ガストなどの飲食店を展開するすかいらーくグループのロゴにあしらわれた、あの眠そうな目の鳥さん、皆さんも見覚えがあるのではないでしょうか?
この鳥さんは、すかいらーく(Skylark)の日本語訳である「ひばり」をモチーフにしたキャラクターで、その名は「ひばりちゃん」と言います。

さて、ひばりちゃんのお腹には、鳥には本来あるはずではない「へそ」が描かれています。
へそが描かれた理由には諸説あるようですが、外食産業の「中心」を担うことを目指してお腹の中心にへそを描いたという説が有力な説として流布しているようです。

写真(筆者撮影)ガスト店内のあちこちに「ひばりちゃん」を見つけることができます
実は、ひばりちゃんには「へそ」が無いバージョンがあるのです。なんでも、「へそ無しひばりちゃんを見たら幸せになる」という都市伝説もあるとか。そしてなんと、この都市伝説を紐解くヒントが、登録商標にあるのです。この点については後ほどじっくり探っていきましょう。
さて、ガストを展開するすかいらーくグループは1970年代に創業した老舗企業。これまで多くの商標を出願していますが、その商標を見てゆくと、都市伝説を紐解くヒント、山あり谷ありの歴史、新たな挑戦など、さまざまなドラマが見えてきます。本記事では、そんなすかいらーくグループの商標を探っていきましょう。
「ひばりちゃん」の都市伝説の答えは登録商標に?!
へそ無しひばりちゃんの真相やいかに?! さっそく登録商標を探っていきましょう。
まず見ていただきたいのが、昭和49年(1974年)に出願された、すかいらーくグループにとってはじめての商標登録出願です。

なんと「へそ」がありません! 初期のデザインではへそが無かったということですね。
次に見ていただきたいのが、はじめての商標登録出願から3年後の昭和52年(1977年)に出願されたこちらの商標です。

非常によく似たデザインではありますが、こちらのひばりちゃんには「へそ」があります。
初期のデザインを出願してから3年の間にデザインが改良され、「へそ」が描き加えられたようです。よく見ると、へその有無以外にも、くちばしの開き具合、目の中の光の有無、足の形など、細かい部分もブラッシュアップされていますね。ちなみに、この3年後に出願されたバージョンのデザインは、現在の企業ロゴでも引き続き採用されています。
へそ無しバージョンは、ひばりちゃんのデザインが固まる前の「プロトタイプ版」と捉えることができそうですね。
このプロトタイプ版は、へそ「あり」バージョンが出回った後も一部では使われ続け、いつしかこのような都市伝説が生まれたのではないでしょうか。
ちなみに、平成4年(1992年)には、へそ「あり」と「なし」の両方のバージョンが再び商標登録出願されています。
なぜこの年に同じ商標を再び出願したのでしょうか? ―それは、平成4年にいわゆる「サービスマーク制度」というものができたためです。
それまで、日本では商品の商標しか登録できず、「レストランの営業」自体の商標を登録することはできなかったのです。すかいらーくも、サービスマーク制度ができる前は、店舗で提供する食品の商標を登録することでビジネスを守ろうとしていました。
しかし、商品の商標だけでは、他人に同じ店名で店を開かれてしまった場合、差し止めが難しいという事情がありました。例えば、店名だけ真似して中で出す料理は別のものにすれば、商標権侵害を回避できてしまうという状況にあったのです。
このような課題を解決するために生まれたのがサービスマーク制度です。この制度のおかげで「レストランの営業」自体に対して商標を登録できるようになったのです。
すかいらーくは、制度発足後にさっそくこの制度を使って出願を行ったというわけですね。しかも、へそ「あり」と「なし」両方のバージョンを。この事実から、すかいらーくが、へそ「あり」と「なし」の両方のバージョンを大事な知財として扱っていることがうかがえますね。
ちなみに、この平成4年のタイミングで、少しうつむいたようなひばりちゃんや、スプーンをもったひばりちゃんも出願されています。かわいいですね。


すかいらーくグループの歴史を商標とともに振り返る
すかいらーくグループのはじまりは、1970年に開業した、ファミリーレストランすかいらーく1号店(国立店)でした。

残念ながら、レストラン「すかいらーく」は2009年10月を最後に店舗の展開を終了しました。外食の多ジャンル化、デフレによる激しい価格競争、そしてコンビニなどの中食産業の発達。このような世の中の変化と昔ながらのファミリーレストランチェーンがだんだんと嚙み合わなくなってしまったのかもしれませんね。
asahi.com(朝日新聞社):さよなら「すかいらーく」 – 経済を読む
いつかこのような日が来ることを予想していたかはわかりませんが、1980年代以降、すかいらーくグループは中華料理を扱う「バーミヤン」や、和食を扱う「藍屋」など、様々なジャンルに進出していきました。
これらのブランドは現代でも手堅い支持を集めているものばかりです。レストランすかいらーくが順調だった80年代にすかいらーくだけに頼らない選択をしたのは流石ですね。


さて、90年代以降、日本経済はバブル崩壊という試練を迎えます。そんな試練の中で誕生したのが低価格路線を押し出した「ガスト」です。
ガストの創業当時についてすかいらーくグループの公式サイトにはこのように書かれています。
右肩上がりの日本経済と共に成長を遂げていましたが、バブル経済が崩壊するとともに不況という試練が訪れました。この試練の中で誕生したのが「ガスト」で、すかいらーくが再生するための大きな戦略的ブランドへと成長していきました。
歴史・沿革 | 企業情報 | すかいらーくホールディングス より引用
平成5年(1993年)に出願されたガストの初期のロゴがこちらです。現在のロゴとはデザインが違いますね。

さて、ガストの成功により再生を果たしたすかいらーくグループは、2000年代以降、スタンダードなファミリーレストランとは一世を画した、いわゆる「一芸に秀でた」系のレストランを展開していきました。
例えば、「ステーキガスト」は「ガスト」ブランドの低価格路線を維持しつつ、ボリュームのあるステーキを提供するという戦略で、若者世代を中心に支持を集めました。サラダ、ご飯、カレーの食べ放題は、ステーキガスト発足当時若者世代であった筆者の心もガッツリ掴み、「ステガ(ステーキガストの略)行こ!」が仲間内でも飛び交いました。

がっつりステーキのステーキガストとはある意味対照的なのは、「しゃぶ葉」です。「野菜をたくさん摂れる」という強みにより、こちらはヘルシー志向の顧客の心をしっかりと掴みました。また、具材の組み合わせや多様なソースによるカスタマイズ性の高さも人気の秘訣です。

このように、すかいらーくグループは時代の変化に合わせて柔軟に方針を転換し、常に外食産業のトップランナーであり続けるのです。
「ガチャコイン」は商標登録されるのか?
さて、すかいらーくグループがカプセルトイを独自開発していることを、皆さんはご存じでしょうか。
実は完全オリジナル!知られざる「すかいらーく」のカプセルトイのこだわり
おもちゃを独自開発するとは物凄いこだわりです。記事でも触れられていましたが、すかいらーくのおもちゃは大人でもクスっと笑えるものが多く、メインターゲットの子どもたちだけではなく、その親たちも笑顔にします。
筆者がガスト店舗に訪れた際には、某RPGゲームのアイテムを彷彿とさせる剣のおもちゃが景品になっていました。

写真(筆者撮影) 左上:ひばりちゃんが刻印されたガチャコイン 左下:カプセル内容物(ここにもひばりちゃんが!) 右:ガチャ筐体(ガチャコイン or 2枚重ねた100円玉、どちらでも遊べます。)
このおもちゃへのこだわりは、「ガチャコイン」というネーミングを商標登録出願するにまでに至りました。この出願は2025年11月に行われ、記事執筆時点(2026年1月)では審査待ちの状態です。

商願2025-126979|ガチャコイン|J-PlatPat商標検索
さて、この「ガチャコイン」という一見ありふれたネーミングは商標登録されるのでしょうか。実は二つの懸念点があります。
- チェインクロニクルというゲームの公式サイトには、このゲームのアイテムとして「ガチャコイン」というものが示されています。(ガチャコインとは)つまり、世の中で既に使われているネーミングであるということです。
- 「ガチャコイン」は 「ガチャを回すためのコイン」という、単なる商品の内容を説明しているだけのネーミングにすぎないと判断されるおそれがあります。このような商標は登録することができません。
しかし、登録の可能性がまったくないというわけではありません。
- 一点目に関しては、「ゲームと飲食店では業界が異なり、混同が生じない」と判断されれば登録の可能性があります。「混同が生じてしまい消費者が困ってしまうのを防ぎたい」というのがそもそもの目的なので、それをクリアできればOKということです。
- 二点目に関しては、「ガチャコイン」という造語に「特定のサービス名としての識別力」が認められれば登録の可能性があります。要は、「ガストのおまけと言えばガチャコインだね」という共通認識が消費者にあればよいのです。すかいらーくグループは「ガチャコイン」を長年提供しており、ファンも付いていることから、その実績や知名度をアピールすることで、識別力が認められ、登録が認められる可能性があるということです。
「ガチャコイン」商標登録出願の運命やいかに…!? その経緯を見守っていきたいものです。
まとめ
子どもの頃親に連れて行ってもらったガスト、北京ダックを初めて食べたバーミヤン、女友達と行ったしゃぶ葉、そして、自らの子どもと再びガストを訪れる。筆者の人生の傍にはすかいらーくグループの飲食店がありました。
そんな、いつも当たり前に傍にあったすかいらーくグループを商標目線で探ってみると様々な発見がありました。
「へそ」の有無から読み解くロゴデザインの変遷、識別力のハードルがある中で挑むガチャコイン出願・・・すかいらーくの歩みの傍にはいつも商標があったのです。
すかいらーくグループのお店に行かれることがあれば、ぜひメニューやガチャコインに刻まれたすかいらーくのシンボル、「ひばりちゃん」のへそをチェックしてみてください。