すっかり季節は夏になりました。夏になると、コンビニ等で飲料を購入する頻度が増えますね。実際にデータにも現れています。
上のデータから、特に茶飲料、炭酸飲料、ミネラルウォーターは、8月の売上が伸びていることが分かりますね。持ち運びに便利なペットボトルを購入する機会も多いのではないでしょうか。
ところで、皆さんは、売り場に並ぶペットボトルのどこにまず目が行きますか?やはりラベルでしょうか?
実は、最近のペットボトル飲料は、ボトルの形状も個性的なものが増えています。
本記事では、各飲料メーカーから発売されているペットボトル飲料を挙げながら、ボトル形状にまつわる知財と、知財が各社商品のブランディングにどう活かされているかを、調べてみました。
目次
1.ペットボトルの形状はどうやって決まるの?
まず初めに、ペットボトルの形状はどのような観点から決まるのかを見ていきたいと思います。
形状を決める観点の1つとして、機能です。分かりやすい例が、炭酸飲料です。炭酸飲料のペットボトルは、底の部分が花のような形(ペタロイド形状)に構成されています。
このペタロイド形状を有するペットボトルの形状は、各社から意匠出願が確認できました。
こちらはコカ・コーラ社の登録意匠です。上野図面のように炭酸飲料のペットボトルは、つるっとした丸い形状であるのが一般的です。
さらに、素材に厚みがあります。炭酸飲料のペットボトルは、飲料を注入する際に内部から圧力がかかるため、圧力が均等にかかり変形しないように丸い形状にして、厚みも持たせているのです。
一方、お茶やスポーツドリンクは、熱殺菌の観点から、飲料が熱を持った状態でボトルに充填され、その後に冷却されます。この冷却処理の際に容器の外側から圧力がかかるため、炭酸飲料とは容器のデザインが異なってきます。
こちらはサントリーホールディングスの登録例です。先ほどの炭酸飲料の図面とは側面の形状がかなり異なりますね。
具体的にはペットボトルの側面に減圧吸収パネルが設けられています。このパネルの凹凸形状が、冷却時に体積が縮む際の圧力を吸収するのです。
機能という観点では「握りやすさ」や「強度」を考慮して形状が決まりますが、それだけでなくブランディングの観点でもデザインが工夫されています。いろはす(コカ・コーラ)の例を見てみましょう。
いろはすは2022年にボトルデザインがリニューアルされました。
ボトル本体がスパイラル構造になり、日本の清流を想起させるような形状になっています。さらに、ラベルを下部に配置し、天然水の透明感を消費者がより視認できるボトルデザインになるよう工夫されています。
この形状は、ブランディングの観点だけで決まったのではありません。
「中身の天然水がスムーズに流れる構造」という機能面の改善も兼ねています。
このようにペットボトルのデザインは、機能面とブランディング面の両面から進化しているのです。面白いですね。
さて、ここからは各社飲料メーカのこだわりのペットボトル飲料を、知財とともに見ていきましょう!炭酸・お茶・大型などのボトルの部門ごとに紹介します。
2.やはり夏はコレ!炭酸部門
やはり夏に店頭で手に取るのは、炭酸!みなさんの印象に残る炭酸飲料のボトルデザインは何でしょうか?
2-1.ファンタ(コカ・コーラ)
最初に見ていただきたいのは、きゅっとしたくびれを持つファンタ(500ml)のボトルです。
ファンタは英語のFantasy(空想)やFantastic(すばらしい)に由来する「現実から解き放ってくれる」という楽しさや親しみやすいブランドです。その由来にちなんで、はじけるようなバブルを3つつなぎ合わせたようなデザインです。
Fantaは様々な容量のラインナップがあり、350mlのボトルには、表面の一部に気泡のようなぶつぶつの形状があります。炭酸飲料を連想するようなデザインです。
意匠登録されていたファンタのボトル形状は,ひねりを加えたデザインでした。このボトルは2017年頃海外で展開されており、炭酸飲料ボトルとしては常識を打ち破る形状だったとか。
現在日本で展開されているボトル形状とは異なりますが、意匠登録されているということは、日本販売の計画もあったのかもしれませんね。
2-2.天然水スパークリングレモン(サントリー)
続いての商品は、あの有名な『サントリー天然水』シリーズの炭酸飲料です。
商品コンセプトは、飲んで爽快な気分になれる炭酸水。ボトル上部のくびれは、ビール瓶を持ち上げて直飲みするところからイメージを得たそうです。
実際の商品形状に合わせた意匠登録がありました。ボトル表面に施された氷山の形の凹凸が印象的です。
機能面ではボトル上部のくびれにより、傾けたときに炭酸が勢いよく口の中に入るようなデザインになっています。これにより、爽快な気分をもたらしてくれますね。
天然氷の世界観と、炭酸の刺激がボトルで演出されていることがわかります。
3.各社のこだわり!お茶部門
続いてお茶部門を見てみましょう。中でも緑茶が興味深かったので、ご紹介します。
3-1.伊右衛門(サントリー)
伊右衛門のボトルデザインは、もともと日本古来の飲料水容器である竹をモチーフに表現されたものでした。このデザインは2020年に大幅にリニューアルされています。
このリニューアルはお茶の色にこだわったものであるため、店頭に並んだペットボトルから鮮やかな緑の水色を体感できるよう、上下方向の幅が短いラベルが採用されました。
さらにボトルの形状が円柱から直方体に変更され、消費者に対してリニューアルのインパクトを強調しています。
単に短いラベルを採用するだけにとどまらず、きれいな緑色を最大限見てもらうための取り組みとして、ラベルレスのペットボトルも販売されています。
ラベルレスにあたり、法令に基づき義務表示しなければならない内容は、首掛け式のラベルを設ける仕様になっています。この表記方法について2022年8月に特許取得されていました。
経過情報を見ると、拒絶理由通知書を4回受け取り、応対や意見書・手続補正書の提出を繰り返した末に登録査定が出ていますので、かなり力を入れた権利だと伺われます。
さらに2023年のリニューアルでは、ボトルデザインがさらに変化。キラキラと光るレリーフのデザインが採用され、お茶の色もより引き立たせるボトルになりました。
このように、伊右衛門は思い切った外観の変化を遂げたことで、長い間売れ続ける商品となりました。ここで紹介したボトルデザインはそれぞれ意匠登録されています。
3-2.綾鷹(コカ・コーラ)
続いてはコカ・コーラ社の緑茶、「綾鷹」です。
綾鷹は、ペットボトルの表面に均一でない幅で凸形状が設けられています。また、ところどころ、緩やかに湾曲しています。これは、「湯呑み」をイメージしているのだとか。
綾鷹のコンセプトは「急須で入れる緑茶のようなお茶」です。ボトルの手触りを通して、まるで湯呑みでお茶を楽しんでいるような感覚になれるデザインなのですね。
3-3.颯(アサヒ飲料)
最近、スーパーやドラックストアで見かけるようになった「颯」。初めて店頭で見かけたとき、飲料の色味と、パッケージデザインが印象的で、思わず手に取った記憶があります。
颯の特徴は、飲んだ瞬間と飲んだ後の2回、華やかな香りを感じることができる点です。
ボトルの形状も、まさに「その華やかな香り」という特徴を、凹凸のある波形のデザインで表したデザインになっています。
独創的なデザインで、アサヒ飲料から12年ぶりに誕生した緑茶の新ブランド「颯」にかけるメーカーの熱意が伝わってきますね。
4.大容量化ならではの工夫!大型ボトル部門
続いて、大型ボトル(2リットル)のペットボトル飲料についてです。あるときから大型ボトルのペットボトルは、中央あたりに「くぼみ」が設けられるようになりました。
このくぼみ部分に親指が収まり、大きなボトルでも、ユーザが握ったときの安定感が出ます。子供やお年寄りにとっても持ちやすく注ぎやすいユニバーサルデザインとなっています。
くぼみ形状を設けるデザインは、各メーカが採用しており、窪み部分の形状がメーカ毎に少しずつ違います。それぞれの形状を比べてみましょう。
4-1.サントリー天然水(サントリー)
中央にくぼみが設けられており、飲むときにボトルを握りやすい形状になっていることがわかります。
さらに、飲んだ後のつぶしやすさの観点からもデザインされており、くぼみ部分に十字型の切り込みが設けられ、より指で押しやすい形状になっています。意匠登録もされていました。
4-2.爽健美茶(コカ・コーラ)
サントリー天然水と同様に中央にくぼみが設けられています。くぼみの形状はサントリー天然水と比較すると縦長です。
くぼみが設けられているところは、他の部分より一回り細くなっています。このくぼみ部分が、意匠登録されています。
爽健美茶は正角(正方形)柱型のデザインを採用したことによって、飲み終わった後のボトルを対角線方向に軽い力でつぶすことができるようになっています。他の大型ボトルとの差別化があるんですね。
4-3.十六茶(キリン)
画像:アサヒ飲料公式サイトこちらのくぼみの形状はサントリー天然水、爽健美茶とはまた異なり、逆三角形のような形状です。この形状も部分意匠として意匠登録されています。
以上のように、大型ボトルには、握りやすさやつぶしやすさの観点からくぼみ形状を有したデザインが採用されているものの、くぼみ形状自体はメーカーによって異なっており、それぞれ意匠で保護されていることが分かりました。
5.見て楽しい!触って楽しい!こだわり形状部門
最後に、各社商品の中でも特徴的な形状である商品をご紹介します。視覚的だけでなく、手触りも楽しめるペットボトル商品ばかりです。
5-1.サントリー天然水ラベルレス
近年、ラベルレス飲料を見かけますね。分別する際、商品のラベルをはがす手間を省くことができます。ケース単位での販売を中心に普及し始めています。
一方で、ラベルが商品の宣伝広告を担っている観点では、ラベルがなくなってしまうことに対するデメリットも生じます。
そこで、2022年、サントリー天然水から、ラベルレス専用ボトル、“氷雪ピュアボトル”が誕生しました。
ボトル上部には、雪や氷をイメージした凹凸が施されています。また、ボトル全体に施されている流線は、水の流れが表現されているような印象を消費者に与えます。
ラベルがなくなっても、こういったボトルデザインから、手に取った瞬間にサントリー天然水の世界観が伝わりますね。
5-2.THE STRONG 天然水スパークリング(サントリー)
また、サントリー天然水シリーズから発売されている「THE STRONG 天然水スパークリング」のボトルデザインが非常に印象的です。
ボトル肩部が「バキバキ」に尖った形状になっています。天然水スパークリングは、より刺激が感じられる強炭酸水です。味だけでなく視覚的にも刺激が感じられるようなデザインですね。
冒頭にご紹介した通り、炭酸飲料はボトルに注入する際に内部から圧力がかかるため、胴部の断面が全体にわたって円形のものがほとんどです。それにもかかわらず、強炭酸水にこの複雑な形状を採用した点に、強い思いが感じられますね。
5-3.COSTA COFFEE(コカ・コーラ)
COSTA COFFEEは、欧州発のカフェブランドです。2019年にコカ・コーラが買収し、2021年に日本でペットボトルシリーズが発売されました。
このシリーズはパッケージデザインにこだわりが見られ、これまでにも刷新されていますが、ボトル形状も特徴的です。
自動販売機で販売されている280mlのペットボトルは、表面全体にハニカム構造の凹凸があります。こちらは、意匠登録されています。
このペットボトルのデザインの由来について調べてみましたが、詳細は分かりませんでした。ちなみにお茶部門でご紹介した綾鷹シリーズの急須珈琲シリーズ、「綾鷹急須珈琲シリーズ」も同様のハニカム表面構造をしています。
6.おわりに~機能とデザイン両面で進化
普段何気なく手にしていたペットボトルですが、デザインの背景を知ると商品に対してさらに愛着がわいてきますよね。
飲料を注入する際の圧力や温度の条件などの機能の観点からある程度形状が決まる部分と、他社商品に対しての差別化となるブランディングの観点から工夫やこだわりが見られる部分があり、それらの組み合わせでデザインが決まっていることが分かりました。
調べていくと思った以上に形状のバリエーションも多く、ペットボトルを購入する楽しみがまた1つ増えました。
特に、本記事で多くの商品をご紹介したサントリーとコカ・コーラは、ペットボトルの形状に関する意匠出願が比較的多い印象でした。他社商品に対する差別化となる部分をしっかりと権利化している戦略が窺えますね。
まだまだ残暑が厳しく、飲料を買う機会も多いですね。お店に立ち寄った際は、是非ペットボトルのデザインも楽しんで見てみてください!