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国内初!ベンチャーキャピタル発の「投資先の企業価値」を高める知財支援とは? (グローバル・ブレイン 西野&廣田先生)

スタートアップにとって知財は重要!最近よく耳にする言葉です。

とはいえスタートアップ企業は多忙で、リソースも限られがちなもの。最初から知財担当者が置かれているケースの方が珍しく、後回しになりがちです。

一方、知財に着手しないでいると、突然「警告状」が届いたり、サービス名がすでに商標登録されてしまっていて、後から変更しなければならない、なんてことも・・。スタートアップ企業の立場では、「とても手が回らないのにリスクはある。一体どうしたらいいんだ!」と叫びたくなることでしょう。

そんな中、もしも投資家のベンチャーキャピタル(以下VC)が、資金を出してくれるだけでなく、知財の困りごとを支援してくれたら…?

VCであるグローバル・ブレインさんは、企業の知財部でもなく、特許事務所でもない。第3の立場で新しい「知財支援」をしていると聞きます。

そこで、本記事では主に、

・いわゆる『スタートアップ知財』とは、一般的な企業知財や特許事務所での知財業務と何が違うのか?

・VCはどんな立ち位置で投資先へ知財支援をしているのか?

・新しい事業を始めるとき、知財でつまづきやすい部分はどこか?

という疑問について、実際に投資先の知財支援をされているVC、グローバル・ブレインのお二人にお話を伺いました。

グローバル・ブレインHPより

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<西野先生プロフィール>

Corporate Management Group: 弁護士

都内法律事務所の勤務弁護士、国内ゲーム会社の法務マネージャーを経てGBに参画。ゲーム会社では、ゲーム分野、エンターテイメント分野、VR分野の法務のほか企業法務全般に従事。

<廣田先生プロフィール>

Investment Group: 弁理士、AIPE認定知財アナリスト(特許)

大手電機メーカー知財部門を経てGBに参画。大手電機メーカーでは、半導体、AI分野、衛星測位分野等の知財戦略立案、発明発掘、国内外での特許権利化に加えて、米国での特許係争等に従事。

 

廣田さん&西野さん × オモチ(聞き手)

お二人とも、終始笑顔が素敵でした!

1.グローバル・ブレインってどういう知財支援をしているの?

ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、そもそもグローバル・ブレイン(以下、GB)ってどんな会社なんでしょうか?ベンチャーキャピタル(以下、VC)と銀行の違いをあまりイメージできておらず・・。簡単に教えて頂ければ嬉しいです!

廣田さん:そうですね、まずVCについてですが、一言でいえば「ベンチャー・スタートアップといわれる、高い成長が見込まれる未上場企業に対して、出資を行う投資会社」です。

企業に資金を提供するというと、銀行と似ていると思われるかもしれません。ただ、銀行が資金を貸し出す、すなわち「融資」がビジネスモデルである一方、我々VCは「出資」をしています。つまり、VCから出してもらったお金は銀行のように「返済」する必要がありません。

ではどうやってVCが利益を得るかですが、VCは出資額に応じて「株式」を投資先から取得します。投資先のスタートアップ企業が成長し、株式を上場することができれば、株式の市場価格に応じて利益を得ることができます。

上場だけが出口ではなく、投資先の商品やサービスが評価され、例えば大企業に企業買収(M&A)されれば、このときも株式の持ち分に応じた売却益を得ることができます。

もちろん投資先がうまく成長していかないと出資金の回収は見込めないので、投資先の成長にコミットする形で資金を提供する企業がVCといえるでしょう。

グローバル・ブレインHPより

ーなるほど、分かりやすいです。数あるVCの中でもGBならではの特徴はありますでしょうか?

廣田さん:GBの特徴は、以下に簡単に紹介しますね。

①ファンドの運用総額(AUM)が2021年末で1706億円

②2021年はスタートアップ投資は120社200億円規模に到達

③EXITの実績はメルカリ・ラクスルなどを含めて累計でIPO24社、M&A57社

(2021年はIPO4社、M&A9社)

機関投資家や事業会社を出資者とするフラッグシップファンドのほか、国内大手企業と共同で9つのCVC運営も担う

投資実行後においても、専門チームで多面的な経営支援、バリューアップ支援を行う

(参考)グローバル・ブレイン 2021年の振り返りと2022年の目標

ーおお、急成長しているんですね!素朴な疑問なのですが、ベンチャーキャピタルが投資先に知財支援をするのは何故なのでしょうか?他に提供する支援がいっぱいありそうですよね。

廣田さん:投資先の成長を助けるのがVCなので、確かにいろいろな支援部門があります。

GBは投資先の支援に力を入れていて、一番わかりやすいのが採用の支援ですね。他にも、ビジネス面でのバリューアップ支援から、PRやデザイン、労務管理やIPO支援などもあります。その中の1カテゴリとして、知財支援もあります。

一般的に人手が不足しているスタートアップで、最初から知財専門の担当者を置けるケースは珍しいです。しかし、知財のリスク調査・出願・権利化は事業のスタート時期から計画的に進めていかないと、後で落とし穴にはまることも多いです。

そのため、GBが「投資先の知財部」に近い立ち位置で、知財専任担当者がいない段階から支援していきます。

ー具体的な支援内容としては、分かりやすいパッケージが挙げられていますね。STEPが細かく分かれていますが、これ全部支援企業にやっているんですか?

 

スタートアップの「知財部門」となる、グローバル・ブレインの知財支援チーム

廣田さん:これ自体はあくまで知財支援の内容をわかりやすくまとめた一例で、実際は全ての企業でSTEP0から順番にやっているわけではありません。支援企業のニーズや知財のレベル感に即して、スタート地点を決めています。

例えば、「知財は大事だと認識しているもののどこから手を付けてよいかわからない」という投資先ならSTEP0からスタートしますし、一方、「数か月後にプロダクトの公開が決まっており、新機能も実装するので、それまでに出願したい、そもそもなにが出願できるかわからないので教えてほしい」という相談なら、すぐにSTEP4の出願サポートから着手します。

ー確かに、すぐ出願しなければならないのにSTEP0からやってはいられないですね。

廣田さん:ただ、入り口はSTEP4の「出願サポート」であっても、STEP1~3が不足しているなと感じたら、出願サポートを終えた後に立ち戻って「戦略構築」からサポートしたり、競合がいるようであれば競合の特許調査を改めて実施することもあります。

ー全部の投資先に戦略構築からサポートしていたら、めちゃくちゃ大変ですよね。

廣田さん:基本的には投資先のニーズや状況に応じて支援の強弱があります。ピンポイントの相談や出願支援で一旦支援が終わる投資先もあれば、継続的な場を持って支援している投資先もあるという感じです。

実際に、週1~月1といったそれぞれの投資先に合わせたペースで定例ミーティングを組んでいるスタートアップが、現在5~6社あります。

ー定例ミーティングでは、どのようなトピックが挙がるのですか?

廣田さん:例えばある投資先の事例ですが、ここは人手が足りず、知財対応がどうしても後回しになっていました。

まずは事業リスクについて把握するため、我々のほうで競合の特許を調査してみると、関連度が高い他社特許が何件か見つかりました。

この投資先に調査結果を共有すると、『自分たちが権利侵害しないためにもやっぱり自分たちも出していかなきゃね・・』と。このように出願の必要性を感じてもらうために、何回かのミーティングを繰り返すこともあります。

ーまずは必要性を実感してもらうのですね。

廣田さん:必要性を理解してもらえば、次は特許出願出来そうなアイディア出しに進み、最終的にこの投資先の場合には半年程度で5~6件の特許出願に至りました。

ーイメージしていた以上に丁寧にコミュニケーションをしていると感じました。

廣田さん:自発的に支援依頼をいただくこともあるのですが、こちらから課題感を持っていただけるような働きかけることも必要だと思っています。投資先向けの勉強会をやったり。

あとは、投資判断する際のDDの中で、経営者とコミュニケーションを取る機会があるので、その場で投資先の知財の課題感とかを共有できていると、投資後に「サポートしてください」って言ってくれることも実際にあります。

ー課題感を持ってもらうところから支援がスタートしているのですね。

廣田さん:やはりスタートアップ側が必要性や課題を認識していないと、こちらがいくら支援をしてもうまくいかないと思っています。現状、まだ知財チームのリソースが限られているので、支援ニーズをより能動的に発掘していくところは十分な活動ができていないので、今後もっと拡張していきたいです。

2.「そばロボット」の出願秘話

ーそれでは、投資先の注目特許について、出願に至るまでの経緯を色々お伺いしたいと思います。廣田さんがピックアップして下さった、そばロボットの特許について教えてください。

駅そばロボット、そばいちペリエ海浜幕張店に導入

廣田さん:2本の腕があるそばロボットで、麺を掴み、テボに入れて、それを茹でて湯切りまでをロボットが行う技術です。

特許6981709 制御プログラム及び調理システム

ーおもしろいロボットですね!…しかし、発明発掘の切り口を間違えると、単なるロボットへの置き換えとも捉えかねられず、特許性の主張が難しそうに聞こえます。

廣田さん:はい、私も直感的にそう感じました。「人の調理作業を自動化した点をそのままクレームにしても、特許として認められないよな」と・・・。

ーやはりそうでしたか。ここは知財担当の腕の見せ所ですね。

廣田さん:そこで、CEOの沢登さんとCOOの佐藤さんに『どの部分が特許で取れたら嬉しいか、他社にとって邪魔になるのか』をヒアリングして、そこで出てきたのが、『ロボットアームが壁付けされている』という点でした。このそばロボットは、立ち食い蕎麦屋に導入する予定だったので、設置面積を減らすためのコンパクトな設計が求められます。壁付け以外の設置方法だと、機材としての競争力がないんです。

そこで、ロボットアームを壁付する部分を構成要素に入れて特許を取れないか?という話が浮かび上がりました。

ー駅構内の店舗に設置することを考えると、そこはポイントになりますね。

廣田さん:ただ、先行文献との関係で『ロボットアームが壁付けされている』点だけではまだ特許性が主張できず、更なる限定が必要でした。

そのため、最終的には、『ロボットアームがダクトから離れた位置に壁付けされている』点を特徴にしています。この位置関係に限定することは、二つ理由があります。一つは、ボイラーからダクトに流れる熱風との関係で、アームが熱に弱いこと。更には、物理的観点から、上にあるダクトとの干渉を避けたい、ということ。

 

ーなるほど、ダクトから近い位置に壁付けするロボットアームが特許の権利範囲から外れても、それは競争力がない設計だから影響が少ないということですね。

廣田さん:ただ、このそばロボットに関しては一つの特許だけでは護っているわけではなく、意匠出願も活用しています。いくつかある意匠のうちの一つが、そばをつかむ爪の形状に関する意匠です。

意匠登録1698730  ロボットハンド

ー確かにがっちりマンデーでも、最初は掴んだそばがぼとっ落ちてしまうのが、爪の微妙な曲がりを調節して試作を繰り返しすことで、落ちずに最後手離れもよくなった、という放送がありました。爪の形状が重要なんですね。

廣田さん:実用化における工夫点をエンジニアに聞いてみると「ロボットアームの爪の角度の調整に苦労した」という話が返ってきて。

爪の角度を付けるだけだと特許は難しいけれど、意匠なら取れるかもしれないとアドバイスし、出願・権利化に至りました。爪の形状は模倣しやすい部分なので、意匠権を取得したことは侵害対策でも意味があったと思います。

ーなるほど、こちらは蕎麦以外にも、麺系のものなら使えそうですね。

廣田さん:そうですね、具体的に出てきたアイデアを横展開出来る形で権利化することも重要だと考えています。実は、壁付けするロボットアームの技術は麺類や茹で調理に限らない権利になっています。

コネクテッドロボティクスさんは最近はフライドポテトのロボットも開発されていますが、基本構成は一緒なんです。茹でるか、揚げるか、という話なので、レイアウトなども似ているところがあります。

この特許を出願したときフライドポテトのプロダクトは全く意識していませんでしたが、特許査定が下りたクレームではフライドポテトのロボットまでカバーできています。投資先からも「いい権利が取れましたね」と言ってもらえた案件で、非常に印象に残っています。

※インタビュー後、実際にそばロボットを見てきました!

<そばいちペリエ海浜幕張店>

実際にそばロボットが人間のスタッフと協働していて、「未来のそば屋だな」と感動しました。特許の通り、アームもダクトから離れた位置に壁付けされておりました。

3.特許事務所でもない、企業知財でもない、第3のポジション

ーここまでのお話を聞いていると、GBの廣田さんのポジションは、企業知財でも特許事務所でもない第3のポジションであると感じました。廣田さんが感じる、VCが特許事務所や企業知財と違うところは?

廣田さん:まず、企業知財とVCとの違いだと、複数のスタートアップに関わることができる点と、経営者(CXOクラス)と直接やりとりできる点が、大きな違いだと思います。

ーいろいろなスタートアップ知財を見れるというのは、確かに面白そうです。

廣田さん:僕自身もまさに、転職活動をする時にスタートアップ企業の内定ももらっていたのですが、最終的にいろんなスタートアップの知財を見ることができるGBに決めました。

あと、私が知る限り少なくとも国内VCで、知財担当をやっている人がこれまで誰もいなかったので、ファーストペンギンになりたいなと。

ー廣田さんがVCの知財のお一人目、つまり第3のポジションの先駆者だと。VCと特許事務所との違いという点ではいかがでしょうか?外部から企業知財をサポートする点は同じですよね。

廣田さん:事務所との違いは、利益相反に悩まなくて良いという点です。

先日特許事務所経験もあるスタートアップの知財担当の方と話していたのですが、その弁理士さんも特許事務所時代に、

「スタートアップに対しては、予算もないのも分かるので、ちょっと値引きしたくなる、でもそれは売上の面から自分の首を絞める」という悩みがあったそうで。

売上=依頼件数を増やしたいという「特許事務所の利益」と、予算内でコントロールしたい「スタートアップの利益」はやはり相反する点があります。しかし、ベンチャーキャピタルの知財支援の立場だと、そういうしがらみがないので、「本当に必要だと思うことだけやればいい」という割り切りができ、やりやすいですね。

ーVCはスタートアップと同じ方向を向けるので、その点悩まなくていいですよね。他に、特許事務所との違いとして、「半永続的な取引関係」でないことに関してはどうですか?

廣田さん:投資先がイグジットすると基本的にVCは株主ではなくなるので、僕らは支援から手を引くことになります。

その点を意識しているスタートアップは、自分たちで独り立ちできる知財体制を作ろうと考えてくれます。あるスタートアップに関しては、僕から、『これぐらい業務量があれば、そろそろ知財担当を1人採用しても十分ですよ』という提案をしました。

年間10件近く出願していて、過去の特許出願の中間処理や海外対応がそろそろ発生しそう…という状況から、どれぐらいマンパワーがいるか先読みできるので。

ー提案したときの投資先の反応はどうでしたか?

スタートアップで人を増やすのはそれなりに大変です。その投資先も最初はちょっと疑ってたかもしれませんが(笑)、数ヶ月後には「やっぱり採用します」って言ってくれました。

ー採用の提案から、実際にスタッフが入って自走できるまで、期間としてはどれくらいかかりますか?

廣田さん:ここは最後まで経験しているわけではないのであくまで推測になりますが、2年くらいでしょうか。例えば先の事例ですと、僕から投資先へ知財担当の採用を提案してから数カ月くらいで、投資先が専任スタッフを入れることを決断してくれました。

そこから採用を開始して人が採れて入社するまでで早くて半年、長いと1年。さらにその人が慣れて投資先での知財活動が立ち上がるまで半年から1年と仮定すると、1年半から2年くらい掛かってしまうと思います。

ー採用できたらゴール、ではないですもんね。

廣田さん:はい、その通りです。入った方が必ずしもスタートアップ知財に詳しいわけではないですから、知財組織の立ち上げ段階でも引き続き並走します。

1人目の知財スタッフが入ったスタートアップが、どうやったらスムーズに知財機能を立ち上げられるのか?というノウハウは、僕らも試行錯誤中です。

スタートアップの“知財一本立ち”まで安定して支援できるようになれば、VCならではの「支援パッケージ」が完成したといえると思います。

ーそれが完成したらすごいですね!ところで、ベンチャーキャピタルにとって知財支援に力を入れることはどういう意味があるんでしょうか?

廣田さん:最近はスタートアップに集まる投資金額が市場としてどんどん増えていて、VC同士も競争の状況にあるので、資金を提供できることは、あまり差別化の要素にならなくなりました。言い換えると、有望なスタートアップの場合は投資家が選ばれる立場になっていて、資金提供に加え、『どういうサポートをしてくれるか』で、投資の受け入れを決める傾向にあります。

その中で僕らとしては『GBから投資を受けた場合のメリット』を見つけて行く必要があります。

ーなるほど。ベンチャーキャピタルも、金額面以外での差別化が求められると。

廣田さん:はい、そのような環境下で、GBとしては、投資後にスタートアップが困った際あらゆる面でサポートできるような体制を築いていこう、という大きな方針がありました。特に知財は、「スタートアップに知財専門の担当者がなかなかいないので困ることがあるだろう」という点に弊社代表の百合本が目をつけて、GBの知財支援が始まったという流れになります。

少なくとも国内のVCで社内知財専門家を抱えて知財支援を提供しているのは、GBしかいないはずです。そのため、投資担当をしているキャピタリストがスタートアップ経営者にGBの説明をする中でも、GBの一つの特徴として知財支援を説明してくれているそうです。

ー国内のVCで唯一の知財支援、大きな強みになっているのですね。他に、VCで知財支援をしてみて、「企業や特許事務所とは違うな」と感じる点はあるでしょうか。

廣田さん:投資家が物事をどう考えてるのか?を知れたのは、個人的には一番大きかったです。

投資家は、「大局」をみています。どのように事業が成長したらEXITできるのか、その成長に置ける課題はなにか、それまでに必要な資金や人材をこの会社・経営陣は集められるのか、後発企業や競合企業が出てきたときに競争優位性や参入障壁はあるのかなどなど。

そういう議論の中で知財の活用も入ろうと思ったら、目先の細かいことにとらわれるより、もっと目線を高く上げる必要があると思っています。

ー目線を上げる、具体的にどういうことでしょうか?

廣田さん:知財や特許の担当をしていると、どうしても目先のアイデアや技術を如何に権利にするのかという視点に偏ってしまう傾向があると思います。例えば、同じ規模のライバル企業が特許を10件出していたとします。なので、うちも10件出しましょうとか、何とかしてライバル企業に権利行使できるアイデアを捻りだせないかとか、そういうことを考えることはよくあるでしょう。

知財活動の目標設定をしたり、競合も意識した権利取得を図ること自体は間違っていないのですが、でも結局10件出願できたらどうなるのか、権利行使できる特許が取得できてどれだけ意味があるのか、リソースの少ないスタートアップが本当に権利行使するのか、といった点でより本質的な部分を意識する必要があります。

つまり、同じ10件でも自社事業に価値のある10件をしていなければ意味がないですし、例え権利行使できる特許であっても簡単に回避が出来てしまうニッチで必要性の高くない機能の部分であれば実質的に価値を生まないと思います。

そのため、VCにとっての大局は「投資先の企業価値をいかに高めるか」であり、常にその目線で特許をはじめ、知財の権利化も進める必要があると考えています。

4.ポートフォリオ構築が、投資先の企業価値を高められる知財とは

ー投資先の「企業価値を高められる知財」、言葉では簡単ですが実際には難しい。どの企業も悩んでいると感じます。廣田さんの中で、具体的なイメージはあるでしょうか。

廣田さん:基本的に知財は競争優位性の源泉だと認識しています。なので、「企業価値を高める知財」は、各企業のプロダクトやサービスで競争力がある部分、つまり「価値がある機能」そのものを守れる知財ということです。張り子の虎のような権利ではなく、ライバル会社が特許の中身を見たときに「プロダクトの核心部分が特許でカバーされているから参入が困難」と思わせられるかどうか。

取得した知財がその会社のコアな権利になっていれば、大企業との協働や、M&Aというチャンスにも派生します。そういう「本質的な特許権」をどれだけ揃えられるかどうかですね。

ーなるほど、プロダクトの核心部分をカバーできる権利。根本的な考えは大企業と変わらないですね。

廣田さん:考え方の基本は同じなのですが、大企業との違いもあります。これは経験からですが、大企業の場合はきっちりとした計画の中で抽出されていくたくさんの出願に対して、一定の基準のもとランクをつけて、知財リソースの配分をしています。

もちろんプロダクトの核となるような発明は、社内でしっかり議論し、事務所と連携して出願するフローになっていますが、それだけカロリーをかけた対応をする「一軍案件」は上位の何件かで、中にはそうでない「二軍案件」もある。例えば、特許を100件出願した場合、上位2-3割の20-30件が一軍案件になるといったイメージです。もちろん、重要案件の比率や選別基準は各社異なると思いますが。

これに対し、リソースの限られたスタートアップは大企業の場合、100件の出願なんて基本的に出来ないので、如何にして上位の「一軍案件」だけを抽出して出願するかがポイントになります。それ以外の案件まで出願する余裕がないんですよね。全部が本気出願です。

ースタートアップは全部が本気出願。いいフレーズですね。ただ、権利の内容が「本気かどうか」は専門外の人がみてもなかなか分からないですよね。投資家目線で、「知財の価値」って他にあるんでしょうか?

廣田さん:なんかこの会社イケてるよねって、知財をネタにしていかに思わせるかだと思います。

例えば、この会社は、プロダクトや技術的にこういうイケてるところがあるんですと。そしてそのイケてるところは、実は知財で抑えられていて、他社には真似できないんですと。非常に単純ですが、このようなストーリーが作れる知財を持っていると企業の定性的な価値が高まり、それが知財の価値だと思っています。知財を媒介にして、企業価値の高まるストーリーをどれだけ作れるかが重要だと思います。

ーその会社の強みが、しっかり知財で抑えられているのは価値がありますね。ところで、投資家さんへのアピールの場などはありますか?

廣田さん:うーん、上場前に経営者が投資家と話す機会があるんですけど、知財の話がそこに出てくるケースはまだ滅多にないですね・・。経営者と投資家の話し合いの場で知財の話が出るようにすることが第一歩かと思います。

西野さん:知財を持ってること自体がアピールポイントになるというよりも、その企業の持っている技術的な強みがしっかりと知財でカバーされているということが重要なのだと思います。

投資家向けのアピールのために知財の話を出したとしても、その技術分野の専門家ではない投資家側でその知財の中身を評価することが難しいことが多いのではないか、というのが現時点での正直なところです。

そうなると、「うちのプロダクト、独自性があって、特許も取れてます」、「おっ、凄いね!」とか話していても、権利の内容はボロボロで、まったく特許でカバーできていない・・なんてことが普通に起こりえる。

これは、自分のイメージだと「ぱっと見、パリッとした上着を着て小奇麗に見えるのに実はパンツ履いてない」レベルの話で(笑)。

ー中身がボロボロの特許は、パンツを履いていない状態だ、と(笑)

西野さん:そうならないように、特許の中身をしっかりと整えて、さらにエクイティストーリーの中で特許がどういう位置づけになるのかも一緒に考え、身だしなみを全部整えた状態で、『はいどうぞ、評価してください』って投資家の前に送り出してあげることが、私たちの知財活動の一環なのかなと思います。

ー中身である「権利」も、外見である「ストーリー」も大事、すごく納得できます。

西野さん:特許の中身はすぐには評価されませんが、実態は後から追いついてきます。後発企業が出てきたり、競合企業から攻撃されたりする。そのために特許の中身を充実させなければならない。少なくとも専門家が特許を調べたら、『この会社、いい権利をたくさん持っているな』ということは分かります。いい権利をたくさん持っていると言われるようなスタートアップがたくさん出てくるように、しっかりとサポートしていきたいです。

5.読者さんへ向けてのメッセージ

ー最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします!

廣田さん:スタートアップで知財に困ってる企業や経営者は想像以上に多い。僕が思っていた以上に、あちこちにニーズが隠れています。さらに、近年はスタートアップの知財担当の採用も増えています。

ぜひ知財関係者の方には、スタートアップの知財に、もっともっと、何かしらの形で関わってもらえると嬉しいと思います。純粋に、面白いですよ、ということも伝えたいです。

ースタートアップ知財の面白さ、実感しているところは何でしょうか。

廣田さん:1つ目は経営者を中心にポジティブな方が多く、後ろ向きな人がほとんどいないので、いつも建設的な話ができますね。2つ目はさっきのそばロボットの例のように、投資先がサービスとして新しいことをやっていて、そのような環境で知財業務ができるのはやっぱり面白いです。

関わる人が良くて、関わる技術やプロダクトが面白いというのがスタートアップの良さです。

ー「転職」に限らず、色々な形でスタートアップ知財に関われるようになると、もっと面白くなりそうに感じています。

西野さん:そうですね。いろんな関わり方がありえると思うんです。例えば、本業は大企業の知財業務をしながら、副業でスタートアップ知財に携わってみるのもいいと思います。

ーそうですね。個人的な意見ですが・・もっと、副業を解禁してほしいですよね!!

西野さん:知財担当として1人雇うスタートアップはまだまだ多くない。週に半分くらい、スタートアップによっては週に1回ぐらいの業務量しかない場合もあります。

そのボリュームの業務をしてほしいというニーズはいっぱいあると思うので、副業と相性がいいですね。もし、そういうチャンスがあるんだったら、そこに飛び込んでいただきたいなって。支援先に是非、副業で入って来てもらいたい(笑)。

ー一方で、副業ではなく、廣田さんのように、大企業を辞めてスタートアップに飛び込むって、結構怖いイメージがあると思うんですけど…

廣田さん:僕は逆かなと。

スタートアップの知財経験は、知財のキャリアにおいて実は結構リスクヘッジできると思います。

というのは、スタートアップ知財の採用支援をしてると、過去にスタートアップでの知財経験のある方が来たら、むちゃくちゃ評価高いんですよね。大企業知財部や特許事務所の方を評価する時にどうしても気になるのが、スピード感や文化が違うところなんですが、その点で一度でもスタートアップでの経験がある方だと非常に好印象です。

ただ、現状ではスタートアップ知財経験者がホントに少ないので、そこでいち早く経験した人は完全に売り手市場ですよ。

これからどんどん新しいスタートアップが出て来るたびに、知財担当の募集も増えると思うので、スタートアップで積んだ知財キャリアは、かなり潰しが効くんじゃないかと感じています。

西野さん:もし、スタートアップの求人を見かけたら是非興味を持っていただいて、ちょっとでも自分で何かできそうなことがあれば、やってみてもらいたいなと思います!

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興味があったものの、あまり詳しく触れる機会のなかった、スタートアップ知財。

お二人がとても分かりやすく、ざっくばらんにお話してくださって、知らない世界を覗けたような、とても有意義な時間でした。

廣田さん、西野さんありがとうございました!

<参考記事>

スタートアップの「知財部門」となる、グローバル・ブレインの知財支援チーム

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