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新幹線の列車名、どのくらい商標登録されている? ~鉄道ファンの知財マンがガチで調べてみた

私は鉄道が好きで、ローカル線も特急も新幹線も大好きです。小3の息子も新幹線が大好きで、毎日「プラレール」のはやぶさ・こまちで遊んでます。

鉄道好きのルーツは幼少期に遡ります。幼稚園に入る前から時刻表が大好きで、特に全国路線図が好きでした。カレンダーの裏紙に路線図を書き写していたことを思い出します。

母方の実家の最寄り駅が奥羽本線の「庭坂」で、毎日昼の15時に、18時ころに戻る祖父を迎えにいってました。待っている間は特急つばさ・やまばと、旧型客車による鈍行列車、貨物列車などを飽きることなく見続けていました。駅員や売店の人とも顔なじみになりました。

板谷峠4連続スイッチバックも懐かしい思い出です。祖母の親戚が山形にいたので、旧型客車に乗って行くことが多く、そのときはスイッチバックを堪能していました。

思い出話はここまでにして、、、今回の記事は、新幹線の列車名という観点から、JR各社はどのくらい知的財産(商標)に力を入れているのか、という点を詳らかにしていきます。

ゲスト紹介
Mt.O:鉄道をこよなく愛する(特に乗り鉄、呑み鉄)、知財歴13年の地方中堅企業知財マネージャー。鉄道以外にも国内旅行が趣味で全都道府県を制覇しています。次の目標は全都道府県に宿泊して地酒を飲むことです。

1、新幹線の列車名、全部言えますか?

まずは新幹線の列車名、愛称や廃止されたものも含めていくつあるかご存じでしょうか?

<新幹線の列車名(愛称、通称、廃止名(赤字)含む)>

参考:「完全保存版!新幹線まるわかりBOOK(株式会社マイナビ出版)」82頁 新幹線列車名運用一覧表

なんと38もの名称がありました!きっとみなさんも乗った新幹線があると思います。

青字の新幹線は私が実際に乗ったことのある16の列車です。初めての新幹線は幼稚園のときに乗った「こだま」で、東京-小田原間を乗車しました。帰りは小田急ロマンスカーに乗って帰りました。しかし「さがみ」だったので展望車両ではなかったのが残念です。

成長するにつれたくさんの新幹線に乗りましたが、特に印象に残っている車両があります。

みなさんは「ドクターイエロー」をご存じですか?10日に1回ほどの不定期運行なので、「見ると幸せになれる黄色い新幹線」といわれています。私は1回だけ間近で見たことがあります。

その日は大阪への移動前に博多で知財仲間と飲んでました。新幹線の時間が近づいてきたので飲み会を早々に引き上げて博多駅に向かいました。そうしたら事故の影響で予約している新幹線が大幅に(1時間近く)遅れてました。これならもっと飲めたな・・・と残念に思ってのんびりと待っていたら、何とドクターイエローがホームに入線してきました。

定刻通りに出発していたら見ることができませんでしたので、列車の遅れを許すことができました。ただ、それ以来は間近では見ていません。

レアだからこそ、思い出深い車両です。

 

筆者撮影

いまでも出張のときに新幹線に乗りますが、「のぞみ」の最新型車両N700Sに当たったときはワクワクして、思わず写真を撮ってしまいました。

 

筆者撮影

2、新幹線の列車名はどのくらい商標登録されている?

さて、ここからが本題。新幹線はいろいろなグッズやプラレールなどのおもちゃになっていたりするので、抜け目のない?JR各社はきっと多くの商標登録をして、ライセンス収入を得ているのではないか、と思います。

そこで、新幹線の列車名がどのくらい商標登録されているのか、調べてみました。

<新幹線の列車名と登録件数>

登録あり列車名:24  登録総数:64件  平均:2.7件

全部で38名称中、24列車が登録されていました。特徴的だったのは「MAXあさま」のような組み合わせでは商標登録がなく、「MAX」と「あさま」、「たにがわ」のように別々のワードだけが登録されていたこと。

また、人気の「ドクターイエロー」が登録されていないのは意外な結果でした。

ちなみに、会社別でみるとこんな感じです。JR西日本とJR九州の少なさが際立っています。

<会社別登録件数>

どうでしょうか?思ったよりも少ない!と感じた方もいらっしゃると思います。私はそう感じました。

24の列車名のうち、半数の12の列車名については1件の登録しかありませんでした。

ただ、1件の登録商標で多数の区分をカバーすることも可能です。速達列車を例に、いくつか登録例を見てみましょう。

うーん、なんてシンプルな権利なんでしょう。

のぞみ以外は「旅客車(鉄道)による輸送」一つしか指定していません。のぞみも一つの区分しか指定していません。他の列車名についても、1件しか登録されていない商標(やまびこ、なすの等)についてもほぼ同様の感じで「39類:旅客車による輸送」のみ指定していました。

 気になったこととして、「はやぶさ」と「みずほ」は新幹線の列車名になる前に登録となっているようです。ちょっと「はやぶさ」の経過情報を見てみましょう。

J-PlatPat「経過情報照会・経過記録、出願情報、登録情報」より

「はやぶさ」の経過記録をみると、出願人はJR九州で、2011年にJR東日本に譲渡されているようです。「みずほ」も出願人はJR東日本で、こちらも2011年にJR西日本・JR九州に譲渡されているようです。「さくら」も調べてみたら出願人はJR東日本で、「みずほ」と同じく2011年にJR西日本・JR九州に譲渡されているようです。

もうお気づきの人もいるかもしれません。これらは新幹線の名称となる前は夜行列車(いわゆるブルートレイン)の名称で、そのときに商標出願していたようです。

ちょっと脱線して、ブルートレイン繋がりで「富士」「あさかぜ」「あかつき」「なは」も調べてみました。

<ブルートレインの名称の商標登録>

参考:ウィキペディア「ブルートレイン」2022/9/3時点

おなじ東京発九州行きのブルートレインなのに、「みずほ」「さくら」「あさかぜ」はJR東日本が出願人、「はやぶさ」「富士」はJR九州が出願人と分かれています。関西発のブルートレインも、「あかつき」はJR西日本が出願人で、「なは」はJR九州が出願人という違いがありました。

いまでも車両ごとに権利者が分かれており、JR会社間の権利の分け方が気になるところです。もしご存じの読者の方がいたら、是非教えていただければと思います。

 

さて、脱線はここまで。引き続き新幹線の名称と商標について、気になったものについて見ていきます。

まずは「のぞみ」です。最多である9件の登録がありました。

おお、それなりに商品役務を押さえていました。ノベルティに使えそうな商品についても押さえているようですね。

でもよく見ると「おもちゃ」では登録されていませんでした。気になって調べたところ、なんと株式会社バンダイが「のぞみ」を登録していました。

 

実は、JRではなくメーカーが列車名の商標を登録しているケースはこの後も出てきます。ライバルメーカーであるタカラトミーのプラレール商品でも「のぞみ」号は販売されていますから、上手く権利処理されているのでしょうが、ちょっと不思議な気はしますね。

つづいては「たにがわ」です。

ひらがなではなく漢字の「谷川」で登録になっています。新幹線の名称になる前の「新特急谷川」の時代に出願して登録となったようです。「谷川」は私の知り合いにも2名ほどいるほどのありふれた氏だと思われるため、3条1項4号(ありふれた氏または名称は商標登録を受けられない)の拒絶がありました。しかし、3条2項(使用によって識別力を獲得すれば例外的に登録できる)の規定が適用され、最終的に登録となっています。

・商標登録第3068188号「谷川」(権利者:JR東日本 指定役務:旅客車による輸送)

J-PlatPat「経過情報照会・出願情報」より

列車名の商標にも、商標登録までのドラマがあったのです。

3、「ドクターイエロー」の商標登録の謎

さて、冒頭でも触れた幸せを呼ぶ黄色い新幹線「ドクターイエロー」です。

残念ながら、JR各社による「ドクターイエロー」の出願・登録はありませんでした。「ドクターイエロー」は試験車両で「39類 旅客車による輸送」は行わないから商標出願しなかったのかもしれません。

でもタカラトミー社とトンボ鉛筆社が「ドクターイエロー」の商標を登録していました。

 

タカラトミーといえば「プラレール」が有名ですね。調べたところ、「ドクターイエロー」もプラレールの車両として出ていました。

プラレール S-07 ライト付923形 ドクターイエローT4編成

一方、ライバルメーカーのバンダイも、やはり「ドクターイエロー」をJR東海・JR西日本の許諾の下、商品化しています(検査用気動車がドクターイエローに変身するというギミックで差別化しているようです)。

バンダイ VooV VL03 [キヤ95系検査用気動車~923系ドクターイエロー]

文房具はというと、調べた範囲ではトンボ鉛筆製のドクターイエロー商品はなく、代わりに立誠社という別のメーカーの「色えん鉄12本セット」にドクターイエローが含まれていました。

【新商品】色えん鉄 発売中! – 立誠社HPより

こちらもJR公式ライセンス商品です。どうやらJR以外の会社が商標登録しているといっても、車両を管理するJR各社がコントロールして、他メーカーでの商品化も可能にしているようで、ちょっと安心しました。

  

最後に、列車名ではありませんが「グランクラス」を紹介したいと思います。

「グランクラス」は特定の列車名ではなく、普通車、グリーン車よりさらに上位の車両・座席に与えられる名称です。飛行機のファーストクラスに相当し、発表当初は「スーパーグリーン車」と仮称されていましたが、2010年に「グランクラス」が正式名称となり、2011年の東北新幹線新青森開通に合わせて運行された「はやぶさ」にて営業を開始しました。

グランクラスには1回だけ乗ったことがありますが、豪華な座席に軽食・おつまみがついて各種ドリンクも飲み放題!仙台-東京の約1.5時間でビール、日本酒、スパークリングワイン、バーボンウイスキーを堪能しました。

商標登録も調べたところ、JR東日本の名義でしっかりと登録されていました。

文字商標・ロゴ商標ともに何と「上級旅客車による輸送」という役務を指定しています。他にも、グランクラスで提供される飲食物やアメニティ関連の商品役務もきちんと権利取得していますね。

グランクラスはコロナ禍以降、サービスの位置づけに苦戦しているようで、2022年11月現在、専任アテンダントサービスが提供されているのは「はやぶさ」、「かがやき」のみとなり、他の列車はシートのみの営業です。

一方、JR東海では新たに「上級グリーン車」の検討をするとのことです。新幹線の世界、商標とともにその変化から目を離せません。 

 

おわりに~鉄道商標の奥は深い!

新幹線の列車名について商標調査してみましたが、いろいろなことがわかるとともに、新たな疑問がでてきますね。脱線ネタの「商標とブルートレイン」や、新幹線以外の優等列車についてさらに深掘り調査しても面白いかもと思いました。

ちなみに今回の記事は、知財実務オンライン「第5回LIVEライトニングトーク」にて発表した『新幹線の列車名はどのくらい商標登録されているのか?』を基にしたものになります。

ぜひともライトニングトークもご覧ください。

 

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