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商標の情報提供とは?具体例とメリット・デメリット

商標には「情報提供」と呼ばれる制度があります。
簡単に言うと、特許庁で商標登録の審査がされている最中に「この商標は〇〇だから登録させないでくれ!」と第三者が横から登録阻止を訴えることができる制度です。

「情報提供」という、一見日常会話でも使う耳馴染みのある名前からは想像しにくい制度であるため、「商標の情報提供って何のこと?」と疑問に思う方も多いようです。

そこで、本記事では、商標の「情報提供」制度についてわかりやすく解説します。
「情報提供」のメリット・デメリットのほか、「情報提供」に関わることになったときに使えるチェックリスト具体例もご紹介します。

商標の「情報提供」に巻き込まれても慌てなくて済むように、この記事を読んで備えておきましょう!

1. 商標の情報提供制度とは?

商標の情報提供制度とは、商標登録の出願中(審査中)に、この出願が拒絶になるべき理由を特許庁に対して提供できる制度です。

別の言い方をすると、特許庁で商標登録の審査がされている最中に「この商標は〇〇だから登録させないでくれ!」と第三者が横から登録阻止を訴えることができる制度、とも言えます。

この情報提供制度は、主に、自社にとって不都合な他社の出願をつぶすために使われます。

具体的には、①自社の商標と似ている商標が登録になりそうなときや、②ネーミングに特徴がない商標(独自性がなく一般用語的な商標)が登録になりそうなとき、などに使われます。

2. 商標の情報提供の費用

商標の情報提供の費用は、特許庁に支払う印紙代は無料です。

一方、弁理士などの専門家に依頼する場合は、10万円〜20万円程かかるのが通常です。情報提供制度では、「商標が登録されるべきではない理由」について法的な論理を組み立てて論証する必要があるため、専門官の知見を活用する場合はそれなりの費用がかかってきます。

とはいえ、商標に関する手続きの多くは印紙代がかかるのに対し、情報提供は印紙代が無料なので、他人の商標権を潰す手続きの中では、費用的にもとても活用しやすい制度であるといえます。

3. 商標の情報提供で主張できる内容

商標の情報提供において「商標が登録されるべきではない理由」として主張できる内容(選択肢)は、あらかじめ決まっています。

次の商標法の条文に対応する理由のみを、主張することができます。

特に、第3条(ネーミングに特徴がない)第4条第1項11号(似た商標が登録されている)を理由として挙げて情報提供が行われることが多いです。

また、商標が有名になってきたのに登録していなかったがために他の人に先に出願されてしまった場合には、第4条第1項10号(未登録だけど周知な商標と似ている)第4条第1項15号(他人の商標と混同が生じるおそれがある)などを理由に情報提供をして、なんとかその出願の登録を阻止しようとすることがあります。

他にも、歴史上の著名人の名前を使った商標など、特定の人に独占させると明らかに公共の利益を害するような場合に、第4条第1項7号(公序良俗に反する)を理由に情報提供が行われることもあります。

4. 商標の情報提供のメリット

商標の情報提供には、次のようなメリットがあります。

  1. 印紙代が無料
  2. 匿名でできる
  3. 権利になる前に潰すことができる

①印紙代が無料

情報提供は、特許庁に支払う印紙代が無料なので、費用が安いです。

他人の権利を潰す制度には、他にも「異議申立て」や「無効審判」という制度がありますが、「異議申立て」は印紙代1.2万円~、「無効審判制度」は印紙代5.5万円〜、という費用がかかります。

これらと比べると、印紙代が無料な情報提供制度には、大きなコストメリットがあります。

②匿名でできる

情報提供制度を使って他人の商標登録を阻止しようとするときは、希望により、情報提供者(阻止しようとした人)の名前を「匿名」とすることができます

完全な匿名で他人の商標登録を潰すことができる手続きは情報提供だけです。匿名にすることにより、相手方(商標登録出願人)から報復措置を受けるリスクが小さくなります。

商標登録になった後に潰す手続きである「無効審判」の場合は匿名ではできません。このように、潰そうとした人が「身バレ」してしまうと、商標登録の取り消しに失敗した場合などに、報復措置として相手方から逆に権利行使を受けるリスクが大きくなります。

この点、情報提供は匿名でできるので「身バレ」しにくいことが大きなメリットです。

③権利になる前に潰すことができる

商標は一旦登録になってしまうと、後々に権利を潰すのはとても大変です。登録後に商標権を潰す制度である「異議申立て」や「無効審判」は、手続きの手間と費用が大きいからです。

また、すでに登録になって商標権が発生しているので、敵対的なアクションをすると、カウンターとして権利行使を受けるリスクも高くなります。

一方、情報提供は、商標登録の審査中(=商標権が発生する前)に行う手続きであるため、成功すれば権利になる前に潰すことができます

権利になる前に潰すことで、手続きの手間と費用をできるだけ抑えることができます。

5. 商標の情報提供のデメリット

一方、商標の情報提供には、次のようなデメリットもあります。

  1. 再反論ができない
  2. 匿名で情報提供しても身バレする可能性はある
  3. 情報提供した商標が重要であることを知らせることになる

①再反論ができない

情報提供により、商標登録されるべきでない理由を主張し、それが特許庁に受け入れられた場合、それに対して商標登録出願人側が特許庁に反論をすることがあります。

もし出願人側からこのような反論があったとしても、これに対して再反論をすることはできません。一度情報提供をしたら、審査が完了するまではあとはお任せ、というのが情報提供制度の仕組みです。

そのため、情報提供をしたとしても、商標登録を阻止することが難しいときもあります。

②匿名で情報提供しても身バレする可能性はある

情報提供のメリットとして「匿名でできる」ことを挙げましたが、たとえ匿名で行ったとしても、身バレしてしまう可能性はゼロではありません

情報提供をするとき、それにより他人の商標登録を阻止しつつ、それと似た商標を自分が出願して登録を狙う、ということがよくあります。

このような場合、自分がした商標登録出願の情報は、すぐに特許庁の検索サイト(J-PlatPat)などで公開されてしまうため、この自分の出願情報を相手方が見つけたら、「きっとこの人が情報提供をして私の商標登録を阻止しようとしたんだろう」とバレる可能性があります。

また、自分では出願していなかったとしても、情報提供をして潰そうとしている商標が自分の会社名と同じだったら、Google検索で自分の会社を見つけられて「こいつが情報提供してきたっぽいな」と当たりをつけられることもあり得ます。

たとえば、「TOLELU」という商標登録出願に対してこれを潰そうと情報提供が行われた場合、これが「匿名」で行われたものであったとしても、もし並行して「Toreru」という商標登録出願がされていたり、「Toreru」という会社が存在していることがわかったら、「きっと Toreru が情報提供をしたのではないか」と予想することができます。

このように、匿名で情報提供しても、Google検索や J-PlatPat(商標検索サイト)からバレる可能性もあるため、この点は理解しておきましょう。

③情報提供した商標が重要であることを知らせることになる

情報提供をしたということは、「その商標は私にとって重要なので商標登録させたくない」と相手方に知らせていることになります。

そのため、あなたが情報提供をしたことがバレてしまった場合、もしあなたが似た商標を使い続けていると、どこかのタイミングでカウンターとして相手方から権利行使をされる(警告書が送られてくる)可能性もあります。

情報提供により登録阻止が成功した場合は、その権利を行使されることはなくなりますが、もし失敗した場合や、争いが決着するまでの間に、警告書が送られてくるおそれがあります。

このことは、あらかじめ頭に入れておきましょう。

6. 商標の情報提供をする場合のチェックリスト

他人の商標登録を阻止するために、商標の情報提供を「する」ときには、次の点をチェックしましょう。

  1. 出願番号が合っているか
    情報提供をするときに特許庁に提出する書面(刊行物等提出書)には、登録を阻止したい商標の「出願番号」を記載します。この「出願番号」が1文字でも間違っていると、他の商標に対して情報提供をすることになってしまいますので、正しい番号を記載しているか、よく確認しましょう。
  2. 主張する条文が商標の情報提供の条文と合っているか
    「3. 商標の情報提供で主張できる内容」で解説した通り、情報提供のときに「商標が登録されるべきではない理由」として主張できる条文は決まっています。自分が主張しようとしている内容がその条文に則したものになっているか、よく確認しましょう。
  3. 匿名にしているか
    情報提供者名の記載欄を匿名としているか、確認しましょう。匿名にしたい場合には「省略」と記載します。
  4. 無理な主張になっていないか
    きちんと商標法の条文に則したロジカルな主張をしないと、商標登録をうまく阻止することができません。特に、単なる感情論では、いくら熱い想いを書き連ねたとしても効果はありませんので、無理な主張になっていないか確認しましょう。

4つ目の項目については、きちんと効果的な主張になっているかどうかを判断するのは、商標実務に詳しくないと難しいかもしれません。専門家に依頼することで、より効果的な主張ができますので、必要な場合は専門家の力を借りましょう。

7. 商標の情報提供を受けた場合のチェックリスト

一方、自分の商標登録出願に対して第三者から情報提供を「受けた」ときには、次の点をチェックしましょう。

  1. まずは情報提供の書類を取り寄せる
    自分の商標登録出願に対して第三者から情報提供を受けたときは、まず特許庁から「情報提供がありましたよ」という通知が届きます。
    しかし、この通知には「誰から・どのような主張がされたか」という具体的な内容は何も書いてありません。
    具体的な内容を確認するためには「ファイル閲覧請求」という手続きを特許庁に対して別途行う必要があります。
    もし自分でやり方がわからなければ、この手続きを専門家に依頼することもできます。
  2. 主張されている内容に妥当性はあるか確認する
    ファイル閲覧請求をして情報提供の書類を取り寄せたら、そこで主張されている内容に法的な妥当性がありそうか確認しましょう。
    法的な妥当性(=主張が通ってしまいそうか)の判断には専門知識がいるので、必要に応じて専門家に相談しましょう。
  3. Googleで同じ商標が使われていないか検索する
    自分の商標登録出願に対して情報提供を受けたということは、その自分の商標と同じか、これと似た商標を、誰かが使いたがっている(あるいは既に使っている)ということです。
    Google で同じような商標が他人に使われていないかを検索してみましょう。もしかすると、情報提供をしてきた人が誰か、当たりがつくかもしれません。
  4. 拒絶理由が通知されるまではゆっくり待つ
    情報提供を受けたときは、まずはその内容を特許庁の審査官が吟味して、妥当性があるかどうかを判断します。
    もし妥当性があると審査官が判断した場合には、あなたの出願に対して特許庁から「拒絶理由通知」が届きます。もしこの「拒絶理由通知」が届いたら、反論などの対応をすることができます。
    一方、情報提供で行われた主張に妥当性がないと審査官が判断した場合には、情報提供でされた主張はスルーされます。この場合、実質的には情報提供がなかったのと変わりありません。
    したがって、情報提供を受けた場合、上記1~3の状況把握以外は、「拒絶理由通知」を受けるまでは特に何もしなくても大丈夫です。

3のステップで Google で同じ商標が使われていないか検索し、誰が情報提供してきたのか(誰がこの商標を登録させたくないと思っているのか)を確認できた場合は、あなたの商標登録が成功した後にその相手に警告書を送付することも考えられます。商標登録後であれば、もしその相手が同じ商標を使っていたら、商標権を行使できる可能性があるからです。

また、情報提供を受けた商標は、たとえ登録できたとしても、依然として他人が使いたがっている商標である可能性があります。登録済みの商標は、登録から3年経過後は、その商標を実際に使用していないと「不使用取消審判」という申立てを受けて商標登録が取り消されてしまうおそれがあります。そのため、この「不使用取消審判」を仕掛けて登録の取り消しを狙っている人がいるかもしれません。

この「不使用取消審判」にも注意して、登録後3年以内には必ず登録商標を使うようにしましょう。

不使用取消審判について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

8. 商標の情報提供の様式

商標の情報提供を行う場合は、「刊行物等提出書」という書面を特許庁に提出する必要があります。

この書面の様式が決まっていますので、こちらを見ながら書面を作成しましょう。

刊行物等提出書の様式

書面が完成したら、「〒100-8915 東京都千代田区霞が関3-4-3 特許庁長官宛」に郵送します。(なお、オンライン提出はできません)

その他、詳しくは特許庁のホームページをご覧ください。

9. 商標の情報提供の例

一つ、商標の情報提供が行われた事例をご紹介しましょう。

2020年6月24日に、株式会社集英社から下記の「市松模様」の図形商標の登録出願が行われました。

商願2020-78058

多くの方がご存知の通り、これは人気漫画『鬼滅の刃』の作中で使われている「市松模様」です。

この商標登録出願に対し、出願日から1ヶ月も経たない2020年7月17日に、第三者から情報提供が行われました。

情報提供で主張された内容は、噛み砕いて言うと「この図形商標は、伝統的ないわゆる “市松模様” を表しているだけなので、これを商品やサービスに使っても、単なるデザインとして理解されるに過ぎず、誰の商品・サービスかを区別する目印=商標としては機能しない」から、商標としての特徴がない(商標法3条1項6号)ので登録すべきではない、というものでした。

その後、2021年5月28日に、同趣旨の「拒絶理由通知書」が特許庁から出されます。
情報提供での主張内容が参酌され、これに沿った判断を特許庁が下した形になります。

集英社はこれに対し「意見書」で反論を試みましたが、残念ながら判断は覆らず、2021年9月24日に「拒絶査定」となりました。

『鬼滅の刃』が人気作品であり、この「市松模様」を用いた関連グッズなども多く出回っていたこともあり、この事件は話題になりました。

ちなみに、集英社から「意見書」で反論をした後、2021年7月19日に再び2回目の情報提供が行われています。
よほど、この「市松模様」が商標登録されたら困ると考えた人がいたのでしょう。

このように、近年では、インターネットなどにより情報の流通が速いため、良くも悪くも、話題になった商標については、第三者から情報提供が行われることがあります。

特に、公共性の高い商標や、他社のものとして知られている商標を出願すると、情報提供を受ける可能性が高くなります。場合によっては、情報提供を受けるだけでなく、SNSで炎上するなど、他の弊害が発生することもあり得ますので、このことは頭に入れておきましょう。

まとめ

最後にまとめです。

  1. 商標の情報提供制度とは、特許庁で商標登録の審査がされている最中に「この商標は〇〇だから登録させないでくれ!」と第三者が横から登録阻止を訴えることができる制度
  2. 商標の情報提供の費用は、特許庁に支払う印紙代は無料。弁理士などの専門家に依頼する場合は、10万円〜20万円程かかる。でも印紙代が無料なので、比較的利用しやすい制度といえる
  3. 商標の情報提供において「商標が登録されるべきではない理由」として主張できる内容はあらかじめ決まっており、特定の条文に対応する理由のみを主張できる
  4. 商標の情報提供には、次のようなメリットがある
    1. 印紙代が無料
    2. 匿名でできる
    3. 権利になる前に潰すことができる
  5. 一方、商標の情報提供には、次のようなデメリットもある
    1. 再反論ができない
    2. 匿名で情報提供しても身バレする可能性はある
    3. 情報提供した商標が重要であることを知らせることになる
  6. 商標の情報提供を「する」ときには、次の点をチェックしよう
    1. 出願番号が合っているか
    2. 主張する条文が商標の情報提供の条文と合っているか
    3. 匿名にしているか
    4. 無理な主張になっていないか
  7. 情報提供を「受けた」ときには、次の点をチェックしよう
    1. まずは情報提供の書類を取り寄せる
    2. 主張されている内容に妥当性はあるか確認する
    3. Googleで同じ商標が使われていないか検索する
    4. 拒絶理由が通知されるまではゆっくり待つ
  8. 商標の情報提供を行う場合は、「刊行物等提出書」という決まった様式の書面を特許庁に提出する必要がある

商標の情報提供は、通常の商標登録出願の手続きに付随して発生し得る「上級編」とも言える制度です。
少し複雑ではありますが、うまく活用すると、自分のブランド保護をより有利に進めることができます。

本記事で解説したポイントを押さえて、「情報提供」も効果的に活用していきましょう。

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