本記事は、家電に関する特許情報・実用新案情報を紹介します。昭和時代に出された特許・実用新案の中には、現代でも通用する魅力的なアイデアが含まれているものです。
例えば、以下2つの図面をみて、ある製品が思い浮かぶのではないでしょうか。

(左)特開昭56-167897:扇風機(出願日:1980.5.28) 第1図 J-PlatPat リンク
(右)実開昭50-22950:加湿機(出願日:1973.6.22) 第2図 J-PlatPat リンク
左は、羽のない扇風機。右は、上方から水を注ぎ入れることが可能な加湿機です。
いずれも昭和40年~50年代に出願されたものですが、羽のない扇風機は出願から30年近く経過後、そして上方から水を注ぐ加湿機は出願から40年程経過後に、それぞれ出願人とは別の会社から、同等のコンセプトと思われる製品(*)が販売されています。 (*) 例えば、バルミューダ社 Rain(HPリンク)
昭和~現代にかけて様々な技術発展が進んできましたが、例えば扇風機における「風を送って涼を提供する」という必須機能、そして「涼みたい」という人類のニーズは、扇風機誕生以来、100年以上不変です。そう考えると、「昔の特許情報=技術的に劣るから現代の製品には役に立たない」という訳では決してなく、古い情報にも、新製品に繋がる素敵なアイデアが眠っている可能性が大いにあるわけです。
そこで本記事では、まだ世の中にない製品アイデアを、昭和時代の特許・実用新案情報から発掘していきます!
一体どんな製品があるのか!?ワクワクしながら調査してみました。
新結合1.洗濯機 × 浴槽(1980年出願)
1件目は、洗濯機 × 浴槽です。いずれも「水を用いる」「何かを収容する」という共通点がある新結合ですね。
水道代を節約すべく、お風呂の残り湯を洗濯に活用しているご家庭もあるかもしれません。しかしホースなどが必要で、億劫な面がありますよね。
そんなときに役立つのが、こちらの実用新案!
実全昭56-114790(出願日:1980.2.1)J-PlatPat リンク
考案の名称:浴槽兼用洗濯機
浴槽の残り湯をそのまま洗濯に使用できる「浴槽兼用洗濯機」に関する考案です。浴槽1底面の凹所4に攪拌器8や排水溝6が備わっており、撹拌器8を回転させることで洗濯を行うことができるというもの。
浴槽で大きなぬいぐるみなどを洗濯すると気持ちよさそうですね。毛布やタオルケット等、一気に洗濯できればとても便利かつ爽快な気分になれそうです。
本考案からは「必要は発明の母」を感じることができ、多くの家庭でニーズがあるように思えます。しかし1980年に本件が出願されてから早40年以上経過しても、浴槽兼用洗濯機は製品化されていません。実現にあたって、何か障害があるのかもしれませんね。
なお、本考案によれば、入浴時に撹拌器を使用することで、水流で身体に刺激を与えて健康を増進することもできるそうです。身体の位置を保つためにそれなりの踏ん張りが必要そうですが、ちょっと試してみたいものです。
新結合2.テレビ × 冷蔵庫(1986年出願)
2件目は、テレビ × 冷蔵庫 です。
1件目とは異なり、あまり共通点が見当たらない新結合ですね。
冷蔵庫はキッチンに置いてあるとして、キッチンでテレビを観たい場面はいつなのか?皿洗い中、野菜を切っている間、調理中・・・普段のキッチンシーンを思い浮かべてみても、筆者はあまりピンと来ません。
それでは、テレビ × 冷蔵庫の新結合には一体どんな嬉しさがあるのか!?文献の中を確認してみましょう。
実全昭63-19177(出願日:1986.7.18)J-PlatPat リンク
発明の名称:多機能冷蔵庫
「この冷蔵庫は、通常はキッチンに置かれ、そこが同時にダイニングルームを兼ねるような場合には、そこで食事をとることが行われる。従って、このような場合の冷蔵庫は、食卓から良く見え簡単に手の届く位置に配置れれることになる。」(原文ママ)
実全昭63-19177 従来技術より
そうか、ダイニングキッチン!たしかにドラえもんの野比家を思い出してみると、一家が食事している横に冷蔵庫がありました。納得です。
テレビと冷蔵庫が一体化することで、家庭内での新たなコミュニケーションが期待できますね。近くにテレビがあることで、料理中や食事中の会話が自然と活発になりそうです。例えばテレビを観たい子供は、食事時でなくともキッチンの傍に居ることとなり、料理中の人物と必然的に距離が近くなるためです。
ところで本文献内においては、表示装置2に関する別の活用方法も記載されています。例えば食品格納時にデータを入力しておけば、操作部5の操作によって、庫内の格納物を表示装置2に表示させることができるとのこと。無駄に冷蔵庫を開ける必要が無くなりそうですね。
庫内のカメラによって識別した食物情報や、ユーザーの好物情報等に基づいて、完成した料理イメージを表示装置2に表示させるのも面白そうです。美味しそうな完成イメージを確認すれば、ちょっと気が進まない場合においても、料理に少しやる気が出るかも・・?
新結合3.冷房 × コタツ(1986年出願)
3件目は、冷房 × コタツ です。
面白い新結合ですね!
コタツにはどこか風情を感じます。猫やみかん、暖かさのあまり寝落ちしてしまった子供時代、洗濯物を突っ込んで乾かした思い出など、様々な記憶がよみがえってくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
暖を取るための家電であるはずのコタツに冷房機能を設けることで、一体どんな嬉しさがあるのか!?特許出願の中身を見ていきましょう。
特開平02-103322(出願日:1986.10.11)J-PlatPat リンク
発明の名称:冷房又は冷暖房両用コタツ
(発明の目的)
特開平02-103322 より
本発明は、コタツの持つ局所冷暖の特殊性を生かして、コタツ内部に空調装置を取り付け、経済的に、効率よく人体に爽快感を与えることができる冷房又は冷暖房両用コタツを提供することを目的とする。
なるほど、部屋全体を制御するのではなく、コタツで局所的に冷暖を制御すれば、効率的かつ経済的ということですね!たしかに一理ありそうです。
本発明があれば、冬場にコタツでヌクヌクするに留まらず、夏場にはコタツでスースーヒエヒエすることができて、これまた新たな趣となりそうです。コタツ=冬場の家電という印象が強いですが、コタツが活躍することで、夏のインテリアとしても新たな価値が生まれるかもしれませんね。
コタツ=冬という固定概念を崩す、素敵な新結合だと感じました。
ChatGPT 4o でも試してみた
次世代家電について、ChatGPT 4o にも投げかけてみました。果たして上記のような新結合アイデアは登場するのか!?試してみましょう。
プロンプト:あなたは家電マニアです。現在の世の中には無い、次世代の家電製品を3つ列挙してください。それぞれ簡潔に、50文字以内で解説してください。
ChatGPT 4o 回答
- スマート冷蔵庫ドローン: 食材を自動補充・料理材料を調達。
- AI洗濯ロボット: 服を自動で選び、洗濯・乾燥・折りたたみ。
- 3Dプリンターマイクロウェーブ: レシピから食材を3Dプリントし、瞬時に調理。
おお、割と現実的なアイデアですね!冷蔵庫と洗濯が出てきましたが、それぞれ結合相手はドローンとAIロボット。今風です。
食材の3Dプリントも未来感があって素敵ですね。例えば特許出願としては、お寿司の3Dプリントに関するものなどがあります。

特許第7290407号:食品、食品製造装置、食品製造方法及び食品製造システム(J-PlatPat リンク)
次は、少しぶっとんだ内容も聞いてみました。
プロンプト:もう少しぶっとんだ内容でお願いします。
ChatGPT 4o 回答
- テレポート冷蔵庫: 食材を遠隔地から瞬間移動で取り寄せ。
- 時間巻き戻し掃除機: 汚れた部分を過去の清潔な状態に戻す。
- ホログラムシェフロボット: 伝説のシェフがホログラムで料理を教える。
テレポートは夢がありますね。そして時間に逆らうアイデアもある中、ホログラムシェフだけ妙に現実的です。
最後にもう一度。
プロンプト:まるでドラえもんの道具ですね。もう少し現実的な内容でお願いします。
ChatGPT 4o 回答
- 自動献立提案冷蔵庫: 冷蔵庫の中身と健康データに基づいて献立を提案。
- 全自動衣類管理クローゼット: 洗濯、乾燥、折りたたみ、収納、服選びまで一括管理。
- スマート調味料ディスペンサー: レシピに応じて適量の調味料を自動で計量・配分。
なんだか現実的かつとてもよさそうな製品アイデアですね!
スマート調味料ディスペンサーについては、例えば以下のような特許出願があります。
特開2013-141439:即時自動配合機(J-PlatPat リンク)
他にも何回かのやり取りを通じてアイデアが精査されていくのが実感できましたが、結局、本記事で紹介した昭和の特許・実用新案に関するアイデアは出てきませんでした。
最後に
以上、「新結合」の観点から、昭和時代に出願された特許・実用新案を3件紹介しました。いずれも突飛なアイデアと思われる一方、ちょっとしたワクワクが感じられたのではないでしょうか。上記3つの新家電が、令和における「三種の神器(電化製品)」になる日が来るかもしれません。
多種多様な価値観が共存する現代において、一体どの様な新製品・新サービスを提供していけばいいのか?
悩ましい時代ですが、そんな時は是非、特許・実用新案情報を探ってみてはいかがでしょうか。昔の人が考えて出願した案件の中には、もしかしたら価値ある斬新なアイデアが潜んでおり、現代の技術が加わることで素敵なビジネスへと昇華させることができるかもしれません。社会の価値観が追いつくことで、昔のアイデアが活きてくるということも考えられます。
そして、20年以上前に出願された技術を知ることは、現代において特許権侵害となる恐れがある範囲を推測することにも活用できるため、ビジネスリスクの低減に繋がるというメリットもあります。
VUCA の時代、先人のお力も借りてみませんか。
特許等の知的財産情報は、例えば J-PlatPat にて無料で利用することができます。是非気軽に検索してみてください。
J-PlatPat: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
<J-PlatPat を用いた検索イメージ>
2. テレビ×冷蔵庫の例
J-PlatPat による特許検索の詳細については、以下の記事もご覧ください。
特許調査をこち亀で学ぼう!J-PlatPat キーワード検索のコツを解説します | Toreru Media
特許調査をドラえもんで学ぼう!特許分類を使って「あの鈴」そっくり図面を探すコツを解説します | Toreru Media