2025年7月、プリクラは誕生30周年を迎えました。
30年前の1995年。SNSもLINEもなく、女子高生がようやく携帯電話を持ちはじめた頃です。その携帯電話にカメラはまだついていなくて、写真を撮るといえば使い捨てカメラ。撮り終わったらお店に持っていき、現像を待つ時代でした。
この30年で、写真をめぐる環境はすっかり変わりました。カメラ付き携帯、デジカメ、スマホ、そしてSNS。「友達と写真を撮る」だけなら、プリントシール機の代わりになるものはいくらでも登場したはずです。
それなのにプリントシール機は、いまも女子たちの居場所として残っています。なぜ、変わらずに存在し続けられたのか。誕生から現在までを、特許と商標をたどりながら振り返ってみます。
目次
黎明期:誕生からあっという間にブームへ(1995年~2000年)
プリクラは、1995年に登場しました。

「プリクラ」は「プリント倶楽部」の略。ここまではご存じの方も多いと思います。
ただ、知財の観点からは、もうひとつ押さえておきたいことがあります。「プリクラ®」「プリント倶楽部®」は、株式会社セガの登録商標です(商標登録第3367498号、商標登録第4174824号ほか)。
つまり、アミューズメント施設にずらりと並んでいる機械は、全部が「プリクラ」ではありません。一般名称は「プリントシール機」で、セガ以外のメーカーの機械を指すときはこちらが正しい呼び方になります。フリュー株式会社も「プリントシール機」、略して「プリ機」という名称を使っており、「プリント倶楽部、プリクラはセガの登録商標である」旨が明記されています。ちなみにプリント写真は「プリ画」という表現を使っています。
初代の「プリント倶楽部」は、アトラス(現在は株式会社セガの子会社)とセガの共同開発で1995年7月に登場しました。アトラスの営業担当者が、資料が出力されてくる様子から「カメラで撮った写真をシールにできないか」と思いついたのがきっかけだったそうです。発売から2年後の1997年には、累計出荷が2万2000台に達する大ヒットになりました。
その後、各社がプリントシール機事業に参入します。1998年に参入したフリュー(当時はオムロンの社内事業)は、後発ながら業界トップシェア(2026年にはシェア9割)を獲得しました。
これだけ急速に広く浸透したので、プリントシール機のすべてが「プリクラ」だと思っている方も多いかもしれません。私もそうでした。
当時、私は小学生。商標の話などわかるわけもなく、どの機械も「プリクラ」と呼んでいました。全身プリクラ(全身が写せる機種)が隣町のショッピングモールに入ったと聞いたときは、友達と何キロも自転車をこいで、カメラの前に立ちました。ポーズは下の画像のように、片手を前に出すのが流行りました。

画像は生成AIにより生成
書込み期:撮影で終わらない。「らくがき機能」がやってきた(2000年~2005年)
やがて、写真を撮るだけではなく、撮影のあとにらくがきができる「らくがき機能」が主流になりました。かわいいスタンプをたくさん押したり、みんなの名前を書いたり、思い思いのらくがきを楽しみました!
いつからか、写真を撮ったあとに別の「らくがきブース」へ移動する形になりました。そしてらくがきには制限時間がありました。しかもその時間、いつも同じではなく、毎回時間が違い、時々ボーナスタイムがもらえた記憶があります。
この仕組みは、特許になっています。それまでは、写真撮影とらくがき(編集)を同じ場所で順番に行っていました。この発明は、撮影する空間とらくがきをする空間を分けて、撮影が終わり、らくがきに入ると、次のグループが撮影に入れるという、複数のグループが同時並行で遊べるようにするというもの。

特許4467221「写真シール自動販売装置と写真シール自動販売方法」(出願人:フリュー株式会社)図2、図9(K)より引用
らくがき機能が追加されることで、1つのグループが遊ぶ時間が長くなる。けれど、長い時間待たせたくない。この要求に応えるための工夫でした。
さらに、らくがき時間には所定の制限時間を設け、次の利用者の撮影開始に応じてその時間を変更する、という仕組みまで書かれています。空いているときは長くらくがきができる。あの「なんとなくらくがきして遊べる時間の長さが違う気がする」は、気のせいではなかったようです。

編集処理と撮像処理の同時化(特許4467221を参考に生成AIにより作成)
らくがき機能も年々充実していきました。ペンやスタンプの種類が増えたのはもちろん、特許化された新機能もありました。
次に紹介するのは、背景・被写体・前景をレイヤで分けて編集できるようにした発明です。編集中のレイヤだけをカラーで表示して、それ以外はモノクロにする。レイヤごとにらくがきするため、急いでらくがきしても、顔の上に線が乗ってしまう事故が起きにくくなります。

特許4126534「写真シール自動販売機および方法」(出願人:フリュー株式会社) 図15より引用
明細書を読んでいて「コロコロスタンプ」という言葉を25年ぶりに見ました。懐かしすぎます。図面を見ると、ペンの種類もスタンプの種類も、本当に豊富だったんですね。シールのサイズも選べました。分ける人数を選ぶと、その人数に合ったレイアウトでシールが出てくる。

意匠登録1485175【意匠に係る物品】シール自動販売機用写真シールシート(出願人:フリュー株式会社)
レイアウトそのものも、意匠として登録されています。何人で分けるか、どう配置するか。シール1枚の見た目まで、権利で押さえられていました。
…私のプリ機の記憶はこのあたりまでです。
当時私は中学生。みんな「プリ帳」を持っていました。プリ帳の見せ合いとプリの交換が自己紹介で、一緒にプリを撮れたらもっと仲良しになれた気がしていました。余談ですが、彼と撮ったプリを携帯電話の電池パックの裏に貼る、というのもありましたよね。今思うと、あれは何だったんでしょう。
盛り盛り期:いかにきれいに、かわいく写るか(2010年~2020年)
「らくがきを楽しむ」だけでは足りません。友達との思い出を、できるだけきれいに、かわいく残したい。この時代のキーワードは「盛る」でした。
この「盛る」文化は、プリ機が生んだ言葉ではありません。 もとをたどると、髪型の話でした。2005年に創刊された雑誌『小悪魔ageha』が、髪を大きく膨らませたヘアスタイル「盛り髪」を広めます。
そして2009年、「盛る/盛れる」は女子中高生ケータイ流行語大賞で金賞を受賞します。もともとは髪の話だったものが、この頃には「かわいく見せること」全般を指す言葉として、すっかり一般化していました。プリ機が「盛れる」を自分の機能の名前に使いはじめるのは、そのあとです。
2010年以降、「盛れる」「盛り」のついた商標が、続々と出願・登録されており、当時の熱量がよく分かります。
| 商標 | 登録番号 |
| 盛れる全身 | 登録第5491496号 |
| 盛れるアップ | 登録第5491497号 |
| 盛れるZONE | 登録第5597713号 |
| 盛れるライン | 登録第5734967号 |
| 盛りコース | 登録第5872955号 |
| 盛りフィルター | 登録第5944703号 |
| 盛れタッチ | 登録第5959109号 |
| ふわ盛れ | 登録第6077958号 |
「盛れる技術」は特許取得もされています。

特許6414681「写真シール作成装置、画像処理方法、およびプログラム」(出願人:フリュー株式会社) 図20より引用
「盛る」モードで、目を大きくできます。ただしそれだけでは、極端になって不自然に見えてしまう。そこでこの発明は、まつ毛そのものを加工します。まつ毛を1本1本太くする、本数を増やす、色を黒・グレー・ブラウン・ブルーに変える。しかも加工の度合いを何段階かから選べる。
プリを撮ると、つけまつげがノベルティとしてもらえる機種もありました。つけまつげをつけてかわいくなる、そして、もう一回プリクラを撮りたくなる。よくできた循環だなと思います。
さて、プリ機は「盛る文化」を自ら創りだしたわけではありません。世の中で生まれた言葉を拾い、取り込んでいった。これは、このあとご紹介するアプリも、同じ戦略をたどったといえます。
連動期:シール紙だけでなくアプリへ(2015年~2020年)
スマホが普及し、SNSが当たり前になった頃。プリ機は紙のシールの外へ出ていきます。フリューの「ピクトリンク」です。
「ピクトリンク」は撮ったプリの画像データをスマホで取得・閲覧できるサービスで、アプリ版は2015年2月に、電子版のプリ帳(プリアルバム)機能を備えたSNSとして大きくリニューアルされました。有料会員数は100万人を超えています。
紙のプリ帳が、アプリの中へ。しかもアプリの上でもらくがきができます。さらには新しいプリ機の情報もキャッチすることができます。「シールを持ち帰る」という体験はそのまま、さらにシール画像としてプリクラ文化をスマホの時代に合わせて拡張した、という感じがします。
この頃のフリュー株式会社の特許を見てみると、アプリの利用頻度を上げるための工夫が権利化されていました。例えば下記の発明です。
・ユーザがアプリ会員である期間に応じて、提供するサービス(画像の画質、画像取得可能期間)を変える処理/特許第6467777号
・利用人数を含むプリ機の利用履歴(利用人数含む)を管理しておき、複数人でプリ機を利用する頻度が多い場合、画像のダウンロード制限(例えば、枚数)を緩和する処理/特許第6311382号
動画期:名前の生みの親が、20年ぶりに帰ってきた(2020年~)
ここまで、らくがきも、「盛る」も、アプリも、ほとんどフリューの話でした。「プリクラ」の名付け親であるセガは、2000年代に入るとプリントシール機の市場から離れていたのです。
そのセガが戻ってきたのが2020年。約20年ぶりの再参入で、最新機種「fiz(フィズ)」が登場しました。

最新プリクラ機『fiz(フィズ)』発表|セガ SEGA公式ページより
「fiz(フィズ)」の目玉は「モーメント」という機能。シャッターの前後3秒間を、秒間30フレームの動画で残す。「盛れた」状態のまま動き出すプリクラです。このモーメント、特許を調べていて面白いことに気づきました。
fizの発売より前、2020年2月にセガが出願した特許があります。この特許が権利として押さえているのは、唇の画像加工でした。唇の部分をなめらかに処理したうえで、ハイライトを重ねる。つまり「盛り」の技術です。しかし、この特許の明細書には、前後を残すモーメント機能についても具体的に開示されていました。
明細書段落【0021】より抜粋
静止画撮影とともに、動画の撮影も行われる。撮影動画と撮影静止画は、セットで扱われる。このセットを、撮影画像セットという。この例では、最大6個の撮影画像セットが生成される。・・・特許6969622 「撮影遊戯装置およびプログラム」(出願人:株式会社セガ)より
明細書段落【0056】より抜粋
撮影タイミングを時刻t1とすると、撮影制御部144は時刻t1よりも1.5秒前から0.1秒前まで動画像(以下、「前半動画像」とよぶ)を記録し、時刻t1において撮影静止画像を取得し、時刻t1の0.1秒後から1.5秒後まで動画像(以下、「後半動画像」とよぶ)を再び記録する。撮影制御部144は、前半動画像と後半動画像をつなげることにより撮影動画像を生成する。特許6969622 「撮影遊戯装置およびプログラム」(出願人:株式会社セガ)より
モーメント機能は、「動くプリクラ」。SNSでの動画投稿が当たり前になってきた時代に合わせ、プリクラの「盛れる」体験が、静止画像だけではなくショート動画へと広がりました。
まとめ~変わらないために、変わり続けた30年
カメラ付き携帯、デジカメ、スマホ、SNS。「友達と写真を撮る」という一点だけを見れば、プリ機の代わりになるものは、この30年でいくらでも登場しました。
それでもプリ機がずっと存在し続けたのは、写真を撮ることを超えて、友達と過ごす時間そのもの――コミュニケーションであり、エンタメだったからだと思います。
そしてプリ機自身も、さまざまな機能や仕組みについて、時代に合わせて中身を入れ替え続けてきました。盛る文化を取り入れ、SNSの登場に合わせてアプリを導入し、ショート動画の流行に合わせて動画プリクラを登場させました。
「いま女子たちが夢中になっているもの」を、プリ機の中に取り込んでいく。だから、いつの時代も、世の中で何が流行っても、女子たちの居場所であり続けているのではないでしょうか!
次にプリ機の前に立つときは、中に詰まった工夫にも、少し目を向けてみてはいかがでしょうか?