はじめに
ゆるキャン△はあfろ氏による漫画作品です。おもに山梨県を舞台として、キャンプが好きな女子高校生たちの日常を描いています。テレビアニメやテレビドラマ、劇場アニメなどのメディアミックスも展開されている人気作です。
筆者もその魅力にハマり、テレビアニメ、テレビドラマ、劇場アニメをすべて視聴しています。日々様々な事に追われなんだか慌ただしい心に彼女たちが醸し出す楽しそうな空気が沁みるんですよね‥。
そんな筆者をはじめとして多くの人を魅了したゆるキャン△、なんと2024年4月からTVアニメ第3シーズンが放映されることが決定しました!
画像:ゆるキャン△公式ページより引用
ゆるキャン△といえば、作中で登場人物たちが使用するキャンプギアもその魅力のひとつです。作中で紹介されている便利な機能や素敵なデザインのキャンプギアたち、ついつい欲しくなってしまいますよね。なかには作中に登場したことがきっかけとなって大きく売上を伸ばした製品もあるそうです。
そして、便利な機能や素敵なデザインのキャンプギアといえば、それはもう知財のカタマリといっても過言ではありません。
少しこじつけっぽくなってしまいましたが、実際、キャンプギア業界はニセモノが出回りやすい厳しい業界。そんな業界を渡り歩いてゆくには自社の製品の知財をしっかり守ってゆくことが不可欠です。
本記事では、ゆるキャン△に登場するキャンプギアの知財をご紹介します。
ゆるキャン△に登場するキャンプギアの知財を愛でながら新シーズンの開始を待ちわびましょう!
二個使いでハンモック風に!【メイフライチェア】
まずご紹介するのはこちら。大間々岬キャンプ場でのキャンプで登場したローチェアです。
画像:ゆるキャン△第6巻より引用
あきちゃん(大垣千明)が二個使いしていたこのローチェアは、エーライト社の(※)「メイフライチェア」がモデルとなっていると言われています。
あきちゃんは、上半身側は椅子の前脚を付けた状態、足側は椅子の前脚を取り外した状態で使っていますね。足側は前脚を取り外すことでユラユラ揺れられるようにしています。とっても快適そうですね。
画像:UPIオンラインストアより引用
(※)メイフライチェアはもともとエーライト社が製造販売をしていましたが、同社は事業撤退し、現在はグランドトランク社により再販されています。
では、そんなメイフライチェアの特許を見てみましょう。メイフライチェアはアメリカで特許出願され、登録されています。(米国特許第10201231号)
この特許公報では、椅子の前脚がないバージョンが基本例としてFIG. 1(図1)FIG. 2(図2)にと示されています。
FIG. 1(図1)には椅子のフレームが、FIG. 2(図2)には座面用の布を固定した状態が示されていますね。
図1によると、ブレース(折りたたみバーを連結するための部材)12が、①第1の折りたたみバー14を第2の折りたたみバー16に連結する役割と、②関節18(地面と接触するポイント)を一定の距離で保持する役割と、③バーの端24を一定の距離で保持する役割を果たしていることがわかります。
そして、図2によると、この椅子にユーザーが座ったときに、第1の折りたたみバー14とほぼ平行に力ベクトルFが生じることがわかります。
これがこの発明のポイントであり、第1の折りたたみバー14と力ベクトルFがほぼ平行であることにより、椅子が安定します。
ちなみに、椅子の前脚があるバージョンは変形例としてFIG. 15(図15A)とFIG. 15B(図15B)に示されています。変形例とは、発明の一部を他の材料で置き換えたり、他の部材を追加したりした例のことです。
FIG. 15(図15A)には椅子のフレームが、FIG. 15B(図15B)には座面用の布を固定した状態が示されています。椅子の前脚は符号「1580」で示されていますね。
このように実際に商品化されそうな形態を変形例として盛り込んでおくのは特許書面のポイントだったりします。特許権は出願から20年存続するので、将来商品化される可能性がある変形例は、たとえ現時点ではその実現性が低くても変形例として盛り込んでおいたほうがよいでしょう。
なでしこを救った命の炎【ウインドマスターSOD-310】
続いてご紹介するのはこちら。この引用画像だけで誰のアイテムかわかったアナタは相当な玄人です。
画像:ゆるキャン△アニメ第1シーズン第1話より引用
こちらはアニメ第1シーズン第1話でりんちゃん(志摩リン)が使用していたバーナーです。本栖湖で行き倒れになりそうになったなでしこ(各務原なでしこ)を温かいカレーめんで救う出会いのシーンで使われていたものです。
このバーナーは「SOTO」ブランドでお馴染みの新富士バーナー株式会社の「ウインドマスターSOD-310」がモデルになっていると言われています。
ウインドマスターSOD-310は、ゴトク(鍋などをのせる部分)の着脱を工具なしで簡単にできることが特徴です。使用場面に応じて小型の3本ゴトクと大型の4本ゴトクに付け替えられるのが便利ですね。りんちゃんは4本ゴトクに付け替えた状態で火をつけています。
画像:新富士バーナー株式会社|マイクロレギュレーターストーブ ウインドマスター SOD-310販売ページより引用
では、この着脱可能なゴトクの特許(特許第6068995号)を見てみましょう。
この図にはゴトクを開いた状態(a)と閉じた状態(b)が示されています。
この発明のポイントは、第二開閉片2が板ばねになっているところです。このようにすることで、第一開閉片2と第二開閉片3でバーナーを挟みこんだときにバーナーがガタつかずにしっかりと固定できます。しかも、板ばねというシンプルな機構なので着脱も簡単にできるというわけです。
そして、こちらの図はりんちゃんが使用していた4本ゴトクを開いた状態の上方からの斜視図(a)と下方からの斜視図(b)と上面図(c)が示されています。
4本ゴトクの場合、コイルばね10の力により第一開閉片2と第二開閉片3がしっかりとバーナーを挟み込みます。3本ゴトクの場合とばねの形状は異なりますが、原理は同じですね。
ちなみに、この特許出願では、展示会や雑誌での露出に対して新規性喪失の例外を適用していました。
どこで公開していたかの情報は、公報のフロントページだけでは足りず、最終頁にも続いています。
展示会や雑誌でバイヤーやユーザーにいち早くアピールしつつ、しっかりと新規性喪失の例外の適用申請をして知財を守る。まさにお手本となるような事例ですね。
皆さんお馴染み「メタル賽銭箱」【笑’sコンパクト焚き火グリルB-6君】
最後にご紹介するのはこちら。「買っちった」でお馴染みの焚き火グリルです。新しいアイテムに嬉しそうなりんちゃんですが、このあとすぐ恵那に「何これ?メタル賽銭箱?」とツッコまれています。
画像:ゆるキャン△第2巻より引用
このメタル賽銭箱は有限会社昭和プレスの「笑’sコンパクト焚き火グリルB-6君」がモデルになっていると言われています。
折り畳み式の焚き火台で、上部に焼き網を装着することで焼肉もできるようになる優れモノです。(りんちゃんも焼肉をするのを楽しみにしていました。)
では、そんなメタル賽銭箱の特許(特許第5428088号)を見てみましょう。
この発明のポイントは、焚き火台の扉の挿入部92と93を焚き火台の前面板61に形成されたスリット66と67に差し込むことにより、蝶番(ちょうつがい)のように回転軸を用いることなく扉の開閉ができるようになったところです。
従来品では蝶番の回転軸が焚き火燃焼時の熱により変形して開閉が困難になってしまうというトラブルが起きていましたが、この発明の機構によればそのようなトラブルを回避することができるというわけです。
なお、この図には、挿入部92と93の下端部94と95が折り曲げられているバージョンが示されています。下端部94と95が折り曲げられていると、この部分がストッパーとなり、扉91から手を離しても扉91が焚き火台の前面板61から外れなくなるというわけです。
メタル賽銭箱の製造元である有限会社昭和プレスは、自社のものづくりへのこだわりをPRする「町工場プライド品質宣言キャンペーン」を実施したことをプレスリリースしています。
PR TIMES|コンパクト焚き火グリルの人気ブランド、焚火魂「笑’s-SHO’s」が、「町工場プライド品質」宣言。
プレスリリースでは知財についても言及していました。
近年、多くのメーカーが、この市場に参入することとなり、中には当社製品のコピーと思われるほど、デザイン、構造、折りたたみの機構などが類似している製品もあり、特許侵害も見られるなどの事案も発生しております。
PR TIMES|コンパクト焚き火グリルの人気ブランド、焚火魂「笑’s-SHO’s」が、「町工場プライド品質」宣言。
また、そうした製品の中には、耐熱性、耐久性、製品の安全性にも問題のあるものもあり、当社製品と誤解されたユーザーの方より、クレームが寄せられるケースも増えてきています。
そこで、この機会に、当社のものづくりへのこだわりを、きちんとご説明してまいりたいと考えました。
画像:プレスリリースより引用
ちなみに、プレスリリースによると、「焚き火グリル」は、昭和プレスが新たに作り出した概念だそうです。
ご存じでしょうか?『焚き火グリル』『コンパクト焚き火グリル』という名称を使い出したのは実はわたしたち「笑’s-SHO’s」なのです。
PR TIMES|コンパクト焚き火グリルの人気ブランド、焚火魂「笑’s-SHO’s」が、「町工場プライド品質」宣言。
商標登録の際に区分に『焚き火グリル』と申告したところ、却下されてしまいました。
これまでの焚火台とは異なり煮炊き暖房にこだわった「笑’s-SHO’s」の製品を、そう呼んでいたら、いつの間にかりっぱな製品カテゴリーに。15年の月日に感慨ひとしおであります。
たしかに、商標登録出願時の情報が掲載される公開商標公報(左図)には区分名として「焚き火グリル」と記載されていましたが、商標登録時の情報が掲載される商標公報(右図)では別の区分名に変えられていました。
「焚き火グリル」商標登録の際に区分として認められなかったというエピソードは、ある意味この概念の新しさを物語っています。
「焚き火グリル」という概念が定着した現在であればこの区分名も認められるかもしれません。
まとめ
本記事では「ゆるキャン△」作中に登場するキャンプギアの知財を紹介しました。
キャンプギアの裏に知財あり。冒頭で書いた「便利な機能や素敵なデザインのキャンプギアといえば、それはもう知財のカタマリ」というのも、もはやこじつけとは言えないでしょう。
さて、「ゆるキャン△」新シーズンの放映開始まで間もなくです。新シーズンではどんなキャンプギア、そしてどんな知財が登場するのでしょうか。今から楽しみです。