こんにちは。ブランド弁理士®︎ の土野です。
Toreru 商標登録 は2021年9月にサービスリニューアルをしました。実はその背景には、約3年にわたるブランディングへの取り組みがありました。
本記事では、 Toreru Media の今年のテーマとして掲げていた「ブランド」記事の締めくくりとして、 Toreru が取り組んできたブランディングの裏側を大公開します!
ブランディングの手法は千差万別であり、対象とする事業分野や組織の特徴などによって “合った方法” は異なります。それでも、 Toreru が実際にブランディングの一環として具体的にどのような取り組みを行ったのかを公開することによって、少しでも参考になるところがあれば…と思い、公開することにしました。
3年間の取り組みの振り返りとなるので少しボリューミーな内容となりますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
この記事で得られるもの
- Toreru のブランディングの裏側がわかる
- ブランディングのプロセスの具体的事例がわかる
目次
Toreru のブランディングの全体像
まずは Toreru がこれまで取り組んできたブランディングの全体像です。2018年9月頃から約3年間にわたって、以下のような取り組みをしてきました。
- ブランディングの必要性の認識
- ブランディングのステップの確認
- ブランドのコンセプトを定義する
- まずはどんな感じかCEOとやってみた
- 全社を巻き込んでワークショップ
- ミッション・バリューとして定義&全社共有
- ミッション・バリュー浸透のための仕組みづくり
- ミッション・バリューの掲示
- 研修の実施
- 「朝会」の導入
- 人事評価(制度)への反映
- CI規程の整備
- ブランディングの効果測定・改善活動のための仕組みづくり
- ブランド指標・CX指標の測定&リアルタイム共有
- CX改善プロジェクトの発足
- サービスのリブランディング
- Toreru 商標登録 のリニューアル
それでは、ひとつひとつ振り返ってみたいと思います。
1.ブランディングの必要性の認識
ブランディングへの取り組みを始めるために最初に必要なのは、ブランディングの必要性を認識することです。ブランディングにはお金も時間もかかりますから、企業活動としてやる以上は「自分たちにとって、やる価値がある」と思えなければ始まりません。
これはもちろん Toreru も例外ではありませんでした。
では、 Toreru がブランディングの必要性を認識したきっかけは何だったのでしょうか。
きっかけは、土野が Toreru に入ってすぐ「この会社、ブランディングに取り組んだ方がいい」と感じたことでした。2018年9月のことです。
なぜ私がそう感じたかというと、2018年当時、以下のように言える状況に見えたからです。
- 近い将来、 “技術的・価格的” 優位性だけでは競合他社との差別化ができなくなってくるはず
- 創業者(社長)の想いや思想が、従業員や顧客などに十分に伝わっていない
- “技術的・価格的” 優位性で勝てている間にそれを “ブランド” にうまく転化できれば、長期的にも優位に事業を進められそう
- 会社の規模が小さい(十数名規模)うちに始めた方がブランディングを実行しやすい
そこで私は、CEOの宮﨑に持ちかけました。上記のような点を説明しながら「 Toreru でブランディングやってみましょう!」と。当時私はまだ Toreru に入ったばかりということもあり、あまり話を急がずに、結果的に1~2ヶ月くらいかけてゆっくり対話を重ねたように思います。
ただ後から聞いたところでは、実は宮﨑としては最初は正直、半信半疑だったようです(笑)
当時を振り返りながら宮﨑はこう語ります。
宮﨑:最初は正直、半信半疑でした。スタートアップ企業、特に自分たちのようなまだ小規模でまずは事業を軌道に乗せないといけない段階の企業が、ブランディングに意識して取り組んでいるという話もほとんど聞きません。
一方で、土野の言うことも理解できました。
ただ、他にもやるべきことは山のようにある。今のタイミングで本当にブランディングにリソースを割くべきことなのだろうか、と。そこが引っかかっていました。
でもよく考えたら、僕たち Toreru はブランディングと密接に関わる「商標」を取り扱うサービスをしている。自分たち自身が取り組むことでブランディングを理解・実践しておくという意味でも価値があるのではないか、と思ったんです。
後は土野の熱意もありますね(笑)
—————
こうして何とか(?)CEOの説得に成功し、「まずは小さく始めてみましょうか」ということになりました。
ちなみに、ブランディングを実行するためには、会社のトップが前向きであることは必須です。ブランディングは全社的に取り組まないと効果が出ない。全社的に実行するためにはトップの支援(承認)が欠かせないからです。
とはいえ、このファーストステップをクリアできないケースはブランディングでは “あるある” です。
そういう意味では、半信半疑ながらも3年前の時点で「やってみましょう」と決断してくれた宮﨑にはとても感謝しています。
2.ブランディングのステップの確認
「やってみましょう」となった後は「で、具体的にどうするの?」ということで、まず行うべきはブランディングのステップの確認です。ブランディングのフレームワーク、すなわち具体的な方法論は唯一のものがあるわけではありませんから、どんなやり方を採用するのか、という問題があります。
Toreru では、一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会が提唱する「ブランド構築の8つのステップ」を利用してやってみることにしました。初級者でもわかりやすく体系化されており、また、土野がブランディングを学んだ入り口がこの方法論だったため、具体的な実行イメージがつきやすかったためです。
8つのステップの内容は、次のとおりです。
- 市場の状況を知る
- 市場を分ける(セグメンテーション)
- ターゲット客を見つける(ターゲティング)
- 独自の価値を見つける(ポジショニング)
- ブランド・アイデンティティを設定する
- 具体化
- 刺激の設計
- 目標設定(効果測定)
まずはブランディングで実際にやることの全体像として、CEO宮﨑との間でこのステップを確認してイメージを掴みました。
具体的に各ステップでどんなことをやったのかは、以下で説明していきます。
3.ブランドのコンセプトを定義する
3.1.まずはどんな感じかCEOと2人でやってみた
ブランディングの全体のステップを確認したら、全社を巻き込んでそれを実行する。という段階に進んでもいいのですが、 Toreru では、いきなりそれをやる前に「まずはどんな感じか2人でやってみましょう」ということで、宮﨑と土野でザクッと各ステップを経験してみることにしました。
その後全社を巻き込んでいくにしても、実際やってみるとどんな感じなのか?の肌感を自分たちがわかっていないとうまくいかないと考えたからです。いわば巻き込む前の “予行練習” ですね。
とはいえ、全てのステップをやるのは大変なので、8つのステップの “中間地点” にして最も重要な「5. ブランド・アイデンティティを設定する」=ブランドのコンセプトを定義するステップまでをやってみることに。経営会議の時間の一部を使いながら複数回、トータル約5時間くらいでやったと思います。
具体的にどんなことをやったのかは、この後の全社を巻き込むところと共通するのでそちらに委ねますが、先に「CEOと2人で予行練習」をしてよかったことをここでは書きたいと思います。
よかったこと①:トップが効果を実感
一番良かったのはこれです。
「5. ブランド・アイデンティティを設定する」=ブランドのコンセプトを定義するところまでではありますが、一度経営トップがブランディングの一連のプロセスを自ら経験することによって、その効果を肌で感じることができました。
経営トップがブランディングの効果をある程度理解、すなわち経営資源を投資してブランディングに取り組む意義に腹落ちしていないと、ブランディングは実行できません。これから具体的に振り返ってみていく通り、きちんとブランディングに取り組もうとするとかなり会社のリソースを使います。
そのため、経営トップからのいろんな意味でのバックアップがなければ「なんでそんなことやってるんだ」という話になり、いくら旗振り役となる一部のメンバーが動いても頓挫してしまいます。(こういうケースは割と “あるある” です)
なので、ブランディングに経営トップを巻き込むことはマストです。そのための一つの方法として「経営トップにちょっと体験してもらう」は有効だと思います。
よかったこと②:漠然と考えていたことが言語化される
肌で感じた「効果」の一つですが、ブランディングのプロセスを通じて、これまで漠然と考えていたことがだんだんと明確になり、言語化されていきます。
特に創業者やCEOというのは、そもそも起業する段階から、あるいは経営戦略を練る中で、自社の強みは何か、市場のニーズは何か、競合はどこか、みたいなことを常に考えているものです。これはまさに、ブランディングの8つのステップの1~4あたりを1人でモヤモヤと考えているということに近いんですね。
ブランディングは、この部分を「改めて整理してみましょう」から始めるので、プロセスを通じてそれまで漠然としていたもの、1人で抱えていたものが、第三者に伝える形で言語化されていきます。
実際に「予行練習」をしてみた段階で、CEO宮﨑もこれを感じたようです。フレームワークを使いながら、対話や議論の相手を持って情報を整理していく。これだけでも、自分の頭の中だけで漠然と考えたものと比べて、見出した方針への「自信」や「納得感」が違います。
このように「予行練習」を挟んだことで、言い出しっぺの私だけではなくCEO宮﨑自身も「ブランディングに少し投資しても良さそう」と腹落ちでき、改めて「これは全社を巻き込んでやってみたらしょう」という流れになりました。
3.2.全社を巻き込んでワークショップ
いよいよ全社を巻き込んでいきます。
Toreru では、全社員参加でワークショップをやることにしました。具体的には、上記「ブランディングの8つのステップ」のうち以下の5のところまでを、複数グループに分けてワークショップ形式でやるというものです。
- 市場の状況を知る
- 市場を分ける(セグメンテーション)
- ターゲット客を見つける(ターゲティング)
- 独自の価値を見つける(ポジショニング)
- ブランド・アイデンティティを設定する
全社を巻き込む意義
なぜわざわざ全社を巻き込む必要があるのか。
一つは、「 Toreru 」というブランドそのものやブランディングの取り組みを、みんなが自分事として捉えられるようにするためです。
やはり人間、上から押し付けるように「こう決まったから」と説明しても、なかなかやる気が起きないもの。逆に、決定までのプロセスに自ら関わったものに対しては、責任感や愛着が自然と生まれます。
もう一つは、客観性の担保です。
経営者自身は「自分が会社のことを一番わかっている」と思っていても、責任が重いだけに、かえって思い込みに囚われていたり、視野が狭くなったりしがちです。
逆に、新入社員やパート社員の方がよく見えているなんてこともよくあるのです。みんなの方がお客さん目線に近かったり、冷静に自社を見れていたりするんですね。
全社員でワークショップって手間かけすぎじゃない?
確かにかなりコストはかかります。
当時 Toreru は全員でもせいぜい10名くらいの小規模でしたが、目の前の通常業務を差し置いて、全員のリソースを割かないといけません。実際 Toreru では、このワークショップにトータル1人当たり10時間くらいかけました。そうすると、単純計算で100時間分のリソースを費やすことになります。会社存続のために日々の売上を必死に立てなくてはいけない中小企業では、これは大きな投資です。
でも、本気でブランディングに取り組むなら、このくらいは絶対にやった方がいいです。相応の価値はあります。
なぜなら、結局ブランディングを「実行」しなければならないのは「全員」だからです。いくら素晴らしいブランド・コンセプトを決め、実行計画を立てたとしても、実際にそれを「実行」するのは社員ひとりひとり。経営者だけ、ブランディングを牽引するメンバーだけ、というわけではありません。
ブランディングにおいて、ブランド・コンセプト決めは最重要項目ですが、コンセプトが決まればブランドが自動的に伝わるわけではありません。そのコンセプトを会社のあらゆる活動において体現して初めてなんとか伝わるものです。実際には社員ひとりひとりがブランド・コンセプトに共感し、理解し、言動に反映できなければ、「絵に描いた餅」で終わります。実際にブランディングを実行する人たちが「腹落ち」していなければ、現実に実行はされないのです。
この「腹落ち」の醸成に十分なコストをかけなければ、ブランディングへの投資はかえって無駄になります。
会社の規模が大きくなるほど「全社員で」というのは難しくなりますが、「実行のために誰の “腹落ち” が欠かせないか」という視点は強く持っておいた方がいいと思います。
実際にどういうふうにワークショップをやったか
参加メンバー
全社員でやりました。パート社員も含めて参加してもらいました。
ただし、一つ例外があります。
ワークショップ自体にはCEOは参加しないでもらいました。
なぜなら、CEOが参加してしまうと、CEOの目を気にしたり、意見におもねったりして、ワークショップの場で自由な発言がしにくくなる可能性があるからです。
これはCEOのパーソナリティの問題ではなく、組織構造上のメカニズムの問題です。なので、組織によってはCEOではなく、他の立場の人を除外した方がいい場合もあると思います。
CEOはワークショップ自体には参加しない代わりに、事前の「予行練習」で同じプロセスを経験してもらっています。また、ワークショップ終了後に、そこで出た意見を集約する段階でまた入ってもらうことでカバーしました。
また、ブランディングの旗振り役となった土野は、ワークショップのファシリテーターの役割に回りました。意見を言う参加者ではなく、必要な前提知識のレクチャーや、ワークショップの場づくり・ガイド役です。通常、参加者のほとんどはブランディング初心者なので、ファシリテーター的役割は必ず必要になります。
このあたりは、組織の実態に合わせて「うまく回るように」アレンジすべき部分です。
1グループの人数
1グループ4名程度にグループ分けしてワークショップを行いました。
ワークショップでは、1グループの人数は多くても5名くらいまでにした方がいいと思います。少人数にすることで、メンバー全員が発言しやすくなり、それによりひとりひとりが当事者意識を持つことができます。
開催頻度・実施時間
Toreru では以下のように行いました。
- キックオフ・ミーティング (30分)× 全員で1回
これからみんなでやること、趣旨を共有 - 講義(30分)× 各グループ1回
ブランディングの基礎知識や必要性を理解してもらう - ワークショップ(30分)× 各グループ11回
「ブランディングの8つのステップ」の1~5(ブランド・コンセプトの定義まで)をグループ単位で行い、発表してもらう
一番意識したのは、ワークショップの効果が上がるための必要十分な時間・頻度にすることと、通常業務に支障が出ないようにすること。この両者のバランスです。
特に、日々の売上を稼いでいるメンバー( Toreru の場合は弁理士)やカスタマーサポートをするメンバーなども含め全員が参加する場合、現実問題としてこのバランスをとることが大切になります。通常業務に支障が出る形で進めてしまうと「なんでそんなことやってるんだ!」という空気になって頓挫しかねません。
このバランスを取った結果 Toreru では上記のような構成で行いましたが、この辺りは組織によって調整が必要な部分でしょう。
ワークショップの内容
いよいよワークショップに入っていきます。
グループごとに、以下のステップを実際に手を動かしながらやってもらいます。
- 市場の状況を知る
- 市場を分ける(セグメンテーション)
- ターゲット客を見つける(ターゲティング)
- 独自の価値を見つける(ポジショニング)
- ブランド・アイデンティティを設定する
①市場の状況を知る
まずは、自社の強み・弱み、競合の強み・弱み、市場のニーズ、環境要因などを確認・分析・整理するステップです。
何をすべきかを考える前に、まずは己を知り、相手を知り、置かれた環境を知りましょう、ということですね。
このステップで使える分析ツール(フレームワーク)としては、PEST分析、3C分析、SWOT分析などがありますが、このワークショップ内では3C分析のみやってもらいました。初めてでも馴染みやすく、比較的短時間で、自社・競合・市場(顧客)についてわかりやすく整理できるからです。
3C分析
自社と周辺の情報を収集し、整理する「ミクロ環境」分析の基本ツールです。「3C」は「自社(Company)」「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」の、3つの頭文字を指し、さんしー分析と呼ばれることもあります。企業は自社の強みを最大限に活かし、競合と差別化できる点、すなわち市場機会(ビジネスチャンス)を探ります。
(引用元:https://www.brand-mgr.org/knowledge/word/)
ワーク用にこんなシートを用意しました。
参加者ひとりひとりに、このシートを埋めてもらいます。
※2018年当時の様子です
②市場を分ける(セグメンテーション)
次に、市場を「属性」で切り分けます。いわゆるセグメンテーションと呼ばれる作業です。何のためにセグメンテーションをするかというと、この次のステップでターゲット顧客(層)を見つけるための事前準備としてです。なので、この段階ではターゲティングはせずにただ「切り分ける」ことだけに集中します。
年齢や職業などの人工統計的要素や、価値観・趣味などの心理的要素まで、セグメンテーションの切り口にはいろいろあります。
要素 | 属性 |
①人口統計的要素 | 年齢、性別、学歴、職業、既婚、未婚、家族数、家族構成、など |
②経済的要素 | 収入、貯蓄、資産、予算、など |
③社会的・文化的要素 | インドア派、アウトドア派、本物志向、家族主義、都会志向、田舎志向、ロハス志向、健康志向、など |
④地理的要素 | 住居形態、職業、学校の所在地、環境(都市、郊外など)、居住地の人口、規模、など |
⑤移動手段的要素 | 徒歩、自転車利用、バイク利用、自動車利用、など |
⑥心理的要素 | 価値観、趣味、嗜好、習い事、スポーツ活動、購買動機、など |
⑦情報取得的要素 | 購読新聞、購読雑誌、テレビ、インターネット、モバイル、など |
③ターゲット客を見つける(ターゲティング)
セグメンテーションで市場を “切り分け” たら、次はその切り分けた市場の中から自社事業のターゲットとなる顧客層(セグメント)を見つけます。
ターゲット顧客層を見つけるに当たっては、「①市場の状況を知る」の分析結果を活かします。自社は提供できるけど、競合は提供できないもの。それを求めている顧客層はどこか?を見出していきます。
次の2点も重要です。
- その顧客層の魅力(成長性、安定性、収益性、市場規模、競合状況など)
- 自社との親和性(自社の強みを活かせるか、企業理念とマッチするかなど)
②市場を分ける(セグメンテーション) → ③ターゲット客を見つける(ターゲティング)と進めてきて……たとえばこんな顧客層が見えてきました。
ターゲット顧客層が見えてきたら、今度は、その「顧客層」を代表するような「具体的な人物像」(ペルソナ)を設定していきます。
ターゲティングでは、ターゲットとなる顧客の「属性」しか出していないので、その「顧客」が具体的にどんな人間なのか人物像が見えてきません。この具体的な人物像を描いた者がペルソナです。
たとえば、「Soup Stock Tokyo」のペルソナはこんな人物だそうです。こういう人物像を描いていきます。
ペルソナ設定のポイントです。
- ペルソナの「好きなこと」「嫌いなこと」「不満、不安、不便に思うこと」「幸せを感じること」などから、ブラントとの接点を考える
- ペルソナはなるべく具体的に描くべきだが、細部にこだわりすぎるとターゲットの範囲を狭めすぎることがあるので注意
- ペルソナを何パターンか設定しても良い
- BtoBの場合、「窓口担当者」とか「部署」でペルソナを設定することもある
あーでもない、こーでもない、と具体的な人物像を想像する作業は、みんな結構楽しそう。
みんなの意見を突き合わせたら、たとえばこんなペルソナが見えてきました。
年齢や職業のような基本的なものだけでなく、「幸せに感じること」や「典型的な平日の過ごし方」のような、より具体的な人物像をイメージしやすくなる設定を作っていきます。
ペルソナが設定できたら、次は「連想マップ」を作成します。
「連想マップ」とは、設定したペルソナの心の中で起こっている「連想・連結」を書き表したマインドマップです。
Toreru のサービスと強く関係のある語や、ペルソナから拾ってきた語をキーワードとしてマップの中心に置いて、そのキーワードから自由に連想して浮かんだ言葉を枝にして広げていきます。
その際、設定したペルソナになりきって連想することがポイントです。それにより、ペルソナの心の中にどのような「連想・連結」が広がっているかをイメージすることができます。できあがった連想マップは、いわばペルソナの頭の中の漠然とした情報群の再現のようなものです。
実際に出てきた連想マップの一例です。
これを1人ではなくグループみんなで行います。複数人で作った連想マップを突き合わせ、よく出てくるキーワードや連結が多いキーワードを見つけます。そのキーワードがペルソナ(ターゲット顧客)にとって重要、つまり「刺さる」ポイントである可能性が高い、と推測できます。
④独自の価値を見つける(ポジショニング)
だいぶターゲット顧客像が見えてきました。
次は、そのターゲット顧客に対して自社が「独自の価値を提供できる “ポジショニング” 」を見つけます。
ここまでで、自社の強み・弱み、競合他社、ターゲット顧客とそのニーズなどを分析・整理してきました。
改めてそれらを振り返りながら、「機能面」と「情緒面」においてどういう要素を備えたサービスであればターゲット顧客にとって唯一無二の存在になれるかを考えます。
具体的には、上の図のように「3C分析」や「連想マップ」の結果から抽出したキーワードで縦横の軸を切ります。その中に自社や競合他社のポジションを置いたときに、自社だけが右上に来れば、そのキーワード(価値軸)の中では自社が唯一無二の存在になれるということになります。逆に言えば、自社だけが右上に来れるような「軸の切り方」を模索するのがこのステップです。
みんなでやってみると…たとえばこんな切り方が出てきました。(すみません、さすがに競合名は伏せています)
顧客ニーズがあるけど競合他社は満たすことが難しい価値は何か。
新しいテクノロジーの活用やオペレーション改善、身軽な組織などの自社の強みを活かすことで、専門性の高さと、速さやリーズナブルな価格を両立し、革新的な方法で安心を提供すること。
そのあたりに Toreru の存在意義が見出せそうだ──
ワークショップの参加者たちの中で、だんだんと Toreru が目指すべき方向性が見えてきました。
⑤ブランド・アイデンティティを設定する
いよいよワークショップの最後のステップです。
ポジショニングにより発見した自社の「独自性」を端的な言葉で表現=言語化します。
<ブランド・アイデンティティの例>
・サードプレイス(スターバックス/カフェ)
・夢と魔法の国(ディズニー/テーマパーク)
・第二の我が家(リッツ・カールトン/ホテル)
・前向きな楽しい気分にスイッチする炭酸飲料(コカコーラ/飲料)
ブランド・アイデンティティ(ブランド・コンセプト)は「キャッチコピー」ではないので、奇をてらった言葉やインパクトのある言葉を使う必要はありません。自社の「独自性」を表現できていて、かつ、まずは社内の人がその意味を理解できるものであることが大切です。(それを元に、外向けの「キャッチコピー」を考案するのはまた別の作業になります)
この最後のワークショップでは、各グループに、これまでのワークから導き出された「ブランド・アイデンティティ」をみんなの前で発表してもらいました。ここにはCEOも参加して、発表を聞きます。
各グループから出てきた Toreru のブランド・アイデンティティ(案)の例をお見せしましょう。
使われている言葉こそ違いますが、どちらも「テクノロジー」「安心や親身」「身近さ」「速さ」「革新性」といった、 Toreru の “独自性” を支える要素が表現されています。
ワークショップはグループごとに別々に行っていたのですが、言語化しようとする独自性については実質的にほとんど同じものが出てきたことに、少し驚きました。
各メンバーも、他のグループの発表内容を腑に落ちた様子で聞いていました。
今振り返ると、これが、 Toreru が大切にしていこうとする価値観の本質についてみんなが自然と共通認識を持てた瞬間だったのではないかという気がします。
「 Toreru のブランドのコンセプトはこうです」という風に一方的に伝えるのとは違い、全員参加型のワークショップというプロセスを踏んだからこその成果だと思います。
3.3.ミッション・バリューとして定義&全社共有
結果的にですが、各グループでほとんど同じブランド・アイデンティティが見出せたので、ワークショップとしてはここまでで終了とし、あとはこのワークショップの成果を経営陣で統合して、改めて正式なブランド・コンセプトを定義・周知します、ということになりました。
そうして正式に定義した Toreru のブランド・コンセプトがこちらです。
いろいろと考えた末、ブランドのコンセプトは、ミッション&バリューという形で定義することにしました。
Toreru でいう “ミッション” は、「 Toreru 」というブランドが達成しようとする目的を表したものです。
“バリュー” は、そのミッションを達成するために「 Toreru 」というブランドが備えていなければならない要素=提供価値を表したものです。
これらを言語化・定義する際に意識したことは、ミッションの抽象性とバリューの具体性とのバランスです。
ミッションはブランドの「大目的」ですから、ある程度抽象的にした方が、自社のあらゆる活動の意義を包含できる “懐の広い” ものになります。
一方、バリューはブランドの「提供価値」= Toreru のメンバーひとりひとりが日々意識し、体現していく価値です。だとすれば、日々の行動指針として意識できる程度に具体的なものである方が実効性があります。そのためには、なるべくシンプルでわかりやすく、覚えやすいことも大切です。
このミッション&バリューを正式なものとして定義し、全社的に周知、みんなで実行していきましょう!ということになりました。
ここまででブランディングのプロセスはひと区切り。最も大切なブランド・コンセプトの言語化ができました。
でももちろんこれで終わりではありません。コンセプトを定義しただけでそれを体現できなければ、単なる絵に描いた餅。次は、ブランド浸透のための仕組みを整えていく必要があります。ブランディングの道のりは長いです。
4.ミッション・バリュー浸透のための仕組みづくり
定義したミッション・バリュー(ブランド・コンセプト)を形骸化させないためには、ただ定義するだけでなく、それを社内外に浸透させるための別のアクションが必要です。
“ブランディング” というと「外にどう見せるか」という点に意識が行きがちですが、キレイになるには内側から。まずは社内浸透が第一です。真のブランディングとは、着飾ることではなく、ブランドの人格=社員全員の振る舞いを、ブランド・コンセプトを軸として一貫したものにしていくことに他ならないからです。
Toreru では、ミッション・バリューの社内浸透のために、これまで以下のような取り組みをしてきました。
- ミッション・バリューの掲示
- 研修の実施
- 「朝会」の導入
- 人事評価への反映
- カスタマージャーニーマップの共有
- CI規程の整備
4.1.ミッション・バリューの掲示
まずはとってもシンプルなところから。
「ミッション・バリューを見えるところに置く」です(笑)。
と言っても、こういう単純なことをバカにはできません。
人間は、触れる頻度が多いほど好感や愛着を持つと言われています。いわゆる「単純接触効果」というものです。
また、繰り返し目にすれば記憶にも残りやすい。試験勉強と同じですね。
いくらミッション・バリューが良かったとしても、忘れてしまえば無いのも同然。まずは常にみんなが目にする場所に掲示しようということになりました。
では「みんなが目にする場所」とはどこか?
Toreru では社内業務システム画面のヘッダーがそれでした。 “オフィスの壁に貼る” とかじゃないのが我ながら Toreru らしいです。
Toreru の業務のほとんどはPCで完結し、今はフルリモートワークをするメンバーも多いので、一番目につくであろう場所はココでした。
必ず毎日アクセスする場所なので、イヤでもみんな目に入ったと思います。
4.2.研修の実施
オーソドックスな方法ですが、ブランド浸透のための社内研修も行っています。
「浸透」とは “頭で理解する” ことだけではありませんが、それでもブランドを体現するには「前提知識」は必要です。その意味で、やはり知識をインストールするための研修は必要だと考えました。
これまで、以下のような研修を実施しています。
- ブランド研修
- CX研修
- カスタマージャーニーマップ研修
ブランド研修
「そもそもブランドとは何か」「ブランディングって何やるの?」というブランドの基本と、「 Toreru は何をする会社なのか」すなわちミッション・バリューについてレクチャーする研修です。
今の社員はもちろん、新しく入社してくれるメンバーにもここは全員に理解してほしいところなので、入社時研修の一つとしてこの「ブランド研修」を入れています。
入社して数日で2時間ほどのブランド研修。私たちのような小さい会社でこれをやっているところはそう多くないのではないかと思います。
また一度きりではなく、既存メンバーにも定期的に、 Toreru ブランド を深堀りするようなワークを伴うブランド研修を実施していこうと考えています。
CX研修
ミッション・バリューを「現場で体現」しようとすると、必然的に、顧客体験(CX)について考えるべきことになります。
ミッション・バリュー、すなわち “提供すべき価値” はわかった。では具体的に日常業務の中でどう行動すればいいの?という「HOW」の部分を手当てする研修です。
“餅は餅屋” ということで、最初は専門の外部講師をお呼びしてCX研修を実施しました。
「CXとは何か」というそもそものレベルから、「こういう場面ではどう対応する?」というようなケーススタディまで、これも全社員を対象に実施しました。
その後、外部講師からいただいた知見も踏まえて Toreru で少しアレンジし、オリジナルの内容で今も新しいメンバーに研修をしています。
カスタマージャーニーマップ研修
みんなで「 Toreru のカスタマージャーニーマップを作ってみよう」という研修もやりました。
カスタマージャーニーとは、顧客の一連のブランド体験を “旅” に例えた言葉です。
顧客は特定のブランドや商品を認知、購入、再購入する段階で、店舗やECサイトなどさまざまな接点を行き来します。この一連のプロセスを「顧客の旅=顧客体験」としてマップ化したものが、カスタマージャーニーマップです。
カスタマージャーニーマップを作るためには、自分の担当業務だけでなく Toreru のサービスの全体像を顧客目線で捉えなおさないといけません。
また、マップ中には「顧客の感情変化」も記入します。たとえば、「商標調査結果が “登録可能性が低い” だったときの顧客感情はどうなるかな?」というようなことを考えて記入していきます。
ワークショップ形式で自社サービスのカスタマージャーニーマップを作ってみるという過程を通じて、顧客目線を改めて理解したり、 Toreru らしい理想のブランド体験と現状とのギャップに気づいたりすることができます。
4.3.「朝会」の導入
全社員で参加する「朝会」を導入しました。
月・水の週2回、朝イチに15分程みんなでWeb会議で集まります。
内容は、月・水それぞれ以下のようにしています。
- 月曜日:今週の個人目標と意識する “バリュー” の宣言
- 水曜日:自由発表(順番に持ち回り)
ブランドの社内浸透に特に関係するのは、月曜日の朝会です。
月曜日に、CEOも含め全員が「今週の個人目標と意識するバリュー」を順番に口頭で宣言します。
この「バリュー」とは、もちろんミッション・バリューの「バリュー」です。
具体的にはたとえば、
「今週は “専門性” と “安心” のバリューを特に意識して、調査報告書でクライアントに的確なアドバイスができるようにします」
「 “速い” のバリューを意識して、3時間以内にお問い合わせに返信できるように工夫します」
「 “ストレスフリー” を意識して、システム改善に取り組みます」
のように宣言していきます。
「そんなのちょっとメンドくさいじゃ…」と思うかもしれませんが、1人数十秒で話す程度です。また、ここで宣言した目標がその通り達成できたかは追及も評価もしていません。
ここは結構ポイントで、あえて気楽で負担の少ない形にしています。ツライものは長続きしません。
目的はあくまでバリューを日々意識する習慣をつけること。そのためには、「気楽なんだけど、みんなの前で宣言する」「他のメンバーの取り組みを知る」くらいのバランス感がちょうど良いと思っています。
この「朝会」のおかげで、全員が自然と “6つのバリュー” を覚え、日々意識する習慣がついたと実感しています。
実はこの「朝会」自体は、コロナ禍でリモートワーク中心になったことをきっかけとして試験的に始めたものでしたが、結果的にバリューの社内浸透にとってはかなり効果的な取り組みの一つとなりました。
ブランディングにおいても、「単純なことの繰り返し」の仕組みをつくることの大切さをひしひしと感じています。
4.4.人事評価への反映
ミッション・バリューの観点は、人事評価にも反映しています。
人間のモチベーションは、内的報酬によるものの方が長期的には良いと言われています。まさに、自社ブランドが目指すものや価値観(ミッション・バリュー)への共感はその一助となるものです。
一方で、ミッション・バリューへの貢献が外的報酬(人からの評価)と全く無関係というのも、社内浸透の実効性の観点からはベストではないと考えています。
そこで、人事評価の際には、定性的評価としてミッション・バリューに対する取り組みや姿勢を考慮したり、評価制度の設計思想の中にミッション・バリューを組み込んだりしています。
4.5.CI規程の整備
CI規程も整備しました。
CIとは、コーポレート・アイデンティティ(Corporate Identity)の頭文字を取ったものです。CI規程は、コーポレート・アイデンティティ、すなわち企業の存在意義(ブランド・コンセプト)や、それを伝達するためのコミュニケーションの仕方について定めるものです。
よく「ロゴマークは、必ずこのカラーで、最低このくらいの余白を取って使ってください」みたいな規定があるかと思いますが、これもCI規程に含まれる内容の一部ですね。
こういったものがきちんと統一ルールとして規定・浸透されていないと「部署ごと、担当者ごとにコミニュケーションの仕方が違う」ということが起こりがちです。会社が行うコミュニケーションに一貫性が取れていなければ、特定のブランド・イメージは形成できません。
それを避けるために整備するのが、CI規程です。
こちらは、実際に作成したCI規程の一部です。ブランド名の表記方法やロゴマークの使い方などは、もちろん規定しています。
ただ、CI規程=ロゴの使い方の規程ではありません。あくまでも、コーポレートのブランド・コンセプトの定義と、それを体現するためのルールを規定するというのがCI規程の目的です。
その観点から、 Toreru では、ロゴの使い方やブランドカラーなど目に見えるコミュニケーションツールについてだけでなく、たとえば「 Toreru ブランドはどんな人格か」や「どういう話し方をするのか」などについても規定しています。
また、メンバーひとりひとりにとって、なるべく具体的にとるべき行動のイメージがつきやすいよう、「 Toreru らしいメールの書き方」みたいなものもガイドラインを示しています。
CI規程というと、大企業のようにある程度大きな組織になってから整備すればいいのでは?と思うかもしれません。
でも、CI規程の必要性が顕在化してから=会社が行うコミュニケーションがバラバラになってから慌てて規程を整備するのでは遅いです。規程を整備した後、その内容が社員に浸透するまでにもある程度時間はかかります。
それを考えると、むしろ組織がまだ小さいうちから整備しておくべきです。
なので、 Toreru では必要性が顕在化する前からCI規程を整備しました。
5.ブランディングの効果測定・改善活動のための仕組みづくり
ブランド浸透や体現のための仕組みづくりだけでは足りません。自分たちのブランディングの取り組みにより実際に効果が出ているのか。これを測定する仕組みが必要です。また、その測定結果に基づいて、足りないところを改善していく仕組みも必要です。
この仕組みづくりとして、 Toreru ではこれまでに以下のような取り組みをしています。
5.1.ブランド指標・CX指標の測定&リアルタイム共有
一つは、ブランド・コンセプト(特にバリュー)がどのくらい顧客に伝わっているかをできるだけ「数値」で測ろうという取り組みです。
そもそもブランド・イメージというのは、顧客の頭の中に漠然と形成されるものです。その本人でさえ自分の脳内のブランド・イメージを言語化できないことも普通です。なので、ブランドの伝達度合いを「数値」で測ろうというのはとっても難しい…というのが前提にあります。
それでも何かしら測れなければ、会社のリソースを投資して実行した数々のブランディング施策が会社にとって意味があったのかを判断することは難しくなります。また、施策を改善していくこともできません。
一方で、ブランド・イメージ調査みたいなことを考えると、真っ先に思い浮かぶのが、調査会社を使った大規模なアンケート調査。でも、お金も時間もかかります。まだ専門の部門もない小さな組織では、なかなか気軽に実行できるイメージが湧きません。
そこで「何かいい方法はないだろうか・・・」と頭を捻り、 Toreru らしく IT活用 に解決の道を求めたところ、以下のような方法を思い付きました。
- Zendesk チケットの満足度測定
- Wootric を使ったNPS測定
- 顧客からのコメントをブランド指標へ数値化
- Googleデータポータルでリアルタイム共有できるように
① Zendesk チケットの満足度測定
Toreru では、顧客とのメールや電話のやり取りに Zendesk というツールを使っています。
この Zendesk では、ある一つのお問い合わせに関する一連のメールのやり取り(一つのスレッドのようなものです)を「チケット」と呼んでいます。このチケットに対して「満足度測定アンケート」を自動でメール送信できる機能があります。
このようなシンプルなアンケートメールを自動送信できます
「満足」か「不満」かの2択でワンクリックで回答してもらえるとともに、クリックした後の画面で「評価の理由」を自由記述でコメントしてもらうこともできます。
Toreru ではこの機能を活用し、「 Toreru とのやり取り」に関する体験が顧客にとってどう映っているのかを測っています。
② Wootric を使ったNPS測定
①とは別に「NPS」という指標も測定しています。
NPSとは、Net Promoter Score(正味推奨者比率)の略で、要は「顧客推奨度スコア」です。
具体的には、顧客に「友人や知人に薦める可能性はどのくらいですか?」という質問に、0(非常に可能性が低い)から10(非常に可能性が高い)の11段階で回答してもらいます。
0~6と回答した人を「批判者」、7~8と回答した人を「中立者」、9~10と回答した人を「推奨者」と分類します。
そして、推奨者の割合(%)から批判者の割合(%)を引いた値がNPSスコアとなります。
また、0~10の評価の「理由」も任意でコメントしてもらいます。
このNPSスコアは、いわゆる「顧客満足度」よりも、リピート率や購入単価の向上(業績向上)との相関性が高いという研究結果が出ている、世界的にも広く活用されている指標です。
Wootric というサービスを利用すると、簡単なコードを自社HPに埋め込むだけで、NPSアンケートを自動的に取ることができます。
①も②も、ITツール(SaaS)を利用することで安価(もしくは無料)で自動的に測定できる仕組みをつくれるというところがポイントです。これで導入さえしてしまえば、金銭的・労力的なランニングコストを最小限にしつつ、測定を仕組み化できます。
③顧客からのコメントをブランド指標へ数値化
①と②の測定は、CX(顧客体験)の見直しという意味で非常に有意義です。ですが、ただこれを測定するだけでは「ブランド・コンセプトの伝わり具合」との関連性が薄いです。
そこで、①と②のアンケートで取得する「顧客からの自由記述のコメント」を擬似的に「ブランド指標」に数値化することにしました。
具体的には、あらかじめ「 Toreru の6つのバリュー」と関連性の高いキーワードをいくつか設定しておきます。
<キーワードの例>
- 「速い」と関連するキーワード
- 速い
- 迅速
- スピーディ
- 「カンタン」と関連するキーワード
- 簡単
- 低価格
- わかりやすい
- 「安心」と関連するキーワード
- 安心
- 親切
- 丁寧
そして、「顧客からの自由記述のコメント」にその「キーワード」がどのくらい含まれているかを数値化します。
たとえばこんな感じで数値化できるようになります
これにより、ただ漠然と「顧客満足度」「顧客推奨度」を測定するだけでなく、それらを追ってCX(顧客体験)全体の向上を図りつつも、そのCXが「 Toreru らしい体験」になっているのか=バリューが体現できているのかを測定できるようになりました。
もちろん、この手法は「ブランド伝達」を測る完璧なものではありません。でも、何も測らないでブランディング施策を行うより遥かに良いと考えています。
④Googleデータポータルでリアルタイム共有できるように
さらに、測定した指標を全社員がリアルタイムで確認できるようにデータ共有する仕組みも整えました。
これもITツールを活用して省コスト化します。
使ったツールは Googleデータポータル です。これを使うと、スプレッドシートに記録したデータを自動でさまざまな表やグラフとしてウェブ上に表示・共有できます。
①や②のアンケート結果が自動でスプレッドシートに溜まるようにプログラムを組み、そのスプレッドシートを Googleデータポータル に連携することで、このような画面を全社員にリアルタイムで共有できるようになりました。この仕組みは、驚くべきことに無料かつ自動化されています。最新情報にするためにいちいち手入力で更新する必要はありません。
経営陣はもちろん、全社員が好きな時にブランド指標・CX指標を確認できるので、日々の業務においてブランドの側面からのフィードバックループを各自で回すことができます。
まだまだ測定は完璧ではありませんが、現時点でも、この①~⑤までの仕組みを整えたことで、小さな組織でも楽に・安くブランディングの効果測定ができるようになりました。
効果測定ができると、各メンバーの意識やモチベーションも高まりますので、これを整えたことは本当に大きかったなと思います。
5.2.CX改善プロジェクトの発足
指標の測定・共有の仕組みが整ったら、次はその測定値をもとに顧客体験を改善していくための取り組みが必要です。
具体的には、次のようなプロセスがループで常に回っていなければなりません。
- 測定
- 課題発見
- 対策の検討
- 対策の実施
- 効果測定(1に戻る)
現状、「1. 測定」はかなり自動化できますが、2~4はやはりどうしても人間が頭と身体を動かすしかありません。
Toreru はまだ組織が小さく、CX改善に専任で取り組む部署やメンバーは置けません。
一方で、「気になったときに気になった人が改善しましょう」では、結局放置されてしまうのは目に見えています。
そこで、各部署からメンバーを集めて「CX改善プロジェクト」を立ち上げました。
正式にプロジェクト化し、一つの会議体を設けることで、ブランド・CX指標の測定値を定期的に分析・検討・対策立案できる体制が整います。
まだこのプロジェクトは立ち上げたばかりでこれから本格的に活動していくことになりますが、またここで何か知見が生まれたら公開していければなと思っています。
6.サービスのリブランディング
ここまでは、ブランド・コンセプトを定め、それを体現するために「身体の内側から変わる」取り組み(インターナルブランディング)のお話でした。
ブランドの軸に沿って身体の内側から組織が変われば、その変化はメンバーひとりひとりの行動変化によって対外的にも滲み出るものです。
とはいえ、「 Toreru らしさ」を外へ十分に伝えるためには、意図的に「身体の外側」も変える必要があります(エクスターナルブランディング)。
ところで、 Toreru のメインサービスである『Toreru 商標登録®︎』は、2021年9月に大幅なリニューアルをしました。
– Toreru 商標登録(R)︎ がリニューアル、より内容が充実した Toreru 調査(R) を開始
実はこの背景には、ここまでお話してきた Toreru のブランディングがありました。
2018年から始まり約3年かけたブランディングの取り組みが外向けに結実したものが、このサービスリニューアルだったのです。
サービスリニューアルで何が変わったかを、ブランディングの観点から改めて振り返ります。
6.1.サービスHPのデザインを一新
まずわかりやすいところとして、サービスHPのデザインが一新されました。
<旧>
<新>
単に何となく見た目を新しいデザインにするというのではなく、「伝えたいメッセージは何か」をミッション・バリューから下ろして改めて整理し、コピーや説明文に使う言葉までかなり細かく見直しました。
6.2.商標調査サービスのグレードアップと料金体系の変更
Toreru はこれまでも商標調査にはかなりこだわっていましたが、リニューアルにより、商標調査サービスをさらにグレードアップさせました。調査サービス名称も『 Toreru 調査 ®︎ 』に。
調査報告書をフルカラー化・デザイン一新し、PCはもちろんスマホでも見やすい報告書になりました。また、記載項目も一から見直し、これまで以上に専門的判断の過程や根拠、お客様が採るべき次のアクションをしっかり伝えています。
<旧>
<新>
これに伴い、料金体系も変更しました。
これまで無料だった商標調査を、9,800円(税込10,780円。 1調査あたり)としました。
その代わりに、特許庁の審査合格後の登録手数料を9,800円(税込10,780円。 1区分あたり)から無料にしました。
総額は基本的に変わらないものの、この料金体系変更は、 Toreru にとって実は大きなチャレンジでした。
Toreru の立ち上げ当初は、商標調査が無料というサービスモデルはまだ珍しく、それがサービスの普及を大きく後押ししました。一方でその後、低価格帯の商標登録サービスが世の中に増える中で、調査無料モデルは低価格帯サービスでは「あたりまえ」に近くなってきたところがあります。
しかし本来、商標調査は「その商標を採用していいか」を事前に判断するものであり、商標登録全体のプロセスの中でも最も重要かつ価値の高い部分です。また、そのサービス提供のために必要な専門性は非常に高く、調査には大きな労力もかかります。
ブランディングへの取り組みの過程で改めて見出した ” Toreru の価値” 、すなわち6つのバリューの一つに『専門性』があります。
また、ただ『専門性』が高いだけでなく、その高度な知見を『カンタン』に伝え、その両立により『安心』や『ストレスフリー』を提供する。
だとすると、「商標調査」は Toreru のバリューの結晶であると言えます。実際、この部分のクオリティーや Toreru らしさには強いこだわりを持っています。
そうであれば、この商標調査サービスには「 Toreru 」の名を付け( Toreru 調査 ®︎ )、有料化すべきではないか、ということに気がつきました。
一方で、これまで少なくない手数料をいただいていた「特許庁の審査合格後の登録手続」は、必要な専門性は低く、形式的な手続きに過ぎません。
よって、この部分では「お金をいただくべきではない」と考え直しました。
思い切った料金変更ができたのは、このようにブランディングへの取り組みを通じて「そもそも Toreru の提供価値は?」という思想レベルから見直すことができたからです。
また、「日本初のAIによる無料の商標調査・出願サービス」も開始しました。
Toreru が日本初のAIによる無料の商標調査・出願サービスを開始
これにより、これまで完全にコスト重視で「自分で紙で出願」していた人も「オンライン+印紙代のみ」で簡易調査と商標登録出願ができるようになります。
「 Toreru 調査 ®︎ 」のグレードアップにより『専門性』『安心』のバリューをさらに高める一方で、無料で使えるAI調査・出願サービスにより『速い』『カンタン』のバリューも強化する狙いです。
リニューアルのためのリニューアルではなく、伝えるべきこと・提供すべき価値が変わったからこそのリニューアル。内面の変化があってこその見た目の変化。
今回のサービスリニューアルは、そういった形で実現できました。
7.ブランディングによりどのような効果があったか?
これまで取り組んできたこのようなブランディングへの取り組みにより、以下のような効果を実感しています。
- 常に「Toreru らしさ」(ミッション・バリュー)で経営判断するようになった
- 日常業務の判断に迷いにくくなった
- 競合の動向に惑わされにくくなった
- 自分たちの価値の自覚
- 社員の意識が高まった
- 顧客に Toreru のバリューが伝わってきた
Toreru のブランド・コンセプト、すなわちミッション・バリューを定義する前は “よりどころ” となる「判断軸」がなかったため、経営でも現場でも、判断に迷うことも少なくありませんでした。そもそも「判断に迷う」のは、プランAもプランBも一長一短あるよね、というときです。そんなとき、単にメリット・デメリットを並べ立てるだけでは判断ができません。
ミッション・バリューを明確に定義したことにより、迷ったら「より Toreru らしいのはどっち?」という基準で判断できるようになりました。
これは今回の一連の取り組みにおいて最も大きな成果だったと言っても良いと思っています。
経営レベルでは、競合他社の動向に右往左往せず、「Toreru らしいこと」「Toreru が提供すべき価値」に集中して経営判断ができるようになりました。
現場レベルでは、ひとりひとりが「私が体現すべき価値」を意識し、一貫性のある振る舞いができるようになってきました。
その「内面からの変化」のおかげか、顧客に対しても徐々に Toreru のバリューが伝わってきた実感があります。
「5.1.ブランド指標・CX指標の測定&リアルタイム共有」の章でご紹介したアンケートで得られた顧客コメントを見ると、たとえば以下のような声を多くいただいています。
“すべてネットで完結するが、適時親切なメールでの報告が届き、安心を得ることができるので。”
“丁寧な対応と迅速な対応”
“対応が丁寧で簡潔なので、知識が無くても安心できる。”
“対応が良い。説明が解りやすい。コントロールパネルが使いやすく解りやすい。”
“コストが安い。これまで煩わしかったやり取りなどが簡潔にテンプレート化されていて、且つ返答内容もわかりやすい。電話口に対応してくださった方の説明が丁寧でしかもわかりやすい。”
“事前審査時の登録確率の評価度が高い。調査から登録までの対応に煩わしさが一切ない。”
“スピーディーな対応と理解しやすいレポートが最大の理由です”
ここで重要なのは「高評価されている」ということ自体ではなく、「どこが高評価されているか」です。
上のコメントのように、Toreru の6つのバリューのうち「速い」「カンタン」「専門性」「安心」「ストレスフリー」の5つについては、お褒めの言葉をいただくことが多くなりました。
これは、システム設計、UI/UX、顧客対応、専門的アドバイスの仕方、など全ての顧客接点において、各メンバーがそれぞれ自分の持ち場で Toreru のバリューを発揮しようと努力し続けてくれている結果だと思います。
バリュー伝達のバランスもまずまずです。
Toreru の創業当初は、「オンライン」「AI」「安い」のイメージが強く、バリューに当てはめて言えば「速い」「簡単」「ストレスフリー」あたりにイメージが偏っていたように思います。でも現在では、「専門性」「安心」のバリューも顧客に伝わってきました。
課題は、まだ「強みをつくる」のバリューが顧客に十分に伝わっていない点です。
このバリューは「Toreru によって事業の強みをつくれたと顧客自身が実感できること」を目指すものです。
ここはまだサービス内容としても足りていない部分なので、今後「強みをつくる」を実感してもらえるようにどんどんサービスを進化させていきたいと考えています。
(このように、自分たちがどのような方向に進べきかが明確になることも、ブランディングの大きな効果の一つです)
Toreru らしいバリューが伝わったきたことにより、ありがたいことに、顧客推奨度(NPS)も高い水準を得られています。
8.ブランディングはずっと続く
これまで約3年にわたり行ってきた Toreru のブランディングへの取り組みを具体的に紹介してきました。
かなりボリューミーな記事になってしまいましたが、できるだけ具体的に実際のプロセスをシェアしたかったが故です。少しでもみなさまの取り組みの参考になれば幸いです。
もちろん Toreru にとっても、ブランディングはこれで終わりではありません。
ブランディングは「Brand + ing」ですから、 Toreru らしさ(ブランド)を体現しつづけることこそが大切です。
6つのバリューももっともっと実現しなければなりませんし、ミッションである「知財の価値を最大化させる」を達成するためには、まだまだやるべきことはたくさんあります。
今後は、ミッション・バリューに基づいて引き続きサービスを進化させていくとともに、サービスの提供だけでなく、もっと Toreru の「思想」の部分も発信していきたいと思っています。
共感してくださる方々といっしょに “知財の価値の最大化” に近づいていければ、これほど嬉しいことはありません。
<Toreruの創業からサービスリニューアルの背景はコチラ>