あの青いプラスチックレールを見たことがない人はいないのではないか?というほど、有名な電車おもちゃ、プラレール。
今現在、お子さんやお孫さんの笑顔のために一生懸命レールを組んでいる方も、昔、ご自身が子どもの頃に夢中になって遊んでいた、という方も多いのではないでしょうか?
我が家も毎日のように、リビングに青いレールが広がっております。
写真:筆者撮影
車両も線路も、更には駅やトンネルなどの情景部品も、買っても買ってもキリがない!!どんどん欲しいものが見つかります。
3歳息子も、自分でレールをつなげられるようになってきて、最近一段と楽しんでいます。
実際に駅のホームで電車を見るときの視線に近づけるため、床に寝転がって走行車両を眺めるのがお気に入りのようです。
コロナによる自粛で、プラレールの売上は4割増というデータもあります。
子どもとおでかけできない分、自宅に豪華なコースを作ってあげたい!という親心の表れでしょうか。言われてみれば我が家も、ここ最近でアイテムをかなり買い足したような…
このように、私たちが子供のころから人気があり、今も勢いが止まることのないプラレール。
プラスチックのレールの上を自走できる電車おもちゃ、横に並ぶおもちゃはないのではないかというほど、圧倒的なシェアの高さです。
タカラトミー公式サイトの情報によると、国内レールトイ市場でなんと9割以上のシェアだそうです。
プラレールブランドは、その確固たる地位をどのように築きあげていったのか。
そして、タカラトミーのブランド戦略には、知的財産がどのように関わってきたのか。
今回はその秘密について、調べてみました!
目次 [表示]
人気の秘密1:トーマスも、はやぶさも、シンカリオンも『プラレール』
1-1 戦略~プラレールへの広い入口を作る~
プラレールのシェアが非常に高い戦略の一つに、『プラレールへの入り口を大きく広げていること』が挙げられます。入り口を広げることで、たくさんのお客さんがプラレールの世界に足を踏み入れるのです。
例えば、息子は新幹線が大好きになったのをきっかけに、プラレールで遊び始めました。初めて買ったのははやぶさこまちセット。かっこよくて大好きな新幹線が、目の前で走るのに大興奮。
なかなか遠出できない今、Youtubeや電車図鑑を見て、新幹線に興味を持った様子。
しかし、中には、いつも家の近くから見ている電車が好きだというお子さんもいると思います。
家の近くで見ることができる電車と、同じ電車おもちゃを走らせられるなんて、子どもはとてもワクワクしますよね!!
非常に沢山の種類の電車が揃っているので、あなたの家の近くを走る電車のプラレール車両もきっと見つかるはず。
更には、大人気のキャラクター、きかんしゃトーマスがキッカケで、プラレールに足を踏み入れたお子さんもいると思います。息子のお友達にも、トーマスファンがたくさんいます。
トーマスシリーズのおもちゃも種類が豊富で大人気ですね。
最近ではシンカリオンシリーズも充実しています。
プラレールでは、新幹線も、トーマスも、ドクターイエローも、特急電車も、シンカリオンも全部、同じ青いレールの上を走ることができるのです。
言い換えると、プラレールは、レールという『共通のプラットフォーム』があり、そのレールの上を走ることのできる電車のバリエーションはとても多く、今もなお、増え続けています。
こんなに多くの種類の電車を走らせることのできる、レールのおもちゃは他にあるでしょうか?
このように、プラレールへの入り口はとても広くなっているため、本物の電車好きさんも、トーマス好きさんも、手に取るおもちゃはみんなプラレール。
トーマス車両から遊び始め、お兄さんになったら、シンカリオン車両に乗り換え!ということもできますね。
シンカリオンの車両を買えば、既に揃えているレールの上を走らせられるのですから。
以上が、プラレールのシェアが非常に高く、圧倒的人気の秘密の一つなのだと思います。
そして、いわゆるプラットフォーム側である『レール』の接続部分の規格は、昔からずっと変わりません。
細かい改良等は加えられているものの、昔のレールと今のレールをつなぐことが可能です。
親世代やお兄ちゃんのお下がりなどで受け継いだレールに、新しいレールや自分の好きな車両を買い足して、自分のお気に入りの世界を作ることができるのです。
これは、電車を走行させるための環境(=レール)を、確実に市場に普及させることができる、素晴らしい戦略ですね。
同じレールの上を走らせていて、飽きてしまわないのか?という心配はもちろん無用。
電車と同様、毎年新しいデザインのレールが発売されており、レールの種類は年々増え続けています。
新しいレールアイテムを買い足し、レールレイアウトを楽しむことができます。
さて、このような戦略を、知的財産はどのように支えてきたのでしょうか。
タカラトミーの知的財産を見ていきたいと思います。
1-2 知財の関わり①:車両は意匠権や商標権を活用してバリエーション拡大
例えば、こちらのおもちゃ、ドクターイエロー
なんと、タカラトミーは、ドクターイエローという商標権を取得していました。
商品、役務の区分は28。おもちゃ関連ですね。
つまり、ドクターイエローという名称を付けておもちゃを販売できるのは、タカラトミーだけ。
タカラトミーが商標権を取得しているので、他社は、ドクターイエローという名称をおもちゃに使用することが制限されてしまいます。
ご存じの通り、ドクターイエローは検査用の車両ですので、お客さんは乗車できません。
しかしとても人気が出ましたね。走行ダイヤが非公開であるにもかかわらず、ドクターイエローを一目見たいファンも多いのではないでしょうか。
旅客用でない車両についていち早く商標出願をされていたタカラトミーさんの、目の付け所がすごいですね。
そして、きかんしゃトーマスシリーズのプラレールおもちゃも、名称が一つ一つ商標登録されています。
シンカリオンについては、意匠権で保護している様子が分かります。
このように、電車おもちゃは商標権や意匠権で保護しながら、バリエーションを着実に広げていっています。
1-3 飽きない!次々出てくるレールデザインは意匠権で保護
発売当初から接続部分の規格を統一させているレールについてですが、色々なデザインのものが毎年新たに発売されています。
それらは、主に意匠権により保護されていました!
例えば、電車のスピードを変えるレール、『スピードかえレール』のデザイン。
また、レールが表と裏で異なるデザインとなっており、クロスするレールとして使うか、道路として使うか、2通りの使い方ができるこちらのレール。
道路の面を使えば、トミカも一緒に遊ぶことができますね。
接続部分はこれまでのレールと同じ規格になっているので、通常のレールに繋げてレイアウトも楽しめます。
このように、次々と発売されている新しいレールを組み合わせていけば、子どもたちはレールのレイアウトに飽きることはありませんね。レールレイアウトは、無限に広がります。
車両の種類、レールデザインともにタカラトミーが注力しており、その価値の掛け算で商品の魅力が広がっていることが分かります。
人気の秘密2:細部までこだわり抜かれたプラレールアイテム
プラレールの魅力の一つに、電車が好きな子供(ときには大人も)喜ぶ、細部までこだわったアイテムが挙がります。
こういうの、あるのかな?と思い浮かぶアイテムは大抵見つかります(笑)
我が家にも、色々な情景部品があります。
写真:筆者撮影
2-1 情景部品は意匠で保護
情景部品で主流なアイテムとして、トンネルがありますね。
ノーマルタイプのものも人気ですが、こちらはレールレイアウトに応じて伸縮可能な仕様になっています。
意匠権にて保護されていました。
そして、情景部品として定番なのが、駅。
駅もいろいろな仕様がありますが、最近意匠登録されていたのがこちらです。
レールがセットになっていて、駅の目の前で電車が停車できる仕様になっていますね。
踏切、さらには木まで!子どもは踏切が大好きですね!こちらも意匠登録。
細部にわたるこだわりが見られます。
そして、こんな情景部品までありました!跨線橋です。跨線橋から見下ろして電車を眺めるのが好きな電車好きさんも多いのかもしれません!
こちらの跨線橋は、単線/複線レールに応じて幅の調節が可能です。上の写真は複線ですね。
上述の通り、様々な情景部品は意匠権にて保護されています。
電車関連の情景部品の種類がたくさんあるのもプラレールの人気の秘密の一つですので、
しっかり権利保護されている様子が伺えますね。
2-2 リアルさ、遊びやすさを追求した機能は特許権で保護
そして、情景部品だけでなく、電車側にも子どもたちが喜ぶ秘密が。
タカラトミーのこだわりが見られたのが、電車の連結部分です。
通常、プラレールの電車の連結部分はこのような形状をしているものがスタンダードでした。
写真:筆者撮影
連結部分は基本的に共通なので、色々な電車を連結して遊ぶことがでる、というメリットがありますね。ドクターイエローにはやぶさが繋がった車両が、我が家でもよく走っています。
そして、この共通な連結部分は、シンプルで壊れにくく、小さな子供でも着脱できる構造になっています。
万が一のときは、連結部品が単体で販売されているので、自分で修理することもできます。至れり尽くせりですね。
さて、こちらの連結部分のデザインが新しくなった車両が発売されました。
よりリアルなものに近づけた新デザインがこちら!!
こちらは『専用連結仕様』として発売されており、本物の電車の連結部分に近い構造になっています。よりリアル感を持たせた仕様になっているのですね。細部までこだわりが見られ、電車好きな方にとってはたまらないですね。
この構造については、意匠だけでなく、特許も出願されていました。
明細書本文には、以下のような機能面での効果が挙げられています。
・互いに嵌り合う構造となっており、連結部分のリアルさを再現している
・簡易な構成で車両同士を連結させることが可能である
・連結部分に歪み等が生じない構造となっており、曲線のレール上を走行する 場合にも安定して連結状態が維持される
また、電車好きさんは、車内アナウンスも大好き!!
音声が流れながら走る電車もラインナップされていますね。我が家には、のぞみがあります
これについても、特許出願されています。
スピーカーの車両おもちゃ内への取り付け構造に関する特許になっており、スピーカーから発せられる音声が車両おもちゃの外側へ音量・音質を保った状態で伝達される機能について記載されてます。
第一に、車内アナウンスが流れながら走行する電車おもちゃというだけでとても魅力的ですが、電車内から発せられるその音声のクオリティが、技術でしっかり担保されていました。こだわりが感じられますね。
以上のように、プラレールのこだわりがつまったアイテムは、
情景部品など視覚的に楽しめるものは意匠権で保護されており、
連結機能や音声等の機能に関するものは特許権を組み合わせてしっかりと守られていました。
こだわりの部分を知的財産で押さえながら、アイテムを幅広く展開していく勢いが、シェア獲得にも繋がっているのだと思います。
人気の秘密3:電車おもちゃだけでない!成長するプラレールブランド
3-1 育てたブランドを活用、おもちゃを超えた事業展開
さて、これまではプラレールのおもちゃに着目してきましたが、
最近は電車おもちゃの販売に限らず、他にも色々なところでプラレールを目にするようになりました。
我が家にも、プラレールのタオル、靴下、絵本・・・
着々と増えています。
タカラトミー公式サイトによると、ブランドを活用した事業展開を戦略として進めているようです。
会社資料には例として上のトミカが挙げられていましたが、プラレールも同様にブランドを活用していそうです。
そんなプラレールワールドの広がり、つまり、プラレールブランドの活用について、知的財産の視点から見てみたいと思います。
まず、プラレールが今のロゴになったのが1987年頃です。
1990年代は、この今のロゴで、おもちゃ以外の、色々な商品やサービスを選択して次々と出願されています。
例えば、鞄類や洋服、飲料物など。
国鉄が民営化してJRになったのは1987(昭和62)年。1990年代に入るとJR各社は次々と新車両を投入し、それに合わせて「プラレール」も第二の黄金期を迎えたころだったようです。このころプラレールの車両のバリエーションの急増加も後押しして、プラレールブランドが確立されていったのでしょう。
そして、2000年を過ぎたあたりから、更に幅広く商品やサービスを指定した商標出願が増えています。また、出願されている商標は、1990年代に出願されていたロゴマーク状のものから、『プラレール』の標準文字での出願へと変化しています。
あくまでも推測ですが、標準文字での出願であれば、ロゴそのものの使用に限定せず、商品やサービスに合わせて使用形態をアレンジできるというタカラトミーさんの考えもあったのかもしれません。
いずれにしろ、『プラレール』という一つの商標について、幅広い商品、サービスに対してたくさん商標権を取得されている点から、『プラレール』という商標を使って、その幅広い商品やサービスを展開していくであろう戦略が読み取れますね。
実際に、2000年代には、電車おもちゃ以外での商品やサービス展開が進んでいきました。
2011年、東京駅にプラレールショップがオープンしました。
同年に商標出願もされていました。
プラレールショップでは、おもちゃだけではなく、子どもたちの登園や通学に使えそうな身の回りの物や、洋服など沢山のアイテムが売られています。
さらに2010年後半には飲食業も展開しておりました。
トミカ・プラレールをコンセプトとした『トミカ・プラレールカフェ』がオープンしていたそうです。
※ こちらは現在は閉店しています。
また、こんな商標権も取得していました。
乗り弁は、トミカブランドと共同の企画のようで、実際に公式Webサイトにこのようなページを見つけました。
子どもたちが大好きな『乗り物』をモチーフにしたお弁当のことを指すようです。
お母さん達が作るキャラ弁がブログなどで公開されて、キャラ弁ブームに火が付いたのが2000年後半以降。
こちらの商標出願は2011年でした。
『乗り弁』も、もしかすると、キャラ弁ブームを盛り上げるキッカケだったのかもしれません。かわいいお弁当作りに役立つアイテムなども発売されているようですよ。
3-2 『プラレールワールド』を盛り上げるプラキッズ
さて、プラレールがより身近に感じられる工夫は、まだまだあります。
これを見てすぐにピンとくる、プラレールファンの方々は多いはず。
プラキッズです!!
プラキッズとは、特定のプラレール商品にセットでついてくる、人形おもちゃです。
プラレールファンに人気ですが、一部カプセル商品を除き、基本的にはプラキッズだけを単体で購入することはできません。
上のように、電車おもちゃや情景部品などにセットとして入っています。
そして、名称に『キッズ』という単語が入っていますが、子どもをモチーフにした人形に限らず、大人の人形もあるそうです。
最近では、人気映画のキャラクターのプラキッズも入っているのだとか。
こちらのプラキッズに、『てっちゃん』という子どものキャラクターがいるのです。
てっちゃんは、今やプラレールの定番キャラクターです。
情景部品等とセットで販売されているのにもかかわらず、オークション等でてっちゃんが単体で出品されているのをよく見かけます。てっちゃんのプラキッズが欲しい人が多く、価値が付くのです。てっちゃんが人気のある証拠ですね。
ショッピングモールのおもちゃ売り場では、てっちゃんのイラストが貼ってあるのを発見しました。
高いシェアを獲得し、知名度を上げ続けてきたプラレールブランド。そこへ新たに、人をモチーフにしたプラレールのキャラクターが登場しました。それがプラキッズのてっちゃんです。
子どもたちは電車おもちゃで遊ぶだけではなく、プラレールの世界に触れ、楽しむことができる。それこそがプラレールブランドなのです。
プラレールワールドが子どもたちにとってより身近に感じられる工夫が、商品展開に見られました。
このプラキッズのキャラクター『てっちゃん』が主人公として登場する絵本がタカラトミーから発売されています。プラレールを身近に感じるようなストーリーが絵本で展開されているのです。
てっちゃんがプラレールの機関車に乗ってお友達に会いに行くストーリーとなっています。読者の対象である子どもたちは、このプラキッズのキャラクターであるてっちゃんに自分の姿を重ね合わせ、よりプラレールの世界が身近に感じられるのではないでしょうか。
絵本に限らず、プラキッズをモチーフにした商品は他にも色々と発売されています。
更にプラレールワールドが身近なものになりますね。
4.むすび
プラレールは生誕60周年を迎えたロングセラー商品です。
日本での電車おもちゃへの参入が早かったという点も、ロングセラーに至る理由の一つではあると考えられますが、それだけではここまで高いシェアを獲得できませんし、横に並ぶレールおもちゃがいない程の圧倒的な地位を確立するに至ったのは、やはりタカラトミーさんの独自の戦略があってこそだと思います。
本記事ではそのようなプラレールのブランド戦略について、知的財産の観点から見てみました。
レールの接続部分の規格を不変とすることで、電車が走行する環境巨大なプラットフォームを構築していくと同時に、他社が真似できないスピードと規模で車両のバリエーションを広げていく戦略。
さらには、実物のリアルさ、手に取ったときの高揚感と、子どもの遊びやすさを両立させる、アイテムの細部にまでこだわり、作りこむ仕様。
これらを特許・意匠・商標などの知的財産でしっかりと保護することにより、他社が簡単に追従できないほどのブランドへと大きく成長していきました。
我が家では、息子と一緒にレールを組み立てて車両を走らせ、一緒にニヤニヤと眺めています。
息子のお友達が、お気に入りのマイプラレールを持って遊びに来てくれて、一緒に楽しむこともあります。いつもとは違う電車がレールの上を走り、息子も大興奮。
新しいアイテムを買い足した日は、ご飯や寝ることを忘れるほどプラレールに夢中になっています。
数十年後、今度は孫と一緒に、変わらないこの青いレールを眺めているのでしょうか。
今よりも更に進化した新幹線が、レールの上を走っているのでしょうか。
また一つ世代が変わっても、多くの子ども達から変わらず愛されているプラレールの姿がきっと見られるのだろうなと思います。
そんな未来が、今から楽しみですね!
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