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メタバース・NFT事業で押さえるべき商標の区分、指定商品は?~日本の商標登録、出願例をもとに解説します

最近メタバースやNFTの話題をあちこちで聞くようになりました。

■メタバース:仮想空間、仮想現実などと訳され、コンピュータやインターネット上で提供されるもうひとつの世界、およびそこで提供されるサービス。

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■NFT事業:偽造・改ざんが困難なブロックチェーン技術を活用することで、デジタルデータに資産価値を与え、デジタルアート取引や仮想通貨などの新規事業に活用する取り組み。

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メタバースやNFT事業へ実際に進出している企業はまだ少ないですが、「いずれは取り組みたい」、「放置しておいて第三者に悪用されるのは困る」という考えから、商標だけは押さえておきたいという声も良く聞きます。

ただ、どちらも新しいビジネス領域のため、商標の指定商品・指定役務(サービス)で何を押さえておくべきかという定見が少ない状態です。

そこで本記事では、日本の商標登録例をもとに、メタバース・NFTの観点から押さえておくべき商標の区分、指定商品・指定役務について解説していきます。

※2023年1月時点のJ-PlatPatデータベース情報に基づきます。変化が激しい分野のため、出願の際は、最新の制度・運用を必ずご確認ください。
 

1. メタバース・NFT事業で押さえるべき区分

国際商標登録の事務局であるWIPOが「メタバースにおける商標」という記事を公開しています。関連する区分についても紹介されており、この記載を出発点としましょう。

・・すでに広範な出願プログラムを実施している会社もあります。例えば、フットウェア最大手のナイキ (Nike) とコンバース (Converse) は最近、米国特許商標庁にいくつかの出願を行いました。・・・企業等は、以下の商品区分 に関連して保護を申請していると見られます。

ダウンロード可能なバーチャル商品、つまりコンピューター・プログラム (第9類) 、バーチャル商品を取り扱う小売店サービス (第35類) 、エンターテインメント・サービス (第41類) 、オンラインのダウンロード不可能なバーチャル商品とNFT (第42類) 、デジタル・トークンを含む金融サービス (第36類) 。

これらの出願は各国の知財庁で審査されるので、商品・サービスの明細書と分類に関する問題は標準化が進み、そうしたガイドラインは後の出願人の役に立つでしょう。

メタバースにおける商標 (太字は筆者)

 

実際に取られている区分として、9類・35類・36類・41類・42類という商品区分が出てきました。

ただ、文章だけではイメージしにくいですよね。そこで、これらの区分の違いを表にしてみます。

 

参考:J-PlatPat 商品・役務名検索 

 

5つの主要区分のうち、多くの企業が関わりやすいのは9類・35類です。例えば、NFT取引サイトやメタバースコンテンツに自社ブランドの「コラボアイテム」や「コラボショップ」を出品するケースが考えられます。自社ブランドが知られているならば、たとえ今はNFT・メタバース事業に参入する予定がなくても、この2区分は優先して抑えておく価値があるでしょう。

また、プログラムを開発するソフトウェア会社であれば9類だけでなく42類、動画コンテンツの配信を行うならば41類も大切です。

36類は「取引マーケット」と比較的参入のハードルが高い区分ですが、自社でNFT取引のプラットフォーム自体を作る可能性がある場合、取得しておくべき区分です。

なお、ビジネスにおいてメタバース・NFTは両方に該当するケースも、片方だけ該当するケースもあり得ます。

<両方に関わる例>

  • メタバース(仮想空間)内で、ブロックチェーン技術を用いたデジタルデータ(NFTアイテム)を販売する
  • メタバース(仮想空間)内で、仮想通貨を用いた取引プラットフォームを提供する

<片方だけ関わる例>

  • メタバース(仮想空間)内の店舗で、実体がある商品を通信販売する
  • 従来のWebサイトで、NFTアートや仮想通貨を取引する

ただ、商標出願の場面ではメタバース・NFTどちらに該当するか区別する必要はなく、提供しようとする商品・サービスの内容が特定できれば、指定すべき区分はわかります。

メタバース・NFTという用語に振り回されず、実際に自社で展開する可能性があるか、防衛しておきたい商品・サービスを見極めることが、適切な商標出願への近道です。

 

2. メタバース・NFT事業を守るための商標登録・出願実例

先ほどのWIPO記事では「NIKE、コンバースが米国でメタバース・NFT事業を守るための商標出願をした」と紹介されていました。

2つのブランドの商標出願は日本でも行われているのか?日本のデータベースで調査してみます。

① NIKEの場合

商願2021-132597(J-Plat Patより)

 

確かに、メタバース・NFT事業をカバーする2021年の出願がありました。

この出願では、9類・35類・41類が指定されていますが、現在、特許庁による拒絶理由通知が出され、登録に至っていません。

特許庁による拒絶理由の要点は

「指定商品又は指定役務の表示が不明確であり、35類・41類について表現を補正する必要がある」という内容です。

さらに特許庁は補正案を提示してくれています。この表現に修正すれば登録を認めるというものです。

特許庁の補正案: 
第35類

仮想商品、すなわち、オンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を提供するためのコンピュータソフトウェアの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

オンラインによる仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を提供するためのコンピュータソフトウェアの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

第41類

仮想空間で使用するダウンロードできない仮想の履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品の映像の提供

仮想現実ゲームで使用するダウンロードできない仮想の履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品のデータの提供

拒絶理由通知書 (商標出願2021-132597) 経過情報より  太字筆者

これに対し、ナイキ社側は2022年11月付けで補正書を提出し、以下のように指定商品を補正しました。特許庁案とは多少異なっています。比較のため、ナイキ社の補正案も引用します。

9類(補正なし)

仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム,コンピュータプログラム(記憶されたもの)

35類(補正後)

仮想商品、すなわち、オンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能な画像及び映像の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,

オンラインによる仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能な画像及び映像の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

41類(補正後)

仮想空間で使用するダウンロードできない仮想の履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品の映像及び画像の提供,

仮想空間で使用するダウンロードできない仮想の履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品のデータの提供,
電子出版物の提供,
娯楽の提供

手続補正書 (商標出願2021-132597) 経過情報より 太字・改行筆者

この補正案はいまだ審査中で、審査官の判断が出ていません。上記の太字部分は特許庁案からNIKE社が変更した表現で、ここが受け入れられるかが審査のカギとなります。

そこでやや専門的になりますが、補正案が通るかどうか検討してみましょう。

ー------------

<補正案の分析>

・9類:拒絶理由の対象ではなく、補正もされていないのでそのまま登録が認められる。

・35類:特許庁は「コンピュータソフトウェアの小売の業務」という表現を例示したが、NIKE社は「ダウンロード可能な画像及び映像の小売の業務」という別の表現に補正した。

→メタバース、NFT事業では、コンピュータソフトウェア自体を小売したいのではなく、仮想の靴や衣服といったデジタルアイテムを販売したいので補正の意図は良くわかる。

「ダウンロード可能な画像及び映像」という表現は9類で登録例があるので、この補正が通る可能性は比較的高そう。

・41類:特許庁は「映像の提供」や「仮想現実ゲーム」という表現を例示したが、NIKE社は「映像及び画像の提供」や「仮想空間」という別の表現に補正した。

→「映像の提供」を「映像及び画像の提供」にする補正は具体的な例示であり、特許庁に受け入れられるだろう。一方「仮想現実ゲーム」を「仮想空間」とするのは、審査官が「表現はいまだ不明確である」と判断するかもしれず、登録が認められるかのウォッチが必要。

ー------------

本件は特許庁の具体的な補正案が示され、出願人とのキャッチボールが実際に行われているため、指定商品・役務の選定で参考になるでしょう。

 

② コンバースの場合

続いて、「コンバース」のメタバース・NFT事業関連の商標登録を見てみます。

ただ、日本の「コンバース」ブランドのオーナーは伊藤忠商事です。2001年に米国のコンバース社が倒産した際、伊藤忠商事が資本参加して日本の商標権を買収し、伊藤忠グループのブランドとしたためです。

※ このとき買収した商標権は日本のみで、現在、米国のコンバース社はナイキ社の傘下で別々に経営されています。この日米の分裂が「コンバース並行輸入事件」の背景になるのですが、興味がある方は下記も参照ください。

米国製コンバースの輸入・販売が日本の商標法に抵触する理由 一般社団法人ユニオン・デ・ファブリカン

そこで、伊藤忠商事名義の「コンバース」商標を調査してみます。

2022年に出願された、メタバース・NFT事業をカバーするためと思われる商標がありました!

データベース上は「審査中」となっていましたが、23/01/23に特許庁から「登録査定」が出ています。

9類:

仮想商品すなわちオンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・運動用特殊衣服・かばん類・袋物を特徴とするインターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,仮想商品すなわちオンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・運動用特殊衣服・かばん類・袋物を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム,電子計算機用プログラム 11C01 24E02 26D01

35類:

仮想商品すなわちオンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・運動用特殊衣服・かばん類・袋物を特徴とするインターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイルの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,
仮想商品すなわちオンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・運動用特殊衣服・かばん類・袋物を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラムの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 11C01 24E02 26D01 35K08 35K15 35K99

41類:

仮想空間で使用するダウンロードできない仮想の履物・運動用特殊靴・被服・運動用特殊衣服・かばん類・袋物の映像の提供 41E02

42類:

仮想商品すなわちオンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・運動用特殊衣服・かばん類・袋物を内容とするダウンロード不可能なコンピュータプログラムの提供,電子計算機用プログラムの提供 42X11

商願2022-95498(J-Plat Patより) 太字筆者

先ほどの「NIKE」の補正書の指定商品・役務と比べながら、解説していきます。

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<NIKE補正書との比較>

・9類:【・・・インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル】はコンバース登録だけの表現。

→権利範囲がプログラムに限らないことを明示するため、コンバース登録の指定商品も抑えておくことは有効。

・35類:NIKE出願で「ダウンロード可能な画像及び映像の小売の業務」となっていた部分が、コンバース登録ではインターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイルの小売又は卸売の業務」と多少表現が異なる。

→どちらでも大きく権利範囲は変わらないが、メタバース・NFT事業では画像だけでなく、映像(動画など)も対象になることから、もしNIKE出願の登録がこのまま認められるなら、「画像及び映像」という幅広の表現を採用すると良さそう。

・41類:NIKEが補正しようとしている「仮想空間で使用する・・・付属品のデータの提供」に相当する指定役務がコンバース登録にはない。

→NIKE出願の「仮想空間で使用する・・・付属品のデータの提供」は、表現が広汎なため登録が認められない懸念があるが、登録が認められるならNIKE出願の表現も採用したい。

・42類:この区分はコンバースのみが指定し、NIKE出願の対象にはなっていない。

→NIKEはメタバース上で用いられる靴などのデータアイテムを、41類の「・・・映像・画像の提供」や「・・・データの提供」の範囲内と捉え、42類の「・・・ダウンロード不可能なコンピュータプログラム」まで抑えることは不要と考えたのではないか。

ただ、メタバース上のアイテムが41類か、又は42類に該当するかは現状、実務上解釈が明確ではなく、アイテムの種類によっては42類の範囲内と解釈される可能性もある。
防衛目的の出願であれば、コンバースのように42類も抑えておくのが無難と思われる。

商標登録の区分 第42類 ソフトウェア開発、ITコンサルティング、SaaS、デザインの考案、他人のための試験・研究サービスなど | Toreru Media

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「コンバース」商標の指定商品・役務はすでに特許庁審査を通過しているため、メタバース・NFT事業での商標出願を検討する際は、特に参考になるでしょう。

※ 今後、審査基準の変更があり得るのと、自社ビジネスにあった指定商品・サービスかの個別検討が必要になるため、出願前に個別に弁理士に相談することをお勧めします。

 

3、まとめ~自社に必要な区分を押さえよう

最後にまとめです。先ほどの図を再掲します。

 

<メタバース・NFT事業の商標のポイント>

  • 主要5区分のうち、多くの企業が関わりやすいのは9, 35類。
  • 36, 41, 42類も将来の事業可能性や悪用対策から、あわせて保全を検討するとよい。
  • 既存の商標出願・登録例も参考に、自社にあった指定商品・役務を選定するとよい。

   ※ 制度や運用の変化が激しい分野のため、最新の運用を必ず確認ください。

 

なお、Toreruではメタバース・NFT事業領域での商標調査・出願も随時受け付けています。

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