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日経トレンディ「2025年ヒット商品」を知財目線で振り返る~ミャクミャクからSwitch2まで

年の瀬が近づく今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。さて、そんな年の瀬に毎年発表されるのが日経トレンディのヒット商品ランキングです。

日経トレンディ「2025年ヒット商品ベスト30」 この1年で売れたものとは

第1位にランクインしたのは「大阪・関西万博 with ミャクミャク」です。ミャクミャク現象と呼んでよいほどの人気振りを鑑みると納得の順位ですね。

他にも若者を中心にブームとなった「麻辣湯」、任天堂にとって約8年ぶりの新型ゲーム機となった「Nintendo Switch 2」などがランクイン。

本記事ではこれらのランクインした商品を知財目線で掘り下げてゆきます。今年を彩ったヒット商品は、いったいどのような知財に支えられているのでしょうか?さっそく見ていきましょう。

「ミャクミャクをつければ何でも売れる」と言わしめたブランド力

2025年を代表する出来事として真っ先に挙げられるのは、やはり大阪・関西万博でしょう。大阪湾に浮かぶ人工島である夢洲に設けられた会場には、連日多くの来場者で賑わいました。

さて、各国の趣向を凝らしたパビリオンと並び、世の中の関心をさらったのは、公式キャラクターの「ミャクミャク」です。

商標登録第6656708号|J-PlatPat 商標検索

その人気はすさまじく、「ミャクミャクをつければ何でも売れる」と言わしめたほど。万博会場だけではなく鉄道の駅や空港にもミャクミャクがあしらわれた土産物が並び、大盛況だったようです。

そんな超強力なブランドとなったミャクミャクが生まれるまでにはいったいどのような過程があったのでしょうか?商標登録出願とともに振り返ってみましょう。

まず、2020年7月に、ミャクミャクの「もと」となった大阪・関西万博のロゴマークが商標登録出願されました。

商標登録第6413446号|J-PlatPat 商標検索

細胞のような赤い丸がリング状に連なったこのロゴマーク、決定当初には「不気味」「祟られそう」といった意見も寄せられたようです。

しかし、これは裏を返すと、それだけ見た人に強いインパクトを残すデザインであるということ。見ると何か語りたくなるというのは、その時点で一歩リードしているのです。

ちなみに、この赤いロゴマークに青い胴体部分が組み合わさったものが「ミャクミャク」であり、この赤いロゴマーク単体には「いのちの輝き」という通称があります。

結果として大成功を収めた今回のロゴマークですが、このような世界規模の超大型イベントのロゴマーク選考は非常にデリケートなものです。2020年の東京五輪では一度決定したロゴが白紙撤回されたという事態もあり、選考チームへのプレッシャーはかなり大きかったのではないでしょうか。

大阪・関西万博の公式サイトにはロゴマークの審査選考フローが公表されているのですが、このフローからも審査が多くのステップを踏み慎重に進められたことがうかがえます。

ロゴマークについて | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト

審査選考フローを見ると「4 知的財産関連調査」として「当協会が指定する弁理士等による国内外における先行商標調査、著作権確認を実施」が行われたことが明記されていました。こんなところで弁理士が活躍しているとは。同業者として誇らしさを感じるとともに、非常に大きなプレッシャーの仕事であっただろうことが想像され、尊敬の念を抱きます。

さて、ロゴマークの決定後には、「EXPO 2025」などの文字部分を抜いた、イラスト部分だけの商標も出願されました。ちなみに、カラー版と白黒版の両方が出願されました。

商標登録第6413542号|J-PlatPat 商標検索

商標登録第6413543号|J-PlatPat 商標検索

白黒版の出願は白黒印刷の資料への掲載を見据えてのものと思われます。紙媒体で資料のやり取りをする場合、コスト削減などの観点から白黒で資料を印刷することも考えられ、そのような場合を見据えて白黒版の権利も押さえておこうという理由が予想されます。

・・と思いきや、白黒配色のグッズも展開され、さらには白黒ミャクミャクはレアであるとして、大人気となったそうです。白黒版の商標もしっかり活用されているというわけですね。

<1分で解説>大阪万博「ミャクミャク」人気 レアな「黒」に熱視線 | 毎日新聞

さて、ここまでは赤いリング状のロゴ(いのちの輝き)について書いてきましたが、ここから、ついに本題であるミャクミャクの商標に迫ります。

先ほども説明したように、赤いリング部分(いのちの輝き)に青い胴体が加わったのがミャクミャクです。つまり、ロゴありきで生まれたのがミャクミャクというキャラクターなのです。

そんなミャクミャクについて、ミャクミャクの作者はこのようなコメントを残しています。

ロゴマークをそのままキャラクターに出来ないかな?というアイデアから生まれました。「水の都」の水と一緒になることで、姿を変えられることをコンセプトに、ロゴマークをパーツに分けて、色々な形のキャラクターを考えてみました。生き生きとしたロゴマークのイメージを損なわない様に心がけました。

大阪・関西万博 公式キャラクターデザイン最優秀作品が決定

商標登録第6656708号|J-PlatPat商標検索

ロゴマーク起点でのキャラクター創作、これは結果的に大成功だったのではないでしょうか。キャラクターの一部にロゴマークが取り入れられることで、必然的にロゴマークが多くの人の目に触れるようになります。これにより、「大阪・関西万博といえばあの赤くてちょっと不気味な輪っかのヤツ」という認知が相乗効果でどんどん広まっていったのでしょう。

キャラクターのビジュアルが決まったら次はネーミングです。応募総数約3万件の中から選ばれたのは「ミャクミャク」という名前でした。

商標登録第6651183号|Toreru 商標検索

この「ミャクミャク」という何とも不思議な響き、これがちょっと不気味で不思議なキャラクタービジュアルと相まって、人気上昇を後押ししたのではないでしょうか。

このミャクミャク事例から学べるのは、ロゴマーク、キャラクター、ネーミングが互いに良い影響を与えあって、素晴らしい成果を挙げているということ。まさにブランディングのお手本のような事例です。

ちなみにToreru Media では知財視点の大阪・関西万博レポートを出しています。この記事ではミャクミャクの商標の指定商品に注目していますが、なんとミャクミャクの商標は45あるすべての分類を制覇しています。具体的にどんな商品が指定されているのかは、ぜひ記事を読んで確認してみてください。

【訪問レポ】知財視点で大阪・関西万博2025をまったり巡ってみた~ガンダム、null2、ミャクミャク様 | Toreru Media

人気急上昇!麻辣湯チェーンの商標を見てみよう

今年流行したグルメと言ったらまず挙げられるのは、麻辣湯(マーラータン)でしょう。若者世代を中心にここ数年で人気が高まり、麻辣湯専門店の前には連日行列ができています。

現在は若者を中心に人気を高めている麻辣湯ですが、辛味のあるスープにたっぷりの野菜が入った麻辣湯は、健康が気になるミドル世代にも刺さる可能性を秘めており、まだまだ伸びしろがありそうです。

さて、日本ではじめての麻辣湯専門店は、2007年に東京・渋谷に開店した「七宝麻辣湯」(チーパオマーラータン)であると言われています。

七宝麻辣湯 大宮東口店 筆者による撮影

日本人オーナーである石神氏が現地で食べた麻辣湯の味に感銘を受け、店をオープンしたそうです。

第1005回 株式会社カシュ・カシュ 代表取締役 石神秀幸氏

さて、石神氏が創業した株式会社カシュ・カシュは「チーパオマーラータン」という文字の商標を2008年に商標登録出願しました。

商標登録第5230697号|Toreru 商標検索

その後、七宝麻辣湯(チーパオマーラータン)は徐々に人気を高めてゆきました。特に、ここ数年はK-POPアイドルや中華系インフルエンサーの間で麻辣湯が流行したことがきっかけとなり、日本でも情報感度が高い若者を中心に流行が広がりました。

そんな流行を受けてか、同社は近年商標登録出願の強化を図っているようです。2021年には4件、2022年には2件の出願が行われました。そして、2025年に入ってからはなんと5件の出願が行われています。ちなみに、この件数は記事執筆時点(2025年11月)で公開されたものだけの件数ですので、これから増える可能性もあります。

では、なぜ出願件数が多くなったのでしょうか?

その理由としては、まず、「おうちでチーパオ」や「どこでも薬膳」といった商品やサービスに関するネーミングを複数出願していることが挙げられます。

商標登録第6635262号|Toreru 商標検索

商標登録出願第2025-073003号|Toreru 商標検索

そして、ロゴのデザインごとに出願を行っていることも出願件数が増えた理由の一つでしょう。例えば、下記のロゴ①とロゴ②がそれぞれ出願されています。

ロゴ① 商標登録出願第2025-83282号|J-PlatPat 商標検索

ロゴ② 商標登録出願第2025-83283号|J-PlatPat 商標検索

ロゴ①とロゴ②は、そのロゴを構成するパーツ(赤い「七宝」と黒字の「麻辣湯」)は同じであり、大きさの比率と位置関係だけが違うという関係にあります。ともすれば、どちらか一方のロゴの権利があれば、もう一方のロゴもその権利範囲でカバーできるだろうと楽観的に考え、どちらか一方だけのロゴを出願するという判断もあり得ます。

しかし、どちらのロゴもより確実に守るという観点からは、このようにそれぞれのロゴを出願するのがよいでしょう。

さらに、同社では、重要度が異なる商品を別々の出願にするという戦略が取られていることがうかがえます。これも出願件数が増えた一因ですね。

例えば、上記のロゴ①の場合、「穀物の加工品,冷凍した具及びスープ付きめん類,即席めん類」といった七宝麻辣湯の主力商品を指定商品とした 商標登録出願第2025-083282号 と、菓子、乳製品、肉製品、加工水産物、加工野菜、加工果実などの食品を幅広く指定商品とした 商標登録出願第2025-088190号 の二件に出願が分けられています。このようにしておくことで、「権利化マストな主力商品」と、「将来を見据えた保険的な商品群」の出願を分けておくことで、重要度に応じた対応ができるようになります。

流行りものは模倣(パクリ)もされやすく、そのぶん知財面での対策も重要です。七宝麻辣湯はこのように多角的な観点で商標登録出願をすることで、ブランドをしっかり守っているのですね。

任天堂の本気が詰まった「Nintendo Switch 2」は知財も本気だった

最後にご紹介するのは、2025年に発売された任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」です。

その人気は凄まじく、任天堂の公式通販サイトの初回抽選に申し込んだのは国内だけで220万人。初代モデルの「Nintendo Switch」の初週売上台数が33万台だったことを考えると、これはかなりの数です。

任天堂という超強力ブランドの新型機ということで、このような需要の高まりはもはや必然と言ってもいいのかもしれません。そして、ブランドだけに頼るのではなく、技術面でもしっかりと新たな価値を提供しているのがこのような人気の秘訣なのではないでしょうか。

技術といえば、任天堂のサイトには各製品の特許番号が明記されており、技術への高い矜持がうかがえます。

特許権・意匠権の表記|任天堂サポート

Nintendo Switch 2 に関連する特許の番号も挙げられていましたので、その中からNintendo Switch 2 用のコントローラー(Joy-Con 2)に関連する特許をご紹介しましょう。

まず、Joy-Con 2 の最も大きな特徴といえば、本体への着脱がマグネット(磁石)式になったところです。

そもそもの話として、Nintendo Switch 初代は、コントローラー(Joy-Con)が本体から着脱可能であるという点で世間を驚かせました。

Joy-Conを本体に装着すれば携帯ゲーム機として、取り外してテレビに接続すれば据置ゲーム機として機能する。Nintendo Switch という一台のゲーム機で携帯ゲーム機と据置ゲーム機の二つの機能を兼ねていたのです。これは当時としては非常に画期的なことだったのです。

こちらの図はNintendo Switch 初代を保護する特許として公式サイトに示されていた特許第6635597号の図面です。左側のコントローラー3と右側コントローラー4がゲーム機本体2から着脱可能なことが示されていますね。

特許第6635597号図2|J-PlatPat 特許検索

ゲーム機本体の側面に設けられたレールにコントローラーを噛み合わせてスライドさせることで装着を行う、これが初代 Nintendo Switch での装着方法です。

一方、Nintendo Switch 2 では、コントローラーの装着がマグネット式に進化しました。これにより、コントローラーを噛み合わせてスライドさせる手間が省けますし、噛み合っていない状態で無理やりスライドさせることによる破損も起こりません。
特許第6635597号には、マグネット式の装着方式について書かれています。図面には、ゲーム機本体3の左右の側面に設けられた凹部320、310(赤枠部分)に左側のコントローラー2と右側コントローラー1を装着する様子が示されています。凹部320、310(赤枠部分)には磁石が仕込まれており、この磁石の力でコントローラーを固定します。

特許第7690703号図2|J-PlatPat 特許検索  赤枠は筆者による追記

コントローラーを拡大するとこのような感じになっています。本体の凹部に仕込まれた磁石とくっつくのは120と110で示される部分(赤枠部分)であり、鉄などの磁石とくっつく素材で作られています。

特許第7690703号図10|J-PlatPat 特許検索  赤枠は筆者による追記

実はこの部分はボタンとしての役割も兼ねており、コントローラーとして使う際はこのように人差し指で押して使います。ゲーム機本体と装着する際は磁石との吸着部分として機能し、コントローラーとして使う際はボタンとして機能する、このように一つの部品に二つの機能を兼ね備えさせたのが、この発明の斬新な点であると言えます。

特許第7690703号図4|J-PlatPat 特許検索

Nintendo Switch 2 用のコントローラー(Joy-Con 2)には、マウスとしての機能が備わった点や、ワンプッシュでチャット画面を起動できるCボタンなど、他にも新たな機能があり、これらはそれぞれ別々の特許で守られています。言い換えると、Nintendo Switch 2 という一つの機体にそれだけたくさんの発明が詰まっているということです。

記事執筆時点(2025年11月)ではまだ品薄状態が続く Nintendo Switch 2 ですが、この機体に詰め込まれたたくさんの発明を、読者の皆さまも是非堪能してみてください。

おわりに 

新たなブランドをイチから作り出し、大成功を収めた「大阪・関西万博」、流行りモノの宿命である模倣(パクリ)からブランドを守るべく多角的な商標登録出願を試みた「七宝麻辣湯」、そして、日本屈指の知財戦闘力といわれる任天堂渾身の「Nintendo Switch 2」。

いずれの事例も、知財をブランディングの武器として活用し、華々しいヒットを実現させていました。

来年2026年はいったいどんなヒット商品が生まれるのでしょうか。そして、そのヒット商品をどんな知財が支えるのでしょうか。今から楽しみでなりません。

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