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「最北端商標登録」を探しに稚内に行ってみた~東西南北商標紀行 vol.1

日本の知財情報プラットフォームJ-PlatPatでは、商標権利者の住所・居所の情報も公開されています。

例えば次のような形です。

住所・居所が公開される理由は、

  • 商標法は商標の「出所表示機能」を重視しており、消費者がその商標に係る商品・サービスの供給者が誰なのか把握し、信頼できるようにする
  • 公開情報を参考に、第三者が権利者とのライセンス交渉を行いやすくする

のように説明されています。J-PlatPatが市区町村までの表示に留めているのは、個人の住所など、プライバシー保護に一定の配慮をしているからでしょう。商標公報には、住所・居所がフルで記載されています。

そんな住所・居所情報ですが、日頃J-PlatPatを使っているうちに、日本最北の商標登録は誰のもので、どこにあるのか?そしてどんな場所なのか?疑問が出てきました。

気になりはじめてから数年が経ち、今こそ決着を付けたくなりました。そこで本記事では、「日本の最北端商標登録」を求めて、北の大地に向かいます!

1、準備編:最北端に当たりをつけよう

日本本土の最北端といえば稚内市。これより北の自治体はありません。

地図

Google マップ:稚内市

そこで、まずは稚内市を住所・居所とする商標出願を絞り込もう・・としたのですが、J-PlatPatでは都道府県名、つまり「北海道」までしか検索できません。

権利が存続している北海道の商標登録は26,728件もHITし、これを1つ1つ見ていくのは厳しそうです。

そこで発想を変えて、稚内市の企業一覧表をもとに企業名で商標の「権利者」を検索し、商標登録の有無を見ていくことにしました。

検索しても商標登録が見つからない企業名がほとんどでしたが、根気強く調べていくと、いくつか最北端の候補になりそうな「稚内市を本社とする企業の商標登録」が出てきました。

見つかった企業の登記住所をGoogleマップで調べていけば、データ上の最北端商標登録は導き出せます。ただ、やはり商標は使ってこそ。使用されていない商標は不使用取消審判の対象にもなり、実体がある権利とは言い難いです。

最北端商標と認定するためには、「実際にその商標は使われているのか?そして、どう使用されているか?」を見てから判断したいところです。ここからは確認のために現地へ向かいます!

2、稚内へは「宗谷バス」で行こう!

羽田から飛行機とJRを乗り継いで2時間30分ほど。

まずは札幌にやってきました。

「稚内に直接行けばいいのに」と思われた方もいそうですね。確かに羽田空港から稚内空港まで直行便も出ています。ただ、今回はあえて札幌に来た狙いがあります。

それはこちらの「大通バスセンター」です!

大通バスセンターの1Fからは稚内や枝幸、根室へのバスが定期便として出ています。中でも稚内行きの「わっかない号」は日に6本とかなりの便数がありました。

「わっかない号」は、宗谷バス(株)と北都交通(株)が共同運航をしていますが、北都交通の本社は札幌市。一方、宗谷バスの本社は稚内市です。

登録3056773, 5300892(宗谷バス株式会社)

宗谷バスの名義で2件の商標登録がありましたが、商標が使われているか、まずは確認してみましょう。

稚内行きのバスが来ましたが、正面のボンネットに「SOYA BUS」の商標ロゴがしっかりと表示されています。商標使用ありでOKですね。

商標公報の出願人住所も確認すると、

稚内市中央2丁目11番29号とあり、これは稚内駅のすぐ北側。

Googleマップでは北緯45.418度と表示されました。いったんは宗谷バス(株)を暫定チャンピオンと認定しましょう。

札幌から稚内まではバスで約6時間、331キロの旅です。最北端の街は、やっぱり遠いですね・・!到着したらすっかり夜。疲れて、稚内駅前のビジネスホテルに潜り込みました。

3、北のランドマーク「サフィールホテル稚内」へ

おはようございます。翌朝は稚内駅からスタートです。北海道最北端の線路の碑がまぶしいですね。

駅前にはポケモンマンホール『ポケふた』もありました。稚内らしく、こおりタイプのポケモンです。

さて、稚内駅からスタートするには理由があります。実は2つ目の「最北端商標」候補が駅のほど近くにあるのです。

それはこちら、「サフィールホテル稚内」です!1994年に「稚内全日空ホテル」として開業しましたが、紆余曲折あって、2010年からは明海グループ(株)の傘下に入り、ホテル名も変更されました。

明海グループ(株)は神戸市に本社がありますが、この「サフィールホテル稚内」は傘下の(株)稚内観光開発が経営しています。

登録6143470, 6143471(株式会社稚内観光開発)

登録商標は「稚内はまなす」と「マリーヌ」の2つ、指定商品は【飲食物の提供,宿泊施設の提供】などとなっています。

(株)稚内観光開発の登記住所は、「稚内市開運1丁目2番2号」であり、先ほどの宗谷バスの登記地よりも50メートルほど北に位置しています。

Googleマップでは北緯45.419度と、わずかながら緯度も北側となりました。

ただ、実際に商標を使っていなければ記録更新とはいえません。ホテルの中に入って確認してみます。

中は高級感があり、明るく掃除も行き届いています。案内板を探したところ・・

鉄板焼「はまなす」、カフェレストラン「マリーヌ」の表示がありました!館内のレストラン名を商標登録しているようです。

ただ、はまなすについては、商標登録は「稚内はまなす」。

現地には稚内が付いていない「はまなす」表記しか見つからず、商標の使用といえるか微妙です・・。お店も夜からだったので、もう1軒の「マリーヌ」に向かいます。

入口には「Marine」単体でのロゴ表記がありました。登録商標はカタカナの「マリーヌ」ですが、ひらがな・カタカナ・ローマ字間を相互に変更する(読み方・意味は同一)表記は、「社会通念上同一」の商標の使用と認められます。

参考:登録商標、どこまで変形して使っていい? – きのか特許事務所 -中小企業・スタートアップのための弁理士

「Marine」は普通マリーンと読むのでは?という論点はありますが、館内の看板に「マリーヌ」とカタカナ表記もあったので、使用実績ありとして良いでしょう。最北端商標の記録更新です。

せっかくなので「マリーヌ」に入店しましょう。ちょうどお昼前のタイミングで、ドリンクメニューだけの営業でしたが、おすすめという「北海道ジンジャーエール」を注文します。

生姜が優しく効いていて、クセがなく美味しい一杯でした。北海道産しょうがを自社工場で絞り、そのままボトリングしているそうです。地元のホテルで、その土地のものを飲めるのは嬉しいですね。

スタッフの方とお話したところ、「最近は海外のお客さんも増え、ホテルの稼働率も上がって賑わってきている」とのことでした。

ホテルのすぐそばには利尻島・礼文島へのフェリーターミナルもあり、観光にも便利です。次に稚内に訪れたときは、こちらのホテルに泊まってみたくなりました。

ここからさらに北上すればノシャップ岬があります。ノシャップ岬の周辺には、ふるさと納税で人気の水産会社、秋川水産(株)などの企業がありますが、商標登録は発見できませんでした。

このまま(株)稚内観光開発さんが最北端商標出願人の栄誉を勝ち取るのか?いや、まだ調べるべき場所が残っています。 

4、宗谷岬に商標登録人はいるのか?

 

日本本土の最北端の岬といえば、宗谷岬です。稚内の市街地やノシャップ岬よりも7キロ以上北に位置しています。

ただ、宗谷岬の周りに住んでいる人は少なく、民家以外は、民宿や宗谷漁業協同組合の支所があるぐらいです。はたして商標登録があるのでしょうか?現地に向かいましょう。

駅前に戻って、また宗谷バスのお世話になります。目指すは一路、宗谷岬!

宗谷岬まで27キロの看板。空港よりもさらに先です。

どんどん進んでいくと、遠くに岬と風力発電が見えてきました。

海が本当に綺麗です。遠くに見える陸地は樺太なのか?と思いきや、先ほど後にしたノシャップ岬でした。このまま路線バスに乗っていくと宗谷岬に着くのですが、途中のバス停であえて下車します。

海沿いの道を右手に曲がった「宗谷丘陵」に用があるのです。ここからは7~8キロほどの歩き、ゴールの宗谷岬まで補給ポイントはないので、飲料の持参は必須です。

丘陵というだけあり、結構な登りです。どんどん進んでいくと・・・

牛の群れが見えてきました!

実はここ、日本最北端の牧場である「宗谷岬牧場」を横切る公道です。一番見晴らしがよい場所には、牧場の「社員募集」看板が立っていました。確かに、ツーリングに来てこの光景に惚れ込んで就職、なんて人も出そうな絶景です。

登録5815033, 5882867(農業生産法人株式会社 宗谷岬牧場)

宗谷岬牧場の名義で、登録商標もありました。

登録は「宗谷岬和牛」と「宗谷黒牛」のロゴの2件で、指定商品は【北海道宗谷地方及びその周辺地域で飼育された牛の牛肉】のように、宗谷地方産であることに紐づいています。

特に「宗谷黒牛(そうやくろうし)」は、稚内ブランド推進協議会のHPで

「宗谷黒牛」は日本最北端に位置する宗谷岬牧場で生産される肉牛です。安全・安心にこだわり、粗飼料は宗谷岬牧場などで収穫した自家産牧草を中心に与え、仔牛から一貫生産により育てています。しっかりとした濃厚な赤身と淡白な脂肪とのハーモニーが絶妙です。

宗谷黒牛 | 稚内ブランド公式ウェブサイト

と、特産品として紹介されていました。

こんな広々とした環境ならば、牛たちも美味しく育ちそうです。肉の直売所などないのかな・・と探したのですが、家畜伝染病の予防のため、牧場の敷地には一切立ち入り禁止。ただ、のんびりと草を食む牛たちを道から眺めるだけでも癒されました。

この宗谷岬牧場の登記住所は「稚内市宗谷岬328」

宗谷岬からも近く、Googleマップでは北緯45.512度と、緯度も記録更新となります。あとは商標の使用実績がないか・・・と現地を探したところ、ありました!

丘の上のレストラン、ゲストハウスアルメリア。こちらに「宗谷黒牛ステーキ膳」と「宗谷黒牛ハンバーグ膳」のメニューを発見しました。

これは是非食べねば・・と思ったのですが、宗谷岬発のバスの時間が迫ってきており、泣く泣く見送ることに。ただ、実際に出荷されていることも確認できましたし、ここは使用実績ありという認定で良いでしょう。

他にも宗谷岬周辺の企業・団体の商標登録があるか探したのですが、見つけることはできませんでした。

そこで、栄えある「最北端商標登録」は、農業生産法人株式会社 宗谷岬牧場さんの「宗谷岬和牛」・「宗谷黒牛」だと認定します!

5、おわりに~残る東西南の商標は?

丘を下って、宗谷岬にやってきました。

岬には日本最北端の碑があり、海を眺めながら一息つきます。

いったんはやり遂げた感があったのですが・・・落ち着いて考えると、最北端商標は認定したものの、残る3つの最端にある商標登録は手付かずです。東西南北、全部確認しなければコンプリートと言えないですよね。

宗谷岬には間宮林蔵の像もありました。彼はこの岬から海を渡り、樺太が島だと発見したとか。江戸時代にほぼ徒歩でこの地まで来る林蔵のパワーすごい・・。

そこで彼にあやかって?私もライフワークとして、残りの3最端を回っていきたいと思います!少し先になりそうですが、次の端も確認できましたらレポートしていきます。

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追記:稚内市のふるさと納税返礼品に「宗谷黒牛」があったため、東京に戻ったあとに取り寄せることができました。

最北端認定した商標ロゴもしっかりと使われ、すき焼きにすると赤身と脂身のバランスが良く、肉本来の旨みが楽しめる好みのお肉でした。北の大地で育まれた「宗谷黒牛」、おススメです!

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