Toreru Media は【隔週火曜日】+α で更新!

「果汁グミ」はなぜ“直球すぎる名前”で商標登録できたのか?~分かりにくい「識別力」の基準を最新判例から読み解く!【弁護士が解説】

2025年10月17日、株式会社明治が、「果汁グミ」のブランドロゴが商標登録に至ったとして、以下のプレスリリースを発表しました。

ロングセラーグミブランド「果汁グミ」のブランドロゴが商標登録 37年にわたる日本のグミ市場拡大への貢献が認められ、例外適用により登録が実現

画像:前記プレスリリースより

あまりにも有名な商品ですので、「商標登録されたことがニュースになるようなことか?」と思われるかもしれません。

しかし、商標法では、商品の品質や原材料をそのまま示す言葉は「識別力」がないものとして、商標登録できないのが原則なのです(商標法3条1項3号)。

商標法3条1項3号

「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」

一例として、「ラーメン」という商品に対しての名称「味噌ラーメン」で考えてみましょう。

「味噌ラーメン」という言葉は、「味噌」が入った「ラーメン」という程度の意味しかなく、その言葉自体から、特定のラーメン店を想起することはできないですよね(自他商品識別力の欠如)。

そんな中、「味噌ラーメン」が商標登録されてしまうと、他のお店では「味噌ラーメン」という言葉が使えなくなってしまいます(過剰な独占、言葉狩り)。

このような理由から、商品の品質や原材料等を直接示す、いわばそのまんまの言葉は商標登録できないとされているのです。商標の世界ではこれを「識別力」がないと表現します。

上記を踏まえると、なぜ商品「グミ」に対して果汁グミという「そのまんまの言葉」が商標登録できたのか、非常に気になってきますよね。

そこで、本記事では、「果汁グミ」事件も含め、「識別力」が問題となった令和7年の最新判例(審決例)を題材に、商標の識別力について徹底解説します!

1. 商標の識別力とは?

商標法3条1項では、識別力がないものとして商標登録することができない6つの類型が列挙されており、ここでは、普通名称(同項1号)、記述的商標(同項3号)、ありふれた氏(同項4号)を中心に説明します。

1.1. 普通名称

3条1項1号は「その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」です。

普通名称に該当する例として、商品「サニーレタス」について商標「サニーレタス」、商品「電子計算機」について、商標「コンピュータ」、商品「スマートフォン」について商標「スマホ」等が挙げられています(商標審査基準〔改訂17版〕3-1-1)

これらはもはや「なぜ出願した・・・?」というレベルであり、問題となる事例自体が少ない類型でしょう。

1.2. 記述的商標

これに対し、識別力が問題となる事例において、もっとも出現率が高いと言っても過言ではないのが、冒頭で紹介した3条1項3号です。

本記事にて取り上げるほとんど全ての判例においても、この3号該当性が問題となっています。

3号に該当する(=識別力無し)と判断された例としては、以下のものがあります。

商品「紅芋を用いたタルト」 について商標「紅いもタルト」(知財高判平成22.6.30

役務「食に関する資格検定試験の実施」などについて商標「肉ソムリエ」(知財高判平成27.11.30

商品「レモンを加味した清涼飲料」などについて商標「ほっとレモン」(知財高判平成25.8.28

普通名称よりは捻りのあるネーミングですが、これらは原材料や品質等を普通に表示するものとして、識別力無しと判断されています。

1.3. ありふれた氏

3条1項4号は「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」について、識別力がないものとしています。

「ありふれた」とは「同種のものが多数存在する」ことを意味し、日本の氏(苗字)に関する統計資料等を参考に判断されます。

例えば、サントリーのウィスキーの銘柄「山崎」は「ありふれた氏」に含まれるとして、4号に該当すると判断されましたが、次で説明する「使用による識別力の獲得」によって、例外的に登録が認められました。

1.4. 使用による識別力の獲得

他方で、識別力が認められない商標であっても、長年の広告、宣伝、販売等の地道な努力によって識別力を獲得した場合には、例外的に商標登録が認められるケースがあります。

商標法3条2項

「前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」

この規定によって例外的に商標登録できるための「識別力」の程度としては、全国レベルの知名度が必要であり、識別力獲得のハードルは極めて高いです。

このような高いハードルを乗り越えて識別力を獲得し、例外的に商標登録が認められた例としては以下のものがあります。

① コカ・コーラのボトルの形状商標登録第5225619号

☆指定商品「コーラ飲料」

② サントリーの「角瓶」商標登録第4561212号

☆指定商品「ウイスキー」

③ サントリーの「山崎」商標登録第4312545号

☆指定商品「ウイスキー」

④ 井村屋の「あずきバー」商標登録第5580635号

☆指定商品「あずきを加味してなる菓子」

全国レベルの識別力を獲得しただけあって、どれも納得の著名商標です。

そして、本記事にて紹介する「果汁グミ」も、「使用による識別力の獲得」を成し遂げた一例なのです。

そこで次は、果汁グミ事件を含む令和7年の最新判例を題材に、識別力の判断基準を読み解いていきます。

2. 最新判例から読み解く識別力の判断基準

2.1. 「のむシリカ」事件(知財高判令和7年4月17日

〔本願商標〕

 のむシリカ(標準文字)

〔指定商品〕

 第32類 シリカを含有する飲料水

〔裁判所の判断〕

① 「のむ」の文字は「飲む」を意味し、「シリカ」とは「二酸化ケイ素の通称」を意味する。

② そして、シリカは体に欠かせない成分として注目を集め、シリカを含有することをうたう飲料は広く流通している。

③ また、「飲むミネラル」等、経口で栄養成分等を摂取できる商品も広く流通している。

 ⇒ 「のむシリカ」は、単に商品の品質(摂取方法と成分)を表示するにすぎない。

④ 令和5年のミネラルウォーター類の販売金額は約4,212億円であるから、原告商品の売上額(約54億円)は、ミネラルウォーターの取引市場全体との対比において、1%程度にすぎない。

 ⇒ 使用による識別力の獲得は認められない。

結論:識別力無し(3条1項3号該当、同条2項充足せず。)

〔コメント〕

出願人(原告)は、「シリカは水に溶けない物質である」「シリカは吸着剤である「シリカゲル」の略であり、食べてはいけないものであると認識されていた」と主張していました。

たしかに、「シリカ」が水に溶けず、しかも、食べてはいけないものと認識されていたのであれば、「のむシリカ」という名称は斬新であり、単に商品の品質を示したものとはいえないかもしれません。

しかし、裁判所は、「シリカは水に溶けない」「シリカは食べてはいけない」と需要者が認識していることを認めるに足りる証拠はないとして、原告の主張を認めませんでした。

シリカは「のめる」からこそ、「のむシリカ」の識別力が否定されたということです。

また、「使用による識別力の獲得」(3条2項)の判断においても、原告が主張する販売数量や広告宣伝費を裏付ける証拠(業界誌)の記載内容の正確性・客観性には疑義があるとも認定されています。

2.2. 「飲めるフレンチトースト」事件(知財高判令和7年10月29日

〔本願商標〕

 飲めるフレンチトースト(標準文字)

〔指定商品〕

 第30類 フレンチトースト、冷凍フレンチトースト

 第43類 フレンチトーストを主とする飲食物の提供

〔裁判所の判断〕

① 食品業界において、「飲めるフレンチトースト」「飲めるパンケーキ」「飲めるサーロインステーキ」等と称する、噛まずに飲めるほど柔らかい食感の食品が広く流通、提供されている取引の実情があり、「飲める〇〇」は比喩的表現として普通に使用されている。

② 同様に、原告商品についても、「飲める」ほど柔らかい食感の食品として紹介されている。

③ そうすると、「飲めるフレンチトースト」という言葉は、原告の商品の特性や優位性に着目したものであり、特定の事業者の固有の商標であるとまで認識されていない。

結論:識別力無し(3条1項6号該当)。

〔コメント〕

本事件では、「飲める〇〇」と称される食品がかなりの数存在することが、識別力を否定する決め手となっており、判決文においては以下の「飲める〇〇」が引用されています。

【既存の飲める〇〇】

飲めるチーズケーキ
飲めるプリン
飲めるみたらし団子
飲めるピザ
飲めるハンバーグ
飲めるサーロインステーキ
飲めるサーモン
飲めるパフェ
飲めるローストビーフ
飲めるかまぼこ

他方、ここで引用したものも含め、実は、「飲める○○」として商標登録されている例はいくつかあるのです。

【飲める〇〇登録例】

「飲めるハンバーグ」(商標登録第5815669号
「飲めるカレーパン」(商標登録第6433741号
「飲める!?カルビ」(商標登録第6599080号
「飲めるロース」(商標登録第6612033号
「飲めるサーモン」(商標登録第6697620号
「飲めるサーロイン」(商標登録第6735102号

原告はこれらの登録例も引き合いに出し、「飲めるフレンチトーストも登録されるべき」と主張しましたが、裁判所は以下のとおり判示して、原告の主張を一蹴しています。

「商標の登録・査定等に関する判断は、各々関連する取引の実情等も考慮した上でなされるものであるから、原告の提出する証拠に係る商標の登録例は、上記判断を左右するものではない。」

判決文24頁

「ウチはウチ、よそはよそ」という感じの、まるでお母さんのような判示ですね

サーロイン、ロース、カルビ、ハンバーグはOKで、フレンチトーストがダメというのは、なんとも「肉贔屓」に思えてしまいます。

ただ、「飲める〇〇」の「〇〇」に入る食品が、肉や魚等、「飲めそうにない」ものであれば識別力は認められやすく、スイーツ等「飲めそう」(?)なものについては識別力は認められにくいという、一定の法則性を見出すこともできそうです。

裁判所の「各々関連する取引の実情等」という判断基準から推測すれば、「飲める」という言葉と相容れない食品の方が、「飲める〇〇」の斬新さが際立つがゆえに、品質等をそのまま示すものではなく、識別力が認められやすくなると、理論的にも整理できるのではないでしょうか。

2.3. 「スカイランタン」事件(知財高判令和7年5月29日

〔本願商標〕

スカイランタン(標準文字)

〔指定商品〕

第11類 電球類及び照明用器具、LED照明用器具、クリスマスツリー用電 気式ランプ、ろうそく式ランタン、電気式ランタン、LED式ランタン、祭りの飾り用飾りランプ、祭りの飾り用ひも状のライト、あんどん、ちょうちん 

〔裁判所の判断〕

① 日本国内では、遅くとも平成23年頃から、「底面に開口部があり、中に明かりがともされた薄い膜でできた略円筒形の袋状のもの」(本件商品)を夜空に浮かび上がらせるイベントが全国各地で開催されるようになり、本件商品は「スカイランタン」と呼ばれていた。

※ イメージ

いらすとやより

② また、スカイランタンは、照明の効果を利用した飾りとしても用いることが可能であり、ちょうちん、行灯等と説明されることもある。

③ そうすると、スカイランタンという言葉は、当該指定商品の出所表示というよりも、その商品の品質、用途、形状を表示したものと一般的に認識される。

結論:識別力無し(3条1項3号該当)。

〔コメント〕

皆さんも「スカイランタンフェス」や「スカイランタンイベント」を一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか?

本事件では、平成23年頃から「スカイランタン」という言葉が一般的に使用されていたことから、あっけなく3号該当性が認められました。

なお、本事件の経過は以下のとおりです。

株式会社エクスプラウド(以下「エクスプラウド社」といいます。)が有していた「スカイランタン」商標に対し、株式会社スターリーナイトカンパニー(以下「スターリーナイト社」といいます。)が無効審判を請求した。

特許庁にて、登録を無効にする旨の審決が下された。

エクスプラウド社がスターリーナイト社を被告として無効審決取消訴訟を提起した(本事件)。

エクスプラウド社は「日本スカイランタン協会」を運営する会社であり、スカイランタンに関する商標権のほか、意匠権意匠登録第1790007号)や特許権特許第7341564号等)も有しています。

一方、スターリーナイト社もスカイランタンに関するイベントを主催しており、競合企業だからこそ、スカイランタン商標に対する「待った」(無効審判請求)をかけたのでしょう。

商標関連の訴訟のみならず、スターリーナイト社は、エクスプラウド社がスカイランタンの形態を模倣したとして損害賠償請求訴訟を提起しており、2026年5月現在も訴訟は継続中のようです。

2025年11月20日付スターリーナイト社のプレスリリースより

商標に関する争いのみならず、「スカイランタン知財」を巡る両社の法廷闘争の帰趨は気になるところです。これまでの判断を踏まえて、「果汁グミ」がどのように識別力ありと判断されるのに至ったのか?事件の内容を見ていきましょう。

2.4. 「果汁グミ」事件(令和7年8月18日不服2024-8875

2.4.1. 事案の概要

〔本願商標〕

商標登録第6964994号

〔指定商品〕

 第30類 果汁入りのグミ

〔事件の経過〕

令和5年4月13日 出願

令和6年2月26日 拒絶査定

令和6年5月29日 拒絶査定不服審判請求

2.4.2. 審決における判断

2.4.2.1. 識別力の有無(3条1項3号該当性)

① 本願商標は、黒色の文字に白色の縁取りが施された「果汁グミ」の文字をやや右上がりに書いたものであるが、このような構成は普通に採択される程度のものである。

② 「果汁」の文字は、「果物をしぼったしる。」を、「グミ」の文字は、「ゴムのような弾力を持つ、噛んで味わうキャンデー。」(広辞苑  第七版)をそれぞれ意味するものであり、「果汁入りのグミ」であることを容易に認識させるものである。

③ そのため、本願商標は、単に、商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものというべきであり、3条1項3号に該当する。

2.4.2.2. 使用による識別力の獲得(3条2項該当性)

① 販売期間の長さ 

株式会社明治(以下「明治」といいます。)は、1980年に日本発のグミを発売し、1988年に果汁グミの販売を開始した。

その後、現在に至るまで35年以上にわたり、継続して果汁グミを製造、販売している。

② 市場シェア率の高さ

果汁グミの販売額及びブランドシェアは以下のとおりであり、連続して市場シェア1位を獲得している。

 2018年 86億5千万円及び19.5%

 2019年 88億円及び19.4%

 2020年 79億円及び18.5%

③ 大規模な広告宣伝

果汁グミの発売以来、現在に至るまで、その時々の人気俳優やタレントを起用し、北は北海道、南は沖縄まで全国で放映されているテレビCMによる広告宣伝活動を継続的に行っている。

WEB媒体における広告出稿実績として、例えば、2023年度は、X(旧Twitter)において、1750万円の出稿を行うなどの広告宣伝活動を行っている。

④ 明治以外の者による紹介記事

果汁グミは、新聞等が実施するバイヤー調査等の独自調査において、ブランド別で総合首位を獲得するなど、高い評価を得ている。

⑤ アンケート調査の結果

2023年に実施したアンケート調査では、果汁グミの認知度は首位であり、最も高い認知度として、81.3%という結果であった。

⑥ 結論

以上より、「果汁グミ」は、明治により継続的に使用された結果、需要者が株式会社明治の商品を表示する商標として認識するに至ったものとみるのが相当であり、3条2項の要件を充足する。

2.4.3. コメント

果汁グミには「果汁入りのグミ」という程度の意味合いしかなく、3条1項3号に該当するとの判断は予想どおりですが、注目すべきは、やはり果汁グミの長年にわたる圧倒的な広告、宣伝、販売実績による識別力の獲得(3条2項)です。

販売期間や販売額、広告宣伝に費やした金額、市場シェア率、認知率についてのアンケート調査の結果等、数字で証明できる実績が決め手になっているといえるでしょう。

また、本審決文には、請求人(明治)が提出した証拠の番号として「甲111」との記載があります(アンケート調査の結果の証拠)。

これはすなわち、明治からは少なくとも111個以上の証拠が提出されていたということであり、そのほとんどが、識別力の獲得を裏付けるための証拠と考えられます。膨大な証拠が裁判所の「識別力あり」という判断を導いたといえるでしょう。

なお、果汁グミ自体の歴史も長いですが、そもそも明治が日本初のグミを発売していたとは知りませんでした。

明治の公式HPによれば、日本で誕生した初めてのグミは1980年発売の「コーラアップ」という商品だそうです。

明治公式HPより

まさにグミのパイオニアによる挑戦であり、「果汁グミ」について、識別力の獲得を認めた判断に対しては、誰も異論が無いのではないでしょうか。

なお、明治は果汁グミのみならず、「きのこの山」「たけのこの里」(いずれも立体商標)「R-1」についても、使用による識別力の獲得をクリアして商標登録に至っています。

商標登録第6031305号

商標登録第6419263号

商標登録第653375号

3. 事例からの学び ~出願時チェックポイント~

以上の判例等を踏まえて、商標の識別力という観点から、出願時にチェックしておくべきポイントをまとめてみます。

3.1. 辞書を調べる

「果汁グミ」事件においては、「果汁」及び「グミ」という言葉について、広辞苑の記載が引用されています。

また、「スカイランタン」事件では、「スカイランタン」の語が辞書には掲載されていないものの、「英辞郎 on the WEB」というサイトにおいて、「sky lantern」の意味が掲載されていることが、識別力を否定する要素として考慮されていました(審決の理由の要旨)。

このように、出願しようとしている言葉の辞書的な意味を踏まえて需要者はどのように認識するかという点を検討するのがまずは出発点になります。

3.2. 一般に使用されている言葉かどうかを調べる

「飲めるフレンチトースト」事件、「スカイランタン」事件では、「飲める〇〇」「スカイランタン」という言葉が一般的に使用されているかという点が重視されています。

出願しようとする言葉が世間にありふれた言葉であるかどうかについて、ネットやSNS等で検索してみることも効果的です。検索の際は出願しようとしている言葉そのものではなく、業界違いでの商標の使用例・登録例も並行的に調べていくと、登録可能性が推測しやすくなります。現代では、AIを使用して調査するのも良いでしょう。

3.3. 書体を工夫する、図形化も視野に入れる

識別力がないものと判断されてしまうのは、普通名称や品質等を「普通に用いられる方法で表示する」場合(3条1項1号、3号等)ですので、標準文字ではなく、毛筆にするなど書体を変える、文字と図形を組み合わせるなどの工夫をすれば、識別力が認められる可能性は高まります。

ただし、例えば日本酒の名称の書体には毛筆体が用いられやすい等、指定商品ごとの取引の実情も考慮されますので、単に書体を工夫すればよいというわけではなく、当該指定商品(役務)との関係で、通常用いられるものかどうかという視点が重要です。

また、普通名称であっても、例えば一般に使用されていない漢字(当て字)で表示することによって、識別力は認められやすくなります(商標審査基準〔改訂17版〕3-1-1 2頁)

3.4. 使用による識別力の獲得に期待しない

使用による識別力の獲得(3条2項)が認められるためには、売上額や広告宣伝の規模等の実績の積み重ねによって全国的レベルの知名度を獲得することが必要であり、ハードルは極めて高いといえます。

そのため、普通名称等に該当する商標について、3条2項の例外が適用されると安易に考えて出願に踏み切ることは避けるべきでしょう。

また、3条2項の適用を目指すのであれば、出願に備え、あらかじめ売上額や広告宣伝等の実績を資料(例えば雑誌の切り抜き等)として残しておくという準備も重要です。また、拒絶査定不服審判や審決取消訴訟で争うことも想定し、登録までの時間・コストを見積り、あらかじめ計画しておくことも大切です。

4. さいごに

商標の識別力の問題は、商標登録出願の際に立ちはだかる「鬼門」のようなものであり、出願に先立ち、判例等を踏まえて、識別力が認められるかどうかの見通しを持つことが重要です。

最後に、本記事で紹介したもの以外で、識別力に関する令和7年の最新判例を簡単に(結論だけ)まとめます。

触らない施術」(知財高判令和7年3月10日):識別力無し(3条1項3号該当)

シングルモルト金沢」(知財高判令和7年6月26日):識別力無し(3条1項3号該当)

沖縄コレクション」(知財高判令和7年7月24日):識別力無し(3条1項3号該当)

モルック」(知財高判令和7年9月11日):識別力無し(3条1項3号該当、同条2項充足せず)

マイクロブタカフェ」(知財高判令和7年12月23日):識別力無し(3条1項3号該当)

本記事が商標登録出願の際の参考になれば幸いです。

Toreru 公式Twitterアカウントをフォローすると、新着記事情報などが受け取れます!

押さえておきたい商標登録の基本はコチラ!