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AI・ソフトウェア発明の特許取得・拒絶事情をわかりやすく解説

近年、AI技術ソフトウェア発明に関する特許出願が急増しています。AI(人工知能)を活用したサービスやアルゴリズムの開発が進む一方で、「それは特許になるのか?」という疑問を持つ起業家や開発者も多いでしょう。本記事では、日本におけるAI・ソフトウェア関連発明の特許要件と審査基準、拒絶されやすい事例や理由、特許取得のための実務上の工夫ポイント、さらに米国・欧州など海外の基準との比較やAIを使った発明AI自身が生み出した発明の特許適格性議論について解説します。専門的な内容ですが、初心者にもわかりやすいトーンで、最新動向や具体例を交えながら説明していきます。

1.日本におけるAI・ソフトウェア関連発明の特許要件と審査基準

日本の特許法における「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作」です。したがって、ソフトウェア発明やAI関連発明も、この定義に合致することが特許取得の前提となります。特許庁の審査基準では、コンピュータ・ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想」に該当するかどうかを判断するため、以下のようなポイントが示されています。

  • 技術的な手段による具体的な効果:
    例えば、ソフトウェアによって機器を制御したり、画像や音声など技術的性質を持つ情報を処理したりする発明は、全体として自然法則を利用した技術的思想の創作と認められます。具体的には、「機器等に対する制御」や「対象の技術的性質に基づく情報処理」を行うソフトウェア発明は技術的な発明と判断されやすいということです。
  • 非技術的な単なる方法や表示:
    一方、ビジネスの方法そのものや人為的な取り決め、単なる情報の提示、数学上の公式といったものは自然法則を利用したものではなく、「発明」には該当しません。例えば、コンピュータ上で実現されていても、単なるビジネス上のルールやゲームのルール自体を扱うだけでは、特許の保護対象となる発明と見なされない可能性があります。

日本特許庁(JPO)はこのような審査基準を適用しつつ、AI関連技術の出願増加に対応するためガイドラインや事例集の整備も進めています。特許・実用新案審査基準自体は従来からソフトウェア発明を想定した内容を含んでいましたが、近年のAIブームを受けて以下のような取り組みが行われています。

  • 審査基準の改訂:
    たとえば2018年(平成30年)にはコンピュータソフトウェア関連発明の審査基準とハンドブックの改訂が行われ、ソフトウェア特許の審査上のポイントが整理されました。これにより、プログラムやアルゴリズムのクレーム表現、発明該当性の判断手順などが明確化されています。
  • AI審査事例の公表:
    特許庁は2017年からAI関連発明の審査事例集を公表し、2019年に事例追加、さらに2024年3月に新たに10事例を追加するなど、ケーススタディを充実させています 。これらの事例では、AI技術を含む発明について進歩性(非容易性)記載要件(明細書の書き方)発明該当性(技術的思想か否か)の判断ポイントが具体的に示されています。審査基準そのものは従来の枠組みで足りているものの、出願人にとって分かりにくい点を補足する目的で事例解説が行われていると言えます。

以上のように、日本ではAI・ソフトウェア特許も基本的には他の技術分野と同様の要件で審査されます。ただしソフトウェア特有の留意点(技術的効果の有無など)があるため、審査基準やハンドブックで詳細が補足されている状況です。

2.拒絶されやすい典型的な事例や理由

AI・ソフトウェア関連の発明で特許拒絶につながりやすいケースとして、いくつか典型パターンが知られています。以下では、特にビジネスモデル特許抽象的アイデアに絡む事例を中心に解説します。

① 発明該当性の欠如(非技術的なアイデア)

前述のように、「自然法則を利用した技術的思想の創作」でないと判断された場合、その出願はそもそも特許の対象となる「発明」と認められません。典型例として、純粋なビジネス上の方法人間の知的活動そのものをソフトウェアに置き換えただけのような発明があります。特許庁の基準では、請求項全体として見て機械的・物理的な効果が伴わない場合、「発明に該当しない」として拒絶され得ます 。例えば、単に商取引上の契約交渉プロセスをソフト上で実現しただけのアイデアや、数学的計算モデルそのものをクレームしただけのケースは、この発明該当性でつまずくことがあります。

(例) ゲームのルールビジネスのルール自体を記述したソフトウェア発明は要注意です。従来人間が行っていたゲーム進行や取引ルールをコンピュータ上で行うシステムにしても、それが単なる情報の表示や人為的な決まりごとの実行に留まるなら、「自然法則を利用したものではない」と見做される恐れがあります。実際に特許庁の事例でも「数式の解法」「ビジネスを行う方法またはゲームのルール」を実行する情報処理システムについて、明細書に具体的実施手段の記載がなく当業者に実現不可能と判断された例が紹介されています。

② 進歩性(非容易性)の欠如

AIやソフトウェアの発明だからといって自動的に高度というわけではなく、従来技術から見て容易に思いつくものは進歩性無しと判断されます。特に、既存のビジネス手法の単なるIT化人間が手作業でやっていたことをソフトで自動化しただけの発明は、進歩性で拒絶されやすい傾向があります。

(例) ポイントサービス(ロイヤリティプログラム)を管理するソフトウェアの発明では、「人間が行っている会員ポイント付与業務をそのままシステム化しただけ」にすぎないとして、容易に実現できると判断されたケースがあります。特許庁の審査事例「事例3-3 ポイントサービス方法」では、ポイント付与処理をコンピュータで行う発明について、「人間が行っている業務のシステム化」に該当し、なおかつ業界の慣習に基づく単純な設計事項の変更にすぎないため進歩性欠如(高度でない発明)と判断されています。このようにビジネス分野のソフトウェア発明は、単なる自動化では新規性・非容易性を認められにくいのが実情です。さらにAI分野でも、「既存の機械学習アルゴリズムをそのまま適用しただけ」「データ分析手法として平凡な組み合わせ」という場合は、進歩性のハードルを超えられません。鍵となるのは、技術的課題の解決や性能向上などの点で先行技術にない工夫があるかどうかです。

③ 明細書の記載不備(実施可能要件・サポート要件違反)

AI発明ならではの拒絶理由として近年重要になっているのが、明細書の記載要件です。AIは高度でブラックボックス的な側面があるため、発明の効果や再現性を明細書で十分に説明できていないと判断されるケースがあります。特許法36条では発明の詳細な説明にその発明を当業者が実施できる程度に記載することを求めています(実施可能要件)。AI発明では、入力データと出力結果の関係性や、学習モデルの構造・パラメータについて説得力ある説明がないと「それで本当に課題が解決できるのか?」と疑われてしまいます。

(例) 特許庁が公表した事例糖度推定システム」は、ある人物の顔写真からその人物が育てた野菜の糖度を推定するというAIモデルの発明でした。しかし明細書には、「人相(顔の特徴)と野菜の糖度に一定の関係性がある」という仮説が示されているだけで、その根拠となるデータや統計的裏付けがありませんでした。このため審査では「顔と育成野菜の糖度に相関があるとは技術常識上推認できず、明細書にもそれを支持する記載がない」と指摘され、実施可能要件違反(特許法36条4項1号)で拒絶されています。要するに、「なぜそれでうまくいくのか」の説明が不十分なAI発明は、実現性に疑義ありと見做されてしまうのです。

④ その他の典型例

上記以外にもクレームの不明確性(明確性要件違反)や、発明の単一性に絡む拒絶理由が出る場合もあります。例えば、AI関連のクレームがあまりに機能的・結果指向的すぎて発明の構成が不明確だと指摘されたり、単一の出願で異なる技術的側面(例えばAIアルゴリズムとハードウェア制御)が混在していて分割を要求されたりすることもあります。しかし、ソフトウェア特有の大きなハードルとなるのは前述の技術的範囲の有無(発明該当性)と高度性の有無(進歩性)、そして明細書記載です。特にビジネスモデル特許に対する審査は厳しく、欧米でいう「抽象的アイデア」に近いものは日本でも拒絶されやすい点に注意が必要です。

3.特許成立のために工夫されている実務上のポイント

上述したような拒絶リスクを回避し、AI・ソフトウェア発明を特許として認めてもらうための工夫も実務上数多く考えられています。特許明細書の作成やクレームの構成において、以下のポイントに配慮すると良いでしょう。

① 技術的特徴と課題解決効果を明確に打ち出す

発明の技術的なポイントがどこにあるのかを明細書でしっかり説明することが重要です。AIを使う場合でも、「従来は困難だった○○を機械学習で高精度に実現した」「計算資源を大幅に削減できた」等、技術的課題の解決策として発明を位置付けます。単にビジネス上有用だという説明だけでは不十分で、「何がどう技術的に優れているか」を示すことで発明該当性や進歩性が認められやすくなります。また、クレーム上もその技術的特徴が表れるよう、入力→処理→出力の流れを意識して構成要素を盛り込むと効果的です。ソフトウェア特許では典型的に「データを入力し、アルゴリズム処理を行い、結果を出力する」という形で権利範囲を定めますが、この「入力→処理→出力」の考え方が欠かせません。言い換えれば、発明を実施する装置やシステムが具体的に何を受け取り(入力)、内部で何をして(処理)、何を返すのか(出力)をクレームに記載することで、技術的な内容が明確になります。

② クレームには具体的なハードウェアや手法を適切に限定

発明を抽象的に広く書きすぎると、審査では発明の技術的実態が見えないとして拒絶されがちです。そのためクレームドラフティングでは、必要に応じて具体的な技術要素を盛り込む工夫がなされます。

例えば、AIアルゴリズムを使う発明でも単に「AIを用いた方法」と書くのではなく、「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により画像特徴を学習するステップ」や「センサーデータから○○値を算出する処理手段」といった具合に、具体的手法や装置を記載します。これによって発明が単なるアイデアでなく実装可能な技術だと明示できます。また、従来技術との差異をクレーム上で際立たせる意味でも、具体的限定は有効です。実務的には、独立請求項で発明のコアとなる技術構成をできるだけ網羅し、従属請求項でさらに具体的態様(使用するアルゴリズムの種類やパラメータ条件など)を細かく追記する方法がよく採られます。これにより、広いクレームでチャレンジしつつ、途中で拒絶理由が出たら従属項の内容を繰り上げて権利化するといった柔軟な対応が可能となります。

③ 明細書で十分な開示と裏付けデータを提供

記載要件を満たすには、発明を再現できる程度の情報を明細書に書かなければなりません。AI発明では特に、学習データの内容モデルの構造・作用出力結果を裏付ける実験結果などをできる限り盛り込むことが推奨されます。前述の糖度推定システムの失敗例とは反対に、もし出願時に何らかの検証データやグラフなどがあれば、それを明細書に記載しておくべきでしょう。特許庁のガイドラインによれば、教師データ中の複数種類のデータに相関関係があることが技術常識から推認でき、かつ明細書中の説明や統計情報で裏付けられている場合は記載要件を満たすとされています。したがって、自身のAI発明が依拠する法則や経験則が一般には自明でない場合、その関連性を示す具体的な説明や実験結果を記載することが肝要です。また、「このAIモデルではどんなデータを使い、どう前処理し、どのように学習させているか」といった実施の形態を詳細に書いておけば、審査官に与える安心感が違います。

④ 発明のポイントに応じたクレーム形式の工夫

AI関連発明は一口に言っても様々です。実務上は発明内容に応じて、プログラムそのものをクレームしたり、情報処理装置(システム)としてクレームしたり、さらには学習済みモデルデータ構造をクレームするケースもあります。

例えば、画期的な機械学習モデル自体を保護したい場合には、「○○を達成するための学習済みモデル(パラメータセット)」という製品クレームを作成することも考えられます。日本ではプログラム等を記録した記録媒体も特許の客体になり得ますので、アルゴリズムを手段プラス記録媒体の形式で書くのも一般的です。さらに、近年の議論では学習モデルの生成方法に着目して特許を取得する戦略も注目されています 。要は、「AIを使った結果」だけでなく「どうAIモデルを構築したか(学習させたか)」に発明の肝があるなら、その点をクレームに落とし込むことも検討しましょう。クレーム記載のテクニックとしては高度な話になりますが、例えば学習データの特徴学習過程をクレーム中に限定要素とすることで、新規性・進歩性を主張しやすくなる場合があります。もっとも、そのように学習データ等で限定すると権利範囲が狭くなる副作用もあるため、発明の本質に照らしてどこまで具体的に書くかのバランス調整が必要です。

⑤ 権利行使のしやすさ(顕現性)も念頭に

特許は取得して終わりではなく、侵害を見つけて差し止めや賠償請求に使えることが理想です。ところがソフトウェア特許、とりわけAIの内部アルゴリズムに関する発明は第三者が実施しているかどうかを立証しにくいという問題があります。そのため、クレームを作成する際には外から見て確認できる特徴(入力や出力側の動作)をできるだけ含めることも工夫の一つです。

たとえば「サーバの内部で画像特徴量を抽出している」というクレームより、「サーバが画像データを受信し所定の解析を行った結果をクライアント端末に送信する」というように入出力面の振る舞いを含めたクレームの方が、実際に他社製品がそれを行っているかどうか確認しやすくなります。このように顕現性の高い要素を権利範囲に織り交ぜておくことで、せっかく取得した特許が「絵に描いた餅」にならずに済むでしょう。

以上のポイントを踏まえて明細書・クレームを作成すれば、AI・ソフトウェア特許が認められる可能性は格段に高まります。要は、技術内容をきちんと伝えつつ、それでいて権利範囲は発明の本質をカバーするように工夫することが大切です。特に初めてソフトウェア特許に挑戦する方は、専門の弁理士と相談しながらこれらの点に注意して出願書類を作成すると良いでしょう。

4.米国・欧州など海外におけるソフトウェア・AI発明の特許基準との比較

AI・ソフトウェア発明の特許適格性や審査基準は、国や地域によって微妙に異なります。ここでは主要な海外地域、特に米国欧州を中心に、日本との違いを比較してみます。

(参考: 竹中俊子, 伊藤みか『AI 関連発明の特許性・開示要件基準の日米欧比較―DX 後の発明保護を見据えて―』)

米国(USPTO)の場合

米国特許法では、自然法則や抽象的アイデアそのものは特許適格ではないとする判例法理が確立されています。2014年のAlice事件以降、ソフトウェア発明に対しては二段階の特許適格性テスト(いわゆるMayo/Aliceテスト)が適用され、まずクレームの主題が抽象的なアイデアに向かっているかを判断し、そうであれば更に「発明的コンセプト」が含まれているかを検討します。この影響で、ビジネス方法や純粋なデータ処理と見なされる発明は米国で数多く拒絶され、特許が取りにくくなりました。

たとえば、金融取引や広告配信などビジネス分野でAIを活用するような発明は抽象的と判断されがちで、実際にFinTechやデジタルマーケット分野のAI特許出願はAlice判決後に減少傾向にあります。一方で、画像処理や自動運転などの技術分野におけるAI発明の出願は増えており、これらは比較的特許になりやすい状況です。

つまり米国では、「純粋ビジネス寄り vs 明確に技術寄り」で明暗が分かれているのが特徴です。もっとも近年は、米国特許商標庁もガイダンスの整備に努め、審査官研修などで特許適格性判断の明確化を図っています 。101条(適格性)の審査と102/103条(新規性・非自明性)の区別を強調しすぎるあまり混乱も生じましたが、基本的には「抽象的かどうか」「抽象的なら具体的技術的応用があるか」を見る点で、欧州の基準に近づいてきたとも言われます。

欧州(EPO)の場合

欧州特許庁では、プログラムそのものやビジネス方法は「発明ではない」と法律上明記されていますが(EPC52条)、同時に技術的な課題を解決する発明であればたとえコンピュータ実装でも特許が可能という運用です。

EPOの審査実務では「技術的寄与(technical contribution)」という概念が鍵になっており、クレーム中の発明が技術領域に属する要素を含む場合は特許要件(新規性・進歩性)の検討に入ります。一方、クレームが純粋に非技術的事項(例えば会計方法やゲームルール)の集合と判断されれば、その時点で不特許とされます。日本の「自然法則利用」要件と表現は異なりますが、本質的には非技術的なアイデアには特許を与えないという考え方で共通しています。

違いとしては、欧州では進歩性の判断時にも技術的貢献が問われ、非技術的特徴は進歩性評価から事実上除外される点です。AI発明について見ると、画像認識の精度向上やネットワーク制御の最適化など明確な技術効果があるものは欧州でも特許になりやすいですが、ビジネス上の意思決定を支援するAIやユーザー嗜好に合わせてコンテンツを推薦するAIのようなものは、「解決しようとする課題が技術的ではない」と判断されて特許が認められにくい傾向があります。

実際、欧州特許庁はAI関連発明についてガイドラインを整備し、「AI/MLは本質的に数学的方法であるが、適用分野によって技術的寄与を持ち得る」としています。その例として、画像分類でも単なる顔認識は人間の認知行為に近く非技術と見なされうるが、X線画像解析による診断支援のように医療機器の精度向上に資する場合は技術的と評価される、といった基準が示されています(※EPOガイドラインG-II 3.3.1参照)。要するに欧州では「技術的目的の有無」が明暗を分け、日本や米国以上にビジネス目的のソフトウェアに厳しい面があります。

日本との比較まとめ

日本は上述のように比較的緩やかな基準を採る場面があり、「ビジネスの効率化へのAI適用」のような一見非技術的な領域でも特許が取れる場合があります 。知財高裁の判例や特許庁の運用を見ると、米欧では特許にならないようなケースでも日本では権利化された例があるとの指摘があります 。実際、特許庁の調査によれば日本企業はAI技術をビジネス分野にも幅広く適用して多くの特許出願を行っており、そうした出願が国内で成立しやすいことが日本企業によるAI活用促進につながっている面もあります。

しかしその一方で、日本で特許になったからといって安心はできません。国際特許出願を考える場合、各国の厳しい基準に合わせて出願内容を調整しないと、米欧では拒絶されてしまう恐れがあります 。たとえば日本ではビジネス最適化のAIと説明して通った明細書でも、米国出願時には技術的側面を強調するようクレームを補正したり、欧州出願時には非技術的要素をクレームから削ったりといった工夫が必要です。五大特許庁(IP5)の比較プロジェクトでも、各国でAI関連発明の審査実務に差異があることが報告されています。日本・欧州・中国では審査基準にAI事例が明記され、韓国はAI技術分野特有の基準を持ち、米国はAI特有の明文化基準は無いものの審査官向け情報ページを公開して対応しているとされています。

このように各国のスタンスは少しずつ異なるため、グローバルな特許戦略では一番厳しい基準に合わせて明細書を書くくらいの気持ちで準備することが推奨されます。

5.AIを使った発明 vs. AI自身が生み出した発明の特許適格性

AI時代の特許でもう一つホットな論点となっているのが、「AIを活用した発明」と「AI自らが創作した発明」の扱いです。この二つは一見似ていますが、特許制度上は全く異なる問題を含んでいます。それぞれについて現状を整理しましょう。

AIをツールとして利用した発明

これは、現在広く出願されている「AI関連発明」の大半を指します。つまり人間が発明者であり、発明の手段や要素として機械学習アルゴリズムやAIモデルを利用している技術です。

例えば「AIを用いて最適な〇〇を算出するシステム」や「ディープラーニングで画像認識精度を向上させた装置」のように、AI技術そのものを組み込んだ発明が該当します。これらについては、前述してきた審査基準や特許要件がそのまま適用されます。AIを使っているから特別に特許不可ということは基本的になく、要件を満たせば当然特許になり得ます。

実際、近年はAI技術を利用したソフトウェア特許が続々と成立しています。ここで留意すべきは、AIを使ったこと自体は特許要件ではなくその結果生み出された技術的貢献が重要だという点です。なお特許庁は「AI関連発明」を、AI適用発明(AIを様々な用途に適用した発明)とAIコア発明(AIのアルゴリズム自体の改良発明)に分類していますが、いずれも人間発明者による通常の特許出願として取り扱われています。

したがって「AIを使った発明」である限り、特許法上の枠組みから大きく外れる問題は生じません。ポイントは他のソフトウェア特許と同様に技術性・新規性をきちんと示すことに尽きます。

AI自身が創出した発明(AIが発明者?)

こちらはSFのような話ですが、近年現実の法的課題として各国で議論になっています。AIが自律的にアイデアを考案し、人間の関与なしに発明を生み出した場合、その発明に特許を与えられるのか? また発明者は誰になるのか? という問題です。

世界的に有名になったのはDABUS事件と呼ばれるケースで、ある研究者が「発明者:DABUS(AIシステム)」とする特許出願を複数の国で行い、各国特許庁がこれを拒絶した一連の出来事です。日本でも2020年にこのDABUSを発明者とする出願(特願2020-543051号)がなされましたが、特許庁は発明者欄を自然人に補正するよう命令し、出願人が応じなかったため却下処分としました。出願人は処分取消を求めて訴訟を提起しましたが、2024年5月、東京地方裁判所は「日本の特許法上、発明者は自然人に限られる」との判断を下しました。この判決は日本で初めてAIの発明者性について示されたもので、「知的財産基本法の定義でも発明は人間の創造的活動によるものとされている」「特許法36条が発明者の氏名記載を要求するのは自然人を想定している」「AIは権利能力を持たず特許を受ける権利もない」等の理由が判示されています。さらに裁判所は、「各国とも発明者にAIを含めることには慎重であり、AIが生み出した発明の保護枠組みは立法府の検討課題」と述べ、司法判断としては現行法の下ではAIは発明者になれないとの結論を示しました。
(参考: https://www.jonesday.com/ja/insights/2024/06/tokyo-court-holds-ai-system-cannot-be-inventor-under-patent-law)

このようにAI自身が発明者となる出願は、日本のみならず米国、欧州、英国など主要国すべてで認められていません。米国でもUSPTOと連邦巡回控訴裁判所が「現行法ではAIは発明者になれない」と明言していますし、欧州特許庁や英国知財庁も同様の判断を下しています。要するに「特許はあくまで人間の発明を保護する制度」という大前提が各国で確認された形です。現時点でAI自身が考案した発明に対しては、特許を取得する仕組みがないため、仮にそのようなケースが生じたら発明者として関与した人間(AIの開発者やユーザなど)を立てる必要があります。実際、冒頭で触れたDABUS事件とは別に、2025年に日本でAIが創出した技術について発明者を人間として特許査定を受けた例も報じられています。米デラウェア州の企業が開発した「Categorical AI」が自律的に考案した高次元テンソル演算技術に関し、発明者としてそのAI開発者(人間)が記載された出願が日本で特許査定に至ったケースです 。このように発明者欄さえ人間であれば、発明の内容自体がAI起源でも特許を受け得るというのが現行制度上の実態です。もっとも、本来は「書面上の発明者欄に人間の名前を書いておけば実際はAIの発明でもOK」というわけではありません。特許庁の審査上、単に「書面上の発明者欄がウソであることを証明できなかったから発明者が人間であると認められた」に過ぎないと言えるでしょう。したがって、実際の発明行為に人間が関与していないことが立証された場合、この特許が無効になることも考えられます。

今後、AIが発明者になれるよう法改正すべきかという議論は各国で続くでしょうが、初心者の方はまず「発明者は必ず人間」という原則を押さえておく必要があります。

おわりに

AI・ソフトウェア発明の特許取得と拒絶事情について、国内外の基準や事例も取り上げながら網羅的に解説しました。まとめると、日本では「技術性」と「明細書の充実」が鍵であり、それさえ押さえればAI特許も決して難しくありません。とはいえ海外では日本以上に要件が厳しい場合も多く、グローバルに事業展開するなら最も厳しい審査基準を念頭に置いた出願準備が必要です。また、AIそのものが発明を行う時代が現実味を帯びてきていますが、現行の特許制度は人間中心の枠組みで動いています。今後この分野のルールメイキングがどう進むか注視しつつ、まずは自社のAI技術を適切に特許で保護することから始めましょう。本記事の内容が、AI・ソフトウェア分野でイノベーションに挑戦する皆様の知財戦略の一助になれば幸いです。

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