インフレが続き、毎日のように値上げのニュースが報道される最近の日本社会。
多くの食品の買い控えが起こる一方で、エナジードリンクが売り上げを伸ばしていることをご存じですか?
エナジードリンクの国内販売額は、2017年からのおよそ5年間で約1.7倍に増加。世界市場での取引額は2030年まで年9.6%以上の成長率で拡大すると予測されており、非常に注目されている食品ジャンルです。
そこで本記事では、エナジードリンクの人気の理由を解明すべく、有名ブランド3種の特徴や歴史を、商標情報をもとに詳しく調査しました。
3つのドリンクで元気をチャージしながら、知財を活かしたブランド戦略や、ユーザーの心をつかむ商品開発の秘訣を探ります!
目次
1.モンスターエナジー|大容量でアグレッシブ
アメリカに本社を構える企業「Monster Beverage Corporation」が製造する『MONSTER ENERGY』。
日本では、独占販売権を持つアサヒ飲料株式会社によって販売されています。
モンスターエナジーが初めて商標を登録したのは2006年。その後、果汁を30%含んだ『モンスターカオス』や紅茶をベースにした『モンスター リハブ』など、おやつ感覚で楽しめるカフェイン飲料の商標を多数登録し、商品を展開しています。
商標情報を調べてみて、まず目についた登録がこちら。
あの特徴的な爪痕のロゴがしっかりと登録されており、指定商品にも「エネルギー補給用清涼飲料」と表記されています。
ロゴを用いた実際のPKGデザインも商標登録されている点も特徴的です。商標の権利者名は、米国法人のモンスターエナジーカンパニーになっていますね。
飲んでみた:エキゾチックな野性味
さて、実飲タイムです。3ブランドそれぞれの定番フレーバーを比較していきます。ベーシックな黒い缶の商品の名称はそのまま『MONSTER ENERGY』。
バリエーションには500mlの大型缶もあり、エナジードリンクとしては大容量であることも本ブランドの魅力です。
迫力のある3つ爪のロゴは、缶のプルトップにもデザイン。控えめながら、ユーザーの気分を高める工夫がなされています。
プルトップを開けると、まろやかな甘い香りが。炭酸が強く、グラスに注いでもきれいに泡が残ります。
味はさっぱりしており、ふわっと甘みが広がる柔らかなテイスト。見た目のインパクトからは意外に思われるやさしい味わいで、疲れが穏やかに癒されていくのを感じられました。
高麗人参根エキスのエキゾチックな苦味は、味のアクセントにぴったり。後味にクセが加わり、中毒性のあるドリンクに仕上がっていました。
爽快感:★
パンチ:★★
香り:★★★
エキゾチックな野性味:★★★
そして、モンスターエナジーといえば「多品種」も魅力のひとつ。定番の味に加えて、さまざまな種類の商品が展開されています。
モンスターエナジーの豊富なバリエーションを支えているのは、各国の限定商品。一例として、ニュージーランドではクリーム入りのコーヒーをイメージした商品『MEAN BEAN』が販売されています。
Java Monster Mean Bean | Brewed Coffee Energy Drinkより
ニュージーランドでは近年コーヒーがブームとなっており、”新しいけど斬新すぎない”範囲のフレーバーによって、各国で人気を集めていると考えられます。
その他、ニュージーランドには、ノンアルコールビールをイメージした『THE NON-ALCOHOLIC MONSTER MULE』といったラインナップも。
こちらの品からうかがえるのは、各国のトレンドをふまえて商品を開発するモンスターエナジーの企業戦略。豊かなバリエーションだけでなく、その国の文化から逆算した親しみのある味わいが、モンスターエナジーの人気の理由なのかもしれません。
商標戦略もアグレッシブ?
なお、商標目線ではもう1つ話題が。モンスターエナジーカンパニーは「モンスター」を含む他社商標に対してアグレッシブに異議申立を行っていることで知られています。
J-PlatPatで検索してみても、モンスターエナジー関連会社からの異議申し立てが137件ありました。異議の対象には『モンスターストライク』、『ポケットモンスターXY』といった比較的有名な商標も含まれています(どちらも異議は却下されています)。
客観的に見ると「その異議申立が認められる可能性はかなり低い」と感じられるのですが、それでもアグレッシブに申立をしている理由は何でしょうか。
1つ考えられるのは、他社による「モンスター」を含む商標の出願をけん制する目的です。たとえ申立が認められなくても、一度異議申立を受けた出願人は、「モンスターを含む商標出願をすると、登録まで手間と時間がかかるな」と感じて、今後出願をためらう可能性が高いです。
その結果、少なくとも飲料や食品などの分野で、モンスターを含む商標を使う企業は「モンスターエナジー」だけになっていき、よりブランドを確立しやすくなる・・という戦略があるのではないでしょうか。
「モンスター」という言葉は化け物・正体がわからない恐ろしい物を指す用語として広く使われており、『モンスターストライク』や『ポケットモンスターXY』は造語の一部です。これらにまで異議申立を行うのは個人的にはやりすぎのようにも思いますが、「アグレッシブな姿勢を見せる」こと自体は、ブランドを守るために他にも生かせる戦略といえるでしょう。
2.レッドブル|缶デザインそのものが広告塔
世界第一位の売り上げを誇る『RedBull』。国内では、日本法人のRed Bull Japanが主な流通戦略を担っています。
”翼をさずける”のキャッチコピーはインパクト抜群。テレビCMや街の広告で、キャッチコピーを耳にした経験がある方も多いのではないでしょうか?
そんなレッドブルの関連商標が日本で最初に登録されたのは2001年。最も古い商標はロゴに使われている牛のマークであり、翌年にロゴの背景となる缶のデザインが登録されています。
見慣れたあのデザインが、単体で見るとアジの開きや箱の展開図のようになっているのがちょっと面白いですね。
この特徴的な缶のデザインは、記憶してもらいやすいだけでなく、条件付け反応によって飲む前からユーザーの気分とエネルギーを高める効果もあります。
ちなみに「RedBull」のブランド名が商標登録されたのは、これら2つの登録から10年以上後の2016年。牛と缶のデザインが、ブランド名よりも強くレッドブルのイメージを表す象徴として扱われている様子がうかがえますね。
飲んでみた:翼をさずける飲みやすさ
さて、ここからは実飲です。
レッドブルは、モンスターエナジーよりも一回り小さな250mlサイズをセレクト。
8月8日時点では250ml・355ml・473mlの3サイズが展開されているようですが、今回巡ったドラッグストアやコンビニの全てで250mlの商品のみが販売されており、レッドブルの中では一番ベーシックなサイズだと推察できました。
ブランドにおいて初期に商標登録された牛や缶のデザインは、パッケージの正面に大きくプリント。一目でレッドブルとわかる、強い存在感を放っています。
缶を開けると、パンチの効いた強い香りが。ドリンクのテクスチャーはさらっとしていて、炭酸は抑えめに仕上げられていました。
全体的に甘みが強く、250mlでも満足感のある濃いめの味わい。泡が細かいため、舌ざわりがなめらかで飲みやすいドリンクとなっていました。
爽快感:★★
パンチ:★★
香り:★★
翼を授ける飲みやすさ:★★★
レッドブルには『Red Bull Summer Edition』のような限定品もありますが、やはり定番の『Red Bull Energy Drink』の印象が強いです。
ただ、136種類もあるバリエーション豊かなモンスターエナジーに触発されてか、レッドブルも2010年以降は「エディションシリーズ」のような特色のあるフレーバーを増やしています。
バリエーション戦略はオリジナルのブランドが弱くなるリスクもありますが、レッドブルはオリジナル缶のデザインが世界中で認知され、No.1の販売力を誇っている有名商品です。
すでに強いブランドが確立されている以上、リスクは小さく、モンスターエナジーに対抗してバリエーションを増やすほうが良いという判断があったのかもしれませんね。
3.リアルゴールド|進化を続ける日本の古参ブランド
日本コカ・コーラ社が1981年に発売した『REAL GOLD』。
カフェインが含まれておらず「エナジードリンクなのか?」と話題になることがあるものの、2021年のプレスリリースでは、”エナジードリンクブランド「リアルゴールド」”と明言されています。
そんなリアルゴールドに関する最古の商標が登録されたのは、商品の発売から15年も前の1966年です。
権利者はザコカコ-ラカンパニ-(米国法人)であり、発売前から長い間企画が温められていた商品だったのかもしれません。
「リアルゴールド」は、1966年の出願以降、バリエーション商標が長らく見られませんでしたが、2018年11月に商標「ULTRA CHARGE/ウルトラチャージ」が出願されています。
日本コカ・コーラ株式会社 「リアルゴールド ウルトラチャージ レモン」新登場 リリースより
こちらはさまざまな成分を配合した“ごくごく飲める持続系エナジードリンク”として、2019年に発売されています。
さらに同年には、さらなるバリエーション商品として『REALGOLD DRAGON BOOST』を発売。カフェインを加えてエナジードリンクとしてのニーズを補ったほか、東洋を意識した素材の配合によって欧米企業とは異なる”日本ブランド”としての価値を強調しています。
商品の商標は、ネーミングと同じ「DRAGON BOOST/ドラゴンブースト」で登録されていました。
日本コカ・コーラ株式会社 「リアルゴールド ドラゴンブースト」新発売リリースより
近年のリアルゴールドの各商品からは、レッドブルやモンスターエナジーを意識しつつ、差別化を図ろうとするマーケティング戦略がうかがえました。
この『DRAGON BOOST』は2022年に終売するものの、同年5月にはXJAPANのYOSHIKIさんをプロデューサーに迎えた新ドリンク『REALGOLD X/Y』を発売。
若い世代に向けて2種の異なるフレーバーを対として展開し、販売開始から約半年で合計2,500万本以上を出荷する大ヒット商品となりました。
しかしながら、歴史ある通常版のリアルゴールドにも魅力は満載。容量は160mlと190mlの2種類があり、国内ブランドならではの飲み切りやすいサイズ展開となっています。
飲んでみた:リアルなはちみつ・JAPAN感
それでは実飲タイムです。今回は、通常版リアルゴールドの160mlサイズをセレクトしました。
製品の缶には、はっきりと「エナジードリンク」の印字が。
側面では原材料として70年以上の歴史を誇る「杉養蜂園」認定のローヤルゼリーエキスを使用している旨がPRされています。
熊本に本社を構える老舗店との協働によって、”日本発のエナジー系飲料”としてのイメージを強調しているのかもしれません。
実際のドリンクははちみつの香りが濃厚で、どこかほっとする懐かしい味わい。後味にもまろやかなはちみつの風味が残り、自然な甘みが感じられます。
炭酸は3種の中では最も弱く、飲みやすい印象を受けたエナジードリンクでした。
爽快感:★★
パンチ:★
香り:★★★
リアルなはちみつ・JAPAN感:★★★
なお、2023年8月時点で、本家『REAL GOLD』は80年代に特に爆発的な人気を誇った作品「キン肉マン」とコラボ。
30代以上の中堅ビジネスパーソンに刺さるキャンペーンが展開されており、若者世代を主なターゲットに据えたレッドブル・モンスターエナジーとは異なる顧客層を狙っていると推察できます。
一方、先ほどのYOSHIKIさんを起用した『REALGOLD X/Y』のメインターゲットは若者世代。2つの商品で、広い年齢のターゲット層をカバーしようとする戦略がうかがえます。
まとめ
パワフルな雰囲気を漂わせつつ、三者三様の戦略で消費者へアプローチしていたエナジードリンクブランド3種。
海外企業のエナジードリンクにおいては、モンスターエナジーは各国の文化に合わせた繊細な商品開発、レッドブルは視覚を重視したビジュアル優位の商標登録によって、顧客の心をつかんでいる様子がうかがえます。
また、日本の古参エナジードリンクであるリアルゴールドは、定番商品と新商品でそれぞれ異なる世代向けにPRを行う分化戦略によって多世代への訴求力を向上。
定番商品は昭和時代から愛される作品、新商品は若年層からも支持を集めるインフルエンサーとコラボし、幅広い層へリアルゴールドの魅力を伝えていました。
いざ調べてみると、ブランドごとにかなり違いがみられたエナジードリンクのマーケティング戦略。
今後は、ただ味わうだけでなく、パッケージや商標の裏に隠れた企業の熱意も楽しみたいと思います…!!