恐らく、誰もが一度は見たことがあるお菓子『しるこサンド』。近ごろ、そんなロングセラーお菓子の人気がますます高まっていることをご存じでしょうか?
商品のユニークな進化と人気の拡大をけん引しているのは、『しるこサンド』の販売元である松永製菓株式会社。
初代の発売から50年以上経った現在も、新登場のフレーバーやナゾの”生”商品によって『しるこサンド』の魅力を高め続けています。
加えて、2023年の11月6日にはGoogle検索においても『しるこサンド』の人気が急上昇。SNSを中心に人気の作品「ちいかわ」に登場したことで注目を集め、「品切れで手に入らない」といった声が多数投稿されました。
そこで今回は、近年ますます盛り上がりを見せるお菓子『しるこサンド』の人気の理由と、松永製菓のブランド戦略に注目。商標とブランドの関係や、ユニークな新商品の味わいにも迫ります。
目次
1.新商品への野心が絶えないベテラン菓子『しるこサンド』
初代『しるこサンド』が発売されたのは、松永製菓の設立から28年後の1966年。ビスケット系の新商品を開発するにあたり、地元名古屋の名物である「あんこ」を使ってみることになったそうです。
開発は難航したものの、約1年ほどの期間を費やしてようやく、あんこをビスケットに挟んだ商品が完成。ネーミングは、使用したあんこが「こしあん」であったことから「おしるこサンド」も候補として挙がったものの、語呂のよさから最終的に『しるこサンド』に決定したとのことでした。(メシ通 紹介記事より)
そんな『しるこサンド』は、2023年だけでも期間限定商品を7種発売。名古屋の食文化に根付いた名菓としての人気だけでなく、ブランドとしての野心も絶えない商品となっています。
お知らせ一覧 松永製菓株式会社
なお、『しるこサンド』に関する商標が初めて登録されたのは、発売から約27年後の1993年11月。
27年間多くの人に愛され、ロングセラー商品としての地位を得たことで、模倣品に対する警戒感が強まり、商標出願に至ったのかもしれません。ここで登録情報を見てみましょう。
この商標のユニークな点は、「指定商品」の記載。”30類 しるこ風素材をはさんだビスケット”と、単なる「ビスケット」とは異なる非常に限定された書き方になっています。
これは、出願時に指定商品として「ビスケット」とだけ記載すると、特許庁に
しるこ風素材を用いないビスケット等に『しるこサンド』の商標が使われると商品の品質に誤認が生じる恐れがあり、登録は認められない(商標法4条1項16号)
として拒絶理由通知を受ける可能性が高いため。スムーズに商標を登録するために、”しるこ風素材をはさんだビスケット”と細かく内容を指定したと考えられます。
松永製菓の工夫の甲斐もあって、商標登録は無事に完了。ここから『しるこサンド』はますます発展していきます。
2.”生”要素はどこにある?2015年発売『生しるこサンド』
2015年には、手作業で仕上げたワンランク上の商品『生しるこサンド』が登場。
同年に商標も出願されており、松永製菓の気合いが入ったブランド商品であるとわかります。
しかし、ここで脳裏に浮かぶのが、「しるこの”生”ってお椀に入ったあったかいヤツなのでは?」という疑問。
普通にイメージするしるこ
常温のクリームを挟んだ「生」の『しるこサンド』とは、一体どんなモノなのか……?気になったので、松永製菓の公式オンラインサイトで商品を取り寄せました。
今回頼んだ『生しるこサンド』は、定番のつぶあん味。黒を基調とした高級感のある箱に入っており、見た目からも通常版とは異なる雰囲気が感じられます。
個包装に包まれた『生しるこサンド』を取り出すと、さっそく小豆の渋い香りが。ビスケットの手ざわりはしっとりしていて、こんがり焼かれることは少なく食べごろが短い「生」スイーツの趣が漂っています。
ビスケットに挟まれたクリームはなめらかで、中から大粒の小豆が登場。ふわっと口の中で溶けるクリームと、固い小豆の粒の食感のコントラストが楽しめます。
ビスケットは厚みがありながらも柔らかく、小麦の自然な甘みが引き出されたやさしい味わい。小豆の皮の渋みが合わさって、ほんのり苦い大人のテイストに仕上がっていました。
ちなみに、通常版と生版の『しるこサンド』を比べた様子がコチラ。『生しるこサンド』のほうが二回りほど大きく、厚みは1cmほど分厚いことがわかります。
通常版も美味しいものの、『生しるこサンド』の後に食べると、油が少しくどいと感じたのが正直なところ。
『生しるこサンド』は「生」にこだわり柔らかさを残したことで、油ではなく小豆の風味とビスケットのザクほろ感が引き立てられているのかもしれません。
液体をサンドするのは難しいため、一般的な「おしるこ」の生バージョンか……、と問われると違うと言わざるを得ないものの、繊細な焼き加減によって小豆の味わいを活かした「生」に近いひと品でした。
3.「しるこ」を超えた?2022年登場『an biscuit(あんびすきゅい)』
さらに松永製菓は、『しるこサンド』をはじめとするビスケット商品の技術を活かしたお菓子『an biscuit(あんびすきゅい)』を2022年に発売。ちょっとリッチな”プレミアムライン”のブランドとして展開されています。
『あんびすきゅい』の商品説明において特徴的なのが、”ほろりとほどけるクリームサンド”というキャッチフレーズ。クリーム?と思って公式サイトを見ると、し、しるこがいないっ……!?
しるこが使用されていなくても『しるこサンド』の要素が感じられるのか気になったので、『あんびすきゅい』も実食することに。
こちらの外箱にはアルファベットの表記しかなく、和の趣があった『生しるこサンド』とは打って変わって洋菓子に近いデザインとなっていました。
個包装を開封すると、バニラビーンズの香りが広がるビスケットサンドが登場。バターの芳香まで漂ってきて、食べる前から食欲をそそられます……。
ほどよく固いクリームは、ミルクの風味を感じるコクのある味わい。ビスケットは落ち着いた印象の見た目から想像していたよりも甘く、砂糖のザクっとした食感を楽しめる生地に仕上がっています。
クリームは甘さが控えめのため、砂糖の甘みを感じるビスケットとの相性がバツグン。ビスケット生地の砂糖の粒感がかなり『しるこサンド』に近い商品となっていました。
『しるこサンド』のビスケット技術が生かされている一方で、ビジュアルはよりリッチに進化しているため贈り物にもぴったり。『あんびすきゅい』の実物からは、オリジナルの良さを受け継ぎながら発展した様子がたしかにうかがえました。
ちなみに、『あんびすきゅい』には商標の面でも異なる点が。
『an biscuit/あんびすきゅい』の商標は、30類の菓子に加え、通常の『しるこサンド』や『生しるこサンド』にはない43類での登録もされています。
「43類:飲食物の提供」は、カフェや飲食店の経営といったサービスの区分です。
どうしてこの区分を指定したのか?調べてみたところ、松永製菓が過去に『あんびすきゅい』と名のついたビスケットの食べ放題店を経営していたことがわかりました。
こちらの『あんびすきゅい』店舗は2018年に閉店。2021年に新たな『an biscuit/あんびすきゅい』を43類でも登録したのは、チャンスがあればまたカフェをやりたい!といった思いの表れなのかもしれません。
なお、新たな『あんびすきゅい』は、高島屋の催事にも出店。”プレミア”感のある商品として、『しるこサンド』とは少し違った客層やシーンを狙っている様子が伺えます。
まとめ:『しるこサンド』ファミリー&松永製菓、人気のヒミツはどこに?
定番商品『しるこサンド』を基盤としながら、さまざまな新商品や新ブランドを展開する松永製菓。今回の探究からは、『しるこサンド』と松永製菓の人気のヒミツとして以下の3点があるとわかりました。
- 新参スイーツも顔負けの新発売サイクル
- 「しるこ」の概念を捨てた商品開発
- もはや「しるこ」を忘れたブランド展開
松永製菓の大きな特徴は、『しるこサンド』のブランド力と製造において培った技術を活かしつつ、「しるこ」そのものの形状や、「しるこ」の言葉にとらわれず柔軟に発想を広げている点。
さらに商標登録によってその発想を保護しており、大胆ながらも堅実な企業戦略であることもうかがえました。
地元名古屋に根付いた「しるこ」文化をもとに、「生」や洋菓子の世界にまで踏み出している『しるこサンド』とそのファミリー。今後どんな商品が出てくるのか考えると、ワクワクが止まりません……。