スーパーやドラッグストアなどで日々当たり前のように購入し、当たり前のように使っている日用品。充実したラインナップで、選ぶのが楽しく、逆に多すぎて迷ってしまうことも。
そんなときに、商品の中身だけでなく、「包装容器」を意識してみることはありますか?
商品の包装容器は、商品の主役ではないけれど、実はプロダクトの価値やブランディングに大きく影響しています。包装容器はプロダクトの一部であり、中身の一番外側にあるもの。消費者である我々は包装を見ずして商品を買うことはないのです。
特に近年では、環境問題の観点で包装容器の開発、改良に注力している企業も多く、企業そのもののブランディングや価値にも影響しています。
調べてみると、数ある企業の中でも特に花王株式会社は、洗剤やシャンプー・石鹸といった日用品分野で、包装技術に注力されていました。
そこで本記事では、日本を代表する日用品メーカーである花王株式会社について、包装容器の進化の歴史や、最新技術・プロダクトについて知財の観点から調べていきます。
目次
1.粉から液へ・・だけじゃない!洗剤「アタックZERO」の意外な包装進化
花王の洗剤『アタックシリーズ』は1969年の誕生以来、色々な進化を遂げています。
昔は、各家庭の洗面所に大きな箱が置いてあった洗濯洗剤ですが、気づけば、スリムな形状のボトルシリーズが登場しましたね。洗剤は、粉末から液体タイプに進化し、近年では濃縮タイプが流通しています。
容器の観点で見ると、濃縮タイプにより、洗濯一回あたりに使用する洗剤量が大幅に減ったので、容器のコンパクト化を実現できたといえます。容器がコンパクトになるという点は、買い物から持ち運んだり、洗濯機に洗剤を投入したり、洗剤容器を保管することを考えても非常にありがたい話です。
画像引用元:花王の歴史
ただ実は、アタックシリーズには「形態」とは別の意外な進化もありました。それは「計量」です。
2019年に登場した「アタックZERO」では、洗剤の計量が不要になっています。
画像引用元:アタックZERO新発売(花王公式サイト)
この商品では容器のディスペンサーをプッシュする回数によって洗剤の量を調節します。洗濯物の量に応じて、ディスペンサーをプッシュする回数を変えるイメージですね。さらには、ディスペンサーを押し下げる力の加え方を調整することによっても、吐出される洗剤の量を調整することができます。
これは「ワンハンドプッシュ」と命名され、アタックZEROの商品の魅力の一つになっています。
それまでは計量スプーンで粉末洗剤の投入量を計ったり、計量カップの役割を兼ねる容器の蓋を使って液体洗剤の投入量を計っていた記憶があります。アタックZEROのワンハンドプッシュは、片手で洗剤を投入でき、それだけでなく、親指でディスペンサーを押し下げる回数や力の加え方で簡単に洗剤の量を調整できるようになっているのが魅力です。毎日の洗濯の手間や煩わしさがちょっと減ります。
実際の商品を使ったことのある方はお気づきだと思いますが、アタックZEROは、ディスペンサーに加える力を調整しやすく、ほどよい「押し加減」があるのです。軽すぎると、洗剤が勢いよく噴出してしまう。重すぎても洗剤を注入するたびに力が必要になるので不便・・・。この「ディスペンサーに加える力の調整しやすさ」については、開発過程でもかなり注力されていたようです。
参考:包装容器で社会課題に応える。ワンハンドプッシュ開発秘話
そして、「ワンハンドプッシュ」を実現するためのディスペンサーの構造が、特許出願されていました。吐出口に向かう流路がポイントです。
吐出口に近い側の「先端側流路」と、吐出口から遠い側「基端側流路」の①流路面積の関係と②流路長の関係を請求項で規定しています。この関係性が、「ほどよいディスペンサーの押し加減」を実現できるのであると考えられます。
さらにディスペンサー部分は、意匠登録もされていました。
ディスペンサーの形は、親指1本で押しやすい形状です。また、持ち手部分は緩やかなカーブ形状になっており、親指以外の4本の指をかけやすくなっており、さらに、家庭の洗面所などで引っ掛けて保管することも可能です。
アタックzeroの容器は、「ワンハンドプッシュ」と名付けられている通り、ユーザの使い勝手を追求したデザインや機能を備えています
2.詰め替え容器なのに「詰め替えない」⁉逆転発想
シャンプーやボディーソープ、洗剤は詰め替え用の商品が多く店頭に並び、私たち消費者も詰め替え用商品を購入することが当たり前になりつつあります。
詰め替え用の商品の開発は、リサイクルに対する取り組みの代表的なものとも言え、花王は1990年代にこの取り組みを開始しました。現在では、詰め替え用の商品は400品目を超えるラインナップがあります。
ただ、詰め替えって、価格的には少しお得でもちょっと面倒ですよね。そこで詰め替え用の商品は、中身の粘度や容量等に応じた、より詰め替えやすい形を目指して開発が進められています。
中には、詰め替えの効率化をめざすのではなく「詰め替え用商品を詰め替えずに使える」というアイデアを実現させたアイテムもあります。それは「スマートホルダー」です。
画像引用元:スマートホルダー(花王公式サイト)
スマートホルダーは詰め替え用容器を固定させ、ノズルをはめるだけで使用可能。自分の好みに合った柄を選ぶことができ、お風呂場をオシャレにしてくれます。また、初回からボトルタイプではなくいきなり詰め替え用の商品を購入できるため、ゴミを減らす視点でも素晴らしいですね。
このスマートホルダーは、複数の知的財産権で保護されています。
まず「詰め替えない」というアイデアに込められたネーミングは、商標登録されています。
さらにディスペンサー部分を除くホルダー部分は、意匠登録されています。詰め替え容器が挿入しやすいデザインが意匠によって護られているのですね。
加えて、詰め替え用容器に対してポンプディスペンサーが取り付けられる取り付け構造については、特許取得されています。
商標・意匠・特許の組み合わせでしっかりと権利保護し、他社の模倣を防いでいるといえるでしょう。
ただ、詰め替え容器はゴミが通常容器より削減されるといっても、やはりゴミは出ますよね。この点、花王は新しい取り組みを始めています。それは「詰め替え容器のリサイクル」です。
花王公式note「花王が取り組む【つめかえパックの水平リサイクル】の最前線」
花王の取り組みは、詰め替え容器として一度使用された容器をリサイクルして、新たな詰め替え容器に生まれ変わらせる技術を実現させるというものです。この技術は、簡単なものではなく、商品化の実現に至ったカギとなる技術が特許取得されています。
「金属箔層を有する樹脂層を備えた樹脂廃材(A)」と、「金属蒸着層を有する樹脂層を備えた樹脂廃材(B)」を含む樹脂廃材混合体から、「金属箔層を有する樹脂層を備えた樹脂廃材(A)」を除去し、除去後の樹脂廃材混合体から新たな組成物を得る、という方法です(請求項14)。
WO2022 / 124146_(J-PlatPatリンク)
特許内容の詳細は割愛しますが、廃材から「金属箔層を有する樹脂層を備えた樹脂廃材(A)」を除去することにより、新たに生成される組成物の物性値を担保しています。簡単にいえば、邪魔だったAの部分を効果的に除去する技術ができたので、詰め替え容器のリサイクルができるようになったということです。
この方法によりリサイクルされた組成物(容器の材料)によって、商品化のための試験をクリアすることができたそうです。下記の花王公式動画では、容器の保存試験、引張試験が紹介されています。
さて、上記の動画で出てきたように、このあらたな詰め替えパックは「おかえりつめかえパック」と命名されており、商標登録されています。
このネーミングにより、詰め替え容器が、生まれ変わって戻って来る(=循環している)イメージを持つことができますね。環境に優しい商品だとわかりやすく、さらに企業イメージの向上にもつながりそうです。
この章の冒頭でも述べた通り、現在日本では詰め替え用の商品がかなり多く売れています。これらの詰め替えパックに対しても、このリサイクル技術が実現できれば環境問題に大きく貢献できそうな気がしますね。
3.粉も計量不要!つまんで入れられるフィルム包装の誕生
これまで液体洗剤について取り上げてきましたが、アタックZEROの粉末洗剤も進化しています。
「アタックZWRO パーフェクトスティック」は、粉末の洗剤がスティック状のフィルムに包装されています。スティックのまま洗濯機にポンっと入れると、フィルムが水に溶け、粉体の洗剤が洗濯槽の中に溶け広がる仕組みになっています。
洗濯機に入れる前の前洗い(汚れ部分のつけおき等)を不要とするような、より高い洗浄力を追求することから、粉末状の洗剤が採用されたとか。粉末洗剤は皮脂汚れにつながる脂肪酸への効果が高いといわれています。
このフィルム容器は、意匠登録されていました。
【意匠に係る物品の説明】
本物品は、水溶性フィルムの容器に充填された液体又は粉末状の洗剤であって、洗濯機等に本物品を投入して作動させると、容器部分が溶解して内部の洗剤が放出される。
ワンハンドプッシュのように、軽量を不要として取り扱いが楽になっている液体洗剤に比べると、粉末洗剤は少し手間がかかる印象がありましたが、このパーフェクトスティックは洗濯機に入れるだけなのでかなり扱いやすく、外出先にも持っていきやすいですね!
第1章では、「アタックZERO」を事例に取り上げ、花王の包装容器に対するこれまでの取り組みをその知財とともにご紹介しました。日頃何気なく使っている日用品の変化を意識する機会はあまりないのですが、改めて振り返ってみると、ユーザの利便性や環境問題の観点から、進化し続けていることがわかりますね。
4.さよなら、プラスチックボトル・・容器にも広がる「フィルム」革命
上でも紹介したように、プラスチックボトルの使用量低減を目指して、詰替え用パックが普及しました。花王では、プラスチックボトル自体を新たな形態に変える取り組みが行われています。ボトルのように使える新しい「フィルム容器」の採用が開始されています。
画像引用元:花王公式サイト「プラスチック容器の 完全リサイクル化をめざして」
フィルム容器に空気を入れて膨らませることで、ボトルのように使用することができます。このフィルム容器は、詰め替えパックと同程度までプラスチック使用量を減らすことができます。
フィルム容器は、特許取得されていました。
このフィルム容器は、内側フィルム層と外側フィルム層の2層で構成されています。内側フィルム層の内側の領域(収容領域)にシャンプーなどの内容物が収容され、内側フィルム層と外側フィルム層との間には、充填物(空気等)を充填する充填口を有しています。
製造手順は、まず、収容領域に気体を導入して膨らませた状態で、充填口に充填物を充填していきます。これにより、充填材の充填を容易に行うことができ、収容領域に十分な量の内容物を充填することもできます(明細書段落0009)。
このフィルム容器は、世界包装機構「ワールドスター賞」を受賞しています(2023年)。
Worldstar Global Packaging Awards_2023年受賞(Japan)
詰め替え用製品とはまた違ったアプローチで、プラスチックの使用量を減らすための新たなアイデアが形となっていますね。
5.まとめ
本記事では、主に「環境負荷低減」と「ユーザの使いやすさ」の観点から、花王が包装容器に対してどのような取り組みをしているのか、また実際の製品に関する知財はどんなものであるかをご紹介しました。
例えば、環境負荷低減という観点一つを取り上げても、「詰め替え製品を充実させる」、「詰め替え製品を詰め替えないまま使用可能にする」、「詰め替え製品の包装容器自体をリサイクルする」、さらには「元のボトル自体をフィルムにする」と、様々な取り組み方があります。また、これらの取り組みは時代とともに進化していることが分かりますね。
また、洗濯用洗剤の観点では、洗濯機に投入する洗剤を「計量不要」に進化した変化が印象的ですね。近年は洗剤の自動投入を採用している洗濯機も多く、このような洗濯機専用の洗剤も発売されています。
環境問題や使いやすさだけでなく、製品の使用を通して手洗いを楽しめる工夫がされている子供向け製品も。テーマパーク等で見たことのある方も多いでしょう。ハンドソープの「泡スタンプ」です。こちらも特許取得されています。
特に風邪が流行る時期は、「手を洗いなさい!」とつい強い口調になってしまいますが、子どもがすすんで「手洗い」を楽しめる仕掛けが嬉しいですね。
脇役と捉えられがちな「包装容器」ですが、花王は包装容器についても注力しており、ブランディング、マーケティングに活用されていることが知財情報からも窺えます。
日用品のお買い物の際に、容器についても少しだけ意識してみると、商品を選ぶのが一層楽しくなるかもしれません!