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商標の「コンセント制度」とは?~法改正で商標併存の交渉の選択肢が増えます

商標登録したいんだけど、すでに類似商標が他社に取られている。

でも、

「特許庁の審査では類似商標と言われるだろうけど…実際は当事者は問題にしないんじゃない?」

と思ったことはありませんか?

そのようなとき、「当事者は2つの商標が市場で併存しても問題ないので、商標が類似でも2つとも商標登録を認めてください」と特許庁に主張できる新制度=コンセント制度が、2023年6月14日に公布された法改正により導入されることが決まりました。

このコンセント制度の導入により、すでに類似商標が取られていて困ったときの対応策が新たに一つ増え、従来よりも商標登録できるチャンスが広がります。

そこでこの記事では、コンセント制度とはどんな制度なのか、具体的にどういうときに活用できるのか、これが導入されることの意義(これまでとの違い)などについて、商標登録に詳しくない方にとってもわかりやすく解説します。

1. コンセント制度とは?

コンセント制度(同意書制度)とは、「先に類似商標を登録している権利者(先行権利者)が、わたしの商標が登録されてもOKと言っています」という証拠を特許庁に提出すれば、本来なら審査で弾かれてしまう類似商標でも登録することができる制度です。「OKと言っている証拠」というのが同意書なので、同意書(英語でコンセント)制度やコンセント制度と一般に呼ばれています。

そもそも、普通は後から類似商標を登録することができないことになっているのは、まぎらわしい商標を他の人に使われてしまうと、先に商標権を持っている人(先行権利者)の利益が損なわれるからです。

そうであれば、「先行権利者がOKと言っている」なら類似商標でも登録を認めてよいのは道理。これはとてもわかりやすいかと思います。

2. どういうときに使う制度なのか?

コンセント制度が使えるのは、商標登録出願をした結果、他社の類似の商標登録(または審査中のもの)があることが理由で審査落ちの通知(拒絶理由通知)が来てしまったときです。

通常この場面では、大きく次の2つの解決手段があります。

  1. 商標が似ていないと反論して審査官を納得させる
  2. 他社の商標登録を何らかの理由で潰す(権利取消を図る)

①がもっともスタンダードな解決手段ですが、2つの商標がほぼ同一だったりかなり似ている場合には、説得力のある反論が難しく、勝算が低くなります。

一方②には、2つの高いハードルがあります。一つは、そもそも権利取消できる法的理由がある状況になければ潰すことはできないということ。もう一つは、権利を潰すというのは先行権利者への敵対的なアクションになるため、相手と友好的な関係を築きたい場合に採りにくい手段であるということです。

そのため、①も②も難しい…という場面がどうしても出てきます。他社と商標が被っているということは、そもそもブランドを背負うネーミングやマークとして市場での独自性が足りない可能性もあるため、ここで別の商標の考案へと舵を切るのも非常に有効な判断ではありますが、どうしてもこのままの商標で行きたい!というケースがあるのもまた事実。

そんなときに、もう一つの選択肢となり得るのが、コンセント制度の活用というわけです。

特許庁で行われる商標登録の審査では、「ここまでは類似の商標だと判断しよう」というボーダーラインはやや広め(類似と判断する範囲が広め)になります。なぜなら、商標登録の審査は、日々大量の出願を少数の審査官が処理していかなければならないため、「実際の当事者が2つの商標を取り違えるか」「実際のビジネスが競合するか」という点の深い検証はなかなかできません。どうしても、ある程度機械的・一律な基準に当てはめて判断せざるを得ない事情があります。

一方で、現実の当事者の間では、「確かに商標は読みは同じだけど、これだけロゴデザインが違っていれば間違えない」とか「権利内容としてはバッティングしているけど、実際と商品は消費者層が分かれているから問題ない」と思っているケースがあり得ます。このような場合にまで、審査基準を形式的に当てはめて登録NGにするのは、本末転倒になりかねません。これを防ぐのがコンセント制度の役割になります。

3. なぜこれまでコンセント制度が導入されていなかったのか?

当事者が問題ないと言っているにもかかわらず商標登録できない状況を避けるためにあるのがコンセント制度ですが、それならなぜ、今さら導入されることになったのでしょうか?もっと前から導入されていてもよさそうなものです。

実は、コンセント制度の導入については、かなり前から「導入の要望」があったり、それを受けて有識者が「導入の検討」を重ねてきた経緯があります。それでもなかなか導入決定に至らなかったのには、大きな理由があります。

その理由とは、

権利者同士が類似商標を併存させてOKと言っているからといって、消費者も同じく困らないとは限らない。

という問題点です。

商標を「使う人」は商標権者ですが、市場でその商標を「見る人」はあくまでも消費者。もし本当は別のブランドなのに紛らわしい商標が付けられていたら、それを買おうとする消費者も混乱してしまいます。

実は商標法第1条では、商標法の目的を次のように定めています。

第1条 この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

つまり、商標法が商標を保護する目的には、次の2つがあり、商標を「見る側」としての消費者の利益を保護することもこれに含まれているのです。

  1. 商標の使用をする者(権利者)の業務上の信用を維持するため
  2. 需要者(消費者)の利益を保護するため

したがって、本来は商標登録の審査で登録NGになるほど似ている商標同士なのにもかかわらず併存して登録するという例外措置を行うには、「権利者が問題ないと言っているからOK!」と安直にことを進めるわけにはいきません。「消費者も困らない」ということも何らかの形で確認できなければ、商標制度の思想としてはOKを出せないというわけです。

先行権利者が類似商標の併存登録に同意していることを示すためには「同意書」を作ればよいので簡単です。しかし一方で、「消費者を混乱させるおそれがない」ということを示すとなると……まさか、数えきれないほどいる世の中の消費者たちから同意書を取るわけにはいきませんし、なかなか難しそうです。

この「消費者を混乱させるおそれがない」ことをどうやって担保するか問題をどのように解決するか?の議論や調整に時間がかかったため、これまでなかなかコンセント制度の導入決定にまでは至らなかったのです。

4.利用するには具体的にどんな書類が必要なのか?

このたびのコンセント制度の導入決定により、どのような条件を満たせば類似商標の併存登録を例外的に認めるかが、大筋まとまりました。

商標法の条文としては、4条4項に次のような条文が新設されます。

第4条第4項 第4条第1項第11号に該当する商標であっても、その商標登録出人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。

つまり、次の2つを示せば、類似商標であっても併存登録が認められることになります。

  1. 先行権利者が承諾(同意)していること
  2. その2つの商標が使用されても出所混同が生じるおそれがないこと

この改正法は2023年6月14日に公布されましたが、改正法の施行までは公布から1年ほどの期間があり、これ以上の細部の運用は施行日までにさらに詰めることになっています。

そのため、本記事執筆時点では、上記を満たすために具体的にどのような書類を整えて特許庁に提出しなければならないのかについては詳しく決まっていない状況です。しかしながら、おおよそ、次のような書類を用意すべき、というような流れで話が進んでいるようです。

コンセント制度を利用するために提出が必要になると思われる書類(未定)

  1. 先行権利者の承諾を示す書類(合意書等)
  2. 現在において両商標が混同しないような使用状況であることを具体的に示す書類
  3. 将来にわたっても②の使用状況が維持されることを示す書類

①については、「類似商標が併存して登録されることに先行権利者が承諾しています」という合意書を提出すれば良さそうです。もっとも、「合意書」のような当事者間の契約書そのものにはその他のさまざまな条件などが詳細に記載されていることも多いため、特許庁へ提出して公開資料となってしまうのは困る、ということも十分あり得ます(商標登録のために特許庁に提出する書類は、基本的に公開資料となります)。そのため、必ずしも合意書そのものの提出を求めるのではなく、合意書の要約版など「合意があること」が十分にわかる程度に情報を絞った書面を別途作成し、それを提出することでも良くなるように調整が進められているようです。

②③については、「先行権利者が承諾しているよ」という点ではなく、「類似する2つの商標が実際に使われても混同が生じるおそれはないよ(消費者は困らないよ)」という点を示す資料という位置付けになります。

まず②は、現時点(商標登録の審査時)において、2つの商標が混同しないような措置がそれぞれの権利者において取られていますよ(そのような措置をするという取り決めをしましたよ)ということを示す書類になります。具体的には、次の6つの観点から、両商標を棲み分けする取り決めが存在することを示す必要がありそうです。

具体的な商標の使用状況たとえば・・・
(1)商標の構成図形と文字を常に一体で使用していること、色や書体を固定していること
(2)商標の使用方法双方の商標にハウスマークや打消し表示を付加していること、商品の梱包の特定の位置にのみ使用していること
(3)使用する商品・サービス一方はゲーム用コンピュータ・プログラムにのみ使用し、他方は医療用コンピュータ・プログラムにのみ使用していること
(4)販売・提供方法対面のみで販売していること、個別営業による受注生産のみで販売していること
(5)販売・提供の時季一方は秋季のみ販売し、他方は春季のみ販売していること
(6)販売・提供地域一方は北海道でのみ販売し、他方は沖縄県でのみ販売していること

そして③は、②の「現在の棲み分けの状況」が今だけではなくて、今後将来にわたっても継続・維持していく取り決めもされていることを示す書類になります。もし③がなかったら、商標登録の審査を通すために一時的に棲み分けの取り決めをして、その後は適当に・・・ということも可能になり、それでは消費者は困ってしまいます。これを防ぐ意図で、将来にわたっても混同を防止する措置がきちんと両権利者の間で実行されていく、ということを担保することが求められています。

上記①〜③は、1つの「合意書」の中に全て含まれていればその合意書を1通特許庁に提出すればよいし、別々の書類として分けて作成して提出してもよい、という運用に今のところなりそうです。

より具体的なこと、あるいは最終的にどのような運用で決まるかは、今後の改正法施行日までの最終調整の結果を待ちたいところです。

5. コンセント制度は本当に「使える」制度なのか?

ここまでコンセント制度について解説をしてきましたが、このコンセント制度は本当に「使える」制度として実際に活発に利用されるのか?という点について最後に少し書きたいと思います。

というのも、コンセント制度がなかったこれまでの間、代わりに「アサインバック」と呼ばれる手法により類似商標の併存登録が実現されてきた実務の経緯があるからです。

アサインバックとは、2つの類似商標を一時的に片方の権利者名義に変更し、「同じ権利者なら類似商標でも登録OK」ということで商標登録させてから、また本来の権利者名義に戻す、という手法のことです。いったん商標の出願を譲渡(assign)してから元に戻す(back)ので、アサインバックと実務上呼ばれています。

以前よりニーズは叫ばれていたものの、なかなか日本では導入までには至らなかったコンセント制度。ですが、このアサインバックという手法を行うことで、類似商標を2つの異なる権利者に保有させることができるので、これがコンセント制度の代用として長年商標実務上広く行われてきました。

そのため、もし今回導入されることになったコンセント制度が、アサインバックよりも簡単に使えるものでなければ、結局は今後も従来のアサインバックが活用されるだけになる、ということが予想されます。

すでに解説した通り、今回のコンセント制度では、「先行権利者がOKと言っている」ということだけでなく、「消費者も困らない(現在・将来にわたって混同防止の措置が取られる)」ということも併存登録を例外的に認めるための条件になっています。

制度思想上、ここはしっかりと条件を課す必要がある一方で、この条件を満たすことを示させるために過度に厳格な書類を準備・提出しなければならないこととなると、これまでのアサインバックの方が結局楽だ、ということになりかねません。

アサインバックでは、主に以下の準備や手続きが必要でした。

  1. 先行権利者にアサインバックをすることに承諾してもらう(交渉する)
  2. アサインバックの契約を両者で結ぶ
  3. 類似商標の譲渡・再譲渡の手続きを特許庁に対して行う

今回のコンセント制度の場合でも、まずは先行権利者の同意が必要ですから、結局、先行権利者との間で「こういう条件の下で、お互い商標権を持ち合いましょう」という交渉が必要であることには変わりありません。そのため、コンセント制度を利用すれば、先行権利者との交渉や契約条件をまとめるという一番大変なステップを省略できるというわけではありません

むしろ、アサインバックでは、「権利者が同じなら類似商標でも審査に通る」という既存のルールを利用し、一時的にこのルールに当てはまるように権利者名義を変更することで商標登録を成功させるので、特許庁に対しては、特に当事者間の契約書などを提出する必要はありません。一方、いまのところ、コンセント制度では合意書などの当事者間の取り決めを示す書類を準備して提出する必要がありそうなので、コンセント制度を使うほうが大変では?という単純な疑問が湧きます。

ただ、企業によっては、「自社の商標権を(一時的とはいえ)他社に譲渡する」という決裁を取るのが少々大変なところもあります。

また、従来より欧米などの諸外国ではコンセント制度が導入されていたことから、グローバル企業との間で商標併存の取り決めをするシーンでは、世界各国で保有する商標権についてまとめて商標併存の同意をすることが一般的に行われています。このとき、これまでは「日本ではコンセント制度がないので、アサインバックをしないといけない。そうすると日本の分は別途契約書を作らないと…」ということになり、外国企業への説明や交渉の調整が面倒になるという弊害がありました。

このような不便を感じていた企業にとっては、今回のコンセント制度は大きな意義があるでしょう。

それと、諸外国では一般的に導入されているコンセント制度が日本にはないという状況が、国際調和の観点からもあまり望ましくなかったというのもあります。この点でも、コンセント制度の導入はポジティブに評価できます。

一方で、コンセント制度が実際に広く活用されるためには、制度趣旨は大事にしつつも、いかに現実的に負担になりすぎないレベルの提出書類の条件に落とし込むか、が今後の最終調整のポイントになると思います。

おわりに

法改正によって導入が決まったコンセント制度について、どんな制度なのかや使うシーン、問題点などを解説してきました。もしみなさんにとって全体像の理解に役立ったならば幸いです。

筆者としても、諸外国では広く活用されていたコンセント制度が日本でも導入されることになり「ついに来たか!」と嬉しく感じています。

ただ一方で、まだ決まっていない細部の運用のところ次第で、この制度が活きたものになるか、それともただ「制度としてはある」というものになってしまうのかが変わってきそうなので、今後どのような落とし所になるのか、注視していきたいと思います。

お読みいただき、どうもありがとうございました。

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