知財の社内研修を実施したけど、受講者があまり理解していない気がする…社内研修動画を作成したけど、あまり見てもらえない…
そんな経験はありませんか?知財に関する研修は、内容が難しそうに見えることもあって受講者に敬遠されがちですよね。
今日はそんな経験をお持ちの皆様に、「グラレコ」というビジュアライズ手法の提案をさせてください!
社内研修の資料作りの場面でグラレコのテクニックを活用することによって、受講者の理解が深まったり、興味を引いたりすることができると考えています。
また、グラレコを描くことは難しいだろうと考えられている方に向けて、グラレコのコツについてもお伝えできればと思います。本記事を通してグラレコに興味を持たれましたら、ぜひグラレコにチャレンジしてみてください!
目次
ゲスト紹介
はるたろう:メーカー勤務、理系院卒、元プラントエンジニア(機械系)、現在は法務部。知財の仕事をほぼしていない弁理士。副業でグラレコを描くグラフィックレコーダーをしている。
Twitterアカウント:https://twitter.com/aiharu4k
過去作品掲載用アカウント:https://twitter.com/harutaro4g
1. そもそもグラレコって?
「グラレコ」とは、「グラフィックレコーディング」の略です。
グラレコの定義は明確に決まっているわけではなく、広い意味ではなにかしらの対象を絵などを用いてぱっとみて理解しやすいように簡潔にまとめたものだと言われています。
狭い意味では、セミナーなどをリアルタイムに絵などを用いてまとめていき、参加者に常に見えるような状態にして理解を深めたり、議論を活発にしたりとするために用いられる手法を指します。
本記事では、「セミナー、動画、本、記事などを1つのページ・用紙にイラストも活用してまとめる行為や、まとめた成果物」をグラレコとして扱いたいと思います。
例えば弁理士室伏先生のセミナーをまとめた以下のグラレコを見てみてください。
他にも、イーパテント野崎さんの動画をまとめた次のようなグラレコがあります。
<グラレコ元の動画>
これらを見てどう思いますでしょうか?
元のセミナー動画を見たことがなくても、なんとなく、どんなセミナーだったのか、どんな動画だったのかのイメージが沸いてきませんか?このように、セミナーや動画等の内容を一目でイメージしやすくする効果を持つのがグラレコです。
2. 知財 x グラレコを推す理由
知財の研修や学びの場面で、グラレコを活用することで得られるメリットについて、簡単にまとめてみました。
① 受講者の理解を定着させることができる
知財は専門的な知識が多いため、社内研修は必須ですよね。専門的な知識が多いがゆえに、知財部は様々な工夫をしてなるべく分かりやすい研修をこころがけているのではないかと思います。
しかし、知財研修の内容はその場で理解はできていても、少し経ったら記憶は薄れていく傾向にあると思います。そんなときに研修後にグラレコを受講者に配布すると、グラレコをきっかけに受講者にその内容を思い出させ、必要な知識の定着に役立てることができます。
② 動画の宣伝ができる
コロナを機に社内研修として動画を用意している知財部は多いのではないでしょうか。研修動画は時間を合わせる必要なども無いので便利ですよね。
しかし、意外と作成はしたもののあまり見られていないものもあると思います。知財研修はタイトルなどが固めのものも多く、つい敬遠してしまいがちな印象も受けます。
そんなときにパッと見て動画の内容がなんとなく分かるグラレコを用意していると「あ、こんな内容なのか。それなら見てみようかな。」という気にさせて、視聴回数の増加に繋がると思います。
使い方としては、グラレコを貼った社内メールを流して動画へのアクセスを促したり、「動画のサマリー」として動画掲載ページのTOPに掲載することで、再生を促す効果が期待できます。
③ 作成者が理解を深めることができる
社内研修からは離れますが、グラレコを描くことで描いた人自身の理解を深めるという効果もあります。
グラレコを描こうと思うと、セミナーや動画などの描こうとする対象をかなり集中してチェックする必要があります。まずその集中がグラレコを描く人の理解を深めます。
また、グラレコは描こうとする対象のうちの重要部分を自分で判断する必要があるので、必然的に内容を自分の中で整理することになります。これらの作業を通して、グラレコを描き上げるころには深くその対象を理解することができます。
加えて、完成後に自分でそれを見返すことでその対象の内容を思い出すことができますし、SNS等(発表者等の許可がある前提ですが)で公開してフィードバックを得ることで、更なる理解に繋げることができます。
3. だれでもできる!「グラレコ」描き方のコツ
グラレコを描いて公開していると、「グラレコってなんだか難しそうですよね。私は絵が下手なんですが、そんな私でもできるのでしょうか?」という質問をいただくことがあります。
結論から言うと、誰でもできる!と私は思っています。
その理由は色々ありますが、一番の理由は「グラレコはセンスではなく技術である」というところです。技術である以上、トレーニングによって誰でもできるようになると考えています。
よく使われる技術のうちのいくつかを簡単に紹介します。絵を見ていただくと分かりやすいかなと思いますので、コツをまとめたグラレコを先に投下しておきます。
①人の描き方
まずは人の描き方です。小さいころにノートに棒人間を登場させた方は多いのではないでしょうか?棒人間は棒人間で可愛いですよね。
ただ、棒人間だと動きが出しにくく、また少し可愛さに欠けるかなと考えています。そのため、上のグラレコにあるような、体に厚みを持たせた人を描くことを勧めます。
ちなみに私は「手足まる」タイプのユーザーです。
②アイコンの描き方
会社・書類・パソコンなどの実際に形があるものはもちろん、アイディア・管理・知的財産権などの「概念」であってもイラスト化し、アイコンで表すことができます。
アイコンのバリエーションがグラレコの質を左右するといっても過言では無いほどアイコンは重要です。基本的には自分が持つバリエーションの中からその状況に合ったアイコンを組み合わせてぺたぺた貼っていく、というスタンスになります。
アイコンのイメージが沸かないときは、googleの画像検索などで「〇〇〇 アイコン」と検索してみてください。イメージのヒントが得られると思います。
また、要素に分解できそうなものは要素に分解してみることも重要です。例えば、「商標の管理」なら「商標」アイコンと「管理」アイコンに分けて、それぞれを組み合わせることで表現することができます。
今回は知財に特化したアイコン集を作ってみました。自由に使っていただいて構わないので、色んなアイコンを真似して自分用にアレンジしてみてください。
③似顔絵の描き方
似顔絵はグラレコの華ですよね。似顔絵があることでそのグラレコがまわりを惹きつける力がぐっと強くなります。私はよく似顔絵を右上に配置しています。先ほどの私のグラレコを再掲します。
似顔絵こそセンスでしょ?と思われるかもしれませんが、個人的には似顔絵が最も技術が集まった部分ではないかと思っています。その技術について説明できればと思います。
まずは配置です。
「グラレコのコツ」で描いているように、まずは下書きで二重丸を描き、縦線と横線をクロスさせて引きます。
そのときの内側の丸と横線が交差する2点が目の場所であり、内側の丸と縦線が交差する下側の点が口の場所であり、その点と横線の中間ぐらいが鼻の場所となります。外側の丸と横線が交差する2点が耳の場所です。
次に各パーツの描き方です。
目はくっきり目、細目、たれ目、つり目の4つをメインにします。茶目っ気があるような人は横目で見るような目にしてもOKです。鼻は高目か普通かの2つがメインです。
口は口角が上がっている口をメインにして、特長的である場合はにんまり口や口角が下がっている口を使用します。
眉毛は少々特殊で、見た目をそのまま反映させるのではなく、その人の性格を反映させると似顔絵のキャラクター性が深まります。強気な人や勢いがすごい人は真ん中に向かって下がる眉毛、温和な人やおとなし目の人は真ん中に向かって上がる眉毛、それ以外は普通の眉毛を使用します。
次は髪の毛・追加要素です。
髪の毛は、前髪がそろっている場合、ツンツンしている場合などのパターンを抑えて、あとは見た特徴をそのまま描くことになります。他の追加要素として、眼鏡・マスク・アクセサリー・ほっぺがあります。これらは絵として出しておきますので、使えそうなら使ってみてください。
最後に服です。
服はマストではありませんが、その日ならではの特長ですので、私はなるべく描くべきだと考えています。Tシャツ、Yシャツ、ジャケット、パーカーあたりを抑えれば応用はできると思います。
以上が似顔絵の描き方です。
筆者はグラレコを描き始めるまで似顔絵というものを描いたことがありませんでした。むしろ、絵は苦手な領域だと自分で思っていたので、敬遠していました。
しかしグラレコの書籍を通して描き方が存在するのだということを知ってからは似顔絵を描くことが好きになりました。これからグラレコを始める方は、どうせできないと思わずに描き方に沿って一度チャレンジしてみてほしいと思います。
ちなみに私がグラレコの基礎を学び、今でも頻繁に参照する書籍は本園大介さんが書かれた「グラレコの基本」です。是非本屋さんで手に取ってみてください。
④ 構成
グラレコの構成はいくつかパターンがあります。基本的なパターンは左上→右下型で、知財研修の場合はほとんどがこちらを採用することになると思います。
左上にタイトルを、右上に似顔絵を描いて、余った部分を内容に応じて区切り、左上をスタート、右下をゴールにして研修の流れに沿って描いていきます。
⑤ 色
見やすいグラレコにするためには色も重要です。色の種類が多いとカラフルで綺麗になりますが、煩雑な印象を与えてしまいます。
そのため、なるべくメインで使用する色は3色ほどに抑えるべきだと思います。
私の場合だと文字色:黒、装飾:黄色、重要部分:青色という3色をベースとし、似顔絵やアイコン部分にのみイメージを持たせるためにカラフルにする、というスタンスにしています。
⑥ おまけ:使用アイテム
ときどき質問を受けるので、グラレコを描くときにどんなアイテムを使用しているかについてお伝えしておきます。なお、私は手書き派です。
- スケッチブック
- シャーペン
- 消しゴム
- プロッキー(太)<黒色>
- プロッキー(細)<青色、黄色、赤色、灰色、紫色、ピンク色>
- 定規
グラフィックレコーダーの中には i Pad を使用してデジタルで描かれている方も多くいらっしゃいます。(というか、デジタルの方が今は主流ですね。)
デジタルは以下のような魅力があります。
- 修正が容易にできる
- 線の太さを統一できる
- 下書きを一瞬で消せる
- 共有が簡単にできる
- 字が滲まない
ちなみになぜ私が手書き派なのかというと、手書きの温かみが好きであることと、スケッチブックにグラレコが溜まっていくのが好きであることの2点からです。
最終的に手書きかデジタルかは好みの問題になるので、色んな方法を試してベストなものを探してみてください。
4. グラレコ化すべきなのはどの部分?
グラレコしたい題材は決まりました。グラレコを描くコツについてもある程度理解しました。でも、そもそも題材のどの部分をグラレコとしてまとめていくべきなのでしょうか?
これに関しては、残念ながら明確なコツのようなものはありません。数をこなして慣れていくしかないかなと思います。ただ一つ言えるのは、「どの部分をグラレコにしても間違いではない!」ということです。
グラレコを描くときには、「題材の提供者はどの部分がもっとも伝えたかったところなのだろう?」ということを考えるようになります。しかし、題材の提供者からすると、題材のすべての部分が伝えたいところなのです。そして、提供者はアウトプットし終えたあとのその題材のすべての内容を一語一句覚えているということは意外とありません。
そのため、どの部分をグラレコにしても、提供者からすると「そうそう、それが言いたかったんですよ」という感想を抱くようになるのです。
実際、過去に何度か2時間以上の題材のものを部分的に切り取ってグラレコにして題材の提供者にお見せするといったことがありましたが、「言いたいことをグラレコにまとめてくれてありがとう!」と言われることが多く、「ここを載せてほしかった」という要望を後からされることはありませんでした。(単に言いにくかっただけかもしれませんが。)
それは私のまとめる能力のおかげではなく、グラレコ化した部分が提供者の言いたいところの一部になっていたからなのだろうと思います。
逆にいえば、そもそも「全てを網羅した完璧なグラレコ」は存在しません。
全てを網羅してしまったら分量が多すぎてぱっと見て分かるようなものにはならず、グラレコの良さが死んでしまいます。それに、聞いた話をイメージにするのに、全ての人が同じイメージを持つわけがないのです。
そのため、原理的に「全てを網羅した完璧なグラレコ」は存在しえないのだと私は考えています。そのあたりは割り切って考えることも重要です。
5. グラレコ、はじめませんか?
本記事では、知財分野でグラレコを活用するメリットとグラレコの描き方のコツについてお伝えしました。
知財関連のセミナー・動画などのコンテンツは、名作であるにもかかわらず日の目を見ずに眠っているというものが多い印象を受けます。それらの財産を眠らせたままにしておくのはもったいないと思いませんか?
グラレコを通して「見ようかな」という気を持たせ、視聴後にグラレコを通して理解を定着させられたら、グラレコを描く労力よりはるかに大きなリターンがあるのではないかと私は思うのです。
本記事を見て「グラレコを描いてみたよ!」という人は、是非Twitterなどで私、はるたろうにお声がけいただけると嬉しいです。
ひとりでもグラレコにチャレンジする人が増えて、グラレコを通して知財業界が活発になることを祈っています。