに埋もれがちですが、そこで敢えてテレアポ的にキーパーソンへアプローチし、人づてに人を紹介してもらうという草の根活動が成果を生んだそうです。
現在はシード期のAnotherBallにて、知財だけでなく契約、総務、人事関連などバックオフィス全般を担う新たなチャレンジをしています。日々発生する突発的な課題に対し、完璧を追求するよりも「スピード感や優先度でリスクを取り切る瞬間的な判断」が求められる難しさを強調。
「スタートアップで働くとは、自分らしくあること。スタートアップは自分が手を挙げるかどうか、つまり自らチャレンジする決断がすべてを左右する場所。そこにつきる。それが楽しいと思えるならスタートアップに飛び込むべき」という岩崎さん。もし岩崎さんの言葉に興味を持った方は、ぜひスタートアップ知財にどうぞ!
4. [3人目]スタートアップはRPGそのもの(ピクシーダストテクノロジーズ木本さん)
業務委託を発端に、創業期からジョイン
「スタートアップはRPG感」
3人目は、超音波を使った独自技術で注目を集めるピクシーダストテクノロジーズの木本さん。最初はリコーで3年ほど知財を経験し、その後に特許事務所で15年近く弁理士として活動。そして創業期のピクシーダストに業務委託的な立場で関わり始め、そこから気づいたら中の人になっていたとのこと。
決め手は、代表の落合陽一さんが出演するテレビ番組「情熱大陸」で、新規性喪失のリスクが高い技術映像をどこまで放送するかというギリギリの場面に直面し、代理人を超えたスリルと面白さを感じて正式にジョイン。創業期の同社は契約書の管理すら整っていない状態で、当初は知財と契約業務を軸にしつつ、気づけば採用や広報など業務の幅が広がったといいます。
木本さんが何度も使う比喩は「スタートアップはRPG感」。常に環境が変わり、組織体制や事業フェーズが変化するため、日々新しいクエストが降ってくる。つらいクエストほど経験値も高い。
スタートアップで働くということは、「レベル上げでありゴールドを稼ぐ手段であり、ラスボスを倒してクエストをクリアして物語を紡ぐRPGそのもの」という木本さん。冒険にワクワクしちゃうタイプであれば、スタートアップ知財が合うかもしれませんよ?
まとめ:スタートアップ知財ならではの面白さは?
3名のトークを通じ、スタートアップのインハウス知財が直面する「ゼロイチ構築の難しさと面白さ」が伝わりましたでしょうか?大企業では部署が分かれ、特許出願や契約対応だけを専業で行うケースが多いところ、スタートアップでは知財教育や契約チェック、さらにはバックオフィス機能まで、広範な業務を一手に背負う場合がほとんどです。
一方で、権限や責任の範囲が大きいからこそ、気づいた瞬間から新しい仕組みを導入できるダイナミズムがあります。自分が声を上げれば、会社の仕組みを変えられる。この柔軟性や経験は、大企業では得難い貴重なメリットでしょう。さらには既存の業務フローが存在しないがゆえに発生するトラブルシューティングなど、「新しいクエストが毎日のように振ってくる」醍醐味も大きいようです。
とはいえ「スピード優先でリスクを取る場面」も多く、知財専門家としては安定感より実戦の勘が問われる側面も強調されていました。権利化のタイミング、公開のコントロール、社内教育……どれを優先し、どこで割り切るのか。これを日常的に判断し続けるスリリングな現場だからこそ、スタートアップ知財は専門家にとって独自の楽しさがあるのかもしれません。
もし「スタートアップ知財のリアル」をさらに知りたいなら、suiP Radioをご視聴ください!suiP Radioでは、今後もスタートアップ知財のリアルな体験や、具体的な工夫事例を発信していく予定です。ぜひ次回以降のエピソードもご注目ください!
本連載では、スタートアップ知財をテーマに、suiPメンバーが様々な切り口で記事を作成していきます。次回もお楽しみに!