日常の中で、あまり身近に感じる機会がない方が多いであろう「特許」。製造業や、研究開発系の世界の話に思えるかもしれません。
実は、私達がよく利用する飲食店においても、特許が関わっているケースがあるのです。
飲食業界と特許、少し意外に感じるかもしれません。そこで、今回は飲食業界においてどんな特許が出願されているのか調べてみました。
この記事では、飲食店における提供メニューのレシピからスマホオーダーシステムまで、飲食業界において幅広く出願されている特許の内容をご紹介いたします。
目次
1.【ミスド】メニュー、レシピに関するアイデア(製造方法)
実は、料理のレシピに関するアイデアが特許取得されています。料理のレシピって、特許になるの?と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、料理のレシピも一定の条件(※)をクリアする場合、特許権として保護可能です。
(※)特許法上の発明該当性、新規性、進歩性の要件を満たす場合、特許として認められます。発明該当性の観点では、特に料理の場合、個人の技能によらないレシピである点などに留意してください。
メニューやレシピのアイデアについては、ミスタードーナツの事例を紹介します。
ミスタードーナツは、ドーナツを主力とするアメリカ合衆国発祥のファーストフードチェーンです。日本においてドーナツチェーンの首位を走り続けています。
特許出願されていたのは、期間限定で提供されている「クレームブリュレドーナツ」に関するアイデアでした。
クレームブリュレドーナツそのもの(物の発明)と、クレームブリュレドーナツの作り方(製造方法の発明)がそれぞれ特許として認められています。
(年金不納により、特許権自体は現時点で消滅しています)
まず、クレームブリュレドーナツの構成について請求項1に記載されています。ドーナツの本体の上面に焦げ目を有したカスタードクリームが塗られ、さらにカスタードクリーム層は糖類で覆われています。糖類は二層になっていて、下側にカラメル層、最上面はガラス層になっています。
ドーナツの上にカスタードクリーム(第1ペーストの一例)が塗られており、カスタードクリーム層は、カラメル化した糖類とガラス化した糖類によって覆われています。このような上面に付着させたグラニュー糖が、常温で溶けて垂れてしまうことにより販売が難しいこのようなタイプのドーナツも、上層をガラス化した糖類で覆うことにより、販売できる商品になったことが書かれています(明細書段落0004-0005)。
製造方法については、まずドーナツを揚げる工程と、第1のペースト(カスタードクリーム)を塗布する工程と、第1糖類(グラニュー糖)、第2糖類(トレハロース)を順に付着させ、加熱する工程が規定されています(請求項9)
当時、「プリンのようなクレームブリュレと、ドーナツとを組み合わせる」ことがかなり斬新なアイデアだったのでしょう。おそらくミスタードーナツはそのアイデア自体を守る目的で、ドーナツそのものについて特許出願されたのではないかと推察できますね。
また、その新しいアイデアをいかに商品化できるか?具体的には、消費者に販売して、さらに消費者が食べるタイミングまで形状や美味しさを維持できるのか?という点での工夫を守るために、製造方法に関する観点でも権利化を狙ったのかもしれません。
2.【マリノ・ゼンショー】料理の提供に用いる食器・調理器具に関するアイデア
消費者に提供する料理そのものではなく、提供の際に使われる食器や、調理に使われる器具について権利化されているケースもあります。
2-1.食器
食器については、イタリアンレストランチェーンの「マリノ」の事例をご紹介します。
マリノは、パスタやピザがいただけるのはもちろん、デザートを選ぶ楽しさもあり、家族でよく利用しています。
特許として認められていたのは、スープパスタを提供する際に用いる土鍋に関するアイデアです。
円盤状のカーボンから形成される、土鍋の底面に、四つの凸部が設けられているのが、特徴的な形状です。
これにより、電磁調理用土鍋が著しく高温にならないため、電磁加熱中に電磁調理用土鍋内の調理物が焦げついたり、電磁調理用土鍋からスープが溢れ出たりせず、スープが沸騰している状態でスープパスタを客に提供することができることが記載されています。(段落0009)
先日期間限定で提供されていたスープパスタにも使われていました!右上に特許取得の表示もありますね。
画像:筆者撮影
2-2.調理器具
調理器具については、「ゼンショーホールディングス」の事例をご紹介します。
ゼンショーホールディングスは、牛丼、うどん、ハンバーグ、回転寿司、コーヒーショップなど、幅広く外食事業を展開しています。例えば、すき家、なか卵、ジョリーパスタ、はま寿司などが特に有名ですね。
実用新案登録されていたのは、卵焼きを簡単に作ることのできる調理器具に関するアイデアでした。
熟練した作業者でなくとも、容易に卵焼き製品を作成することができる卵焼きの調理器具です。多くのチェーンを展開するゼンショーにとっては誰でも同じ卵焼きが作れることは大切ですね。
コの字型の枠体に溶き卵を流し、手前側(開口側)に土手状に溶き卵を形成しておき、奥側に残りの卵を流し込みます。その後、手前側から奥側に向かって、ヘラ部材で卵を巻いていくと、卵焼きを簡単に作ることができるというものです!
これであれば、業務用のサイズの卵焼きを作るのにも、熟練の技を要しません。従業員が卵焼きを作るハードルが下がりますね。
ゼンショーの展開する飲食店は、比較的リーズナブルで気軽に利用できる業態の店舗が多いです。また、展開する店舗の数も多いですね。
このような状況の中で、特別な技術を要さず、誰でも簡単に、品質にばらつきのない料理を提供するための調理器具の導入は欠かせないことでしょう。
3.【サイゼリア・すき家】スマホオーダーシステム
近年、飲食店でも、スマホを介して注文をするシステムを導入する店舗が増えてきたように思います。例えば、マクドナルドでは席から自分のスマホでオーダーすることができるようになり、休日のお昼などにレジカウンターの前に出来ていた行列が解消されたことが印象的です。
この、スマホオーダーシステムについて、飲食店から特許出願や実用新案登録出願されていましたのでご紹介します。
3-1.サイゼリヤのシステム
スマホオーダーシステムの事例の1つ目は、イタリアンレストランチェーンの「サイゼリヤ」の実用新案登録をご紹介します。
サイゼリヤは、お財布に優しい値段でイタリアンが楽しめるファミリーレストランです。価格が安いだけではありません。たとえばワインやミラノ風ドリアなど、こんなにおいしくて、この値段なの?と驚いてしまいます。
サイゼリヤといえば、テーブルに設置されている注文用紙に記入して店員さんに渡すスタイルだった記憶がありますね。いつもお客さんで賑わうサイゼリヤ。注文用紙を渡すためだけに呼び出しボタンを押すのが申し訳ないときもありました。
そんなモヤモヤも解消!近年は徐々にスマホオーダーシステムを導入する店舗が増えているようです。
画像引用元:サイゼリヤの注文方法が進化してる!? カギは「客のストレス減」「効率化」 大手外食チェーンで起きているDXの正体
そして、このスマホオーダーシステムに関連する実用新案登録出願がされていました。
テーブル端末3に表示されている二次元コードを、ユーザのスマホで読み取ってオーダー受付画面にアクセスし、オーダー受付画面からオーダーを行えるもの。テーブル端末3は、オーダーが受け付けられた後に、「表示中の二次元コードに代えて、二次元コードとは異なる新たな二次元コードを表示する」という構成が請求項1に記載されています。テーブルに座るお客さんが入れ替わるタイミングで、二次元コードも新たなコードに変更させるというアイデアですね。
より具体的な例として、その二次元コードによるオーダの会計が行われたタイミングで、新たな二次元コードに変更可能であるアイデアも記載されていました。
実際、サイゼリヤのテーブルに設置されている札も、表示情報を変更可能な表示装置であるようです。このようにすれば、何かの手違いで他のお客さんのオーダーまで支払ってしまった・・・といったようなトラブルを回避できそうですね。入れ替わり立ち替わり、お客さんが途切れない状況の飲食店にはとても有用な仕組みです。
なお、今回ご紹介したのは店舗側に設置される表示端末(QRコード表示)に関する実用新案登録でしたが、スマホオーダーの際にお客さんのスマホに表示されるUIが話題になっています。
従来の用紙記入方式の感覚で利用できるので、お客さんが使い方に迷う要素が低減されている構成になっているとのこと。サイゼリヤの工夫が垣間見えますね。
3-2.すき家のシステム
スマホオーダーシステムの事例の2つ目は、「ゼンショーホールディングス」の特許出願事例をご紹介します。
ゼンショーホールディングスの展開する「すき家」にて、2019年からモバイルオーダーが始まりました。そのサービスに関するアイデアの特許出願ではないでしょうか。
ユーザは、自身のスマホから、注文情報と、自身が着席した座席の情報を入力し、注文情報に基づいて決済処理を行います。決済が行われると、注文情報と座席の情報がお店側のサーバに送信される、という処理になっています。
まさにこの点が、特許出願されていました。
ユーザ視点では、入店して空いている席に着席し、自分のスマホで注文・決済まで済ますことができるため、お会計に並ぶ手間が省けます。注文のために並ぶ必要がないので、列の後ろの人を気にせず、ゆっくりとメニューを選ぶことができます。
また、注文履歴が蓄積されることにより、何度も注文したメニューはお気に入り登録されます(請求項4)。これで、よりメニューの注文の手間がかからなくなりますね。
お店側の視点では、注文情報とともに座席の情報をスマホを介してお客さんから受け取るので、店舗における座席の使用状況が把握できます(請求項3)。
また、注文された料理が完成すると、お客さんのスマホに通知することができます。例えばフードコートのような、お客さん自身が料理を提供口まで取りに行く場合であっても、お客さんは速やかに料理を取りに行くことができますね。
近年いろんな店舗で見かけるようになったスマホオーダーシステムも、その業態に応じて様々な工夫が見られます。そして、その工夫は各企業が特許出願することにより、権利として守る様子が伺えますね。
4.まとめ~飲食チェーンの特許もいろいろ!
本記事では、飲食業界において出願されている特許をご紹介しました。料理の作り方から、調理器具、近年増えつつあるスマホオーダーシステムまで幅広い特許出願が確認できました。
お客さんが入店してから注文、料理の提供、お会計まで、至るところに企業の工夫が見られることが分かりますね。中でもどの部分に注力し、他のお店と差別化していくのか。戦略のバリエーションも広いことでしょう。
特許出願から見える各企業の工夫を色々と知ると、実際にお店に行きたくなりますよね。別の角度から、外食を楽しんでみるのもいいかもしれません。