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【ノーブランドのブランド?】無印良品の魅力を、知財面から探ってみた

衣服、生活雑貨、食品から、家具まで揃う無印良品。

皆さんは、愛用している無印良品のアイテムはありますか?さらに、世の中に数ある商品の中から、その無印良品のアイテムを選んだ理由は何でしたか?

私のお気に入りの無印アイテムは、収納用品です。

リビングにはじまり、キッチンにも、子どものおもちゃ置き場にも、無印良品のポリエチレンケースが並びます。

引用元:良品生活公式サイト

いつの間にか、家中に無印アイテムのある我が家。

私が無印良品を選ぶ理由は、こんなのが欲しいなぁと思うものが、大体無印良品へ行けば見つかること。収納家具と家具に入れて使う小物がセットで購入できる便利さ、そして部屋においても馴染むシンプルなデザインが気に入っています。

株式会社良品計画が展開するブランド「無印良品」(以下、本記事では無印良品と記載する)は名前の通り、「ノーブランドという名のブランド」です。なんだか一見意味がよく分からなくなりそうですが、ノーブランドであることが、無印良品のコンセプトなのです。

本記事では、無印良品のブランド戦略や商品開発を、知財の観点から覗いていきたいと思います。

1.ブランド戦略は「シンプル」かつ「これでいい」

1-1.アノニマス(匿名)に徹するMUJI

無印良品は、店舗には「無印良品」「MUJI」のブランド名が掲げられていますが、商品そのものにはロゴが付されていません。商品名や「無印良品」のブランド名が印字されたシールを商品から剥がすことにより、商品使用時にはロゴが見えないことを意識しています。

また、無印良品のアイテムの中には、有名デザイナーがデザインしたものがいくつもあります。例えば、こちらのステンレスケトルは、ジャスパー・モリソンがデザインしたアイテムです。

商品画像:無印良品公式サイト

J-PlatPatリンク

無印がこのステンレスケトルを販売した際、ジャスパー・モリソンがデザインした商品であることは公表しませんでした。言われてみると、無印良品の店舗で「有名デザイナー〇〇さんとのコラボ商品!」のようにアイテムが宣伝されているのを見たことがないように思います。

実はこれは、無印良品が大切にしているポリシーです。

「有名デザイナーがデザインしたこと」に価値を感じてユーザが商品を選ぶのではなく、商品そのものの本質である使い勝手で選ぶことを大切にしています。有名デザイナーの名前を出してしまうと、それはもはや無印でなくなってしまう。無印良品の徹底ぶりが感じ取れます。

無印良品の意匠出願を見ると、有名デザイナーの名前が創作者に入っている意匠出願が多く、実は無印良品の多くのアイテムは、有名デザイナーによってデザインされてきたことがわかります。有名なアイテムを以下に挙げます。

商品画像:無印良品公式サイト

J-PlatPatリンク

商品画像:柴田文江公式サイト

J-PlatPatリンク

例として上に挙げたアイテムのいずれも、個性的なデザインではなく、個性が取り払われたシンプルなものになっています。無印良品のこだわりが表れていますね。

1-2.無印のコンセプトは「これでいい」

無印良品のアイテムの特徴といえば、「シンプルである」ことが真っ先に浮かぶと思います。しかし、無印良品は、単にシンプルなデザインのアイテムを販売しているのではありません。無印良品の「これでいい」というコンセプトに基づき、アイテムが生み出されています。

「これがいい」のではなく、あえて、「これでいい」であることが興味深いですね。もう少し詳しく見ていきましょう。以下、公式サイトからの引用です。

『無印良品はこの「で」のレベルをできるだけ高い水準に掲げることを目指します。(中略)従って「で」のレベルを上げるということは、このあきらめや小さな不満足を払拭していくことなのです。そういう「で」の次元を創造し、明晰で自信に満ちた「これでいい」を実現すること。それが無印良品のヴィジョンです。』

引用元:無印良品公式サイト

理性的な満足感を持つ「これでいい」。

このコンセプトを追求していくと、自ずとシンプルなデザインに辿り着くのでしょう。そしてそのデザインを見て、私たちユーザは「無印らしさ」であると感じ、商品を手に取るのでしょう。

このような無印良品のブランディング戦略から、「他社との差別化は、必ずしも個性を際立たせるようなものでも、奇抜さを狙うものではない」ことが分かります。

むしろ、無印良品は、世にたくさん出ている個性的なブランドに対して、無印良品は「それ以外」のポジションを取っています。

参考書籍1(※)P.25を参考に筆者作成

とても興味深いポジショニング戦略ですね。

実際に、無印良品の意匠出願を見てみると、非常にシンプルなデザインの意匠が多く見られます。例えば、スタック可能なケースのフタの登録意匠を見てみます。

商品画像:無印良品公式サイト

J-PlatPatリンク

フタになる面に対して、周縁部分が上方向にも下方向にも少し延びている。ただそれだけのシンプルなデザインです。

この、周縁部分が上方向に少し延びていることにより、ずれないようにもう一つ箱をスタックすることができます。

商品画像:無印良品公式サイト

J-PlatPatリンク

ケースをスタックしたいけれど、ケースが前後左右にずれると不安定になる…というユーザのちょっとしたストレスが、このフタのデザインにより解消されています。

1-3.差別化の例:無印良品の家電「機能は『これくらいで』、デザインはシンプルかつスタイリッシュ」

無印良品の他社との差別化について、もう少し具体的に調べてみました。

無印良品は、家具だけでなく家電も販売しています。

言うまでもなく、大手家電メーカと比べると無印良品の家電は後発参入です。さらに、家電メーカの家電の機能は驚くほど次々にアップデートされています。この状況下で、無印良品はどのように競合他社と差別化して、市場に参入していったのか。ポジショニング戦略が気になります。

例えば、無印良品の電子レンジは、白を基調とした筐体に、黒く一体化した窓と操作部を配置したシンプルなデザインです。キッチンに置いても主張することなく、シンプルなインテリアに馴染みます。

意匠登録もされていました。

商品画像:無印良品公式サイト

J-PlatPatリンク

「インテリアに馴染むデザインの家電」。これが、機能を追求する家電メーカの製品と差別化されているポイントと言えるでしょう。

一方、機能については控えめ。シンプルに食品を温める、解凍する機能に留めています。

「機能は、このくらいいい」というユーザ層をターゲットにしており、洗練された外観と、あえてシンプルにした機能により、競合他社とは異なるポジションを狙っている様子が窺えます。

電子レンジのみならず、冷蔵庫や炊飯器も同様なポジショニングを狙っているように窺えます。炊飯器は、蓋の上にしゃもじを置けるようになっており、使いやすさを重視したデザインになっているのが分かります。

商品画像:無印良品公式サイト

J-PlatPatリンク

他にも、無印良品のキッチン家電の多くが意匠登録されています。洗練されたデザインに注力された様子が窺えますね。

J-PlatPatリンク:コーヒーメーカー ポップアップトースター ジューサーミキサー

2.商品の工夫は「感じ良い暮らし」のために

続いて、無印良品の商品開発について見ていきましょう。

2-1.「感じ良い暮らし」を提供する無印良品

株式会社良品計画は、「感じ良い暮らしと社会の実現に貢献する」ことを企業理念として掲げています。

さて、「感じ良い暮らし」と聞いて、皆さんはどんなイメージを持ちますか?

私は、例えば、感じ良い暮らし=「無意識に感じているストレスを解消できている暮らし」というイメージを持っています。

無印良品の収納アイテムを購入して、部屋が散らかりにくくなった。ソファを置くのをやめ、体にフィットするソファに変えたら、部屋の掃除がしやすくなった。などなど。小さなストレス解消を挙げたらキリがありません。

そんな「感じ良い暮らし」を実現するための商品の工夫を、知財を交えながら紹介していきます。知財を見ることで、商品開発の上で無印がどんな点に重きを置いているのか、読み解くヒントが得られるかもしれません。

2-2.無印良品のアイテムと知財紹介

その①:フタが選べるダストボックス

<商品紹介>

直方体形状のダストボックス。

このダストボックスは、フタが別売りになっており、フタの仕様(縦開き・横開き)を選ぶことができるのです。

ダストボックスのフタを横開きとして使いたいか、縦開きとして使いたいかは、各お部屋のレイアウトや導線によって変わってきますね。さらには、フタがない状態で使いたいというケースもあるかもしれません。

そんなユーザの多様なニーズに応えられる商品です。

画像引用元:無印良品公式サイト

<知財紹介:意匠>

商品のバリエーションに合わせ、横開きタイプのフタを有するダストボックスを基礎意匠として、縦開きタイプのフタを有するダストボックスを関連意匠として出願、権利化されていました。

フタのデザインのバリエーションを関連意匠として権利化している点から、「ケースに応じてフタを選びたい」というユーザのニーズを満たすためのデザインに注力していることが窺えます。

J-PlatPatリンク:意匠登録1721679 意匠登録1721620

その②:壁に付けられる家具

<商品紹介>

家をつくる面、天井、壁、床のうち、床は家具や家電の多くで占領されているケースが多いです。

「壁に家具をつける」という新しい発想によって、壁​​を活用できる価値をユーザに提供する商品です。

画像引用元:無印良品公式サイト

<知財紹介:特許>

壁に棚を固定する固定具の構造について特許が取得されていました。

この製品は、ユーザ自身で壁に取り付けることができるのを前提としています。ユーザにとっては、できるだけ簡単に、迷うことなく家具を取り付けたい。そんなニーズについて、明細書に、ユーザが簡単に取り付けられることを課題として記載されています。

この課題を解決するために、壁と反対側に傾斜して伸びる部材(明細書では挿入完了感

起生部)が固定具に設けられています。

ユーザは、棚材の背面部分にこの挿入完了感起生部を挿入していくと、棚材を正確な位置に取付完了できたこととして、クリック感のような挿入完了感を認識できるため、安心してスムーズに取付作業を行うことができます。

J-PlatPatリンク

「手軽に迷いなく取り付けられる」という、ユーザ視点での固定具の構造の工夫が特許明細書の内容から窺えます。

その③:ソーダガラス密封ビン

<商品紹介>

食品保存に使えるアイテム。シンプルなデザインなので何個か並べてもオシャレなインテリアになるし、キッチン周りに限らず、家中のあらゆる場所で小物の収納に活用できそうです。

商品画像:無印良品公式サイト

<知財紹介:特許、意匠>

特許では、ビンのふたを簡単に開閉できる構造について出願されていました。

ふたのロック部分(明細書ではラッチ部)が板状になっていてユーザが開閉しやすいようになっています。

ユーザが操作するラッチ部とは別に、密閉時に本体と係合する引掛部を有していて、ユーザによる蓋を開ける操作によりラッチ部が回転されることで、引掛部はラッチ部に連動して係合部から離れる方向に動きます。

J-PlatPatリンク(特開2020-164204)

家に何個あってもいいからこそ、ふたの開閉はできるだけ簡単がいい。そんなユーザのニーズに応えられるよう注力されている様子が窺えます。

また、意匠では、蓋を開閉しやすいように板状になっている留め具の部分が部分意匠によって出願、権利化されていました。

J-PlatPatリンク

特許だけでなく、外観に特徴がある留め具部分はさらに意匠で権利化していることから、ビンのふたの開閉しやすさにこだわり、注力した様子が窺えます。

今回紹介したダストボックス、壁掛け収納、密封ビンと、他のお店でも取り扱われている商材ですが、知財を調べていくとどれも「感じ良い暮らし」のための工夫が凝らされていることがわかりました。

3.まとめ ~シンプルの中のこだわり~

無印良品と聞いて、まず浮かぶのが「シンプルなデザイン」というイメージでしたが、ただシンプルなのではなく、その根底にあるコンセプトやブランディング戦略がとても興味深いものでした。

また、無印の商品の中でも特にこだわりが感じられる部分は特許出願、意匠出願がされており、知財で護られている様子が窺えたことも面白く感じました。

特に、意匠については図面を見ると「あの商品だ!」と分かるものも多く、シンプルなデザインの中に「MUJIらしさ」が表れているのを感じ取ることができました。日頃愛用しているMUJIアイテムの開発秘話が一つ一つ知りたくなりますね。

「感じ良い暮らし」を提供する無印良品。日々忙しい方やなんだか落ち着かない方も、無印良品から暮らしのヒントが何か得られるかもしれません。

参考書籍:

1.MUJI式 世界で愛されるマーケティング (著)増田明子

2.無印良品が、世界でも勝てる理由 世界に“グローバル・マーケット”は、ない (著)松井忠三

図解でまとめ(グラレコ)

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