特許の基本を知って賢くビジネスを守ろう!気をつけたいポイントも解説

1. はじめに:特許とは何か?

現代のビジネスでは、技術革新が競争力の鍵となっています。その中で、特許は企業にとって技術力を守り、収益を生み出す重要な武器です。本記事では、特許制度の基本から賢く活用するための方法までを詳しく解説します。

特許とは、新しい有用な発明をした人に対して、その発明を一定期間独占的に使用できる権利を与える制度です。

もし発明者に独占権が与えられなければ、他者に模倣されることを恐れ、発明を秘密にしてしまうかもしれません。その結果、価値ある発明が社会に活用されず、発展を阻害する恐れがあります。

そこで国は、発明者が新しい有用な発明を公開する代わりに、20年間その発明を独占的に実施できる権利を与える仕組みを整えています。

この考え方は、特許法第1条に明記されています。

特許法第1条

「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」

このように、特許とは発明を公開することへの対価として、独占的に使用できる権利を提供する制度です。

なお、保護対象となる発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています(特許法第2条)。

実用新案との違い

知的財産権の一つに「実用新案権」がありますが、特許とは保護対象、審査手続き、保護期間の面でいくつかの重要な違いがあります。

まず、実用新案権は、主に「物品の形状、構造、または組み合わせ」に関する小さな改良を保護する制度です。特許が高度な技術革新を伴う発明を対象にしているのに対し、実用新案は日常的な製品に加えられる使いやすさの改善や機能性の向上が主な対象です。例えば、既存の製品に小さな工夫を加えて便利にしたケースが該当します。具体例として、「新型のハサミの形状改良」などが挙げられます。

また、実用新案は方法や製造プロセスの発明を対象としません。特許が広く技術的なアイデアやプロセスを保護するのに対し、実用新案は物品の形状や構造に特化しています。

審査手続きにおいても違いがあり、特許は新規性や進歩性についての実体審査が必要ですが、実用新案は実体審査を行いません。形式的な要件を満たせば、約6か月以内で登録が可能です。ただし、実用新案権を行使するには、他者に対する権利行使の前提として技術評価書の取得が必要です。

簡単に言うと、特許権は特許に値するかの審査を経てから登録(権利化)されるのに対し、実用新案権はいったん仮で登録してしまい、実際に権利行使をする際に審査を受ける(ここで権利に値しないと判断されたら権利行使できない)という制度になっています。

保護期間にも差があります。特許の保護期間が最長20年であるのに対し、実用新案は最長10年となっています。

2.特許取得の目的と3つの大きなメリット

特許取得の主な目的は、発明を独占的に保護し、競争優位性を確保することです。特許権を得ることで、他者が無断で発明を使用、製造、販売することを防ぎ、ビジネス上の収益や市場での優位性を最大限に活用することができます。

特許を取得することには、以下の主要なメリットがあります。

① 競合他社からの模倣を防ぐ

特許権は、自社の技術を守るための最も効果的な手段の一つです。特許を取得すれば、その技術に対して独占的な権利を持つことができ、他者が無断でその技術を使用することを法的に防止することができます。例えば、他社が自社の特許技術を使って製品を製造・販売した場合、特許権者は「差止請求権」を使い、侵害行為の停止を求めることが可能です。

また、既に損害が発生している場合には、「損害賠償請求権」を行使し、金銭的な補償を求めることもできます。例えば、他社が特許技術を無断で利用し、その技術を組み込んだ製品を市場で販売した場合、特許権者は販売停止と共に、販売によって発生した利益分の損害賠償を請求することができる場合があります。

また、特許出願を行うとその技術内容が公開されるため、他社が同じ技術分野に参入する際の一定の抑止力が期待できます。

② ライセンス供与による収益化と技術普及の戦略

特許権は、自社だけでなく他者にも技術を使用させることで利益を生み出すことができます。ライセンス契約を通じて、他者に特許技術の利用を許可し、ロイヤリティ収入を得る仕組みです。これにより、特許は知的財産を収益源として活用する有力な手段となります。

有名な例として、Microsoft社の特許ライセンス事例が挙げられます。同社は、自社の特許を活用して主要なAndroidデバイスメーカーとライセンス契約を結び、Android市場の70%以上との関係でライセンス収入を得ていると見られています。※1

一方で、トヨタ自動車では異なるアプローチがみられ、車両電動化技術に関する特許を無償で提供しています。具体的には、ハイブリッド車(HV)開発で培ったモーターやパワーコントロールユニット(PCU)、システム制御に関する約2万3740件の特許を、2030年末まで無償で提供することを発表しています。この取り組みは、電動車の普及を促進するためのものです。※2

【※1】https://en.m.wikipedia.org/wiki/Patent_monetization

【※2】TOYOTA HPより トヨタ自動車、ハイブリッド車開発で培ったモーター・PCU・システム制御等車両電動化技術の特許実施権を無償で提供

③ 企業価値と信頼性の向上

特許は、企業の技術力を証明する有力な手段です。特許の取得は、その技術が新規性と高度な技術力を持つこと(既存の技術に対して進歩性があること)を国が認めた証拠であり、投資家や取引先に対して企業の信頼性を高める材料となります。これにより、企業価値が向上し、新たなビジネスチャンスの創出や、取引先との関係強化につながります。

さらに、特許を持つ製品は消費者やビジネスパートナーに対し、品質や独自性の証として受け入れられ、競争市場での優位性が強化されます。

日本国内でも、スタートアップが特許を活用して競合他社との差別化を図り、海外市場に進出した成功事例が増えています。

例えば、株式会社ユーグレナは、世界で初めて食用のユーグレナ(微細藻類)の大量培養に成功し、栄養問題や環境問題への貢献が期待されています。ユーグレナ社は、100件以上の特許を出願しており、ユーグレナを粉末にして利用する技術などで特許を取得しています。

一方で、培養技術については特許を出願せず、企業秘密として保持しています。これは、もし他社が模倣しても特許侵害を主張しにくいという点を考慮し、特許ではなく秘匿によって競争優位を維持するためです。このように、戦略的に特許と秘匿を使い分けています。ユーグレナ社は、国連世界食糧計画と連携してバングラデシュでの食料支援を行うほか、マレーシアでバイオ燃料製造プラントの建設も進めています。このような取り組みにより、国内外からの注目も高まっていると言われています。※3, 4

【※3】特許庁HPより 「イノベーションに寄与した日本の発明」の紹介>> 「微細藻類の培養技術」(株)ユーグレナ 【※4】株式会社ユーグレナ ホームページ ニュースリリース

特許取得に関する調査結果

中小企業を対象としたアンケート調査(平成30年度)によると、特許取得の理由として『他社の参入を防ぎ市場を確保する』(68.7%)や『模倣品の排除』(64.2%)が上位に挙げられており、特許が競争優位を確保する手段として認識されていることが確認されています。※5

また、特許取得の効果としても「他社の参入を防ぎ、市場を確保する」(54.4%)や「模倣品や類似品を排除する」(52.0%)が高く評価されており、さらに**「技術力の証明や信用力の向上」(49.7%)や「ブランド力の強化」(36.8%)など、特許が企業価値を向上させる手段としても広く活用**されていることがわかります。※6

【※5】 知的財産権を保有する目的についての調査結果 (p86)

【※6】 知的財産権を保有する効果についての調査結果 (p88)

このように、特許取得には多くのメリットがありますが、その反面、特許取得には注意すべき点もいくつかあります。次に、特許取得の際に気を付けたいポイントを見ていきましょう。

3. 特許取得で失敗しないための4つの注意点

特許取得にあたっては、以下の点に注意が必要です。特許制度をしっかりと理解し、自社のビジネスや技術に適した形で賢く活用することが重要です。

① 特許は永続的な権利ではない

特許権は、原則として、出願から最大20年間の独占権です。その期間が過ぎると、特許は誰でも自由に使用できるようになります。つまり、特許は永久的に独占できるものではなく、期間限定の権利であることを理解しておく必要があります。

② 日本で取得した特許は日本国内でのみ有効

日本で取得した特許は日本国内でのみ効力を持ちます。そのため、もし外国で同じ技術が模倣された場合、日本の特許ではその行為を止めることはできません。これを防ぐためには、対象とする国でも特許を取得する必要があります。国際的にビジネスを展開する場合は、複数の国で特許を取得することを検討するべきです。

③ 金銭的負担が大きく、時間がかかる

特許取得には、一般的に特許庁に支払う料金(印紙代)が20万円ほどと代理人弁理士に支払う手数料が60万円ほどで合計約80万円の費用がかかります。

また、申請してから審査を経て登録されるまで数年かかることもあります。そのため、特許を取得する際には、コストや時間を考慮し、費用対効果を慎重に判断することが大切です。

特許取得にかかる費用については、こちらの記事で詳しく解説していますので、よろしければこちらもご覧ください。

特許取得にかかる費用を徹底解説!出願から維持までステップに沿ってコストを理解しよう

④ 世間に公開される

特許を取得する際には、発明内容が世間に公開されることになります。もし発明を公開したくない場合、特許を取る代わりに情報を秘匿して『営業秘密』として保護する選択肢もあります。有名な例として、コカ・コーラのレシピが挙げられます。※7

コカ・コーラの組成・製造方法は社内ノウハウとして秘密が守られ、その味は他社の模倣を許していません。

【※7】『レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い? 特許・知財の最新常識』新井 信昭 著

4. 特許制度の課題

特許制度にはいくつかの課題があります。特許庁や経済産業省はこれらに対応するため様々な施策を実施していますが、特許取得において依然として解決すべき問題が残っています。以下に主な課題を整理します。

① 高額な費用負担

特許取得には、出願費用、審査請求料、維持費用などがかかり、取得には平均して約80万円ほどかかります。この費用負担が特に中小企業やスタートアップにとって大きなハードルとなっており、資金力のある大企業に特許出願が集中する傾向があります。

対策の一つとして、特許庁や地方自治体は、中小企業向けに補助金や支援制度を展開しています。

② 特許審査の迅速化と質の向上

特許制度の目的は、有用な発明を広く社会に提供し、産業の発展に寄与することです。しかし、特許審査の遅延や質の維持が課題となる場合、制度本来の役割が十分に果たせなくなるリスクがあります。

特許庁は審査の迅速化に向けた取り組みを強化しており、2014年度の権利化までの平均期間が15.2か月だったのに対し、2023年度には13.8か月にまで短縮されています(参考:特許行政年次報告書2024年版)。

しかし、世の中の変化のスピードはどんどん加速しており、審査のスピード向上と質の両立は、依然として重要な課題とされています。

③ 海外展開の難しさ

日本で取得した特許は日本国内でしか効力を持たないため、海外で技術を保護するためには各国で別途特許を取得する必要があります。これには多大な時間とコストがかかるため、国際展開を図る企業にとっては特許戦略の構築が重要です。

④ AIやデジタル技術への対応不足

AIやデジタル技術の急速な発展に伴い、従来の特許制度がこれらの新技術に十分対応できていない部分があります。AIによる自動発明ビッグデータを活用した技術に対する特許の適用範囲は、まだ不透明な部分が多く、これに対応するための制度改正や新たな解釈などが求められています。

5. 特許取得の現状

5.1. 特許登録数と出願状況

日本の特許登録件数は年間約17万件で推移しており、実用新案の登録は年間約5,000件と少数です。特許出願は高額な費用がかかるため、主に資金力のある大企業が多数を占めています

5.2. 大企業と中小企業の特許出願比率

特許出願の約82.4%が大企業によるもので、中小企業の出願は**約17.6%**にとどまっています(行政年次報告 p50)。

中小企業の中にも特許活動に積極的に取り組む企業が増加していますが、限られたリソースや知識の不足といった課題に直面し、特許取得が難航する場合も少なくありません。

中小企業向けのサポート

特許庁や地方自治体は、中小企業向けに様々な支援を提供しています。例えば、特許出願費用の補助制度や、知的財産に関する専門アドバイザーの派遣無料での特許検索支援などが代表的です。また、特許の権利化にかかる審査請求料や維持費の減免措置もあります。これにより、中小企業が少ないリソースでも特許を活用できる環境が整いつつあります。

「知的財産推進計画2024」では、地域における中小企業の知財活用強化が重点的に推進されており、特許取得を通じた技術革新と地域経済の発展が期待されています。※8, 9

【※8】 行政年次報告 p67-69 知的財産推進計画2024 (PDF)

【※9】 特許庁 中小企業支援施策に関する報告

むすび

特許取得は、技術を守るだけでなく、企業の成長を支える重要な戦略となります。成功事例が示すように、特許を活用して競争力を高めることが持続的な成長に繋がります。

特に中小企業やスタートアップにとって、特許は市場で優位性を確立する武器となります。国や自治体の支援を活用し、特許をビジネスに賢く活かす戦略をぜひ検討してみてください。

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