「この会社、天才がいる!」とSNSでも話題の山崎実業株式会社(以下「山崎実業」といいます。)の商品、皆さんも一度は見かけたことがあるのではないでしょうか?
平置きで1カップ、斜め置きで大さじが計量できる「大さじも量れる計量カップ」

山崎実業HPより
浮かせて清潔に収納できる「マグネットタンブラー」

山崎実業HPより
などなど・・・見た目はシンプルかつスタイリッシュでありながら、アイデアにあふれた収納やキッチン雑貨等が人気を集めているインテリア雑貨メーカーで、instagramアカウントのフォロワー数は130万人を超えています(2025年12月時点)。
業績は22年増収、ニューヨーク、パリ、ロンドン、ドイツなどの有名百貨店にも出展しており、海外でも人気を集めているようです(マイナビ2027 山崎実業のページより)。
そして、山崎実業は自社商品のデザインについて多数の意匠登録を受けており、模倣品対策にも力を入れているといえます。
そこで本記事では、山崎実業の商品紹介を交えながら、実際に山崎実業が原告となった意匠権侵害訴訟事件の判例を題材に、意匠権の重要ポイントについて解説します。
目次
1. 山崎実業のアイデア商品と意匠権
1.1. 商品紹介(ポリ袋エコホルダー)
筆者自身も山崎実業の商品を普段から愛用していますが、その中でも個人的おすすめ商品を1つ紹介したいと思います。

山崎実業HPより
こちらの商品、その名のとおり、小さいポリ袋を被せることで、キッチン上の簡易ごみ箱として使用できるのです。

これだけ聞くと地味な商品に思えるかもしれませんが、料理や食器洗いをしている際に出るゴミの行き場には結構困るもので、キッチンにおける「ちっちゃいゴミ箱」の需要は、意外と高いのです。
そして、この「ポリ袋エコホルダー」がゴミ箱よりも優れている点は、使わない時の収納性です。

4本の足の部分は折り畳めるようになっており、こんなにもお行儀の良い姿に変身するのです・・・!
折り畳んだ状態でキッチンの隅に置いておけば、邪魔になることもありません。
さらに、この4本の足は、洗ったコップの水切りにも使えます。

ちなみに、コップだけでなく、ぺットボトルを刺して乾かすことも可能です。
1.2. ポリ袋エコホルダーの意匠権と関連意匠
こちらのポリ袋エコホルダーの形態は、意匠登録されています。

厳密にいうと、こちらの登録意匠と同一の形態の商品は、「ポリ袋エコホルダー タワー L」の方かと思われます(先ほど紹介したポリ袋エコホルダーのサイズ違い。)。
こちらの登録意匠ですが、出願後、先行の公知意匠に類似するもの(意匠法3条1項3号)として一度拒絶理由通知がなされ、補正を経たうえで登録に至っているようです。

意匠登録第1722340号 経過情報より(マーカーは筆者によるもの)
ポリ袋エコホルダーと類似の商品がすでに存在したのか!?と思いきや、拒絶理由通知書によれば、先行の公知意匠とされているのは、山崎実業自身の登録意匠(意匠登録第1565482号)のようであり、他社製品と類似するとされたものではありませんでした。

その後、こちらの先行意匠(意匠登録第1565482号)を本意匠とし、後行意匠(意匠登録第1722340号)を関連意匠とする形で補正がなされ、登録に至っています。
ここで、関連意匠制度について説明します。
本来、類似する複数の意匠については、同一人であっても、重複して意匠登録を受けることはできないのが原則(意匠法9条1項)です。
関連意匠制度は、その例外として、ある意匠(本意匠)と類似する意匠(関連意匠)について、同一人が意匠権の設定登録を受けることができるという制度です(意匠法10条1項)。
例えば、シリーズ物の商品や、継続してモデルチェンジを行う商品を展開する企業にとっては、デザインが少し異なる商品形態について関連意匠として意匠登録を行い、権利範囲を拡充することが可能になるというメリットがあります。


1.3. 山崎実業による秘密意匠制度の活用
このような関連意匠も含め、山崎実業は多数の意匠権を保有しています。
J-PlatPatの意匠検索にて、「出願人/権利者」を「山崎実業株式会社」とする登録意匠を検索すると、539件ヒットしました(2025年12月時点)。
ところで、登録意匠の検索結果では、出願日が比較的新しいものについては、「秘密意匠のため表示可能なイメージがありません。」と表示され、具体的な意匠の内容を見ることができません。

これは、秘密意匠制度を活用しているためです。
特許権や商標権と同様、意匠権についても、その権利の内容は意匠公報によって公表されます(意匠法20条3項)が、意匠権者からすれば、公表によって第三者に模倣のソースを与えてしまうようなものです。
特に、将来販売を予定している商品デザインについて、前もって意匠権を取得しておくという計画の場合、「意匠登録→公表→販売」という時系列になるため、販売開始時には模倣品が出回っている・・・という事態も想定されます。
そこで、意匠の公表の例外として、設定登録から3年以内に限り、意匠を秘密にすることができるのが、秘密意匠制度(意匠法14条)です。
このように、意匠権者にとっては便利な秘密意匠ですが、第三者からすれば、ある日突然、実は登録されていた意匠権が出現するという、いわば時限爆弾のような制度です。
秘密とされていた登録意匠はデータベースから権利の有無を知りようがなく、たまたま類似する商品を販売していた第三者が、後になって「あなた、ずっと意匠権侵害者でしたよ」と言われてしまうのでは、あまりにも酷です。
そこで、意匠法では、他人の秘密意匠を実施した者に対して、その侵害行為について過失推定を適用しないという形で、第三者の保護が図られています(意匠法40条)。
これは、秘密意匠制度を利用する意匠権者側が留意すべき点であり、次に紹介する「ごみ箱模倣事件」でも重要ポイントとなっていますので、判例解説に絡めて詳しく説明します。
2. ごみ箱模倣事件(大阪地判平成30年10月18日)
2.1. 事案の概要
本事件は、山崎実業が販売し、意匠権も有しているごみ箱(以下「原告ごみ箱」といいます。)と類似する形態のごみ箱(以下「被告ごみ箱」といいます。)を被告が販売したとして、損害賠償や販売差止、商品廃棄等を求めた訴訟です。
なお、本事件では、被告が販売していた傘立てについても同様の請求がなされていますが、ここではごみ箱に関する損害賠償請求を中心に解説します。
原告ごみ箱についての山崎実業の登録意匠は以下のとおりです。

意匠登録第1444462号(なお、令和元年5月25日に権利消滅)
実際に販売されていた原告・被告ごみ箱の外観については、裁判所HPに掲載されている判決文では省略されており、確認することができませんでした。


判決文別紙より
なお、本事件では、原告ごみ箱と被告ごみ箱が類似していることについては争点となっていません。
そのため、「類似している=意匠権侵害あり」を前提に、どのような請求が認められるかが争われました。
2.2. 意匠権&不競法の合わせ技、その理由とは?
本事件で特徴的なのは、意匠権侵害に加えて、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)2条1項3号に基づく形態模倣行為にも該当するとして、損害賠償請求がなされているという点です。
不正競争防止法2条1項3号
「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」
これは、商品形態の模倣が「不正競争」として違法になり得るというものですが、意匠登録されているのであれば、通常は意匠権に基づいて請求すれば十分ですので、意匠権が存在する本件でなぜ不競法が出てくるのか?という点が疑問に思えます。
しかも、不競法の形態模倣行為が適用されるのは、真正商品の販売開始から3年以内に限定されており(不競法19条1項6号イ)、これが弱点とも言われています。
それにもかかわらず、意匠権と形態模倣の「合わせ技」が用いられている背景には、秘密意匠の落とし穴があったのです。
通常、意匠権侵害に基づいて損害賠償を請求しようとする場合、意匠権者にて侵害者の故意・過失(登録意匠であることを知っていたこと等)を証明する必要はありません。
これは、意匠法に基づく「過失推定」が働いているからです。
意匠法40条
「他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。ただし、第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については、この限りでない。」
すなわち、意匠登録されている以上、「知らなかったじゃ済まされない」という考え方が通用するのです(これは、特許や商標においても同じです。)。
ところが、秘密意匠については事情が異なります。
第三者からすれば、販売していた商品がたまたま「秘密の登録意匠」に似ていたことをもって、損害賠償請求を食らってしまうのは納得いかないでしょう。
実際に、秘密意匠の意匠広報にはこのような記載しかなされず、何が登録されているのか全く分かりません・・・。

そこで、秘密意匠の場合には、過失の推定が働かないということになっているのです(意匠法40条ただし書)。
簡単にいうと、意匠の秘密期間については、模倣商品が出回っていたとしても、意匠権侵害に基づく損害賠償請求は、基本的には困難ということです。
そこで、本事件では、以下のとおり期間ごとに分けて、異なる請求の根拠が選択されたものと考えられます。
- 意匠の秘密期間が満了して意匠権の内容が公表されてからは意匠権に基づく請求
- それまでの期間(ただし販売開始から3年間に限る)は不競法の形態模倣行為に基づく請求
2.3. 裁判所の判断
2.3.1. 意匠権と不競法の「空白期間」
以上を前提に、裁判所がどの範囲で損害賠償を認めたか、見ていきます。
本件に関する時系列は以下のとおりです。

判決文8~9頁記載の時系列表を参考に筆者作成
本事件では、意匠登録されたのは平成24年5月25日でしたが、秘密意匠制度が用いられていたため、意匠の内容が公表されたのは平成27年6月15日のことでした。
そのため、意匠権に基づく請求が可能なのは、同日以降の被告の販売行為に限られることになります(前記時系列表の販売期間③)。
裁判所の判断
「被告が平成27年6月15日以降に被告ごみ箱を販売した行為・・・については,本件意匠権侵害について過失があったものと推定される(意匠法40条本文)ところ,この推定を覆す事情は認められない。他方,被告が同日よりも前に被告ごみ箱を販売した行為・・・については,本件意匠権侵害について過失があったものとは推定されない(同条ただし書き)ところ,過失があったと認めるに足りる証拠はない。 」
判決文9~10頁より
それまでの期間については、不競法(形態模倣行為)の守備範囲となるわけですが、販売開始(本件では平成24年1月31日)から3年間に限られます(前記時系列表の販売期間①)。
裁判所の判断
「被告が平成27年1月31日までに被告ごみ箱を販売した行為・・・については,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に当たる。 他方,被告が同年2月1日以降に被告ごみ箱を販売した行為・・・については,原告ごみ箱が最初に販売された日から3年が経過しており,同号所定の不正競争行為に当たらない(同法19条1項5号イ)。」
判決文10頁より
2.3.2. 結局、認められた金額は?
もうお気づきかも知れませんが、「販売開始から3年経過後~秘密意匠の秘密期間満了まで」の期間(販売期間②)については、保護の空白が生まれています。

判決文8~9頁記載の時系列表を参考に筆者作成(再掲)
なお、山崎実業は、販売期間②における被告の販売行為についても、一般不法行為を構成すると主張しましたが、裁判所はこの主張を認めませんでした。
結局、裁判所が損害賠償を認めた販売期間は、前記表でいうと販売期間①と③です。
具体的には、侵害者(被告)が被告ごみ箱の販売によって得た利益の額が損害であると認定されています(意匠法39条2項、不競法5条2項)。
ごみ箱の販売ってどれくらい儲かるのだろう・・・??皆さん気になるこの点も、裁判所はきっちり認定してくれています。
販売期間①
→ 1個あたりの利益295.226円×販売個数78個≒23,028円
販売期間③
→ 1個あたりの利益35.268円×販売個数666個≒23,488円
合計46,516円となりました。
被告ごみ箱の販売個数がそこまで多くはなく、また、被告ごみ箱1個あたりの利益も高いものではないため、賠償額もこの程度となっています。
なお、販売期間①と③で、1個あたりの利益の額が大きく異なっていますが、その理由については、判決文からは分かりませんでした。
2.3.3. 廃棄請求に加え、謝罪請求は認められる?
本事件では、山崎実業は被告ごみ箱の在庫の廃棄も請求しており、これは裁判所も認めています。
さらに、山崎実業は以下のとおり謝罪請求も行っています。
「被告は,原告に対し,朝日新聞全国版,読売新聞全国版及び毎日新聞全国版の3新聞に,別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を,その表題及び原被告の各商号は4号活字,その他は8ポイント活字で,引続き2回掲載せよ。」
判決文2頁より
3つの新聞に、引き続き2回の謝罪広告の掲載を求めるという、徹底的な姿勢がうかがえます・・・。
これは、意匠法41条(特許法の規定を準用)に基づく、法的な根拠のある請求です。
もっとも、この請求が認められるためには、意匠権者の「業務上の信用が害された」ことが必要ですが、裁判所は、「謝罪広告が必要なほどに業務上の信用が毀損されたとは認められない」として、謝罪広告の請求を認めませんでした。
2.4. 判例からの学び
このように、本事件は、秘密意匠の特徴が色濃く表れており、「過失推定が働かない」という、秘密意匠の留意点を学べる判例です。
また、秘密意匠であったとしても、意匠権&不競法(形態模倣)の合わせ技を用いることで権利行使範囲を最大化するという、徹底した請求内容も非常に勉強になります。
本事件に関する山崎実業のプレスリリース「知的財産権侵害についてのご注意」はこちら。
3. おわりに~意匠権に基づく権利行使の意義は?
以上、山崎実業の商品紹介からスタートして、関連意匠、秘密意匠、そして、ごみ箱模倣事件まで解説してきました。
ごみ箱模倣事件では、差止や廃棄請求は認められましたが、裁判所が支払いを命じた賠償金は約5万円。金額だけ見ると、「裁判までやった意味あるの?」とも思えますよね。
しかし、知的財産権の侵害に対する権利行使の目的は、お金(被害回復)だけではありません。模倣品に対して訴訟を辞さず、徹底的に対応し、さらには訴訟の内容をプレスリリースしたことは、「山崎実業の商品を模倣すれば訴えられる」と競合メーカーに知らしめる効果があったでしょう。
賠償金自体は少額でも、この「模倣品を許さない山崎実業」というイメージを業界内で築けることは、競合排除という点で大きなブランド効果があると考えられます。「ライバルが自ずから市場で幅寄せしてこなくなる=戦わずして勝つ」というのは、『孫子』でも最上の策とされており、ビジネスでも非常に有効な方策です。
自社製品の模倣品が出回っていないかを日頃から監視し、悪質な侵害者に対しては、毅然と対応していくことが、知的財産の価値をより一層高めることにも繋がります。
逆に、模倣品を放置していると、需要者からすれば「どっちが本物でどっちがパクリなのか分からない」という状態にもなりかねず、自社ブランドのイメージ低下をもたらす可能性もあります。
山崎実業が右肩上がりに成長を続けている背景には、こういった模倣品対策に対するたゆまぬ努力があるのかもしれません。