みんなの食卓でありたい! 松屋フーズのプレミアム商標戦略

「 みんなの食卓でありたい~ ま ・ つ ・ や 」

松屋に行ったことがある人は一度は聴いたことがあるはずのこのフレーズ、実は商標登録されているんです。

J-PlatPat商標出願・登録情報表示より引用

今回の記事では…

おしゃれなインスタで話題になったり、

松屋フーズ公式インスタグラムより引用

突然ジョージア料理を推してきて世間をざわつかせたり、

松屋フーズ公式ホームページより引用

他の牛丼チェーンとはちょっと異なる切り口でわたしたちをいつも驚かせてくれる「松屋」の商標登録と、その背景にある戦略をチェックします。

1.ユニークな松屋の商標登録をみてみよう(音&位置)

データベースJ-Plat Patで「株式会社松屋フーズ」名義の商標を検索してみると、全部で54件の商標が登録されていました。

中でも、目を引いたのは、先ほどご紹介した松屋の店内で流れる「あのフレーズ」の商標登録です。

J-PlatPat商標出願・登録情報表示より引用

こちらは、シンガーソングライターのいわさき きょうこさんが作曲と歌唱をしている店内ソング「松屋の歌」という曲ですが、「曲って商標登録できるんだ・・」と思われた方もいるかもしれません。

このような「音商標」の歴史はまだ浅く、日本では2015年4月より出願受付が開始された、いわゆる「新しい商標」になります。この際、音商標以外にも、「動き商標」「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」「位置商標」も新たに出願受付が開始されました。

ちなみに、他の会社の音商標の登録例も調べてみたところ…

たとえば、みなさんにもお馴染みのこちらの商標や、

J-PlatPat商標出願・登録情報表示より引用

こちらの商標も音商標として登録されていました。

J-PlatPat商標出願・登録情報表示より引用

音の商標としては、「音楽的な要素+言語フレーズ」をセットで出願する方法と、「音楽的な要素(メロディーなど)」だけを出願する方法があります。前者の「音楽的な要素+言語フレーズ」の方法であれば、比較的登録できるハードルが低いので、特徴的なサウンドロゴを作ったときには、商標の出願も検討すると良いでしょう。

こちらの松屋の音商標が出願されたのは、2015年6月。音商標の制度が導入されてわずか2ヶ月での出願でした。

「みんなの食卓でありたい。」は松屋フーズの公式ホームページでも、トップページに表示されています。単なる店内ソングではなく、その歌詞が株式会社松屋フーズの企業理念そのものだからこそ、制度が導入された時点でのスピード出願に至ったのではと考えられます。

松屋フーズ公式ホームページより引用

さらに他の松屋フーズの商標をチェックしてみたところ、店舗の看板も位置商標として商標登録していました。

J-PlatPat商標出願・登録情報表示より引用

位置商標というのは、「図形の標章」と「その付される位置」によって構成される商標です。松屋の看板の場合、図中の黒い破線で囲んだ箇所が位置商標の位置を示しています。

この部分のことです。黄色い下地に青色の一本線が入ったこのシンプルな図形ですね。「松屋」の文字や、お馴染みのあのロゴなどは一切含まれていません。このようなシンプルな図形を商標登録出願した場合、「単なるありふれた模様」と判断され、識別力(自社の商品と、他社の商品とを区別する力)が無いと判断されてしまう可能性があります。

しかし、位置商標として出願すれば、「図形の標章」と「それが付される位置」によって商標が構成されるので、識別力があると判断される可能性が高まります。

たとえば、松屋の看板の場合、黄色い下地に青色の一本線を組み合わせた図形を単体で見せた場合に、見た人が「松屋」を連想する可能性は低いかもしれません。

しかし、この色の組合せが店舗の看板として目に入った時に、「あ、松屋の店舗だ」と認識する可能性はかなり高いのではないでしょうか。

2.あの「松屋マーク」の商標登録に隠された意味

店舗の看板でもお馴染みのあの特徴的なロゴも、もちろん商標登録登録されていました。

Toreru 商標検索より引用

こちらのロゴは、オレンジ色の丸がお盆、青い丸が牛めし、黄色い丸が味噌汁を表しています。ちなみに黄色と青色の丸がちょっとずれている理由は、「お椀の立体感を出すための影っぽいが、松屋の社内でも詳しい情報は残っていない」そうです。

松屋のマークがズレてる理由を聞いた

ともあれ、松屋では店舗内で食事をする場合、味噌汁が無料で提供されるのですが、そのサービスをこのロゴで端的に表しているわけです。とてもシンプルなロゴですが、松屋の特徴的なサービスを表す重要なマークであると言えます。

牛めしにはもちろん、カレーの時も、シュクメルリの時もついてくるこの味噌汁。「カレーに味噌汁か…」と思わないこともないけれど、口にすると何故かホッとするこの味噌汁。味噌汁を飲んでホッと一息つく時間こそが、松屋の提供するブランド価値の一つなのかもしれません。

3.「牛めし」へのアツいこだわり

松屋は吉野家・すき屋などの競合チェーンと異なり、メニュー名に「牛丼」という名称を使わず、あえて「牛めし」という名称を使っています。Googleで2つのワードを検索してみると、そのこだわりの効果が見えてきます。

「牛めし」のGoogle検索結果
「牛丼」のGoogle検索結果

「牛めし」だと松屋の公式ページがTOPに来るのですが、一般名称である「牛丼」で検索すると、レシピサイトのページがTOPに来ており、各チェーンの公式ページは下のほうでした。

「牛めし」というネーミングに対してこだわりを持ち、松屋フーズが使い続けることで差別化に成功しているのです。

松屋フーズの公式インスタグラムにもこんな投稿がありました。「牛めし」というネーミングへの思い入れの強さがうかがえます。

松屋フーズ公式インスタグラムより引用

そんな松屋が従来の「牛めし」を超えるおいしさをコンセプトにした『プレミアム牛めし』を発売したのは2014年7月。当時は消費税が増税されたタイミングでしたが、松屋フーズは当時の「牛めし」が290円だったところ、新しい『プレミアム牛めし』は380円という思い切った値上げを行いました。

正直、この決断は当時のネット界隈でも賛否両論でしたが、松屋フーズ側は「牛肉を冷凍からチルド肉に変更し、タレも変更して逆に原価率が上がっています。おいしさにこだわった結果の切り替えです」と品質向上をPR。プレミアム感を武器にして商品の切り替えを進め、現在では関東地方の松屋のほとんどで『プレミアム牛めし』が販売されています。

プレミアム牛めし | 松屋 メニューサイトより引用

このように大きな転換点だった『プレミアム牛めし』、松屋フーズとしてもネーミングには強い想いを持っていたことでしょう。そのため、松屋としては、何としても『プレミアム牛めし』のネーミングを守るべく商標登録をしたいと考えたことでしょう。

しかし、『プレミアム牛めし』というネーミングだけの場合、商標登録に必要な要件の一つである「識別力」(自社の商品と、他社の商品とを区別する力)が無いと判断されかねません。

識別力がないと判断されると商標登録されない… そうなると、他の会社に『プレミアム牛めし』というネーミングを使われてしまうリスクがあります。

そこで、松屋は企業ロゴとネーミングの組合せた、下記のような商標登録出願を行ったものと考えられます

Toreru 商標検索より引用

こちらの商標は無事に商標登録されています。『プレミアム牛めし』の商標が登録できたことで、松屋フーズは他社による商標の使用を防止し、看板商品のブランドを守ることができたのです。

4.牛めしだけじゃない!松屋の商標登録ワールド

松屋フーズは牛めしを中心に提供する「松屋」以外にも、カレー、寿司、中華、ステーキなど様々な店舗を展開しています。

松屋フーズ公式ホームページより引用

「松」が含まれた店舗名が多いですね。これらの店舗名も続々と商標登録されています。

例えば、東京都練馬区を中心に店舗を展開する「松軒中華食堂」は2018年に商標登録されています。

Toreru 商標検索より引用

また、松屋のそばチェーンである「松そば」は商標登録出願済みで、現在審査中です。

Toreru 商標検索より引用

実は、松屋フーズの原点は、創業者が1966年に開いた一軒の中華食堂にあります。

一度は商社に入社したものの、納得する人生を送りたいという強い思いから独立を決意した創業者(現代表取締役会長の瓦葺利夫)。知り合いの紹介で開店した中華飯店は、広さ約8坪、たった3人からのスタートだった。

松屋フーズの軌跡 松屋フーズ公式ホームページより引用

そこをスタートとして、定番メニューである「牛めし」を出す店を始め、現在では定番にこだわらず幅広いメニュー、幅広い業務形態でビジネスを展開しています。

たしかに、松屋と聞いた時には、定番の牛めし以外にもカレーや定食など様々なメニューが思い浮かびます。まさに、お客さまのニーズに答えておいしい食事を提供する「みんなの食卓」です。

創業からの松屋フーズの理念であり、松屋のブランドイメージを表す「みんなの食卓でありたい~ ま、つ、や」というフレーズ。店舗で流れるテーマソングをも音の商標として商標登録し、独占的に使えるように保護しているのはビジネス戦略上も、重要な判断だったと言えるでしょう。

5.まとめ ~松屋フーズのブランド&商標戦略はここが強い!~

松屋は「みんなの食卓でありたい」を企業メッセージに掲げています。では、「みんなの食卓とは何なのか? 松屋フーズの公式noteにはこんなメッセージがあります。

国籍、人種、性自認、趣味嗜好の多様性が表面化し、それぞれが尊重される現代の日本。この国における「みんな」とは何か。取材班が、各地の「食卓」にお邪魔し、人生を聴いて、2021年現在の「みんな」について考えていきます。

松屋フーズ公式noteより引用

このメッセージからもわかるように、「みんな」も「食卓」も日々変わりゆくものなのです。だから、松屋は、シュクメルリなどの予想外のメニューや、クスリと笑えるインスタなど、新しいことにどんどん挑戦してゆきます。

その一方で、いつもの牛めしと味噌汁でホッとさせてくれる、そんなバランス感覚が松屋の魅力なのです。

もちろんそれらに関わりのある商標の保護にも抜かりはありません。ネーミング、ロゴにとどまらず、音や位置といった新しい商標制度も駆使し、松屋は自社のブランド価値を守っています。

お店の看板・店内ソングから、「プレミアム牛めし」まで。松屋は、実は商標の塊でした。松屋のお店で牛めしを待つちょっとした時間。そんな時、商標に思いを馳せてみるのも楽しいかもしれません。

 

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