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「商標」と「意匠」の違いは?法律ではなく本質的に理解しよう

こんにちは。ブランド弁理士®︎ の土野です。

ロゴマーク、ウェブサイト、プロダクトなど何か商業的なデザインを制作したとき、これを模倣から守るには商標権や意匠権を取得することが大切です。

でも「商標」と「意匠」は似ていて、どう違うのか、自分はどちらの権利を取ればいいのかよくわからない、ということが多いようです。

また、「商標」と「意匠」の違いについて解説するサイトはいくつもありますが、法律的な違いに焦点を当てたものが多く、小難しくてよくわからない…という人もいるでしょう。

そこでこの記事では、法律論よりも「本質的」な違いを初心者にもわかりやすく解説します。

1. 「商標」と「意匠」の見分け方

まず、実用的なことからお伝えしましょう。

「商標」と「意匠」のどちらの権利を自分は取るべきか迷ったときの、カンタンかつ本質的な見分け方です。

「守りたいデザイン」について次のフローチャートに答えることで見分けがつきます。

ごくまれに例外はありますが、ほとんどの場合、このフローチャートを使えば適切な判断ができるでしょう。

  1. それをロゴマークやシンボルアイコンとして使うか?
    • YES → 商標
    • NO → 次の質問へ
  2. それはもっぱら装飾(見栄え)やモノの機能を果たすために使うデザインか?
    • YES → 意匠
    • NO → 次の質問へ
  3. それは見た人に「あの商品・会社・ブランドだ!」と気づいてもらうために使うデザインか?
    • YES → 次の質問へ
    • NO → 意匠
  4. そのデザインは看板やキャラクターか?
    • YES → 商標
    • NO → 意匠

2. 「目印」なら商標、装飾なら「意匠」

ここからは、なぜ上記のフローチャートで区別できるのかがわかるように、「商標」と「意匠」の本質的な違いを、法律的なことを抜きにして解説します。

「商標」と「意匠」の本質的な違いを理解するキーワードは、「目印」か、「装飾」か、ということです。

商標 = 目印

商標=ネーミングやロゴマーク、と世間一般では理解されていることが多いです。

わかりやすいのでこの理解でも良いのですが、この理解の仕方だと、「デザイン」について権利を取ろうとするときに「商標」で取るべきか「意匠」で取るべきかわからなくなってしまいます。

そこで、商標=目印と理解するのがより本質的でカンタンです。

「商標」とは、それを見た人が「あ、あの商品だ!」「あ、あの会社だ!」あるいは「あ、名前はすぐ思い出せないけど、この前見たあのブランドだ!」と気づける目印のことを指します。

商品名・会社名・ブランド名などのネーミングや、コカコーラのように凝った書体のロゴマーク、Apple社のリンゴマークのようなシンボルマーク(アイコン)は、「目印」の典型例です。

コカコーラのロゴマーク
Appleのシンボルマーク(アイコン)

一方、「目印」となり得るのは、ネーミングやロゴマークだけではありません。マスコットキャラクターや、独特のモチーフなども、「目印」として機能する場合があります。

例えば、ケンタッキーフライドチキンのお店の入り口に立っているカーネルサンダース像や、ポールスミスのシグネチャーストライプは、それをひと目見たらブランドを識別できる立派な「目印」の役割を果たしています。

カーネルサンダース像
(引用元:https://zatsuneta.com/archives/004569.html)
カーネルサンダース像は立体商標として登録されている
(商標登録第4153602号)
シグネチャーストライプが目を惹くポールスミスの財布
(引用元:https://www.magaseek.com/product/detail/id_504969514)
シグネチャーストライプはEUで商標登録されている
(EU商標登録第2708220号)

したがって、これらも「商標」なのです。

装飾なら意匠

一方、「目印」ではないデザイン、つまり、装飾的(見栄えのための)デザインや、機能的デザインは「意匠」です。

例えば、ティーカップに付された花柄のデザインは、装飾的デザインであり「意匠」です。

また、テンピュールの枕の首にフィットするような形状は機能的デザインであり「意匠」です。

(引用元:https://www.le-noble.com/d/s/product_info/WWTF00000001/)
(引用元:https://jp.tempur.com/pillow/ergonomic/original-pillow-TJP2001M.html)

これらのデザインは、いずれも、商品の見栄えを飾るためであったり、商品として優れた機能を果たすためのデザインであるといえます。

すなわち、基本的には「あ、あの会社の商品だ!」というように消費者に一目で気づいてもらうために付与されたデザインではありません。

したがって、これらは「目印」ではないので「商標」ではなく「意匠」に当たります。

3. 「意匠」でもあり「商標」でもある?

例外的ですが、「意匠」でもあり「商標」でもある、というケースもごく稀にあります。

日清のカップヌードルの容器に付与された金色の模様は、その一例です。

(引用元:https://www.nissin.com/jp/products/items/10561)

この模様は、もともとはあくまでも容器の装飾的なデザインであり、消費者も当初はそのように “見栄え” の一部として認識していたはずです。

しかし、非常に長い間この模様を使い続けたために、次第に消費者の頭の中で「この模様がついたカップめん=日清のカップヌードルだ」という認識が生まれました。

このように、長年の一貫した使用により “超有名” になることで、本来「意匠」であったデザインが「商標」=目印としての機能も備えるようになるケースがあります。

この日清のカップヌードルの模様は、実際に商標登録が認められました。

カップ麺の容器の「金色の模様」に商標登録が許可された
(商標登録第6034112号)

商品の容器の装飾的模様は本来は「意匠」なので商標登録が認められないのですが、上記のように超有名になったことが膨大な証拠により特許庁に認められたため、例外的に商標登録が認められることになったのです。

しかしながら、このように商標登録が認められるのはよっぽど有名でないと難しく、また、シンプルなデザインすぎると有名であっても商標登録が認められないことがあるほど、非常にハードルが高いものとなっています。

現に、最近の事例では、ハイヒールで有名なフランスのルブタン社の事実上のアイコンである「レッドソール(赤色の靴裏)」が、日本での商標登録を否決されました。

クリスチャン・ルブタンのハイヒール
(引用元:https://fashion-hr.com/hr-talks/working_in_fashion/fashion_a-z/18258/)
(引用元:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/784/091784_hanrei.pdf)

否決された大きな原因の一つは「赤一色」というシンプルなデザインであったことにありますが、世界的に有名な高級ブランドのルブタンであっても、商標登録に失敗するほど、本来「意匠」であるものを「商標」として登録するのは難しいことなのです。

したがって、ほとんどの人にとっては、あまり例外的なことは考えすぎず、シンプルかつ的確に「商標」と「意匠」のどちらで権利を取るべきか判断することが大切であり、また、そのための判断方法が必要であると言えるでしょう。

その判断方法として、この記事の前半では独自のフローチャートを紹介しました。

まとめ

「商標」と「意匠」の違いは、守りたいデザインが「目印」なのか「装飾」なのかによって決まります。

「商標」とは、消費者が一目で「あれはあの商品だ!」と認識できるような目印で、商品名、会社名、ブランド名のほか、ロゴマークやシンボルアイコンなどが該当します。また、独特なモチーフやマスコットキャラクターなども、目印であれば「商標」になります。

一方、「意匠」とは、モノの見た目を装飾するためのデザイン、またはモノの機能を果たすためのデザインで、見た目を飾る花柄のデザインや機能性を追求した形状などが該当します。

ただし、かなりの知名度があって、長期間にわたって一貫して使われ続けることにより、「意匠」でもある装飾的なデザインが「商標」、つまり「目印」として認識されるようになることもあります。

しかし、こうした例は非常に稀で、基本的にはデザインが「目印」なのか「装飾」なのかによって、「商標」か「意匠」かが決まると理解しておけば問題ありません。

この違いを理解することで、自分がデザインしたものをどのように保護すべきか、適切な判断ができるようになります。それが商標登録なのか、意匠登録なのかを選択する際の判断基準として、この記事がご参考になれば幸いです。

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