特許は事業者にとって重要な資産です。新しい技術的アイデアを保護し、競争力を維持するために特許は欠かせません。しかし、特許権を取得しただけでは十分ではありません。特許権を維持するためには定期的な「特許年金」の支払いが必要です。
特許年金とは、特許権を維持するために毎年支払う費用のことです。特許を取得すると、その権利を維持するために一定の期間ごとに年金を納付しなければなりません。特許年金の支払いを怠ると、特許権が失効してしまうため、事業者にとって非常に重要な手続きとなります。
目次
1. 特許年金の基本知識
特許年金とは
特許年金とは、特許権を維持するために必要な費用です。正式には「特許料」と呼ばれますが、一般的には「特許年金」として知られています。特許を取得した後、その特許権を存続させるためには、特許庁に対して毎年年金を納付する必要があります。この年金は、特許権が有効にしておきたい限り支払い続けなければなりません(最大で出願日から原則20年間)。
特許年金の目的は、特許権者が特許を維持する意思を確認し、不要な特許権が残るのを防ぐことです。特許権を持ち続けるには一定の費用がかかるため、権利を維持する価値があると判断された特許権のみが残る仕組みです。
特許年金の額と計算方法
特許年金の額は、特許が維持される年数によって変動し、特許を維持する年数が長くなるほど、年金額は増加します。これは、特許権者が特許の維持に対する真剣な意思を持っていることを確認するためです。
特許年金の計算は、以下の表のように行われます。特許権の維持年数ごとに設定された料金が適用されます。
項目 | 金額 |
第1年から第3年まで | 毎年 4,300円+(請求項の数×300円) |
第4年から第6年まで | 毎年 10,300円+(請求項の数×800円) |
第7年から第9年まで | 毎年 24,800円+(請求項の数×1,900円) |
第10年から第25年まで | 毎年 59,400円+(請求項の数×4,600円) |
※ 平成16年(2004年)4月1日以降に審査請求をした出願についての特許料
※ 第21年から第25年については、延長登録の出願があった場合のみ
遅延納付の追加料金(割増特許料)
特許年金は支払い期限までに納付しなければ特許権が失効してしまいますが、支払い期限を過ぎてしまった場合であっても、納付期限経過後6ヶ月(追納期間)以内であれば、遅れて支払いが可能です。ただし、追加の遅延納付料金(割増特許料)として倍額の料金になります。
2. 特許年金の支払い方法
年金納付の流れ
特許年金の納付手続きは以下の流れで行います。
- 納付期限の確認: 納付期限を確認し、期限内に支払いを行います。納付期限を過ぎると(かつ上記の追納期間内にも納付しないと)、特許権が失効してしまいますので注意が必要です。なお、特許庁から年金納付期限のリマインドは送られてこないため、自分で期限管理をしておく必要があります。納付期限は、特許権の「設定登録年月日」に納付済年分を加えた日になります。たとえば、設定登録日が「2020年5月2日」であれば、第5年目分の年金納付期限は「2024年5月2日」(2020年 + 納付済年分である4年 = 2024年)になります。
- 特許料納付書の提出: 特許料を納付する際には原則として必ず「特許(登録)料納付書」を特許庁へ提出しなければなりません。提出方法は、書面または電子出願ソフト(専用ソフト)を利用する方法がありますが、一般の方は書面で提出する方が簡便です。書面にて提出する場合は、特許庁の窓口に直接提出するか、郵送します。また合わせて、特許料を下記の表のいずれかの方法で納付する必要があります。さまざまな納付方法がありますが、一般の方は「1. 特許印紙」と「2. クレジットカード」のどちらかの方法が、最も簡便かつ現実的です。
- 年金領収書が届く: 特許年金の納付手続きに不備がなければ、特許庁にて権利維持の記録がされ、その後特許庁から年金領収書の通知が届きます。納付書を紙で提出した場合は、提出してから約1.5ヶ月前後で年金領収書が届きます。
特許年金(特許料)の納付方法の種類
納付方法 | 概要 | 書面 | オンライン | 特徴 |
1. 特許印紙 | 特許(登録)料納付書に特許印紙を貼り付けます。特許印紙の購入方法はこちらを参照。 | ○ | × | 事前手続がないため、特許(登録)料納付書の提出が迅速に行えます。 |
2. クレジットカード | 「3Dセキュア」登録済のクレジットカードにて納付を行います。詳細はこちらを参照。 | ○※ 特許庁窓口で手続する場合のみ可能 | ○ | クレジットカードの3Dセキュア登録が必要です。 |
3. 予納 | 特許庁に予納台帳を開設し、そこから必要な金額を引き落とします。 | ○ | ○ | 特許庁に開設した予納台帳に納付する見込み金額を予め預け入れておくことで、いつでも手続をすることができます。 |
4. 現金納付 | 特許庁専用の振込用紙を使って、銀行へ入金します。 | ○ | × | 料金を振り込んだ証明書(納付済証)を特許庁へ提出する必要があります。 |
5. 電子現金納付 | Pay-easy対応のネットバンクまたはATMで入金します。 | ○※ 事前手続をするために、電子出願ソフトが必要 | ○ | 納付のつど電子出願ソフト上で納付番号を取得する必要があります。 |
6. 口座振替 | 銀行口座から必要な金額を引き落とします。※ 自動的に引き落としはされません。 | × | ○ | 銀行口座に必要な金額を預け入れておくことで、いつでも手続をすることができます。 |
特許(登録)料納付書の様式
引用元: https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/youshiki_kisaihouhou.html#1_2
年金領収書の見本
引用元: https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/kenri_iji_nagare.html#b
特許年金の納付手続きに不備があった場合
特許年金の納付手続きに不備があった場合には、その不備の程度に応じて、特許庁から「納付書補充指令書(年金)」や「却下理由通知」が届きます。
「納付書補充指令書(年金)」が届いた場合には、指令書の指示にしたがって不備を補充(訂正)すればリカバリーが可能です。
3. 年金管理の仕方
効果的な管理方法
特許年金の管理は、特許権の維持において非常に重要です。特許年金の支払い漏れを防ぐためには、以下のような管理方法を取り入れることが推奨されます。
- スケジュール管理: 特許年金の納付期限をGoogleカレンダーなどに記録し、リマインダーを設定することで支払い漏れを防ぎます。
- 専用ツールの利用: 特許年金管理の専用ツールやソフトウェアを利用することで、効率的に管理が可能です。これにより、複数の特許権を持つ企業でも一元的に管理できます。
特許年金管理の専用ツールの例
- 特許(登録)料支払期限通知サービス: 特許庁が提供する無料の期限通知システムです。管理できる案件数が最大50件までという制限がありますが、アカウント登録後に年金期限管理をしたい特許番号を登録しておくと、期限前にリマインドのメールを受け取ることができます。なお、特許年金だけでなく、商標登録や意匠登録の更新期限管理もできます。
外部業者の利用
特許年金の管理を専門業者に委託する方法もあります。特許事務所や専門の管理業者に依頼することで、手続きのミスや漏れを防ぎ、安心して特許権を維持することができます。多くの場合、期限管理だけでなく、年金納付手続の代行も依頼できるので、自分でやる手間を削減したり、手続きの正確性を担保するには最適な方法です。
以下は、外部業者を利用するメリットと注意点です。
- メリット:
- 専門知識: 専門業者は特許年金の管理に関する豊富な知識と経験を持っているため、確実な手続きを行うことができます。
- 手間の削減: 業務を委託することで、社内リソースを他の重要な業務に集中することができます。
- 注意点:
- コスト: 専門業者に依頼するための費用が発生します。費用は専門業者によって異なりますが、概ね1回の年金納付あたり1万円前後の費用になることが多いです。コストと効果を比較検討することが重要です。
- 依存リスク: 全ての管理を外部に任せると、万が一のトラブル時に自社での対応が難しくなる可能性があります。自社でも定期的な確認を行い、管理状況を把握しておくことが必要です。
4. 特許年金に関する注意点
特許年金の納付や管理にはいくつかの注意点があります。これらをしっかりと把握しておくことで、特許権の維持に関するリスクを最小限に抑えることができます。
支払い漏れ防止策
「3. 年金管理の仕方」の章と重なりますが、特許年金の支払い漏れは特許権の失効につながるため、確実な防止策を講じることが重要です。
- リマインダーの設定:
- 特許年金の支払い期限を事前に通知するリマインダーを設定します。カレンダーアプリやタスク管理ツールを活用し、数ヶ月前から通知を行うことで支払い忘れを防ぎましょう。
- スケジュール管理:
- 特許権ごとに支払いスケジュールを作成し、一元的に管理します。期限のリマインダー通知を見逃さないように、担当者が定期的に確認する仕組みを整えましょう。
- 担当者の明確化:
- 特許年金の管理を担当するスタッフを明確にし、その役割と責任を明確にします。担当者が変更になった場合もスムーズに引き継ぎができるよう、管理手順を文書化しておきます。
権利維持費用の予算化
特許年金の支払いは、企業の経費として適切に予算化することが重要です。
- 長期的な視点での予算管理:
- 特許権の維持にかかる費用を長期的に見積もり、予算を確保します。特許年金は年々増加するため、将来のコストを見越して計画を立てることが必要です。
- 経営計画への組み込み:
- 特許年金の費用を経営計画に組み込み、定期的に見直します。予算オーバーを防ぐため、特許権の価値と維持費用をバランスよく評価しましょう。
特許維持の戦略
特許をどのように維持するかについての戦略を立てることも重要です。全ての特許を無条件に維持するのではなく、ビジネスの戦略に基づいて適切な判断を行うことが大切です。
- 特許の価値評価:
- 各特許の価値を定期的に評価し、事業戦略にとって重要な特許のみを維持するかどうかを決定します。市場の変化や技術の進歩に応じて、特許ポートフォリオを見直します。
- 維持が難しい場合の対策:
- 特許年金の支払いが難しい場合、そのまま特許権を失効させるほか、一部の特許を売却する、ライセンスアウトする、などの選択肢も考えられます。これにより、維持コストを抑えつつ特許権を有効活用できます。
5. 特許年金に関する具体例
特許年金の適切な管理は企業の特許戦略において重要な役割を果たします。ここでは、特許年金の管理が成功したシナリオと失敗したシナリオの例を紹介します。
成功のシナリオ
- 特許年金管理ツールの導入:
- A社は特許年金管理ツールを導入し、複数の特許権の納付期限を一元管理しました。これにより、支払い漏れを防ぎ、特許ポートフォリオ全体の管理が効率化されました。
- 外部専門業者との連携:
- B社は特許事務所と提携し、特許年金の管理を外部に委託しました。専門的なサポートを受けることで、ミスのリスクを低減し、特許権の維持に成功しました。
失敗のシナリオ
- スケジュール管理の不備:
- C社は特許年金の納付スケジュールを適切に管理できず、支払い漏れが発生しました。この結果、重要な特許権が失効し、市場競争力に大きな影響を与えました。
- 予算管理の不備:
- D社は特許年金の費用を十分に予算化せず、突然の経費増加に対応できませんでした。このため、一部の特許を維持することができず、事業戦略に支障をきたしました。
むすび
特許年金は、特許権を維持するために必要な重要な費用です。特許権の維持には計画的な管理と適切な支払いが不可欠です。事業者は特許年金の支払いスケジュールを厳守し、効果的な管理方法を導入することで、特許権を確実に維持することができます。
特許は事業者の競争力を高める貴重な資産であり、その維持はビジネスの成功に直結します。この記事を参考にして、特許年金の支払いと管理を適切に行い、特許権を有効に活用しましょう。