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YouTuberやチャンネル名の商標登録はどうする?区分や事例を解説!

小中学生のなりたい職業といえば、トップ3位内に名前が上がってくるのは「YouTuber」です。でも、その「YouTuber」もビジネスとして広がっていくにしたがって、いろいろな問題が起こってくるようになりました。

その中で、今回は、商標権にまつわる問題を詳しく解説します。YouTuberはとても魅力的な仕事ではありますが、プロとして法的な知識もしっかりもっておく必要がありそうですね。

1. 有名YouTuberが巻き込まれた商標登録のトラブル事例

まずは、どんなトラブルがあるのかを見ていきましょう。

1.くまクッキング

「くまクッキング」のチャンネル所有者である「くま子」さんとは何の関係もない第三者が、2020年10月6日に商標登録出願し、2021年8月20日には登録査定がされてしまったという事例です。

最終的には、登録料の納付がされなかったため、2021年12月13日に出願が却下され、商標登録はされませんでした。

くまクッキング YouTubeチャンネル より引用)

2.車中泊

株式会社クロ・ワークスというYouTubeチャンネルの運営をしている会社が「車中泊」を商標登録出願しました。でも、この「車中泊」という言葉はすでに多くのYouTuberやブロガーに使用されているものであったため、多数の反発が起こり、情報提供なども活発に行われました。

情報提供とは、出願された商標に、登録できない、または登録すべきではない事由があると特許庁に申し出ることです。これは誰でもすることができます。

「車中泊」も情報提供のおかげなのか、結果的に、拒絶査定となり登録されることはありませんでした。

3.ゆっくり茶番劇

この件は、皆さんの記憶にも新しい事例かと思います。

「東方Project」というゲームから二次的に創作されたキャラクターが「SofTalk」という音声合成ソフトを使って対話をしながら、動画の解説や実況をしていくというものです。そういう動画は「ゆっくり動画」とよばれています。

東方ダンマクカグラ公式YouTubeチャンネルから引用)

これらの二次的なキャラクターについては、個人的に使用するのは自由とされていたため、「ゆっくり解説」、「ゆっくり実況」など、「ゆっくり○○」とタイトルが付けられて、ニコニコ動画やYouTubeには多数の投稿がなされていました。

ところが、「東方Project」の原作者等とはまったく無関係の第三者が、「ゆっくり茶番劇」の商標登録をしてしまいました。

その上、当初は使用料を取ると公表したこともあり、多くの非難を浴びることになりました。

ニコニコ動画を管理している「ドワンゴ」も権利者との交渉や自ら権利取得に動くことを発表しました。

最終的には、権利者が権利放棄をすることで、この件は収束しました。

4.断捨離

「断捨離」は「山下英子」さんによって商標登録がされており、その旨がHPにおいても記載されていました。(やましたひでこ公式サイトHPより|https://yamashitahideko.com/)

山下さんは2013年に登録されていた

「断捨離」(指定区分39類、40類)

権利者 一般社団法人日本ホームステージング協会

に対し無効審判請求をしました。

請求の理由は、山下さんの持っている「断捨離」と混同されてしまう、山下さんの「断捨離」が著名であるから、それにタダ乗りしようとしている等でした。

結果として、山下さんの主張は認められず、日本ホームステージング協会の「断捨離」は現在も有効に存在しています。

***

ここに挙げた事例は一応事態の収拾や解決をはかることができていますが、それには時間とお金と労力が少なからずかかっています。

このようなトラブルに巻き込まれないためにYouTuberはどうすればよいのでしょうか。

2. YouTuberが商標登録を必要とする理由

前述したトラブルの原因として挙げられることの一つは、オリジナルのYouTuberが自分のチャンネル名などを商標登録していなかったことにあります。

商標権は、商標法上登録できないと定められている事由に当たらなければ、一番早く出願した者に与えられます。

出願した人がまだまったくその商標を使用していなくても、です。この商標法の規定を理解し、上記のようなトラブルを避けるためには、YouTuberが自分が使用しているチャンネル名をきちんと商標登録出願し、商標権を取得しておくことです。

もし、自分が使用しているチャンネル名などを他人に商標登録されてしまったら、その後はそのチャンネル名を使用できなくなり、商標登録された用語を使用している動画も削除しなければならなくなるかもしれません。

(YouTubeなどの動画プラットフォームには、他人の登録商標を不正に使用した動画やチャンネルを運営に申告する申立てフォームが用意されていますので、現実的に動画削除やアカウント停止のリスクがあります。申立てフォームについて詳しくは後述)

これまで頑張って多くのチャンネル登録数を獲得してきたのに、それが水の泡となってしまうのです。

それでも、「いや、これは自分がずっと使ってきたチャンネルなんだ!」と、継続してチャンネル名を使用しようとすれば、権利を取得した人に商標権侵害で訴えられるリスクがあります。

そうはならなかったとしても、「ゆっくり茶番劇」の例にもありましたように、例えば年間10万円の使用料を請求されることもあり得ます。

自分がずっと使ってきたチャンネル名なのに、他者に使用料を支払わなければならないなんて事態は、なんとしても避けたいものです。。

他人に先に商標権を取られて、商標権侵害だとか、ライセンス料を支払えだとか言われないために、自分のチャンネル名を商標権で守るべく、商標登録は必要なのです。

3. YouTuberは何を商標登録すればいいのか?

YouTubeはチャンネル名、投稿された動画の内容、サムネイル等で構成されていますが、YouTuberは何を商標登録すればよいのでしょうか。

商標登録すべき対象は3つあります。

1.チャンネル名

「くまクッキング」の例でも説明しましたが、チャンネル名の登録は必須です。「くまクッキング」以外にもチャンネル名を他人に商標登録されてしまったYouTuberは少なくありません。

同じ料理系でいきますと、「きまぐれクック」「バズレシピ」なども他人に出願されてしまいました。

もし、チャンネル名を他人に商標登録されてしまったら、また一から別のチャンネル名でやり直さなければなりませんし、HPで使用していた場合やチャンネル名でグッズなどの販売をしていた場合には、それらもすべて変更しなければなりません。

取られてしまった商標登録を取り消したり取り返すための手続きをするとしても、簡単にそれが成功するわけではありませんし、うまくいったとしても時間とお金がかなりかかります。

そう考えると、チャンネル名の商標登録がいかに重要であるかがわかりますね。

2.芸名・グループ名

チャンネル名とは別に、YouTuber自身を指し示す「名前」がありますね。YouTuberが活動するときに使用する芸名やグループ名などです。

商標権に似ている権利に著作権があります。芸名やグループ名は著作権では保護されないのでしょうか。

結論をいいますと、著作権では保護されません。

著作権法では、著作権の保護の対象となる「著作物」を「思想又は感情を「創作的」に「表現」したものであって、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」ものと定めています。

芸名やグループ名も「創作的に表現」したものに該当しそうな感じがしますね。

でも、裁判で、あまりに短いものであるときは著作物には当たらないと判断されていて、一般に芸名やグループ名などのごく短いものは著作権法では守られないとされています。

では、商標法はどうでしょうか。商標法では、芸名、グループ名であっても商標登録することができますので、誰かに商標登録される前に自分で権利を取っておきましょう。

3.ロゴ

自分のロゴを動画の画面などで使用している場合には、このロゴも登録しておく必要があります。

誰かにロゴについて権利を取られてしまったら、こちらのロゴの使用を差し止められてしまうリスクが出てきます。ちなみに、ロゴも著作権の保護対象とはならないことが多いので、やはり商標登録が有効になります。

4. YouTuberが商標登録する場合の商標登録の区分はどうなる?

そもそも商標権は、自分が使用する商標(マーク)と自分の商品やサービスとがセットとなって登録されるものです。

その商品やサービスはさまざまな「区分」に分類されていて、そこから自分の商品やサービスが含まれている区分を見つけて登録する必要があります。

では、YouTuberが登録すべき区分と商品・サービスは何になるのでしょうか。

1.動画配信・イベントの場合

41類

41類には「インターネットを利用して行う映像の提供,映画の上映・制作又は配給,インターネットを利用して行う音楽の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏」などが含まれます。

動画投稿などはこれに該当します。

2.広告収入

35類

YouTuberは単に動画を配信するだけでなく、広告収入を得ていることが多いです。この場合、広告業が該当する35類でも商標登録しておいた方がいいです。

35類には「広告,マーケティング及び販売促進のための企画及びその実行の代理」例えば、「試供品の配布,広告用コンセプトの開発,広告文の作成及び広告物の出版」などが含まれます。YouTuberの場合、「広告用動画の制作」がピッタリですね。

3.グッズの販売

YouTuberの中には関連グッズの販売などをしている方もいらっしゃるかと思います。商標を使ってグッズを販売する場合、そのグッズの分野でも商標登録をしておく必要があります。

該当する区分はグッズの種類によってまちまちです。

例えば、9類(電子機器類)、14類(アクセサリー)、16類(書籍、文房具)、18類(バッグ)、25類(洋服)、30類(お菓子)、33類(アルコール飲料)などがあげられます。もちろん、これらに限定されません。

商標登録の区分について詳しくは、こちらの記事もご覧ください。

YouTuberは新しい職業なので、区分の選択がなかなか難しいところもありますが、上記を参考にしていただけるといいかと思います。

5. YouTube上で商標権侵害になる可能性が高い行為とは?

ここでは、やってはいけない、やってしまうと商標侵害だと訴えられるかもしれないキケンな行為について説明します。

1.自分のチャンネル名に他人の商標を表記すること

言うまでもないことですが、他人が権利をもっている商標をその人の承諾を得ないで、無断でチャンネル名に使用したら、商標権侵害となる可能性が高いです。

2.動画の画面の右上などに商標として表記し続ける行為

これも上記1と同様に、動画の画面内で、自分のマークのように他人の商標を無断で表記することは、商標権侵害となる可能性が高いです。

3.動画の概要欄にで自分の商標であるかのように記載する行為

動画の概要欄(説明欄)においても、自分の商標であるかのような文脈で他人の登録商標を記載すると、商標権侵害を問われる可能性が高くなります。

6. YouTube上で商標権侵害になる可能性が低い行為とは?

今度は、これならセーフという行為について説明します。

1.動画内でニュースや説明として商標を取り上げる行為

まさに、このブログがそうですね。このブログにいろいろな方の商標を記載していますが、これは、あくまでも説明するために記載しているだけですので、このような場合には侵害には当たりません。

簡単にいいますと、形式的には商標を記載(使用)していますが、これは何かの商品を売るためだとか、サービスを提供するためなど、営業のために商標を使用しているわけではないから、つまり「商標として使用していない」から、他人の商標権の侵害にはならないのです。

2.ハッシュタグに動画の内容の説明として商標を表記する行為
3.概要欄に動画の内容の説明として商標を表記する行為

2と3も1と同様に、営業を目的として商標を使用しているわけではなく、単に動画の内容を説明するために商標を形式的に使用しているにすぎないから、商標権の侵害にならない可能性が高いです。

ただし、ハッシュタグについては、文脈をつけるのが難しいため、「他の人も一般的にその言葉をハッシュタグに使っている」というような事情がない場合は、「自分の商標として使っている」と見える場合もあり得ます。その場合は、ハッシュタグでの商標使用も商標権侵害になる可能性がありますので、注意が必要です。

7. YouTube上で商標権侵害を発見したら?

YouTubeには「コミュニティガイドライン」というものが作られています。

このガイドラインでは、

  • スパムと欺瞞行為
  • デリケートなコンテンツ
  • 暴力的または危険なコンテンツ
  • 既製品
  • 誤った情報

これらのカテゴリーに関して、遵守しなければならない事項が決められています。

また、このガイドラインには「報告機能」があり、ガイドラインに違反しているコンテンツを発見した場合に、報告するシステムを設けています。

商標権については、「商標権侵害とは、その商品の提供者に関して誤解を招くような方法で商標を不適切に、または無断で使用することを指します。YouTube のポリシーは、商標権を侵害する動画やチャンネルを禁止しています。誤解を招くような方法で他者の商標を使用している場合、動画がブロックされることがあります。チャンネルが停止されることもあります。」と記載されています。

商標権を侵害することはYouTubeのポリシーに反するということであり、その場合には、動画が削除されたり、アカウントが停止されることが明記されています。

商標権侵害が疑われる場合、YouTubeは当事者の仲裁はしないとの意思表示をしており、その代わりに、商標権侵害の申立ての方法を規定しています。

正当な申立てについては調査し、侵害が認められた場合にはコンテンツを削除するとしています。
https://support.google.com/youtube/answer/6154218?hl=ja

YouTubeとしても、商標権侵害の問題をあいまいにする意図はなく、断固とした姿勢で臨むようですので、YouTuberの皆さんもYouTubeの視聴者である私たちも、このことをしっかり理解した上でYouTubeを楽しみましょう。

まとめ

現時点では、YouTubeの世界に商標権が充分に浸透しているとはいえないかもしれませんが、冒頭でお伝えしたような事件が起きてくることで、YouTuber、私たち視聴者、提供元であるYouTubeの3者が一緒になって、適切に商標登録をし、商標を使用しようという動きが活発になってくるかもしれません。

また、特許庁や裁判所における法的判断においても、より社会の実情に合うように判断基準などを調整していく動きはあるでしょう。

いずれにせよ、商標登録制度を設けている日本においては、YouTuberが自己のYouTubeチャンネルの信用を十分に保護するためには、適切な商標登録をしておくことが求められることは変わりません。

本記事で解説したリスクや対策を押さえながら、YouTubeチャンネルの発展のために商標登録を効果的に活用していきましょう。

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