回転寿司チェーンで有名な「くら寿司」。
以前から、カウンターに設置されたポケットに投入することでお皿がカウントされる「皿カウンター回収システム」や、ポケットに投入されたお皿の枚数に応じて実施されるゲーム「ビッくらポン!」など、いろいろな仕掛けに注力して取り組んでいることが有名です。
くら寿司のアイデアは、コンスタントに特許出願されています。さまざまなアイデアが権利化されており、2つの特許を他社の回転寿司チェーンと比較する形で紹介する記事もありました。
回転寿司は知財ネタの宝庫?!~大手4社のブランディングを知財目線で探検! | Toreru Media
ただ、くら寿司の工夫・特許はこれだけに留まりません。迷惑行為から寿司を守るための工夫、回転レールでのプレゼントシステム、さらには大阪万博仕様の連結構造にも興味深い特許がありました。
特許等の公開情報にはくら寿司のアイデア等が詰まっています。近年公開された特許等の情報を読めば、くら寿司の最新の取り組みや、将来に向けたアイデアを知ることが可能です。
そこで本記事では、「くら寿司」の最新の工夫やアイデアについて、知財の観点から新たに掘り下げていきます。
目次
1.迷惑行為に対して、「お寿司を回し続ける」ことを選択したこだわり
2023年頃、来店者の迷惑行為によって回転寿司チェーン店が被害を受けたニュースが相次ぎました。例えば、回転レーンから一度取られたお寿司が戻されるという迷惑行為が行われるなどのニュースが記憶にあります。
このとき、回転寿司チェーン各社それぞれが早急に対応しました。多くの回転寿司大手企業が回転レーンによるお寿司の提供を一度中止する対応を取ったにも関わらず、くら寿司は、別の視点でしっかり対応を取りつつも、変わらずお寿司を「回す」ことを決断しました。
くら寿司は、元々は飲食量のカウントを目的として導入していた、回転レーン上に設置されている既存のカメラシステムと抗菌寿司カバーを迷惑行為対策にも活用する対策を取りました。具体的には、カメラシステムを介して抗菌寿司カバーの開閉を監視することにより、利用客の不審な動きを検知しようといったものです。
このアイデアは、特許出願されています。
特開2024-119109 【図1】より
回転レーンに乗っているお寿司は、抗菌寿司カバーによって覆われており、利用客はこのカバーを開けることによって、レーンからお寿司を取ります。このとき、カメラはカバーが閉まった状態から開けられることを検知することができます(明細書段落0142)。
このように、本来は利用客からお寿司が取られたか否かを判定するための抗菌カバー及びカメラを、利用客の不正検知にも使用します。
例えば、カバーが空いていて、既にお皿がない状態から、お皿が存在する状態に変化したことを検知した場合、一度回転レーンから取られたお皿がレーンに戻されたかもしれないことが想定されます。また、カバーが開けられていてお皿のない状態から、カバーが閉まっている状態に変化したことを検知した場合、誰かによってカバー等が触られたかもしれないことが想定されます。
特開2024-119109 【図6】より(赤字部分は筆者追記)
このように、利用客による不審な行動を検知した場合、店舗の従業者に対してアラートを表示させるといったシステムが、本特許出願のアイデアです。
アラートを表示させるのは従業者に対してのみでなく、利用客に対しても可能です。具体的には、座席に設定されているタブレットを介してアラートを表示させることができます。
特開2024-119109 【図9】【図10】より。図9は従業者へ表示させる画面例。図10は利用客へ表示させる画面例。
この特許出願には、新規性喪失の例外手続きがなされています。
迷惑行為への対策案について、いち早くメディアを通じて発表することを優先させ、その後に行った特許出願に対しては新規性の喪失例外手続きを行っています。新規性喪失の例外手続きを活用する事例の一つですね。
※既に発表したアイデアを特許出願すると、原則は新規性がないものとして特許性がないとされますが、例外手続きを行うことで、審査の際、発明が新規性が喪失されていないものとみなされます。
このように、他の大手回転寿司がお寿司を回転レーンで回すのを中止する方向性で対策を進める中、「回し続ける」という選択を取ったのがくら寿司です。「回転レーンを用いた食体験」に関する様々なアイデアが特許情報から読み取れましたので、次章からご紹介していきますね。
2.回転レーンでサプライズなひとときを!
迷惑行為の対策案でもなお、回転レーンにおいてお寿司を「回す」ことにこだわったくら寿司。昨年秋に、この回転レーンを活用した素敵なサービスがスタートしたようです。
その名も、くら寿司「プレゼントシステム」。記念日などに、大切な人にサプライズを演出するサービスです。
具体的にはパレードのようにポップな音楽にのせて、輝く装飾と中身の見えない仕様の抗菌寿司カバー「鮮度くん」に入った特別メニューが回転レーンを流れ、利用客の元へ届くというものです。
音楽と、特別仕様の装飾に囲まれ、メニューが回転レーンに乗って利用客の座席まで届きます。メニューはケーキ、ちらし寿司等を選択できるとのこと。
予約商品が届くレーンではなく、あえて回転レーンによってメニューが届くことで、誰の席に届くのか、最後までわからないワクワクが続きます。サプライズの対象の席に近づくとポップな音楽が流れ始め、席の前までサプライズメニューが到着すると、鮮度くんのフタが自動でオープンするのだとか。
回転寿司本来の「メニューが回る楽しさ」を存分に活かしたサービスですね!
こちらのサービスは、既に特許取得されていますが、この「プレゼントシステム」のどの部分が発明として権利化されているのか、気になりますよね。
特許7611455【図18】より
図18では鮮度くん(寿司カバー)が開き、タブレットの画像が表示されていますが、この図を参考にしながら請求項1を紹介していきましょう。
請求項1では、鮮度くん(請求項1ではイベント用第1支持体)と、タブレット(請求項1ではイベント用第2支持体)の動作処理について書かれています。
鮮度くんは、テーブルに到達する前には蓋が閉じているように設定され、対象顧客のテーブルを通過するタイミングで、蓋が開くように制御されます。
鮮度くんとともに移動するタブレットは、テーブルに到達する前には何も表示されておらず、対象顧客のテーブルを通過するタイミングで、動画や画像等が表示部に表示される処理が実行されます。
さらに、鮮度くんとタブレットは、一列に並んで回転レーンを回る、といった動作処理について請求項1に規定されていました。
これにより、鮮度くんとタブレットが、サプライズの対象となる利用客の席の前に流れてきたタイミングで、鮮度くんの蓋が開き、且つ、タブレットの画面が明るくなるので、どの利用客へのサプライズなのか直前まで分かりません!
こちらの「プレゼントシステム」は、商標出願されています。
ほぼ同じタイミングで、「プレゼントシステム」に関連しそうな名称も複数出願されていました。
回転寿司プレゼントシステム:商願2024-126091
流れるプレゼントシステム:商願2024-126090
まわるプレゼントシステム:商願2024-126089
くらプレゼントシステム:商願2024-126088
このシステムについて、ネーミングの候補がいくつか挙がっていた様子が伺えますね。
回転レーンを活用したサプライズ、ますますくら寿司での食事が楽しくなりそうです。
3.くら寿司の回転レーン、大阪万博に登場!
2025年4月から大阪・関西万博が開催されます。間もなくですね。
ここで、大阪・関西万博に、巨大なくら寿司が登場するという情報を見つけました!
公式サイトには大阪万博出展におけるくら寿司の想いが、公開されていました。
回転ベルトは、世界を一つに。
回転ベルトを通して、世界中の人々が笑顔になれる食体験を実装いたします
回転ベルトは、世界を一つに。世界最大規模のくら寿司が大阪・関西万博に登場
具体的には、店内には巨大レーン(135メートル)が設置され、天井には、巨大な回転レーンとお皿がシンボリックに描かれるそうです!構想を読んでるだけで、ワクワクするような食事体験がイメージできますね。
そして、回転レーンを流れる「鮮度くん」は、特別仕様になっており、まるで2つの鮮度くんが手を繋ぐように、2つのカバーが連結しています。
回転ベルトは、世界を一つに。世界最大規模のくら寿司が大阪・関西万博に登場
手が繋がる連結部分には、メニューを説明するカードを設置できるようになっています。
2つの鮮度くんを連結させ、連結部分にカード(表示部材)を設置できる連結部材の構造が、特許出願されていました。
特許7583346 【図16】より
万博仕様に近い、握手をしているような連結部分の構造例についても、図31に開示されていました。
手が繋がった形状の連結具については、更に意匠登録もされています。手を繋ぐ形状の連結部がとても特徴的ですね!
意匠登録1782063 正面図より
いつもの回転寿司とは少し違う、特別仕様である回転レーンを通じて、一体感や特別感を体験できそうですね。
4.今後はどんな食体験ができる?くら寿司の未来を特許情報から読み解く
4.1.回転レーンにスノーグローブ付き鮮度くんが登場?
スノーグローブ(スノードーム)という玩具をご存じでしょうか。透明なドームの中に雪の情景を封じ込めたミニチュアで、皆さんもお土産物屋などで見かけたことがあるかと思います。
ここでスノーグローブと鮮度くんが合体というユニークな特許出願を見つけました!
お寿司は特に鮮度が重要なメニューですね。
鮮度を判断するために、お寿司を回転レーンに乗せてから、利用客がそのお寿司を取るまでにどれだけの時間が経過したのか、という指標を把握できることが好ましいです。
このような経過時間の把握が必要なのは、回転寿司のような、特殊な料理の提供形態だからこその課題とも言えるように思います。
鮮度くんにはQRコードが貼られているため、情報の管理方法が色々ありそうですが、特許出願されていたのは、経過時間の管理とスノーグローブを組み合わせた、想像を超えるユニークなアイデアでした。
特開2024-140948【図2】より
この図では鮮度くんの椀状の蓋の部分を覆うように、スノーグローブが設けられている構成が開示されています。
従業員は、お寿司が設置された鮮度くんの蓋を閉めて、回転レーンに置きます。
蓋を閉める動作により、スノーグローブ内の固形物が浮遊します。
回転レーンに置かれてからそれほど時間が経過していない段階では、固形物が蓋全体を浮遊している状態でレーン上を回っています。一方、回転レーンに置かれてから時間が経過していると、浮遊していた固形物が底の方に沈んでいきます。
利用客は、固形物の浮遊状態によって、そのお寿司がレーンに置かれてからの時間を直感的に把握できます。固形物のほとんどが鮮度くんの底の方に沈んでいたら、このメニューがキッチンで作られ、回転レーンに置かれてから時間が経っているのかな?と判断することができますね。
店員も同様にこのような把握ができるため、鮮度の観点から、メニューを回転レーンから下げるか否かの判断に活用することができます。何より、回転レーンにスノーグローブが乗っている状況を想像すると、視覚的にも楽しめそうですね。
くら寿司がスノーグローブの設けられた鮮度くんを導入しているといった情報は現時点(2025年2月時点)では見つかりませんでしたが、スノーグローブが乗っかる回転レーンが実現する日が、近いのかもしれません!
4.2.回転レーンを活用した演出
続いては、回転レーンを用いた演出に着目したアイデアです。
前章のサプライズシステムでもご紹介したように、商品となる飲食物以外にも、演出アイテムが回転レーンに乗って飲食物とともにレーンを移動することによって、利用客の食事をよりいっそう楽しいものとしてくれますね。
さて、くら寿司のレーン構造は直線レーンではなく、客席の端で折り返す構造であり、端部にはカーブ形状があります。ドーム状の鮮度くんがこのカーブを曲がることは特に問題がありません。しかし、例えば、長尺の演出品が回転レーンを移動する場合、レーンの幅や方向転換の角度によっては、演出品がカーブを曲がりきれず、倒れてしまうなどのおそれがあります。つまり、回転レーン上を移動する演出品は、その寸法に制限が生じてしまいます。
特許7549284【図1】より
回転レーンに長尺の演出物を搬送させる場合に生じる課題を解決したのがこちらのアイデアです。
特許7549284【図2】より
搬送物を載せる支持体が複数連なった形状になっています。複数の支持体は、搬送方向に連なっています。そして、支持体同士の連結部には、可動域が設けられており、回転レーンに沿って変形しながら移動することができます。
特許7549284【図4】より。回転レーンのカーブに沿って演出品が移動する図
これにより、カーブのある回転レーンにも、長尺の演出品を載せることができます。一体感のある、大きな演出品をレーンに流すことにより、インパクトの強い影響を利用客に与えることができますね。
図面には、演出品の例が2つ開示されていました。
特許7549284【図7】【図8】より
こんなに大きくて素敵な演出品が回転レーンに乗って回っていたら・・・と想像すると、店舗の雰囲気が今までとは大きく変わりそうですね!
こちらの構成の演出品を導入しているといった情報は現時点(2025年2月時点)では見つかりませんでしたが、いつか回転レーンに乗って演出品がやってくる日が来るかもしれません!
5.まとめ~想像を超えた「回転」へ
本記事では、くら寿司の回転レーンを介した様々な体験を提供するコンセプトを、知財情報の観点から調べてみました。
回転レーンを通して、利用客に飲食物を安心安全にお届けする技術はもちろん、単なる食事の提供手段としての回転レーンに留まらず、わくわくする食体験を提供することにも注力されている様子が伺えました。
その裏付けとして、回転レーンにおいてお寿司を回すといった発想を超えたアイデアが出願・権利化されています。これらが実現されていくと、回転寿司の概念が大きく変わっていきそうですね。
2025年の大阪万博にも出展が決定し、世界にその技術力をPRしていくくら寿司。今後も新たなアイデアや技術がどのように実装され、私たちの食体験をどのように変えていってくれるのか、引き続き注目していきたいです。