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特許と実用新案の違いとは?費用・期間・メリットを徹底解説

1. はじめに:特許と実用新案の基礎知識

1-1. そもそも「知的財産権」とは?

「知的財産権」とは、人間の知的な創作活動によって生み出されたアイデアやデザイン、ブランドなどを保護する権利の総称です。独自の工夫を施した製品やサービスはビジネス上の大きな強みになりますが、模倣されてしまうと差別化の意味が薄れてしまいます。そこで役立つのが知的財産権であり、代表的なものとして特許権実用新案権意匠権商標権などがあります。

なかでも「技術的なアイデアを権利化したい」と考える場合に最初に浮かぶのが、特許権実用新案権でしょう。一見似ている両制度ですが、保護対象や取得手続、費用、存続期間など多くの違いがあります。本記事では特許と実用新案の特徴を整理し、「自社のビジネスにはどちらが向いているか」を考えるためのヒントを提供します。

1-2. 特許と実用新案の位置づけ

  • 特許
    「自然法則を利用した技術的思想の創作」のうち高度なものを保護する制度です。物品の構造だけでなく、方法、製造工程、ソフトウェア(プログラム)、化学物質など、幅広い発明を対象とします。審査を経て登録されるため、権利が成立すれば強い排他権が得られるのが特徴です。
  • 実用新案
    物品の形状・構造・組み合わせ
    に関する考案を保護する制度です。特許と比べるとハードルは低く、出願から数か月という短期間で登録されますが、方法やプログラムそのものは対象外です。実体審査を行わない分、権利行使時には注意点があります。

1-3. この記事のゴール

この記事では、「特許と実用新案の違い」を6つの主要ポイントに沿って解説し、それぞれのメリット・デメリット、実際に活用された企業事例などを紹介します。特許や実用新案が初めての方でもイメージしやすいようにまとめていますので、読み終えたときには「自社に合った選択肢」をより具体的に考えられるようになるはずです。

2. 特許と実用新案は何が違う? 6つの主要ポイント

2-1. 保護対象の範囲

  • 特許
    発明の保護範囲が非常に広く、「物の構造・形状」だけでなく、「方法」「製造工程」「ソフトウェア(プログラム)」「化学物質」なども対象です。たとえば新たな製造方法や画期的なアルゴリズムがある場合、特許出願が適しています。
  • 実用新案
    物品の形状・構造・組み合わせ
    に限定されています。方法やプログラムは保護対象外のため、文房具や日用品の構造改善などモノのかたちに関わるアイデアに特化した制度といえます。

2-2. 審査の有無と手続きの流れ

  • 特許
    出願後に出願審査請求が必要で、審査官が「新規性」「進歩性」を厳しくチェックします。合格すれば特許として登録。審査請求料を要し、審査で拒絶理由通知が来ると意見書や補正書で対応するなど、手続きはやや煩雑ですが、審査を通過した特許は強い権利として認められます。
  • 実用新案
    書類の形式審査のみで登録され、実体審査は行いません。つまり、新規性や進歩性があるかどうかは登録時点ではチェックされず、短期間で権利化できるのが大きな特徴です。後述しますが、権利行使時には別途「技術評価書」の取得が必要になるなど、事後のリスク管理が求められます。

2-3. 権利化までの期間

  • 特許
    出願から特許権が成立するまで、1~2年以上かかるのが一般的です。審査請求後、拒絶理由がある場合は対応に時間がかかります。なお、早期審査制度を活用すれば、数か月~1年ほどで特許査定が得られる可能性があります。
  • 実用新案
    書類不備がなければ、2~6か月程度で登録されるのが通常です。早ければ2か月前後で権利化できるケースもあります。新製品の発売に合わせて「登録済み」の状態をアピールしたいときなど、スピード重視の場面で選ばれることがあります。

2-4. 費用

特許にかかる主な費用

出願料・審査請求料・代理人報酬などが合計すると実用新案より高くなりやすいです。とはいえ、審査を経て得られる強力な権利は、将来的にビジネスへ大きく貢献する可能性があります。

  • 出願料:電子出願の場合は14,000円
  • 審査請求料:1件あたり138,000円+請求項加算(請求項10個で計178,000円)
  • 特許料(登録料):第1~3年分を一括納付すると12,900円+請求項加算(請求項10個で計21,900円)
  • 合計の目安:請求項が10個程度の案件で、出願~設定登録時までの特許庁への支払いは20万円前後。さらに弁理士事務所へ依頼する場合は、明細書作成費や審査対応費などが加わり、数十万円規模になることが少なくありません。

特許の費用についてより詳しくはこちらの記事もご覧ください。

実用新案にかかる主な費用

出願料が中心となり、審査請求料は不要です。一時的なコストを抑えるには向いています。ただし、権利を行使する際の技術評価書請求など、追加で費用が発生する場合もある点に留意しましょう。

  • 出願料:電子出願の場合14,000円
  • 登録料(第1~3年分):約6,300円+請求項加算(請求項10個で計9,300円)
  • 審査請求料:不要
  • 合計の目安:請求項10個程度なら2万円前後で登録まで完了する可能性があります。ただし、弁理士事務所へ依頼する場合は、別途明細書作成費等で数十万円かかることがあります。
  • 技術評価書:第三者に権利行使する場合は特許庁に「実用新案技術評価請求」を行い、42,000円+請求項加算(請求項10個で計52,000円)の手数料が必要です。

注:ここで挙げた金額は、執筆時点での特許庁手数料(印紙代)を概算したものです。出願内容や請求項数、今後の制度改正などによって変動する可能性があるため、正式な金額を確認する際は特許庁HPや専門家への相談をおすすめします。

2-5. 存続期間

  • 特許
    出願日から最長20年。医薬品などを除けば通常20年で満了します。年ごとの特許料(年金)を支払って維持することができます。
  • 実用新案
    出願日から最長10年。特許より短く、年金を支払い続ければ10年まで維持可能です。長期的にコア技術を守りたい場合は特許の方が有利といえるでしょう。

2-6. 権利行使の安定性・強さ

  • 特許
    特許庁の審査を経た「実体のある発明」であるため、権利が有効と認められやすく、模倣品に対する抑止力が高いです。無効審判を請求されても、審査過程で新規性・進歩性が認められたという裏付けがあるので、権利行使の安定感が高いといえます。
  • 実用新案
    登録時点では新規性・進歩性がチェックされないため、第三者に権利行使する際には「技術評価書」を提示することが法律で義務化されています。評価書で否定的な判断が下された場合、実質的に権利行使が困難になります。権利が実際に有効かどうかは権利行使をする段階で明らかになるため、権利の安定性や権利行使時のリスクは特許より高いです。

3. 実用新案のメリット・デメリット

3-1. メリット

  1. 低コストで取得しやすい
    審査請求料が不要で、出願から登録までの庁費用(印紙代)が抑えられます。中小企業や個人事業主でも取り組みやすい制度です。
  2. 権利化までが早い
    数か月で登録が完了するため、製品発表や展示会のタイミングに合わせて「実用新案登録第×××号取得」とアピールしやすいです。
  3. 物品のちょっとした改良アイデアでも一旦登録される
    形式審査のみで登録されるので、先行技術との類否が登録前に詳しく審査されることはありません。

3-2. デメリット

  1. 権利行使には技術評価書が必須
    実体審査を省略した分、行使前に特許庁の評価を受けなければならず、否定されると権利の価値は大きく損なわれます。
  2. 保護範囲が限定的・存続期間が短い
    物品形状以外(方法など)のアイデアは保護できませんし、保護期間も最大10年です。
  3. 特許を狙えるレベルの発明を逃す恐れ
    「これは小さい改良だから無理だろう」と思い込んで実用新案に流れると、実は特許が取れたかもしれない発明を安く早く済ませてしまい、長期的な独占を得られない可能性があります。

4. 特許のメリット・デメリット

4-1. メリット

  1. 安定した強い権利が得られる
    新規性・進歩性を審査で確認されているため、模倣品に対して強力な排除効果を持ちます。
  2. 方法やソフトウェアなど幅広い発明を保護
    物の構造に限らず、製造工程やプログラムなどにも対応可能です。
  3. 最長20年の長期保護
    長く使い続けるコア技術やロングセラー商品を守るには大きなメリットです。
  4. 意外と「小発明」でも取れるケースがある
    進歩性の評価は想像以上に幅があり、専門家のサポート次第で特許を狙える発明は少なくありません。

4-2. デメリット

  1. 費用負担が大きい
    審査請求料や代理人費用など、実用新案よりも大幅に高額になることが多いです。
  2. 権利化まで時間がかかる
    通常は1~2年を要し、ビジネスの展開スピードと合わない場合も。早期審査制度の活用で短縮は可能ですが、実用新案ほどではありません。

5. 実際の使い分け事例とポイント

5-1. 実用新案で成功した例

  1. シャチハタのネーム印
    印面にインクを含浸させる浸透印の構造(バネ仕掛けで未使用時に印面を収納し、周囲を汚さない仕組み)を実用新案で保護していました(実用新案登録第1120473号)。出願から短期間で権利を取得できたため、模倣品を牽制しつつ市場を大きく開拓。現在は存続期間満了で権利は消滅していますが、「Xスタンパー」シリーズ(通称:ネーム印)は累計1億本を超えるヒット商品となっています。
    シャチハタ公式サイト
  2. キングジム「ドッチファイル」
    左右どちらからでも開けられる独自のとじ具構造で差別化し、実用新案登録第1247414号で保護。低コスト・短期間での権利化が模倣防止に貢献したとされています。
    キングジム製品ページ
  3. 花王「クイックルワイパー」
    ヘッド部分の2軸ジョイント構造などを実用新案登録第2055025号で保護。新製品投入のタイミングに合わせて速やかに権利を取得し、類似品の市場流入を抑えました。
    花王公式サイト

5-2. 特許で成功した例

  1. パイロット「フリクションボール」
    海外展開にも活用し、長期にわたる競争優位を実現。「フリクションボール」は、筆記した文字をボールペン自体の摩擦部でこすると熱変化によって透明化し、“消せる”という新発想を形にしたボールペンです。温度応答型のインキ技術とペン本体構造が特許で保護(特許第3460001号、特許第4312987号等)されており、模倣品の参入を大きく抑制。国内外で累計数億本の売上を誇る大ヒット商品となりました。
    パイロット公式サイト

5-3. どちらを選ぶかの判断ポイント

  • 製品や技術のライフサイクル
    流行が短期で終わる商品なら実用新案のスピードがマッチするかもしれません。一方、長期的に使い続けるコア技術なら特許が有利。
  • コストと事業効果のバランス
    初期費用を抑えたいなら実用新案のメリットは大きいですが、特許の方が長期的な収益や差別化を生む可能性も高いです。
  • 「小さい発明」でも特許を狙えるか
    安易に「無理」と決めつけず、専門家へ相談して進歩性を検討する価値があります。

6. 実用新案の注意点:安易に流れないために

6-1. 「実体審査なし」の落とし穴

実用新案は形式審査のみで登録できるため、実際には先行技術と重複している場合でも一時的に権利化されてしまいます。権利行使時には技術評価書の提示が必須で、その評価内容によっては権利の行使が難しくなる可能性があります。

6-2. 実用新案が得になるシチュエーション

  • 予算を最低限に抑えたい場合
    特許出願にはどうしても数十万円規模のコストがかかるため、まず実用新案で「最低限の権利化」を図る戦略があります。
  • 製品寿命が極めて短い場合
    シーズン商品など、1~2年で市場から消える前提の製品なら、数か月で権利を取得するメリットは大きいです。
  • とりあえず「登録済み」を早めに示したい
    展示会や商談のタイミングに合わせて、権利取得の既成事実を作るために実用新案を活用する例もあります。

6-3. 切り替え制限

実用新案を取得してから「やっぱり特許にしたい」と思っても、手続きやタイミングによっては切り替えが認められないことがあります。技術評価書を請求してしまうと特許への移行ができなくなるなど、ルールが複雑なので、当初から特許を目指す可能性があるなら十分に検討しておきましょう。

7. 費用対効果と将来的なリスク:どちらを選ぶべきか?

7-1. 「費用さえクリアできるなら特許が有利」な理由

  1. 強い排他権を長期間維持できる
    審査を経ているため、無効化されにくく、模倣品排除の抑止力が高いです。存続期間も20年と長く、ロングセラー商品や基盤技術を守るのに適しています。
  2. 保護対象が広く、将来の事業拡張にも対応しやすい
    特許は物理的な形状だけでなく方法やプログラムも守れるため、技術の発展や応用にも柔軟に対応できます。
  3. 実は「小さな工夫」でも特許取得できる可能性がある
    素人目には大きな発明に見えなくても、先行技術調査と進歩性の検討次第では特許要件を満たす場合があります。結果的に安易に実用新案へ流すより大きなメリットを得られるかもしれません。

7-2. 早期審査制度や補助金の活用

  • 早期審査制度
    中小企業や個人事業主など一定の要件を満たすと、審査を優先してもらえる仕組みがあります。実用新案ほどではないにしても、特許権を早めに取得する道が開かれます。
  • 補助金や助成制度
    各自治体や支援機関による出願費用の補助・助成を活用することで、特許取得にかかるコストを低減できる可能性があります。

8. まとめ:結局、特許か実用新案か?

特許と実用新案では、保護対象、審査の有無、権利化期間、費用、存続期間、権利行使の強さなど、多くの面で違いがあります。

  • 特許はコストと時間がかかる反面、審査を通過した強力な排他権を得られ、最長20年という長期保護が可能
  • 実用新案は短期間・低コストで登録できるメリットがある一方、後から無効リスクが高く、保護対象や存続期間も限定的

もし初期費用や審査期間の問題をクリアできるのであれば、特許を取得する選択肢も検討してみる価値があります。自分では「ちょっとした改良」と思えても、専門家による先行技術調査や明細書作成次第では特許として認められる可能性も十分あります。将来にわたって自社のビジネスを守り、成長させるためにも、長期的視野でどちらの制度を活用すべきかを検討してみてください。

なお、本記事で紹介した情報は一般的なガイドラインです。具体的な事例や出願手続きの詳細については、最新の法律や特許庁の動向を確認するとともに、専門家(弁理士など)にご相談いただくのがおすすめです。

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