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YouTubeが塗り替えたキッズコンテンツの勢力図~4大黒船IPの商標戦略をみてみよう

未就学児向けコンテンツの大定番といえばアンパンマン。これらは今も昔も揺るがない事実でしょう。Toreru Mediaでも過去にアンパンマンの商標について取り上げています。

商標で紐解くアンパンマンとやなせたかしの歩み | Toreru Media

そんな不動の地位を占めるアンパンマンを横目に、海外勢がキッズ(未就学児)向けコンテンツ市場にジワジワと食い込んできているのを読者の皆さまはご存知でしょうか。

海外勢躍進のきっかけはYouTubeなどの動画配信プラットフォーム。このような動画配信プラットフォームでは世界各国からのコンテンツが日夜しのぎを削り合っています。

しかもお客さんは忖度無しの未就学児。ある意味、あらゆる年代の中で最もシビアなお客さんと言えるでしょう。

本記事では、そんな海外発の未就学児向けコンテンツから4つの作品にフォーカスし、商標の切り口から語っていきます。

世界展開を見据えたタイトル変更?「パウ・パトロール」(カナダ)

まずご紹介するのは「パウ・パトロール」です。

パウ・パトロール -PAW PATROL-|公式サイト 

未就学児向けコンテンツを語るうえで、今やこのコンテンツを避けて通ることができません。少年ケントと6匹の子犬たちが力を合わせて街のトラブルを解決するというストーリーで、戦隊ヒーローの要素で男児のハートを掴みつつ、可愛らしい子犬のキャラクターで女児人気も高いという奇跡のコンテンツです。テレビ東京で放映されている他、NetflixやYouTube(抜粋版)でも配信がされています。

アンパンマンを卒業した3〜4歳の子どもが次にハマると言ったらこのパウ・パトロールなのです。筆者の娘の4歳児もその友人たちもみんなパウ・パトロールに夢中です。

プリキュアや戦隊ヒーローといったこれまでの未就学児向けコンテンツは女児向け・男児向けと分かれていたものが多かったのですが、驚くべきことにパウ・パトロールはそのどちらをも対象にしてしまったのです。単純にお客さんが倍増したというわけ。強すぎます。

さて、さっそくパウ・パトロールの商標をみていきましょう。文字とロゴが両方登録されていますね。

登録5757841

登録6036760

この商標の出願人をみてみると「スピンマスターリミティッド」という名前が書かれています。

スピンマスター社は日本ではあまり馴染みがない名前かもしれませんが、数々のヒット商品を持つカナダ発のグローバル玩具メーカーです。つまり、玩具メーカー発のコンテンツというわけですね。未就学児向けコンテンツは玩具開発とセットというのは国が違えども同じなのですね。

さて、スピンマスター社の創業は1994年と比較的新しく、2000年頃までは数十人規模のベンチャー企業でした。

そんなスピンマスター社の成長のきっかけとなったのは日本のセガトイズ社との共同開発で生まれた「爆丸(BAKUGAN)」シリーズです。北米を中心に人気となり年間10億ドルのヒット商品となりました。

爆丸 バトルシューター|グッズ | TVアニメ「爆丸レジェンズ」公式サイト 

ちなみに爆丸は中国で現地玩具メーカーと特許紛争となり、スピンマスター側が勝訴しています。

Spin Masterが中国の「爆丸」特許紛争で勝訴 PR WIRE 共同通信社

https://kyodonewsprwire.jp/release/201904235707

さて、話がすこし脱線してしまいましたが、そんなスピンマスター社の日本での初めての「爆発的ヒット作」がパウ・パトロールなのです。

この爆発的ヒットはもちろん日本だけのものではなく、パウ・パトロールは世界中で子どもたちの心をつかんでいます。

そんなパウ・パトロールの歴史を振り返ってみると、2013年に米国のケーブルテレビチャンネルのニコロデオンで放映がスタートしました。

スピンマスター社は、放送前年の2012年1月のカナダでの出願を皮切りに、同年の後半から2013年の初めにかけてアメリカ、メキシコといった北中米、そしてイギリスなどの欧州各国、豪州で商標登録出願を行いました。

下記の情報は2012年1月のカナダでの出願です。当初は「RYDER’S PAW PATROL」というネーミングで出願を行っていたようです。

ただ、このネーミングは現在は使われておらず、商標登録の更新も行われていないようです。RYDERは、パウ・パトロールのリーダーである少年の名前で、日本版ではケントになっています。国によって作品タイトルが変わってしまうと管理が複雑になるため、世界展開を踏まえてキャラクター名をタイトルから外したのかもしれません。

Global Brand Database 

そして、その約1年後である2014年には、日本、インド、フィリピン、シンガポールといったアジア圏でも商標の出願が。ちなみに同時期には、ウルグアイ、パラグアイ、チリといった南米各国でも出願されています。

日本で放映・配信が開始されたのは日本での商標登録出願から5年後の2019年のことです。

放映開始の5年も前から商標を出願するなんて少し気が早いような気もしますが、先に商標登録を済ませておいてから日本でのビジネス展開のタイミングをじっくり見極めるというのは隙がない戦術と言えるでしょう。日本進出が決まるまで出願を待っていたら、北米でのヒットを聞きつけた悪意の第三者が先に出願してしまっていたかもしれません。

海外進出の可能性があれば、進出先の国で先手を打った商標登録出願をしておく。これがパウ・パトロールから学べる商標戦略の定石ですね。

なぜ拒絶理由通知が?カタカナ出願に立ち塞がった壁「BabyBus」(中国)

次にご紹介するのは「BabyBus」です。未就学児の子育て中でない方には馴染みがないかもしれませんが、BabyBusは中国発のYouTubeチャンネルで、いま日本国内でも勢力を伸ばしています。

BabyBusベビーバス – 子供の歌 – 子どもの動画 – YouTube

2026年5月時点で動画が約2650本、チャンネル登録者が565万人と巨大コンテンツになっています。現在はTOKYO MXにて、地上波でも放送中です。

チャンネルの内容は、早寝早起きや交通安全など万国共通の生活習慣やルールを教える知育コンテンツが主ですが、時折中国ならではの文化が紹介され、親のほうも興味をひかれます。

例えば「タンエンはいかが」という曲。タンエン(湯圓)は甘いごまペーストを包んだ団子を温かいシロップに浮かべた中国のデザートなのですが、この歌で初めて知りました。

さて、そんなBabyBusの日本での商標登録状況を見てみると、アルファベットとカタカナの二通りの表記で商標登録がされています。

登録6596078

登録6664810

ここでカタカナ表記の「ベビーバス」の出願経過情報を見てみると、拒絶理由通知が打たれていることがわかります。一体なぜ拒絶理由が打たれたのでしょうか? その理由は指定商品にあります。ざっくり説明すると、たくさん指定された指定商品の中に「赤ちゃんを沐浴するための浴槽」いわゆる「ベビーバス」が含まれていたのです。

商標法には、「商品そのものを表す文言を商標登録してはいけません」というルールがあります(商標法3条1項1号)。例えば、商品「りんご」に商標「アップル」を登録商標とすることはできません。

ただ、同じ商標「アップル」でも商品が「りんご」以外であれば商標登録できます。例えば、商品「パソコン」であれば商標「アップル」を商標登録できるというわけです。

このルールに則ると、商品「ベビーバス」でなければ、商標「ベビーバス」を商標登録することができます。実際にこの「ベビーバス」の出願でも、指定商品から「ベビーバス」を削除することで、晴れて商標登録に至っています。

たくさん商品を指定する時はその中に商標と同じ意味の商品が含まれていないかご注意を。これがBabyBus から学べる商標登録出願の教訓ですね。

ロングランIPならではのたくましい出願戦略「ひつじのショーン」(イギリス)

続いてご紹介するのは「ひつじのショーン」です。テレビでも長年放映されておりグッズ展開も豊富なので知名度は高いのではないでしょうか。もともとは1995年の映画『ウォレスとグルミット 危機一髪!』の脇役の羊でしたが、人気を博し、TVアニメシリーズの主役に抜擢されました。

ひつじのショーン|公式サイト 

日本では2007年にNHK教育テレビでアニメシリーズが放映されはじめ、広く知られるようになりました。ひつじのショーンはYouTubeも充実しており、たくさんの作品がアップロードされています。

ちなみに各国ごとにそれぞれ公式チャンネルがありるのですが、ひつじのショーンのストーリーは基本的にセリフ無しで展開されるので、どの国のチャンネルにアップされたコンテンツでも楽しむことができます。(翻訳されているのはタイトルのテロップだけ。)

そのため、日本版にアップされた作品を見尽くしたら次はベトナム版に⋯というように回遊することができます。我が家の子どもたちはベトナム語のテロップを「何か違うかも⋯?」と不思議そうな顔で見つめています。

https://youtube.com/@shaunthesheepvietnam?feature=shared

さて、「ひつじのショーン」の日本での商標登録を見ていきましょう。まず、2014年にテレビ放映、コンテンツ配信まわりの商品・役務を指定して出願がされています。

2014年にはアニメの第4シリーズが放映され、翌年には映画『ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~』も公開されています。「ひつじのショーン」シリーズがロングランコンテンツに成長したことを踏まえて、日本での商標登録を行ったのではと考えられます。

登録5785554

そして、2022年にはかなり幅広い商品を指定した出願がされています。下記の画像はその商品群の中からごく一部を抜粋したものです。

登録6585172

なぜ2022年に指定商品が増強されたのかを考察してみると、日本では2022年から「ひつじのショーン展」という巡回型の展示イベントが開催されており、おそらくはそこでのグッズ販売を見越してのことでしょう。

なぜ2022年というタイミング?という点については、2025年がひつじのショーン30周年の記念イヤーなので、このお祝いに向けて数年前から巡回展で盛り上げていこうというプロモーションだと推測されます。

30周年イヤーの翌年である2026年も引き続き各地で巡回展が続いており、さらに新作映画『ひつじのショーン かぼちゃ畑の怪物!』も秋に公開予定です。 記念イヤーの前後も盛り上げていくぞ!という気概を感じますね。

オンラインショップを覗いてみるとグッズも沢山用意されており、2022年の補強の商標登録出願はこのグッズたちをカバーするためのものと思われます。

Ranking – ひつじのショーン公式オンラインショップ 

コンテンツの記念イヤーはその年だけではなく前後も盛り上げるべし。その際には補強の商標登録出願もお忘れなく。これが「ひつじのショーン」から学べるたくましい商標戦略ですね。

日本ではなぜかチャンネル名が違う?『ベイビーシャーク・ピンキッツチャンネル』(韓国)

最後にご紹介するのは、韓国発の「ピンキッツチャンネル」で配信された「ベイビーシャーク」という楽曲の動画です。

ベイビーシャークって?|PINOCCHIO|株式会社アガツマ 

「ベイビーシャーク」はなんと再生回数100億回超えの大バズコンテンツ。教育コンテンツでこの再生数は当時世界初だったそうです。

【世界初】「YouTube100億回再生」の教育ユニコーンがすごい(NewsPicks)

さて、コンテンツ名である「Baby Shark」はもちろん日本でも商標登録されています。

登録6261139

ちなみに先ほどご紹介したチャンネル名の「ピンキッツ」は日本ローカルのチャンネル名です。発信元の韓国をはじめとした他国では「ピンクフォン」というチャンネル名が使われています。運営会社の名前も「ザ ピンクフォン カンパニー」(英語表記:The Pinkfong Company )です。 

ちなみにPinkfong は造語で “pink”の部分は文字通りピンク色という意味で、”fong”の部分はキツネ”fox”と電話”phone”を組み合わせた造語です。同社はスマホでの動画視聴を前提としたコンテンツをコンセプトとしていたこともあり、ネーミングに”phone” が入っているというわけです。

韓国商標登録4020170141329(WIPOデータベースより) 

なぜ日本では別の名前が付けられているのか考察してみたのですが、日本で「ピンクフォン」つまり「ピンク色の電話」というと女性お笑いコンビの「ピンクの電話」が連想されるからではないでしょうか。あくまで推測ではありますが。

ちなみに日本での「ピンキッツ」というネーミングは「ピンク」+「キツネ」の組み合わせから来ているものと思われます。しっかり商標登録もされています。

登録6247318

海外進出の際にはそのネーミングが現地の有名なネーミングとかぶっていないか調査すべし。かぶっていたら現地向けのネーミングを柔軟に考えよう(商標登録もお忘れなく)というのがこの事例から学べる教訓ですね。

おわりに

日本における未就学児向けコンテンツといえばアンパンマン、この情勢は現時点では盤石なものですが、YouTubeなどの動画配信プラットフォームの発展により、世界各国からのコンテンツが徐々に力を伸ばしています。これらの海外コンテンツに触れた子どもたちが親世代になる頃には、もしかしたら未就学児コンテンツの勢力図がガラッと変わっているかもしれません。

日本は長年コンテンツ大国としての地位を築いており、ポケモンやスーパーマリオといったゲーム発のコンテンツや、ONE PIECE や NARUTO などの漫画発のコンテンツは、世界で親しまれています。しかし、これらはいずれも主に就学年齢以上の層を対象としたものであり、未就学児向けの世界で戦えるコンテンツというのは、相対的に薄いと言っていいでしょう。

だからこそ、現在進んでいるアンパンマンの世界進出には大きな期待を抱いていますし、NHKをはじめとした日本のテレビ局が制作する未就学児向けコンテンツは質が高いものが多いので、是非世界に進出していってほしいなと思うところです。

個人的には、未就学児向けコンテンツ競争が激化していくと、プラットフォームに刺激的で短絡的なコンテンツが溢れてしまい、子どもたちへの悪影響も心配しています。今回紹介した4つのコンテンツはそのような内容ではないので、今後も優良なコンテンツが育っていくことを期待しています。

さてこの先、日本発の未就学児向けグローバル覇権コンテンツは生まれるのか? そしてその際の商標戦略は? ウォッチしていきたいと思います。

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