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紙VSデジタル 「手帳」永遠のライバル対決を、知財から探る!

今年も残すところあと1か月と少し。店頭に手帳が並ぶ時期になってきました。種類が豊富で、売り場を見て回るだけでも楽しいですね。手帳を新調すると、頑張ろうとモチベーションが上がったり、来年が楽しみになります。

近年は、紙の手帳を持たずに、スマホで管理するデジタル派も増えたように感じます。皆さんはどちら派ですか?

興味深いデータを見つけました。

引用元:CanCam.jp 「手帳は紙派?それともデジタル派?5252人に聞いた多数派は…こっちです!」

上記のデータによると、若い世代ほどデジタル/アプリ派の割合が多い傾向にあるものの、どの世代も紙の手帳派が一定割合を占めています。40代、50代は手帳を持つ人のうち、半数近くは紙の手帳派という結果になっています。

スマホなどでスケジュール管理する便利さが増す一方で、敢えて手書きにする良さを感じている方も多いのかもしれません。2つの競争はまだまだ決着はついていない状態です。

それにしても紙の手帳とデジタル手帳、それぞれどのように競い、進化を遂げてきたのでしょうか?

本記事では、手帳の変遷について、知財情報を交えつつ、各時代の紙派とデジタル派の手帳とを比較しながら振り返ってみたいと思います。

1.システム手帳が大流行!電子手帳も登場(1980年〜1990年)

今から40年前、1980年代はどんな時代だったのでしょう?

☆1980年〜1990年 
時代:まだ携帯電話が普及しておらず、電話帳とテレフォンカードを持ち歩く時代。
手帳の動向:会社から支給される手帳(年玉手帳)を使うことが主流であったが、システム手帳が海外より到来することで風向きが変わる。さらに、電子手帳が登場する。

1-1.【紙】システム手帳がイギリスから到来、新しい手帳のかたち

80年代は手帳といえば、企業から支給される1冊の手帳を使うのが主流の時代でした。このような手帳は、名入手帳、年玉(ねんぎょく)手帳と呼ばれていたそうです。

手帳を使用する層も今ほど広くなく、ビジネスマンがほとんどだったことが背景にあるのかもしれません。

しかし、1980年代、イギリスから「システム手帳」が日本に上陸すると、システム手帳は日本国内で一気に広まり、一大ブームとなりました。それまで配布された手帳をそのまま使っていた日本人にとって、自分用に手帳をカスタマイズできるという発想自体が新しく、魅力的だったのでしょう。

システム手帳は、日本でも1987年に日本能率協会から発売されました。1980年代に出願された特許を探してみると、システム手帳に関する実用新案登録出願が確認されました。日本能率協会の出願です。

実公平04-014228 「バインダ付手帳用保護ファイル」 図1、図2

 また、システム手帳以外にも、当時を映し出すような実用新案登録出願も発見できました。

実全平01-108767 「テレカ入れ手帳」

当時はまだ携帯電話のない時代であり、みんながテレフォンカードを持ち歩いていました。常時携帯する手帳にテレフォンカードを入れておけると便利なのでは?というアイディア、時代を反映した出願ですね。

1-2.【デジタル】電子手帳の発売開始

デジタル手帳といえば、現在はスマホのアプリなどを思い浮かべますが、1980年代の発売当時は「電子手帳」が主流でした。

初期顧客のターゲットはビジネスマンでした。例えば、スケジュールや、取引先の住所や電話番号など、情報量が増えると紙のメモでは管理が困難になります。後で探すのも大変ですね。そこで電子手帳が登場したのです。

電子手帳に関する1980年の特許を探してみると、様々な国内メーカーの出願が見つかりました。三菱、セイコー電子工業、シャープ、日本電気、ブラザーの大手メーカが特許を出願していました。

ここではカシオの出願をピックアップします。カシオは、1983年に電子手帳が発売されています。

参考:カシオの歴史

当時のカシオの実際の製品(RF-3000)に似た図面が記載されている特許出願を見つけました。

電卓と携帯電話が融合したような外観です。当時はこのデバイスでスケジュールや連絡先を管理していたのですね。

特開昭63-106061 「タブレット付電子手帳装置」

画像引用元:カシオ計算機の原点 – 半世紀を超える「計算機」の歴史旅行へ

2.成長する電子手帳、デジタルの時代到来。(1990年〜2000年)

☆1990年〜2000年
時代:Windows95が発売され、家庭にもパソコンが普及。後半に平成不況が到来。終身雇用の常識が変わる。
手帳の動向:電子手帳が成長し、またパソコンの普及により、デジタルでスケジュールを管理する基本的な考え方が確立。後半は不況の到来により、手帳に求められる役割が変化。手帳を積極的に活用して、仕事の生産性を上げることが求められるようになった。

2-1.【紙】平成不況で変化する手帳の役割

90年代に入ると、これまでスケジュールを管理する位置付けであった手帳は、求められる役割が変化していきます。単なるスケジュール管理に留まらず、「手帳の活用により、仕事の生産性を上げる」ことが期待されるようになりました。これは、90年代後半の不況(以下、平成不況)が背景にあります。

平成不況により、ビジネスマンは終身雇用制が絶対でないことを目の当たりにしました。より一人一人の成果が問われるようになり、時間を有効に使うという意識が芽生え始めます。

このような時代の流れは、当時の意匠出願からも見えてきます。時間単位でスケジュール管理できる手帳用紙の意匠出願を見つけました。

意匠登録1283404「手帳用紙」

時間を縦軸に、日付を横軸にする仕様の見開きにより、一週間で予定のない時間帯が一目で把握できますね。今となってはよく見かけますが、当時は珍しかったのかもしれません。

 また、この頃から、有名人がプロデュースした手帳が流行します。例えば、佐々木かをりさんのプロデュースした「アクションプランナー」。

登録4950438 権利者:株式会社イー・ウーマン

引用元:アクションプランナーWebサイト

Webサイトを拝見するとわかるように、アクションプランナーは、時間管理にこだわった手帳です。また、アクションプランナーの販売元である株式会社イー・ウーマンは、手帳の販売だけでなく、手帳を活用した時間管理術の講座も開催しています。

更に、このような有名な起業家がプロデュースする手帳が発売されるとともに、有名人の時間術、手帳活用術が話題になるようになりました。手帳の使い方のノウハウを提供する書籍が並び始めたのもこの頃でした。

2-2.【デジタル】「デジタルでスケジュール管理する」思想の定着

続いて、電子手帳についても見てみましょう。

1990年代は、電機メーカーが電子手帳を発売しており、各社から特許出願も見られました。さらに、1995年、Windows95が発売されると、パソコンが一般家庭に急激に広まりました。

パソコンにも、スケジュールを管理する機能が備わっており、「デジタルツールでスケジュールを管理する」という基本的な思想はこの頃には確立されていたと言えます。

当時の知財を探してみると、例えば、パナソニックがスケジュール管理装置について特許出願していました。

​​

特開平07-271732「電子手帳装置」図3

時間と予定を関連づけて記憶させておき、現在日時の近傍の予定を表示させ、現在時刻の経過とともに表示する予定も変化させるという、現在のスケジュール管理アプリのコンセプトに近いものがあります。

さらに、この流行は大人の間だけではありません。電子手帳のおもちゃも発売され、ヒットしていました。

特開平07-323162 「電子ゲーム装置」図1

おもちゃとしてもヒットするほど、当時は電子手帳が流行っていたことが伺えます。

3.紙手帳の逆襲?電子手帳の危機(2000年〜2010年)

☆2000年〜2010年
時代:平成不況の影響を受け、働き方も多様化。新卒で入社した会社で定年まで勤める働き方以外にも、転職や起業をするのも珍しくない時代へ。
手帳の動向:仕事もプライベートも、自分の人生について個々がしっかり考えていく必要性が高まったのを受け、夢実現系の手帳が登場。手帳はより多様化する方向へ。

3-1.【紙】“夢実現系”手帳の登場

2000年以降、紙手帳は更なる進化を遂げます。生産性を上げるためのスケジュール管理に留まらず、「夢を叶える」ための手帳が登場します。

これは、平成不況以降、働き方が多様化し、転職や起業をすることが珍しくない時代となりました。このような時代の変化もあり、目標や夢を書き出したり、目標達成までのログを記録する機能を手帳が担うことになりました。

例えば、「Date your dream」というシステム手帳が発売されました。名前の通り、「夢に日付を」というコンセプトの手帳。こちらは、ワタミグループ創業者の渡邉美樹さんが発案した手帳です。リフィルが意匠登録出願されていました。右上に「Date your dream」のロゴが入っています。

意匠登録1283405「手帳用紙」

また、「夢手帳熊谷式」の手帳も発売されました。GMOインターネット社長の熊谷正寿さんがプロデュースされたこの手帳に関連する、商標と意匠が見つかりました。

商標登録4880353 

意匠登録1250590 参考図

この手帳用紙は、健康や仕事、プライベートなど項目ごとに目標を書く1枚のシートになっています。この手帳用紙を手帳に挟み込んでおいて、いつでもシートを広げて、自分の書いた目標を視認できるような仕様になっています。何度も自分の夢や目標を振り返り、行動に移す、このような熊谷さんの姿勢が想像できるアイテムですね。

また、上記の手帳に限らず、2000年以降、手帳のリフィルの意匠出願が活発化しています。この動向からも、手帳の使われ方や、それに伴うページデザインのバリエーションが増えたことがわかりますね。

3-2.【デジタル】携帯電話が多機能化、電子手帳は縮小傾向へ

2000年に入ると、携帯電話の機能が多様化したことにより、携帯電話の機能が電子手帳の機能までカバーできるようになりました。例えば、電子手帳の機能である連絡先の記録、メールの送受信、スケジュール管理などは、次第に携帯電話にも備わるようになりました。

さらに、2000年代後半になると、スマートフォンが登場しました。まさに、携帯電話が電子手帳の機能を持った携帯電話と言えるような機器が誕生したのです。

これにより、機器としての「電子手帳」はあまり見かけなくなりました。

4.紙手帳とデジタル手帳の共存(2010年〜現在)

☆2010年〜現在
時代:スマートフォンが普及、「繋がる」時代へ。
手帳の動向:デジタル手帳は、同期や相手とスケジュールの共有により、デジタル派のメリットが急増。一方、紙手帳は手書きならではのよさである、自由自在に記録できる点で、例えば考えを書き出す、アイデアを整理するなど特定の場面でまだまだ需要あり。

4-1.【デジタル】「つながる」時代、スケジュール機能で大幅リード

スマートフォンの登場で電子手帳自体は縮小してしまったものの、パソコンやスマホのアプリでスケジュール管理がされるようになりました。

特に、デジタル派への大きな追い風だったのは「スケジュール共有機能」の普及です。

共有機能を用いてスケジュールを設定すると、メンバーとして設定した相手方のカレンダーにも自動的に設定されます。スケジュールが変更されると、相手のカレンダーに設定されている予定も連動して変更されます。これは、紙手帳では実現できない機能なので、デジタル派が増加した大きな理由でしょう。

近年では例えば、異なるスケジュールシステム間でもスケジュール調整を可能にするアイデアが特許出願されていました。

特開2021-099694 「スケジュール調整装置、スケジュール調整方法及びコンピュータプログラム」

複数のカレンダーシステムのそれぞれに「代理アクセス部」を設け、調整エンジンが各カレンダーシステムの「代理アクセス部」にアクセスすることで、スケジュール調整を実現します。例えばGoogleカレンダーとOutlookでもスケジュール調整できるようになるわけで、便利な技術ですね。

さらに、スケジュール管理機能から発展して、「ToDoリストをユーザに通知する」アイデアの特許出願も見つけました。

特開2021-119487 「ユーザのToDoリストに対する通知を提供する方法およびシステム」 図4

ToDoリストに含まれる各タスクに対し、タスクと関連する場所の「位置情報」と「時間情報」を取得します。さらに、タスクの実行可能性を判断して、該当のタスクに対する通知を提供するといった内容です。

このような通知機能も、紙の手帳では実現できない、デジタル管理の強みと言えますね。

実のところ、デジタルでスケジュールを管理するという考え方自体は1990年代には既にありました。

しかし、いざデジタルでスケジュールを管理しようとしても、当時はフリック入力もなく、デバイスへの文字入力が今ほど手軽ではありませんでした。また、今ほどデバイスがネットワークに繋がる環境も整っておらず、スケジュールの共有やデバイスの同期などもできませんでした。

通信技術の進歩により、「デジタルでスケジュールを管理する」という世界観が現実的なものとなり、2010年以降、世の中に浸透していったのです。

4-2.【紙】手書きの良さの再発見

デジタルでのスケジュール管理機能が充実して、デジタルでスケジュールを管理するメリットが明確になる中で、考えや目標を書き出したり、整理するなど、手書きの良さが残る領域もあります。これらについては、紙手帳のリフィルの意匠出願が見られました。

例えば、NOLTYのエクリシリーズは、半分以上が自由記入欄になっており、手帳とノートを一括管理したい方に向いています。

意匠登録1647895 手帳用紙

NOLTY公式サイト

高橋書店からも、時間管理ができ、かつ、メモスペースも充実している手帳が発売されており、手帳用紙が意匠登録されていました。

意匠登録1441379 手帳用紙

高橋書店公式サイト

このように、紙の手帳は「自由形式で思うがままに記録できる」という手書きの良さを活かす手帳用紙のデザインが増えており、意匠登録されています。

上記の手帳は、方眼スペースが広く取られているため、自由にアイデアを書き出す場面で活用できそうですね。

4-3.デジタルと紙の融合

手書きの良さを残し、デジタル管理ができる。2010年代には、デバイスの各種性能が向上したことにより、手書きの良さを活かしたデジタルデバイスを見かけるようになりました。

メモや日程等を通常の筆記用具で枠内に配置した用紙に直接書き込むだけで、この筆記用具等の移動軌跡を記録して電子データとして保存するようなアイテムが特許出願されています。

特開2012-212411 手帳装置

デジタルのペンが苦手な人も、紙に書く感覚でメモを残し、デジタル化して保存することができます。このように、紙とデジタルの良さをそれぞれ残した「フュージョンツール」も登場しました。

紙とデジタル、長年のライバル関係にも終止符が打たれる日が近いのかもしれませんね。

5.まとめ

手帳の歴史をたどると、紙手帳、デジタル手帳のいずれもそれぞれ大きく変化しました。紙手帳、デジタル手帳のメリット、デメリットも時代によって大きく変化していることがわかりました。

また、技術進歩のおかげでデジタル手帳の強みが活かせる場面が増える一方で、紙手帳の方が便利な場面もあります。時代をたどっていくと、単なるスケジュール管理に留まらず手帳の担う役割が広がったことで、今でもなお所定の場面では紙手帳の必要性を感じるように思います。例えば、目標を書き出したり、思うがままにアイデアを洗い出すような場面などです。

今は紙手帳、スケジュールアプリともに、バリエーションも豊富で迷ってしまいますね。せっかくなので、自分にとって使いやすいものを選び、人生がもっと楽しくなるよう、活用していきたいものです。

みなさんは、来年は何の手帳を選びますか?

参考文献:手帳と日本人 私たちはいつから予定を管理してきたか/館神龍彦

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