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【ちいかわ・おぱんちゅうさぎ】令和のファンシーキャラから学ぶ、ビジネスに寄り添う商標登録

自社製品やブランドの名称を保護したり、企業間での権利トラブルを避けるために用いられる商標登録。

近年では、SNS発キャラクターについても商標登録出願が盛んに行われていることをご存じでしょうか?

そこで、今回はクリエイターのSNS投稿によって人気を得た、流行中のファンシーキャラクター『ちいかわ』『おぱんちゅうさぎ』に関する商標登録の特徴を調査しました。

この記事では、クリエイター個人の情報発信から始まって大きな人気を獲得したキャラクターを題材に、商標登録の具体例や、出願のタイミングについて紹介していきます。

1.ちいかわ|イラストとキャラクター名は別登録に

商標登録6462301

はじめに紹介するのは、SNSの漫画やグッズ、アニメなど、幅広い分野で大ヒットしている『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』。

コンビニやアパレルブランドとのコラボを多数展開しており、子どもから大人まで幅広い世代に愛されているキャラクターシリーズです。

ちいかわの商標が初めて登録されたのは2021年10月。SNSに投稿した漫画と書き下ろし作品をまとめたコミックス第1巻の発売と同年であり、アパレルグッズやおもちゃ、文房具などを含んだ5つの区分でイラストと文字がそれぞれ登録されました。

2021年10月登録の『ちいかわ』商標区分5つ

これら5区分の商標は、2021年にタワーレコードやアベイルなどで多数のちいかわグッズが販売される以前に登録されていました。この登録にはちいかわに関係のない第三者によって商標が出願されることを予防したり、ライセンス契約の基礎としたりする目的があったと考えられます。

「ちいかわ」とタワレコが初めてのコラボグッズを12/9(木)に発売 – TOWER RECORDS ONLINEより

次に、商標登録のリストを見てみましょう。

J-PlatPatより

リストを見ていると、『ちいかわ』の文字とイラストがどちらも別々に商標登録されているのに気づきます。

まずキャラクターの名称は一般に著作権の保護対象ではないとされており、商品化にあたっては商標登録しておくことが大切です。登録しておかなければ、第三者が『ちいかわ』と同一又は類似の商標を登録した際、その名前が使えなくなるリスクがあるためです。

一方でイラストは創作時に自動的に著作権が発生し、保護されます。「であれば、商標登録しなくてもいいんじゃないの?」という考えもあるのですが、商品化ビジネスにおいては著作権の「自動的に発生する」という点が便利な反面、やや不安定。似たキャラクターが他にいた場合に「どちらの創作が先か?」という争いが発生することもあります。

また、先に商標登録しておくことで、第三者が同一又は類似のキャラクターイラストを商標登録してしまうことも防げますし、さらにキャラクターイラストを特定の商品やサービスに継続的に使っていく場合(例:マクドナルドの『ドナルド』)、キャラクターに商標としての信用、すなわち顧客吸引力を蓄積させていくことも可能です。

よって、「サブキャラクターであれば、著作権による保護を期待して商標登録しないのもアリだが、『ちいかわ』のような主役であれば、イラストも商標登録しておくのが商品化ビジネスでは安心!」という結論になります。

なお、『ちいかわ』シリーズでは、現在『ちいかわ』以外のキャラクターは商標登録されていませんでした。そもそもちいかわはSNSの個人発信から始まったスモールスタートの作品であり、1区分あたりで費用がかかる商標登録を大量に行うのは避けたかったのかもしれません。

個人的には好きなキャラクター『モモンガ』の姿をJ-PlatPatで見られないのは悲しいところですが、これから他のキャラクターの出願も増えていくかもしれませんね。

さらに登録を見ていくと、2022年に文字とイラストで2つの『ちいかわ』商標登録が再び出願されていることに気付きました。2020年の登録と、何が違うのでしょうか?

J-PlatPatより

実はこれ、出願時に指定する「商品・サービス」の区分が異なっています。2022年の追加出願ではせっけん・化粧品類(3類)、家具・クッション類(20類)、お茶・ハンバーガー(30類)、広告・小売(35類)などなど、追加で17区分を新たに指定しました。

2022年はちいかわのテレビアニメの放送が始まり、人気の高まりが加速した年。商品化ビジネスの広がりに対応すべく、保護する区分を追加したと考えられます。

例えば、クレジットカードサービス(36類)でも、実際に「ちいかわカード」が提供されていました。

https://twitter.com/marui_anime/status/1574639960237387777

その他の区分で注目したいのは、飲食や宿泊サービスの提供に関わる43類です。

近年人気の「キャラクターコラボカフェ」はキャラクターをモチーフにした特別メニューをレストラン・カフェといった飲食店で楽しめる業態ですが、これは「飲食物の提供」として43類で保護されるサービスです。「パン・紅茶」といった食品類の30類を抑えるだけでは不十分なのがポイントですね。

ちいかわカフェ アンコール開催@池袋パルコ – THE GUEST cafe & dinerより

43類「飲食物の提供」での商標登録をしないまま第三者に『ちいかわ』商標を43類で取得されてしまった場合、「ちいかわカフェ」のような名称が公式で使えない、といった事態になりかねません。2022年の『ちいかわ』の新たな商標出願は、安全なビジネスの観点から重要な追加出願でした。

ちいかわは文字とイラストを分けた商標登録出願によって権利保護を確実に行いつつ、人気に合わせて商標の区分を追加出願で増やすことで着実にライセンスビジネスの基盤を整えた作品だといえるでしょう。

2.おぱんちゅうさぎ|個性を守る”顔だけ”登録

続いて紹介するのは、イラストレーター/アニメーターの「可哀想に!」さん作のキャラクター『おばんちゅうさぎ』。Xの公式アカウントのフォロワーは78万人を超えており、独特な世界観によって多くの人の心をつかんでいるキャラクターです。

『おぱんちゅうさぎ』の商標登録において特徴的なのが、全身の商標登録だけでなく、”顔だけ”の登録を行っている点。

こちらが全身の商標登録で、

登録6617503

こちらが顔だけの商標登録です。

登録6617502

出願日と登録日、指定商品もまったく同じで、まさに兄弟のような商標です。登録番号は1番違いでした。

プロモーションを担う株式会社チョコレイトの商標をさらに調べると、『おぱんちゅうさぎ』のデビューとほぼ同時期の2022年2月に、上記2件のほか、作者の「可哀想に!」さんの名前や『おばんちゅうさぎ』の名称も商標登録出願されていました。

キャラクター名をイラストと別に登録するのは『ちいかわ』と同じ手法ですね。

J-PlatPatより

https://twitter.com/opanchu_usagi_/status/1487834440265269248
2022年1月に投稿された『おぱんちゅうさぎ』アカウント最初のポスト

なお、『おぱんちゅうさぎ』のイラストと文字の登録区分は9,25,28,41類の4つ。ちいかわの当初の商標登録区分5つと比べると、16類と18類が登録されておらず、代わりに41類が登録されていました。

第41類は、「インターネットを利用して行う映像の提供」等に関する商標区分。公式デビューの前であるものの、2021年にはYouTubeで640万回再生超のおぱんちゅうさぎの動画が公開されており、動画コンテンツに極めて力を入れていたことが分かります。

https://www.youtube.com/watch?v=mHqxt6zBNqk
『おぱんちゅうさぎ』動画|可哀想に! – YouTube より

また、『おぱんちゅうさぎ』の特徴である”顔だけ”商標は、さまざまな企画で活躍しています。

2022年10月に実施されたブランチパークとのコラボイベントでは、販売商品の『おぱんちゅ缶いちごミルク(お土産シール付き)』の缶とシールにおばんちゅうさぎの顔のみがプリントされており、思わずシェアしたくなるシュールな見た目に仕上げられていました。

「おぱんちゅうさぎ」とブランチパークがコラボ!カメラマンVer.などコラボオリジナル描き下ろしイラストグッズやドリンク販売|株式会社BAKERUのプレスリリースより

おぱんちゅうさぎの全体に加えて顔のみのイラストを商標登録した理由としては、「おぱんちゅうさぎのキャラクター全身ではなく、顔のみでも商品化することをあらかじめ想定していた」、「第三者による顔部分の模倣をクリエイター側として特に防止したかった」ことが考えられます。

若者世代に人気の雑貨ショップ『サンキューマート』コラボのPR文章に”うるうる涙目がキュートな「おぱんちゅうさぎ」”と記載されていることからも、おぱんちゅうさぎの顔は優れたチャームポイントであり、正しい戦略だったといえるでしょう。

【SNS総フォロワーは190万人超】イラストレーター『可哀想に!』が描く人気キャラクター「おぱんちゅうさぎ」とサンキューマートのコラボアイテムが11月中旬に新発売|エルソニック株式会社のプレスリリースより

なお、顔だけの商品が多数登場している一方、おぱんちうさぎの全身をデザインしたグッズとしては、ぬいぐるみやマスコットキーホルダーなどが販売されています。

おぱんちゅうさぎ 等身大ぬいぐるみ – おぱんちゅうさぎ公式通販サイトより

全身と体の一部だけを比較すると、商標権の権利範囲である”類似の商標のデザイン”といえるか微妙であるため、「キャラクターの特徴的な一部分」を商品化する場合は別々に商標を登録して権利を取得するのが有効だと考えられます。

参考:キャラクターのイラストを商標登録することはできますか?

まとめ:キャラクターの特性に合わせて、商標出願をアレンジしよう!

令和キャラクターに学ぶ商標保護のポイント

令和のクリエイターが生み出した2種類のキャラクター作品を調べて分かった商標登録における有効な手法は、

  1. キャラクターのイラストと名称は別々に商標登録する
  2. まずは商品化において主要な区分に絞って商標を出願し、コストをコントロールする
  3. キャラクターデザインから特徴的な部分を抜き出して商品化する予定があれば、別途で商標を出願する

の3点でした。

特に、「イラストと名称をそれぞれ出願する」行為はちいかわとおぱんちゅうさぎ双方がとっている手法であり、キャラクターを使用する権利を守るために有効な手法だといえるでしょう。

SNSから世に広まったファンシーキャラクターは、小規模から知財の運用を始める際に役立つ知識を可愛らしく教えてくれているのかもしれません。

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